真・恋姫†無双~北刀伝~   作:NOマル

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~一刀、新たな群雄と出会うのこと~

俺は、夢を見ていた。

 

「ご主人様〜〜〜♪」

「……ん…」

「ご・しゅ・じ・ん・さ・ま♪」

「ん〜……」

「もう、ご主人様ったら〜」

 

何だろう……ご主人様って、俺?俺の事?

誰かが、俺を呼んでる?

ったく、誰なんだよ。人がいい気持ちで寝ているっていうのに。

 

さっきから耳の中に入ってくるくそ低いおっさんの声。それでいて低音らしからぬ言葉遣い。実に不愉快だ。

 

もういい。無視して寝る。

 

「起きないと、悪戯しちゃうぞ~♪」

 

んっ?いたずら?

 

何故か、嫌な予感がする。そして、ゆっくりと重い瞼を開けた。

 

真っ先に飛び込んできたのは、おっさんの分厚い唇だった。

 

「うぉわっ!?」

「あぁ〜〜ん!」

 

一気に目が覚め、目前に迫った色黒のハゲ男を蹴りあげる。男は気持ち悪い声を上げて、吹き飛ばされた。

間一髪だった……!

 

「危なぁ……!?」

「んもぅ、ご主人様ったら照れ屋なんだから〜」

「ご、ご主人様ぁ?って、あんた誰だよ」

「ワタシ?ワタシは絶世の美女、【貂蝉】よぉ〜ん♪」

「ち、ちちち、貂蝉!?」

 

色黒禿げ頭の男、貂蝉は片目を閉じて自分の名前を言った。

 

【貂蝉】。それは、三国志に登場する絶世の美女。その美しさは、数多の人々は当然の事、かの呂布をも虜にしたという。

その美女が、まさか、こんなオカマだなんて……!

 

他の武将は美少女になってんのに……なしてこうなった!?

空いた口が塞がらない。多分、顔も青ざめてるだろう。

 

(間違いない……これは、悪夢だ……!)

「どうしちゃたの?はっ!?ご主人様ってば、ワタァ〜シの美しさに目を奪われちゃたのね〜」

「ないないないないあり得ない!てか、さっきから何なんだよ!ご主人様って」

「あぁ、そうだったわね〜。まずは初めましてと言った方がいいかしらん」

 

そう呟いた貂蝉の言葉に、俺は首を傾げる。

 

「まぁ、分からないのは無理ないわね。“外史”とはそういうものだから……」

「えっ?一体どういう……」

「こっちにも色々と事情があるのよぅ。今だって“こっちの世界”に来るのに苦労したわぁ〜ん」

 

がいし?こっちの世界?何だかよく分からない単語が出てきた。

腕を組んで、貂蝉は疲れた様にため息を吐く。さっきとは、何だか様子が違うな。

 

「といっても、こうやって自分の意識だけをご主人様の意識の中に入り込ませるだけで精一杯だったのよねぇ。まったく“あの子”ったら……」

「えっ?」

「おっとぉ、話が逸れちゃう所だたわねぇ。時間もない事だし、パパッと言っちゃうわ」

 

貂蝉は腕を解いて、俺と向き合う。

気持ち悪い……のはそうなんだけど、その顔は真剣そのものだった。

 

「この世界で、闇が不穏な動きを見せているわ。それはやがて、一つの乱を引き起こす」

「闇?乱?何の事だ…?」

「これから、不吉な事が起きるって事よ……ご主人様には、それを止めて欲しいの」

「俺が……?」

「そう、あなたが」

 

貂蝉はじっと目を見つめてきた。真剣な眼差しで見つめられ、嘘を言ってないことがよく分かる。

 

「俺なんかに、できるのか?」

「ふっふっふ、大丈夫よん。ご主人様には、良い子ちゃん達がいっぱいいるじゃなぁ〜い」

 

その言葉に、真っ先に思い浮かんだのは、この世界で出会った大切な仲間達。

 

「そうだな……俺はもう一人じゃない」

「分かってるじゃなぁい」

 

