それでは、どうぞ!
一刀と関羽の二人は、鈴々に会いに行くために山道を進んでいく。すると前方に、見上げる程に高い杉の木が見えた。
「え~っと、これが一本杉か?」
「ああ。左へ入れば、後は道通りと言っていた」
左の道を行き、先へと進む。
その最中、関羽は一人、先程の一刀について思う所があった。
(それにしても、さっきの一刀殿の氣……凄まじいものだったな)
役人達に向けた、あの気迫。素人でも肌に感じ、戦慄する程のものであった。関羽も最初は一刀の事を、ちょっとは腕の立つ者だと思っていた。だが、これほどとは思っていなかったようだ。
(一体、何者なんだろうか?)
「――――関羽?」
「な、なんでしょう!?」
不意に一刀が話し掛けてきた為、関羽は慌てて対応する。
「どうかしたの?」
「い、いや……何でもない」
「ならいいけど……?」
一刀は首を傾げながら言った。あどけない子供の様な表情。それを目にし、関羽は肩の力を抜いた。
(まあ、無駄なことは考えないでおくか……)
この青年、どこか天然の気があるのだろうか?関羽はそう思い、諦めた様に一息つく。
すると突然、木の上から石が飛来した。二人は咄嗟に反応し、一刀は木刀、関羽は偃月刀で防いだ。
「っと、危ない、危ない」
「くっ!何奴!?」
関羽はそう叫びながら石が飛んできた方向を見る。木の上に男の子が石を抱えながら、座っていた。
「こっからは鈴々山賊団の縄張りだ!役人の手先はとっとと帰れ!!」
そう叫びながら、男の子は更に石を投げつける。無造作にこちらへと投げつけられ、一刀と関羽はそれを防いでいく。
「うおっと!あ、あぶねっ!」
「こ、こらっ!やめんか!当たったら危ないだろ!?」
「この!この!絶対、おやびんを捕まえさせたりしないからな!!」
聞く耳を持たず、男の子は構わずに投げ続ける。このままでは、埒が明かない。
「えぇい!面倒くさい!!」
業を煮やした関羽は、男の子のいる木に向かっていく。体勢を低くしながら、青龍偃月刀を振り抜いた。一筋の軌跡が描かれ、大木は切り落とされた。
「う、うわぁ!?」
「危ない!」
木刀を腰にしまい、一刀は落ちてきた男の子を両手で受け止めた。少年に怪我は見当たらず、一刀は安堵する。
「ふぃ~、ギリギリセーフだな」
「うぅ、助かっ――――」
「それはどうかな~?」
声のする方を見る。そこには関羽が仁王立ちしていた。その時の顔は一刀曰く、
(悪い顔だ……)
……らしい。
「ふん!」
「ギャアアア~~!!」
男の子に制裁を下し、悲鳴が森一帯に響き渡った。
お仕置きをした後、二人は先を進んでいく。
「大人げないなぁ~」
「うっ!そ、それは……」
一刀に言われ、ばつが悪いのか、関羽は顔を反らす。小さくなっていると、草むらから、またまた手下らしき子供たちが出てきた。
「やぁ~いチンチクリン頭~♪」
「ブ男~♪」
(あ~……なんか傷付くな……)
子供とはいえ、こうして正面から言われると、精神的に刺さる物がある。子供たちにボロクソ言われ、心にグサッ!と刺さる一刀であった。
「ブス~♪」
「年増~♪」
「なっ!誰が年増だ!」
子供たちに失礼なことを言われ、子供たちに近づいて行く関羽。だが、あることに気がつき、足を止めた。
そう、関羽の目の前。分かりやすそうに、大量の落ち葉が敷かれていたのだ。完全に落とし穴だと思うくらいに。
「なるほど、落とし穴か。子供にしては知恵を絞った方だと褒めてやるが――――ふん!」
関羽は鼻で笑い、葉のあるところを飛び越えた。
「そんな手にかかる関雲長ではない!」
(待てよ……このパターンは!)