満足した様に、貂蝉はにっこりと微笑んだ。

 

「それじゃ、何も心配はいらないわねん」

「ん?お、おい、体が……」

 

貂蝉の体が、足元から徐々に光の粒子へと分解していく。とても眩しく、思わず目を閉じかけた。

 

「あら、もう時間切れの様ねぇ……」

「だ、大丈夫なのか?」

「心配はないわん。私はただ、“今いる世界”へと帰るだけだから」

 

大丈夫だと、笑いながら伝える貂蝉。

 

「それじゃお願いねん、ご主人様ぁん。むちゅっ♪」

「うおっ!?」

 

あっぶねぇ……!!

消え際に置いていった殺人キッスを何とかかわした。

やがて、貂蝉はその場から姿を消した。

 

あれ?なんか……眠、い………。

 

 

 

 

 

――――がんばってねん……この物語の主人公は、あなたなのだから。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

――――翌朝。

 

一刀、愛紗、鈴々と星。そして朱里の五人は桃花村の隣町に赴いていた。それぞれ、自分の必要な物を買っていく。

 

朱里は書店を訪れており、店内には二人組の男性客。奥には眼鏡をかけた老人風の店長がいた。

 

「すいませ~ん」

「ん?ああ、頼まれてた本なら届いてるよ」

 

店長は、用意していた品物を後ろの棚から取り出す。

 

「ええっと……“初級房中術・入門”に“図解・体位百科”だったね?」

「はわわっ!!書名は言わなくていいですから!!」

 

朱里は顔を真っ赤にし、あたふたと慌て出す。本の題名に関しては……触れないでおこう。

 

「はい、これ」

「あ、ありがとうございましゅ!!」

 

本を手渡されると同時に、持参してきた桃色の布で素早く包み込む。店員すらも驚く程の、軍師らしからぬ早業であった。

 

「お前知ってるか?公孫賛が身に過ぎた宝剣を手にいれたって話」

 

他の客人の話が、朱里の耳に届いた。

 

「公孫賛?誰だそれ?」

「ほら、幽州の太守で、“白馬将軍”って自称してる」

「あ〜、あの影の薄い…」

「聞いた所じゃ、退治した賊の隠れ家の中から、大層立派な剣が見つかって、きっとこれは由緒ある物に違いないって」

 

客が会話している間に、朱里は代金を店長に支払う。

 

「毎度あり」

「また来ますね」

「あいよ」

 

朱里は布で包んだ本を大事そうに抱え込み、店を出た。

 

「そんな話より、“張三姉妹”って知ってるか?めちゃめちゃすごい人気らしいぜ?」

 

書店から出ると、朱里は急いで合流場所である店へと移動する。店ではすでに全員集合していた。

 

「お待たせしました」

「いや。しかし、書店に行くだけなら、何も別行動をする事はなかったのではないか?それぐらいは付き合ったのに」

「あ、でもほら!皆さんを、私の趣味に付き合わせるのは悪いですし……」

 

愛紗から問われ、朱里は誤魔化す様に笑う。ふと思った、この子の将来が心配だ……と。

 

そんな中、一刀は一人空を見上げていた。

 

「一刀、本当にどうしたのだ?」

「いやぁ……悪夢だったのか、大事な夢だったのか、分かんなくて……」

「またそれか」

 

愛紗はため息混じりに呆れていた。もう何回めだろうか。朝からずっとこの調子である。

本人曰く、“色黒筋肉だるまの変態オカマが占いの様な予言をした”らしい。朝食の場で聞いた時、全員が目を丸くした。

 

(本当に、只の夢だったのかな。でも夢にしては結構記憶に残ってるんだよな……ある意味、ていうか悪い意味で)

 

あんな濃い顔面が突然目の前に現れたら、暫くは頭の中に残ってしまうかもしれない。一刀はあの顔面を頭の中から抹消する様に心掛ける。

 

(もし本当だとしたら、貂蝉は俺に何を止めてほしいんだ?闇とか乱とか、もう訳分かんねぇよ……)

 

答えが見つからず、むず痒くなる。頭をかきむしり、机に体を預けた。

 

(何かが、起ころうとしているのか……?)

 

結局分からずじまい。ゆっくりと体を起こす。

 

すると、頭の中を電撃が走る様な感覚が襲った。

 

(これは、近くかっ!?)

「か、一刀っ!?」

 

勢いよく立ち上がり、椅子が後ろに倒れる。仲間の声も届かずに、一刀は森の中へと走っていった。

 

村外れの森林にて、一人の少女が危機に陥っていた。彼女の目前には、毎度お馴染みのアニキ、チビ、デブの三人組が立ち塞がっている。

少女の後ろには、身の丈を軽く越える大岩があり、逃げ場を失っていた。

 

「な、何なんです?お金なら、ないですよ?」

「ま、確かに金目のモンは持ってなさそうだなぁ。けどその代わり、良いもん持ってんじゃねぇか?」

 

アニキは汚い笑みを浮かべ、少女のよく育った豊満な胸を見る。

 

少女の方は、淡い桃色の長髪で、庶民が着るような服を身に付けている。顔つきはかなり整っており、美少女という言葉がよく似合う少女だ。背中には筵が入っている籠を背負っている。

 

「な、何をするつもりですか!?」

「別に痛いことしようってんじゃねぇんだから、そんなに怖がんなよ」

「そ、そうなんだな。むしろ、気持ち良い事するんだな」

 

汚く笑いながら、じりじりと近寄る三人。

少女は怯えながらも、背負っている籠から筵を取りだし、丸めて一本の棒を作って構える。

 

「そ、それ以上近寄ったら、この筵で……!」

「はぁ?そいつでどうしようってんだよ、観念しな」

 

アニキが呆れた風に言うと、少女は何を思ったのか、その場に座り込み、筵を頭から被る。

 

「ほ、ほ~ら、これで何処にいるのかもう分かりませんよぉ〜?」

 

といっても“頭隠して、尻隠さず”の通り、全身を隠しきれていない。

そもそも、隠した所で何の打開策にもならない。

 

「なめてんのかテメェッ!!」

「きゃああっ!!」

 

業を煮やしたアニキが筵を剥ぎ取る。少女は悲鳴を上げた。

 

「やめろっ!!」

「ああっ?」

 

後ろから声が聞こえ、振り返る。腰に一本の刀を携え、白い服を身に纏った青年が立っていた。

 

「何だテメェは?」

「女の子を襲う様な奴に名乗る名なんかない」

「んだとこの野郎っ!!」

「あ、危ないっ!」

 

剣を振り上げ、一刀目掛けて降り下ろす。青年の身を案じて、少女が大きく叫ぶ。

 

しかし、青年は慌てる様子も見せず、体を少しずらして賊の剣をかわした。剣は空気を切り、地面に刺さる。

 

「こ、こんのぉっ!!」

「おっと」

 

今度は地面を削って、振り上げる。一刀は難なくかわし、特に慌てた様子はなく、剣を回避し続ける。

 

「このっ!ひょいひょい避けやがって!!」

「だったら一撃でも食らわせたら?」

「言ったなこの野郎っ!!」

 

簡単な挑発に乗った賊は、剣を更に大きく振りかぶった。

一刀は、見計らった様に賊の懐に入り、鳩尾に拳をめり込ませる。

 

「ぶほぉっ!!」

 

メリメリッ!と腹に深く入った。賊の顔は青ざめ、剣はボトッと地面に落ちた。

 

「かっ…は……」

 

一刀にもたれかかる様に倒れ、終いには地面に崩れ落ちた。

 

「ア、アニキッ!!」

「だ、大丈夫なんだな!?」

 

手下の二人はアニキの側まで行き、少女は呆然としていた。

 

「さて、次は誰だ?」

「「ひぃぃっ!!!」」

 

横目で睨み付けると、二人はガタガタと震えだし、急いでアニキを担ぎ上げた。

 