勝ち誇った顔をする関羽。しかし、一刀は慌てて呼び止める。
「さあ、観念――――」
「関羽!そこはダメだ!」
「え?」
子供たちはニヤリ、と笑みを浮かべた。
実は、葉が置かれた場所はダミー。その後ろに本当の落とし穴を仕掛けていたのだ。
その仕掛けに関羽はまんまと引っ掛かり、落ちていった。
「わーい、落ちた落ちた♪」
「バッカで~い」
「引っ掛かってやんの♪」
「やんの♪」
子供たちは、大成功と大喜び。
一刀は顔を手で覆いながら、落とし穴の方に向かう。
「あちゃ~やられたか……」
穴の前まで来ると、関羽を助けようと、手を伸ばした。
「ほらっ関羽。大丈――――」
「こら~~!!」
「うお!?」
関羽はものすごい勢いで穴から飛び上がり、子供たち全員にお仕置き――雑巾しぼりや万力など――をした。子供たちは全員、涙目で怯えている。
「おいおい、子供相手にムキにならなくても――――」
「――――何か?」
「何でもございません、はい」
ギロリッ!と関羽に睨まれ、一刀は小さくなった。刃物の様に鋭く、一瞬で閉口する。
「お、おやびんは、お前らなんかに負けないからな!!」
手下の一人である子供が、負けじと睨みながら叫ぶ。
「わかったわかった。鈴々のことは悪いようにはしないから、お前たちは村に帰れ」
「……ほ、ほんとか?」
「おやびんを役人に渡したりしない?」
「しない?」
子供たちは、窺うように、そう聞いてきた。一刀は腰を落とし、微笑みながら答えた。
「もちろん、約束するよ。だから、安心してくれ」
一刀は子供たちの頭を撫でながら言った。嘘偽りない、穏やかな笑顔。本能的に察したのか、迷いの表情を見せる子供達。顔を見合せ、相談した。
「……ねぇ、帰ろ?」
「……うん、そうすっか
「帰ろ帰ろ♪」
この人達は、オヤビンに酷いことはしない。そう信じる事に決めた子供達は、全員、村の方へ帰っていった。
そして帰り際、
「ブ~ス!デ~ブ!チンチクリン!年増!お前らなんか、おやびんにやられちゃえ~~!」
「ちゃえ~♪」
子供たちは最後にそう言い残すと、一目散に村の方へと走っていった。
「「…………」」
二人はお互い無言であった。
口々に罵られた後、二人は疲れた様に、ため息をついた。
「ははは、散々と言われちゃったな~……」
「まったく、これだから子供は――――」
そこまで言うと、急に二人は黙りこんだ。
目的地にようやく着いたのだ。
見上げると、山小屋の上に、鈴々と思わしき、赤毛の女の子がいた。先に関羽が口を開く。
「お主が鈴々だな?」
確認を確認を取ると、女の子は急に怒りだした。
「鈴々は、“
(真名、か……何だろう?風習みたいなものかな?)
聞き慣れない言葉に疑問を抱いていると、関羽は続けて答える。
「成程、では改めて聞こう。お主、名はなんという?」
「我が名は張飛!字は翼徳!寝た子も泣き出す、鈴々山賊団のおやびんなのだ!」
鈴々こと【張飛 翼徳】。その名を聞いた途端、一刀は驚きを隠せずにいた。
(今度はあの、張翼徳!?マジかよ……もう何が何だか……)
燕人張飛。
その武力は、義兄である関羽に匹敵するとも言われ、有名である長板の戦いでは、たった一人で曹操軍の侵攻を食い止めた程。
「お主の手下は、村に追い返したぞ?」
「鈴々の友達に何をしたのだ!?」
「なに、ちょっとしたお仕置きを、な」
(う~ん、なんか誤解招きそうな言い方だなぁ~)
こちらが悪役に捉えられるかもしれない。関羽の言葉に怒りを感じたのか、張飛は得物である陀矛を担ぐ。
「おのれ~!仲間の仇!十倍返しなのだ~!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!俺達の話を聞いて――――」
「どうやら、口でいっても聞いてはもらえぬようだ。一刀殿、下がっていてくれ。ここは私がやる」
関羽と張飛。二人は互いに引く事はなさそうだ。これを見て、話し合いは無理と見る。仕方ない、と一刀は大人しく下がった。
「ならば、体で分からせてやるまでだ。来い!!」
「どりゃ~~!!!」
「はぁあああ!!!」
関羽と張飛は同時に走りだした。
上段、横払いなど、お互いの武器をぶつけあう二人。偃月刀と陀矛から、金属音が響き、火花が飛び散る。
「うりゃりゃっ!!」
「くっ!!」
大きく振りかぶり、関羽目掛けて振り抜く張飛。
その小さい体からは想像できないほどの力強い一撃を関羽は何とか受け止めた。勢いは殺せず、後方に吹き飛ばされてしまう。
(くっ、重い!力押しでは不利か!)
関羽はそう考え、今度は上から思い切り降り下ろした。
「でやああっ!」
「くっ!!」
張飛はそれを陀矛で受け止めた。
それから、二人は尚も武をぶつけ合う。
(二人とも、凄い勢いだ……。流石、関雲長と張翼徳だな)
歴史上で語り継がれた二人の武人による決闘。やや興奮気味で観戦しており、一刀は二人から目を離せずにいた。
「なかなかしぶといな!」
「そっちこそなのだ!でも、鈴々の本気はまだこんなものじゃないのだ!」
二人は、戦いを続けていく。
――――それから何時間も時が過ぎていき、辺りはもう夜になっていた。二人はまだ戦い続けており、一刀も二人の行く末を見届けていた。
張飛の一撃を、関羽は偃月刀を背中に構え、防いだ。
二人とも呼吸が荒く、長きに渡る戦いで疲労も溜まっていた。
「く、ぬぬぬ!」
「――――惜しいな」
「っ、何がなのだ?」
鍔迫り合いをしていると、唐突に関羽が口を開いた。張飛は思わず目を開く。
「これほどの強さを持ちながら、やっていることといえば、山賊ごっことはな……」
「余計なお世話なのだ!!」
張飛が怒りながら言うと、関羽は構わずに続ける。
「張飛よ、幼い頃に両親を殺されたそうだな……」
「そ、それがどうしたのだ!?」
張飛が言うと、関羽は立ち上がる。武器を握りしめ、答えた。
「私も、幼い頃に家族を失った……」
「っ!?」
「…………」
突然の発言に張飛は驚き、一刀は無言だった。
実は、関羽と一緒に納屋に泊まった夜、悪夢に魘されている彼女の声を聞いてしまった。
この戦乱の時代、家族と生き別れ、死に別れる者が多い。彼女もまた、その1人なのだろう。耐え難い、とても辛い思いをしたのか、と感じていた。
「村が戦に巻き込まれ、父も、母も、そして兄者も……!」
関羽は痛みに耐えるかのように、武器を握りしめた。
「そして、私は誓ったのだ!こんな悲しみは繰り返したくない、二度とこんなことが起きない世を目指そうと!」