「「し、失礼しましたぁ〜〜!!!」」

 

そのまま砂煙を立ち上げて、すたこらと尻尾を巻いて逃げていった。

 

「ったく……あ、大丈夫?怪我ない?」

「だ……大丈夫です」

「それは良かった。立てるかい?」

「あ、はい……」

 

安心させる為に笑顔で優しく手を差し伸べる。太陽の光に当てられてるせいか、少女の頬は赤く染まっている様に見えた。青年の手をとり、少女は立ち上がる。

 

「あ、あの、危ない所を助けて頂き、本当に、ありがとうございます!」

「う、うん………無事で何よりだよ」

 

頭を深々と下げる少女に、照れ隠しに目を反らす一刀。

 

「一刀〜〜っ!!」

 

少女の可憐な容姿に密かに見惚れていると、仲間が此方の方へとやって来た。

 

「愛紗、みんな」

「まったく!いきなり走り出すから何事かと」

「ごめんごめん。賊がこの子を襲おうとしたから……」

 

一刀は、愛紗達に説明する。

 

「しかし、この辺りの賊は全て退治したと思っていたが、桃花村の近くにまだそんな輩がうろうろしていたとは……」

 

桃花村という言葉に反応するかの様に、目を大きくする少女。

 

「そうですね。恐らくは他所から流れてきた追い剥ぎ何でしょうけど、村の人達に注意する様、言っておいた方がいいかもしれません」

「あ、あの〜もしかして、皆さんは桃花村の方なんでしょうか?」

 

恐る恐る、少女は話に入り、問いかける。

 

「そうだが?」

「よかったぁ……実は私、桃花村に行く途中だったんですけど、さっき怖い人達に襲われて、そこをこの人が助けてくれたんです」

「そうだったか……」

 

少女が一刀の事を言うと、愛紗は納得したように頷く。

 

「だがもう安心だ。桃花村はこのすぐ先だ。村まで、我々が案内しよう」

「そうだな」

重々(かさねがさね)、ありがとうございます」

 

少女は頭を下げて礼を述べる。

 

「あ、申し遅れましたが、私の名前は【劉備】字は【玄徳】と言います」

「劉備……」

「玄徳……」

「「「ええぇぇぇぇぇぇっ!?」」」

 

少女が発した名に、一刀達一行は驚愕の声を上げた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

――――さて、ここで皆様にご説明!

 

そもそも、桃花村にて義勇軍を旗上げしたのは、中山靖王の末裔と称する“劉備”なる男!!

 

天下太平を願うその志に、感銘を受けた関羽等は、共に戦う事となったのですが、こいつがとんだ食わせもの!!

 

正義を唱えるは口先ばかり!その正体は己が立身出世の為には民を犠牲にしても屁とも思わない卑劣漢!!

 

こんな外道とは付き合えないと、すっぱり袂を別った関羽達!!

 

更にはこの男!実は嘗て、黄忠の娘を誘拐した悪党一味の黒幕でありまして!!

 

それがばれるや否や、我らが英雄【北郷 一刀】の怒りの鉄槌を食らい、そのまま尻尾を巻いて姿を眩ませたのでありました!!

 

 

◇◆◇◆

 

 

場所は変わり、一刀達は桃花村の客室にて、少女――――劉備にその男の事を伝えた。

 

「そうだったんですか。やっぱり、私の名前と素性を語っていたんですね……」

「えっ?」

「きっと、“あの人”に違いありません」

「あの人?何か心当たりがあるのか?」

 

愛紗が聞くと、肯定する劉備。

 

「実は、私は年老いた母と二人。筵を織ってはそれを近くの町で売り、日々の糧を得ていたのですが……」

 

 

◇◆◇◆

 

 

『ある日、帰り道に峠の茶店で一休みしていると、隣に腰掛けてた若い男の人が話しかけてきて……』

 

「お嬢さん」

「ん?」

 