「そ、それが鈴々となんの関係があるのだ!?」
「お主は、変えたいと思わぬか?戦に巻き込まれ、賊に襲われ、罪もない人々が傷つけられていくこんな世の中を!」
「関羽……」
「そ、そんなのわからないのだ!」
張飛は急に走り出し、武器をぶつけてくる。関羽は偃月刀でそれを防いだ。
「ただ……ただ……鈴々はずっと、ずっと寂しくて!!でも、でも、どうしていいか分かんなくて!!それで!それで!」
ただ、がむしゃらに武器をぶつけてくる張飛。まるで、泣きじゃくる駄々っ子の様だった。見ているこちらも、心が痛む。
「しまった!!」
「それで…それで!」
重い一撃を何度も食らい、手が痺れてしまい、武器を弾き飛ばされた関羽。張飛は勢いのあまり、武器をそのまま降り下ろしてしまう。
「くっ!」
張飛は全く気づいておらず、関羽に武器が迫る。しかし、横から誰かが間に入り、その一撃を受け止めた。
「もう、そこまでにしよう」
「っ!?」
「か、一刀殿!?」
一刀は木刀を構え、陀矛を防いでいた。
突然の事に、関羽と張飛は驚きで目を見開く。
「張飛、もうやめよう?これ以上戦う必要はない」
「う、うるさいうるさいうるさいうるさ~い!!」
「一刀殿!?」
反抗し、張飛はやけくそに陀矛を振るう。一刀は冷静に捉え、体を反らしてかわす。
「っ!!」
一瞬の隙を突き、一刀は木刀を下から上へと振り抜いた。金属音を立てながら、陀矛は弾かれ、地面に突き刺さる。
「……あ……う…」
武器を失い、両手ががら空きになった張飛。一刀は木刀を片手に近づいていく。
「っ!!」
目前にまで迫り、張飛は怯えながら思わず目を瞑った。
「…………っ?」
恐る恐る、瞼を開く。痛みはない。その代わり、心が安らぐ温もりに包まれていた。
一刀は黙ったまま、張飛を抱き締めている。張飛の方は、何が起きたのか分からず、混乱していた。
「今まで、辛かったんだよな?もう我慢しなくてもいい。泣きたいなら泣きなよ……ね?」
「うっ……うわあああああああ!!」
一刀は微笑みながら、張飛の頭を撫でる。その言葉に、我慢できなくなったのか、張飛は胸元に顔を埋め、思い切り泣き出した。今まで溜め込んでいたものを、全て吐き出す様に。
関羽も横で茫然としていたが、二人の様子を見て、安堵の息を吐いた。そして……優しく微笑んだ。
それから数分経ち、
「好きにしろって、それはどういう……?」
関羽がそう聞くと、張飛は恥ずかしそうに答えた。
「勝負の途中で泣いちゃったから、さっきのは鈴々の負けなのだ。だから、勝った方は、負けた方を好きにしていいのだ!」
「と、言われてもなぁ~~」
「っ?」
張飛が首を傾げると、一刀は困った様に頭をかいていた。
「俺達は、君が村のみんなに会いに行って、今までしてきた事をちゃんと謝って、許してもらおうって考えてたんだ。だから、そうしてくれないかな?」
一刀が笑顔で答えると、キョトンとしていた張飛も、笑顔で答えた。
「うん!」
「よしっ!謝るときは、俺達もついていってやるから、な?」
「ええ。では明朝、村の入り口で待ち合わせとしよう。ではな」
「あっ………」
一刀と関羽はその場を後にする。すると張飛は慌てた様に、言い出した。
「よ、夜の道は、危ないのだ!だから、今夜は家に泊まっていけばいいのだ!」
「それくらい大丈夫だ。では――――」
「いや、そうさせてもらおう」
「か、一刀殿?」
突然の誘いに乗る一刀に、関羽は戸惑う。
「もう暗くなってるし、道中に何が起こるか分からない。だから、今日はここで泊めてもらおうぜ?」
「それは、そうですが……」
「そう言わずにさ……一緒にいてあげよう?」
「えっ?あっ………」
小声で話す一刀の言葉に、ようやく気づいた関羽。張飛に視線を移す。行かないで……と言っているような感じで、涙目の張飛がいた。
意図を察し、関羽は改まった様に、咳をする。
「いや、やっぱり気が変わった!それでは、一晩泊まらせてもらおうか」
「ああ、そうしよう」
「う、うん!」
喜びを露にし、張飛は笑顔で頷いた。二人は、結局泊めてもらうことになり、関羽は先に風呂に浸かっていた。
「はぁ、なんか妙なことになったな」
頭に手拭いを巻き、湯船に浸かる。豊満な二つの球体に、スラリとした腰回り。現代でいうモデルの様な体型だ。女性特有の、出る所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる。正に理想のスタイルをしている。
風呂の温度で、白い肌が少し火照っている。
疲れを癒していると、関羽はふと、一刀のことを思い浮かべた。
「あんな殿方も、いるんだな……」
この乱世の時代、男は皆、獣に成り果てた者ばかりだと思っていた。しかし、彼の存在によって、その考えが少しだけ改まった。賊に落ちた者だけでなく、彼の様に心優しい男性もいるんだな、と。
張飛に向けたあの優しい笑顔。それを思い出して、関羽は思わず顔を赤らめた。
「わ、私は何を思って……」
口元を沈め、ブクブクと泡立てる。体が更に火照ってしまった様に感じる。
「湯加減はどうなのだ?」
「っ!あ、ああ、ちょうどよい湯加減だ……」
扉越しに張飛が声をかけてきた。関羽は、慌てて返事をする。
「じゃあ、鈴々も入るのだ~~♪」
「えっ?」
「とっつげき~!!」
「きゃあっ!」
扉を開け、一糸を纏わぬ姿になった張飛は、勢い良く湯船に飛び込んだ。水飛沫が飛び散り、関羽は思わず立ち上がる。
「こら!いきなり飛び込むんじゃない!」
「うにゅ…」
関羽が怒ると、張飛は体をすくめた。すると、“ある部分”を凝視し始めた。
「ん?どうした?」
「おっぱい、大きいのだ………」
「なっ!?」
突然そう言われ、関羽は胸の部分を隠しながら、顔を赤くする。興味津々と言った感じで、張飛は聞いてくる。
「どうしたら、そんなにバインバインになるのだ?」
「どうしたらって……そうだ!」
純粋無垢な瞳で質問され、解答に困ってしまう。難儀に思っていると、何かを閃いたのか、答えを告げる。
「志だ!胸に大志を抱いておけば、その分だけ大きくなる………………筈」
「ホントに!?ホントにそれで大きくなるのか!?」
「まあ、そういう説もあったり、なかったり…………」
「よぉ~っし!」
説得力がなく、曖昧に答える関羽。その言葉を信じたらしく、張飛は決意した。
「だったら、鈴々も大志を抱くのだ!」
「…………そうだな、そうするといい。大志を抱くことは、悪いことではないからな」
何はともあれ、関羽は笑みを浮かべながらそう言った。
二人の後、一刀も風呂から上がり、張飛は布団の用意をしていた。
「ふにゃ、やっぱり鈴々のじゃ小っちゃかったのだ」
関羽は、張飛の寝巻きを着用している。サイズ的には小さく、特に胸の部分が大きく目立っていた。汚れのない素足も晒されている。
(普段もいいけど……なんか、こういう所も魅力的だな)
「一刀殿、どうしました?」
「い、いや、何でもないよ!?」
「そう、ですか?」
思春期真っ盛りの青年である一刀。寝巻き姿に思わず見惚れてしまった。突然、話し掛けられ、慌てて返事をする。
顔を反らした一刀に、首を傾げる関羽。
「それにしてもすまぬな。寝床まで貸してもらって」
「いいのだ。勝負に負けたのだから、一晩一緒に寝るくらい、しょうがないのだ」
「…………なんか、誤解を招きそうな表現だな」
「確かに……」
関羽がいるからまだしも、もし一刀と二人きりであったら、確実にお縄につかれるだろう。
「それじゃ、俺はあっちで――――」