もぐもぐと口内にある団子で頬を膨らませている劉備。口の周りにあんこが付いており、咀嚼しながら、何の恥じらいもなしに、男の方を向く。

 

「もしよろしければ、その御腰の物。少し拝見させて頂けませんか?」

「えっ?別に構いませんけど」

 

劉備は剣を男に渡す。男は鞘から剣を抜き取り、まじまじと見ていた。

剣は太陽の光に反射し、輝きは一層増している。

 

「う〜ん、これは素晴らしい!いやはや何とも大したものだ……!」

鑑定人の様に、剣の造形を称賛する。

 

「刃の輝きも去ることながら、鞘の造りの見事な事。そしてこの柄の宝珠、いやはや全くもって素晴らしい……!」

 

『その人があまりに褒めてくれるんで、私、つい嬉しくなって、この宝剣は我が家に代々伝わる物で、“中山靖王”の末裔であることを明かす物だと話してしまったんです。』

 

――――【中山靖王】

 

前漢の皇族で、諸侯王とも言われている。

 

「ほほう、中山靖王の……」

 

男は目を見開き、驚いた様子を見せる。

 

「ちゃんと系図もあって、私から何代か遡ると、中山靖王劉勝様の名前があるんですよ」

 

『茶店を出て暫く行くと、やがて人気のない崖道に差し掛かったのですが、さっきの人が後を追いかけてきて……』

 

男は走り、劉備に追い付いた。

 

「いやぁ、申し訳ないが先程の宝剣。もう一度見せて頂けませんか?」

「はぁ、別に構いませんけど……」

 

またまた大事な宝剣を、無防備に渡してしまった劉備。男はまたしても品定めするように見つめている。

 

「流石に中山靖王に所縁のある宝剣。見れば見るほど素晴らしい」

 

男は劉備の方を向く。

 

「所で劉備殿。御名前は先程お伺いしましたが、宜しければ字もお教え頂けますか?」

「玄徳です」

「劉玄徳ですか……良い響きだ」

「それはどうも……」

「それではその名とこの宝剣――――頂かせてもらうぞ!」

「えっ?」

 

ついに本性を表した男。悪い笑みを浮かべた瞬間、劉備を崖から蹴落とした。

 

「きゃあああああ!!!」

 

劉備はそのまま崖を真っ逆さまに落ちていった。男は卑劣な笑みを浮かべたまま、宝剣を腰に携えてその場を去った。

 

『幸いにも、途中で木の枝に引っ掛かり、何とか一命はとり留めたものの、家に帰って母に事の次第を話すと……』

 

「阿備や。母はお前にご先祖のお心を教えてきましたね……」

 

劉備の母は筵を織りながら、劉備に語りかける。

 

「時が来たら、世の為、人の為。剣を取って走路から立てばならぬぞ、と」

「はい……」

 

母はにっこりと笑った瞬間。鬼の様な形相になった。

 

「えぇい!!情けない!!その御先祖のお心を代々伝えてきた大事な宝剣を奪われ、おめおめ戻ってくるとは!!」

 

『怒り心頭に走った母は、私の首根っこを掴むなり走り出して、家の側を流れる川へ……』

 

『それ以来、母はその時の怒りを思い出す度に、私を捕まえては川に放り込む様になってしまって……』

 

その回数は数えきれない程。最早水攻めの刑と言っても過言ではないだろう。

話終えた後、他一同は苦笑いを浮かべていた。

 

「な、中々、豪快な母上だな……」

「このままでは身が持たない。いつか溺れ死ぬと思っていた所へ、桃花村で私と同じ名前の人が義勇軍を率いていると、風の噂に聞いて」

「成程。それで宝剣を奪って、自分に成り済ました相手が、この村にいると思って訪ねて来た訳ですね」

「そこまで確信があった訳ではないですけど、他に手がかりもないので、藁にもすがる気持ちで……」

 

劉備が話していると突然、紫苑が弓を構えて入ってきた。

 

「劉備!覚悟っ!!」

「ふぇぇぇっ!?」

「えっ?あら……」

 