「一緒に寝るのだ!」
「……えっ!?」
部屋の隅へと移動しようとすると、張飛は服の裾を掴んできた。まさかの添い寝の誘いに、一刀は慌て出す。
「いや、でも……」
「うっ……ダメ、なのか?」
「うっ!」
張飛は涙目でこちらを見上げている。幼いが、顔立ちが整っている張飛。涙目に加えての上目遣い。破壊力は凄まじいの一言だ。
「……どうしよう、関羽」
「しょうがないですからね。私はいいですよ?」
関羽に視線を向けると、彼女は快く承諾してくれた。それに安堵すると、一刀は張飛の、赤毛を優しく撫でる。張飛は心地よさそうに身を委ねている。
「じゃあ、一緒に寝るか?」
「うん!」
三人は一緒に布団に入り、張飛を真ん中にして、川の字になるように寝転んだ。
「ごめんな、狭いだろ?」
「そんなことないのだ。それに、こんな風に誰かと一緒に寝るのはスゴく、久しぶりで……全然、嫌じゃなくて……。その、なんか……父様と母様と、一緒みたいで……」
布団で顔を隠し、恥ずかしながら言うと、急に関羽が喋り出した。
「ば、ばかいえ!一刀殿とは、そ、そういう関係ではないし!私はお主のような娘がいる歳ではない!せいぜい、姉といったところだ」
「……姉?」
張飛はキョトンとし、そう呟いた。
「それ以前に、私は“子供ができるような事”はまだ一度も……」
「えっ?」
「っ!わ、忘れて下さい!!」
「ちょ、待っ、言い出したのはそっちだろ!?」
まさかの発言に、思わず反応してしまった一刀。
関羽は顔を赤らめながら、枕で叩いてきた。一刀も枕を手に取り、盾にして防いでいる。
突然、張飛は二人の間に入る。
「姉だったら、お姉ちゃんならいいのか!?」
枕を持ちながら、呆然としながら二人は手を止めた。
「ま、まあ、それならいいが……」
「だったら、今日から関羽は鈴々のお姉ちゃんなのだ!」
「ええっ!?」
張飛は関羽に抱きつき、嬉しそうに答えた。関羽の方は思わず慌て出す。
「い、いや待て!姉でいいと言ったのは、そういう意味ではなくて――――」
「ダメ、なのか……?」
「うっ!」
張飛は、不安気味に、涙目で尋ねてきた。これには、関羽もたじろいでしまう。
「駄目、ではないが……」
「わぁ~~い、鈴々にお姉ちゃんができたのだ~♪」
喜びを体現しながら、張飛は関羽に抱きついた。慌てる関羽に対し、一刀は笑みを浮かべながら眺めていた。
「よかったな、張飛」
「お兄ちゃん!」
「……えっ?」
「お兄ちゃんも鈴々のお兄ちゃんになってくれる?」
今度は一刀に顔を向ける張飛。どこか期待している様にも見える。
予想だにしない言葉に、一刀は戸惑ってしまう。
「……俺も、いいのか?」
「うん!」
純真な笑顔。見ているだけで、こちらも笑みをこぼしてしまう。
最愛の祖父を亡くし、天涯孤独の身となってしまった。そんな自分に差し伸べられた、優しい手。断る理由などない。
一刀は決意をし、張飛の頭に手を乗せる。
「……分かった。俺は今日から、君の兄になってやる」
「わぁ~い、お兄ちゃんもできたのだ~♪」
歓喜のあまり、張飛は一刀と関羽に抱きついた。
「こ、こら。私はまだ認めたわけでは――――」
「これで、これで夜も寂しくないのだ……」
張飛は、二人に抱きつきながらそう呟いた。穏やかな顔を見て、一刀と関羽は、お互いに見合い、微笑んだ。
「………分かった。お主の姉になってやろう」
「うん!ずっと一緒なのだ!」
張飛は笑顔で頷いた。すると、関羽は急に真剣な顔になった。
「ならば、私たちと共に世の中を変えるための旅にでてくれるか?」
「世の中を、変えるため………?」
「もっとも、実際はどうすれば世の中を変えられるかを探す旅、といったところなんだが――――」
「いいじゃないか」
関羽が話していると、一刀も参加してきた。こちらも、真剣な面持ちをしている。
「何もしないより、ずっといいさ。まずは行動あるのみってね。困難な事があっても、探せば答えはきっと見つかるはずさ」
自分なりの言葉を見つけ、そう答える一刀。そして、張飛と向き合う。
「さて、どうする張飛?俺達と一緒に来るか?」
「当然なのだ!」
「よしっ!」
答えは決まっていたらしく、張飛は勢い良く頷いた。一刀と関羽は優しく微笑む。
それから三人は、一緒に眠りについた。
窓から月光に照らされ、その様子は、まるで本当の親子の様だった……。
翌朝、約束通り一刀達は、張飛を連れ、一緒に村のみんなに謝りに行った。きちんと許してもらい、村のみんなに旅の出発を見送ってもらった。
村から遠ざかり、道を歩く三人。
「よかったな張飛。村のみんなも快く見送ってくれて」
「うむ、これもお前がきちんと謝ったからだぞ?」
「う、うん……」
二人が話している中、張飛の顔はなぜか浮かない表情をしていた。
「どうした?もう村が恋しくなったのか?」
「そ、そうじゃないのだ。ただ、山賊団のみんなが見送りに来てくれなかったのが……」
「張飛……」
悲しそうに俯く張飛に、関羽は何も言えなかった。
「きっと、鈴々がいいオヤビンじゃなかったから……だからみんな――――」
「そんなことないぞ、張飛」
「えっ……?」
「ほら、見てごらん?」
一刀は山小屋のある方を指差した。視線を向けると、そこには見覚えのある子供達がいた。
「おぉ~い!オヤビ~~ン!」
「武者修行して強くなってね~!」
「なってね~!」
「みんな、オヤビンが帰ってくるの待ってるから~~!」
「オヤビ~~ン!」
大きく手を振り、大声で張飛を見送ってくれていた。中には、泣き出す子供もいる。
「ほら、ちゃんと来てくれただろ?じゃあ、こっちも笑顔で答えないとな」
「うん……!」
手の甲で涙を拭き、張飛は子供たちの方を向いて、明るい笑顔で答えた。
「みんな~!行ってくるのだ~!!」
◇◆◇◆
【紀元二世紀も末の頃。この世は、乱れに乱れておりました】
【そんな中、力を蓄え、密かに野心を研ぎ澄ます者、己の力を試さんと文武に励む者、守るべき者のために戦おうとする者】
【――――そして復讐を果たす為、闇を生きようとする者】
【様々な思いを胸に抱く者達があやなす運命の糸が絡み、結ばれる……】
北郷一刀、関羽雲長、張飛翼徳の三人は綺麗に咲き誇る桃の木々の下を歩いていた。花弁が風に舞い、美しいの一言に尽きる。
日本にある桜の様だ、と、一刀も風流を感じていた。
「そろそろ、外套もいらぬな」
「もう、春なのだ~♪」
「そうだな――――」
――――ッ!!
何者かの視線を感じ、一刀は咄嗟に後ろを振り向いた。
しかし、そこには誰もいない。
(なんだ、今のは……?)
「一刀殿?どうしましたか?」
「お兄ちゃん?」
関羽と張飛が不思議そうに見ている。
我に帰り、一刀は二人に笑顔で答えた。
「いや、何でもない。さあ、行こうぜ!」
「はい!」
「おうなのだ!」
三人は歩き出した。
果てしない旅が、始まった。
そして――――
「………………」
一本の桃の木の後ろに、一人の人物がいた。悟られぬ様、その姿を隠している。視線の先には、一刀達がいた。
青系統を基調とした忍装束を身に纏い、フードを顔が隠れる位に深く被っている。
その奥から見える金色の双桙が、三人の後ろ姿を捉えていた………。
【世紀末に舞う、無双の姫達の行く末をとくとご覧あれ!!】
修正するにあたって、自分の文章を改めて拝見しました。いや~……素人丸出しの駄文でめっちゃ恥ずかしかったです。しかも、結構時間がかかってしまいました。
不定期になりますが、これからもよろしくお願い致します。
それでは!