放たれる気迫に劉備が怯えていると、黄忠こと紫苑は、呆気にとられた表情をし、弓を下ろした。

 

そして、事情を耳にする。

 

「まあ、そうだったんですか……」

(あ、なんか可愛いな)

 

顔を羞恥に染めて、もじもじとする紫苑。いつもの彼女とは違う様子を見て、一刀はそう思った。

 

「すみません。村の人達から劉備が来たというのを聞いて、頭にカァッと血が昇ってしまって……本当にごめんなさいね?」

「いえ、ちょっと驚いただけですから……」

 

大丈夫だと、劉備は紫苑に伝える。

 

「それにしても許せないのは劉備さんを語っていたあの男……もし見つけ出したら耳を削ぎ、鼻を落として目を潰し、時間をかけて生爪を一枚一枚剥がしてから三枚に下ろし!肩身を薄く切ってサッと湯通しにして、骨は油でカラッと揚げて……!!」

 

悪魔、或いは般若の様な形相で、身震いするほど恐ろしい事を語り出す黄漢升。

 

皆一同、顔を青ざめて冷や汗をかいている。

 

「し、紫苑……みんなドン引きしまくってるから、その辺で……」

 

口をひきつりながら、一刀は紫苑を何とか押さえる。

 

「にしても、そんな事だったら、あいつぶん殴るんじゃなかったな。あのまま捕まえていれば宝剣を取り戻せたのに……」

「それはしょうがないですよ。その時は皆さん、事情をご存知なかったんですし」

(一発だけじゃなくて何万発かぶちのめした方がよかったかな)

 

劉備が庇う中、一刀はそんな事を考えていた。

 

「あの、宝剣でちょっと思い出したんですが……」

「どうかしたのか?朱里」

「はい。今日、町の本屋さんで注文していた本を受け取った時、幽州の公孫賛さんが、身に過ぎた宝剣を手に入れたという噂を聞いたのですが、それってもしかして……」

「公孫賛、公孫賛……あっ!白珪ちゃん!」

 

何かを思い出したのか、劉備は声を上げる。

 

「劉備さん、公孫賛さんをご存知なんですか?」

「ええ。昔、同じ先生に付いて、一緒に学問を学んでて」

(そっか。そういえば劉備と公孫賛は盧植の元で共に学んだ者同士だったっけ)

 

頭の中で史実の二人を思い出す一刀。

 

「公孫賛?何処かで聞いた名だな」

「思い出せないのだ!」

「星、お主はわざとだろ?」

 

本気で思い出せずにいる鈴々。そして、星はあくまでとぼけるのであった。

 

「賊の隠れ家で手に入れた宝剣が、劉備さんの探している物かどうかは分かりませんが、他に手掛かりがないのなら、訪ねてみる価値はあるんじゃないでしょうか?相手がお知り合いなら、事情を話せばきっと返してもらえるでしょうし……」

「そうですね……分かりました。じゃあ私、白珪ちゃんを訪ねてみます」

「といっても、今からだと日がある内に山を越えるのは無理だ。事に一人旅では、山中の野宿は危ない。今日はここに泊まっていってはどうだ?」

 

愛紗は劉備に一泊を提案する。

 

「えっ?でも、そこまでお世話になるのは……」

「そう仰らずに。晩御飯、腕を振るいますから。知らぬ事とは言え、失礼を働いてしまった御詫びをさせて下さい」

「そういうことなら……」

 

紫苑がそう言うと、これ以上の遠慮は悪いと、劉備は泊まる事にした。

 

すると、またしても扉が乱暴に開かれた。

 

「劉備、覚悟ぉ!!」

「ふぇぇぇっ!?」

「あ、あれ?あんた、誰?」

 

銀閃を劉備に突きつける馬超こと翠。彼女の足元には、頬をプクッと膨らませて怒っている璃々ちゃんがいる。そして二人は人違いだと知ると、呆気にとられた表情をする。

 

またか……と、他一同、同じ事を思った。

 

 

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