真・恋姫†無双~北刀伝~   作:NOマル

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~一刀と関羽、趙雲と死地へ赴くのこと~

腕を組み、拗ねている一人の子供がいた。

 

「むぅ〜……」

 

趙雲との手合わせを終えた後、鈴々は頬を膨らませながらそっぽを向いていた。

不機嫌丸出しというのが、目に見えて分かる。

 

「どうした?鈴々。そんな膨れっ面をして」

「さっきのだと、まるで鈴々が弱いみたいな言い方だったのだ」

不機嫌そうに言うと、一刀が優しく話しかける。

 

「確かに、鈴々は強い。でもね?その力をどう上手く使いこなせるか。そこの問題なんだよ」

「う〜ん、ムズカシイのはよくわかんないのだ」

「まあ、ね。でも、その内分かってくるさ。俺も手伝うしね」

 

微笑みながら鈴々を頭を撫でる。にゃはは♪と擽ったそうにしており、すっかり機嫌が良くなった。

 

「ほう、北郷殿もそう思いましたか。やはり、あなたは中々の人物と見る」

「いえいえ。俺なんか、趙雲さんに比べたら、全然大した事ないよ」

「ふっ、本当に謙虚な御人ですな」

 

笑みを込めて言うと、今度は公孫賛が口を開いた。

 

「うむ、互いに認め合った所でなんだが……」

「どうされましたか?」

 

愛紗が聞くと、公孫賛は言いにくそうに話し始めた。

 

「いや、恥ずかしながら山賊退治に手こずっていてな。奴等の出没している範囲から考えると“赤銅山(しゃくどうざん)”の山中にあるのは確かなのだが、それらしき砦が見つけられず討伐隊を出すこともできんのだ」

「そこで一計を案じてみようかと」

「一計、というと?」

「うむ。隊商を装ってその荷物の中に隠れ、それを賊にわざと盗ませる。つまりは賊自ら道案内をさせるということだ」

「なるほどな」

「それはいい案だ」

 

一刀と愛紗は、趙雲の案じた策に賛成の意を見せる。対して、公孫賛は反対意見を出した。

 

「し、しかしだな、賊のアジトに単身乗り込むなど危険すぎるぞ」

「“虎穴に入らずんば虎子を得ず”。多少の危険は伴うものです。どうだろう、北郷殿、関羽殿、一緒にいきますかな?」

 

二人の様子を窺う趙雲。一刀と愛紗は、一度だけ顔を見合わせ、趙雲の方を向いた。

 

「ああ、私も協力しよう」

「俺もついていくよ。女の子二人だけに任しておくわけには行かないからな」

 

男として、女性二人にだけ任せてはおけない。一刀は真剣な表情で答えた。

 

「…………」

「ん?どうかした?」

「いや、なんでも……」

「……っ?」

 

無言になった趙雲に声をかけると、彼女は不意に顔を反らした。怪訝に思いながらも、全員は趙雲の顔を見ることは出来なかった。彼女の頬が、ちょっとだけ赤く染まっていた所もだ。

 

「じゃあ、鈴々も行くの――――」

「お主は駄目だ」

「何でなのだ!?」

 

即刻、断られる鈴々。文句を述べると、落ち着きを取り戻した趙雲は冷静に答えた。

 

「よいか?荷物の中に隠れ、賊のアジトまでいくということはな、どんな時でも息を殺してじっとしておかなければならないのだぞ?お主の様に根が騒がしい者には無理だ」

「そ、そんなことないのだ~!!鈴々はやればできる子なのだ~!!」

「り、鈴々。それじゃあ全然説得力がないぞ……」

 

大声で叫びながら、反論する鈴々。至近距離で耳にしてしまい、思わず塞いでしまう。これだけ騒がれたら、余計に連れていけなくなってしまう。

一刀が苦笑いで言うと趙雲は笑みを浮かべた。

 

「ほう?じゃあ試してみるか?」

「望むところなのだ!」

 

すると鈴々は、台の上で腕を組み、胡座をかいて座った。その顔はどこか得意気で、自信がある様だ。

 

「何にもしゃべらなきゃいいのだから、簡単なのだ」

 

 

〜十秒経過〜

 

 

 

「うぅ……」

 

 

 

〜三十秒経過〜

 

 

 

「うぅ〜〜…」

 

 

 

〜一分経過〜

 

 

 

「うぅ〜〜〜――――ぱぎゃあ!」

「り、鈴々!?」

「あちゃ~、駄目だったか」

 

ついに鈴々は限界突破してしまった。頭からは湯気が出ており、熱暴走を起こしてしまった機械の様だ。関羽は慌てて側に駆け寄り、一刀と公孫賛は苦笑いを浮かべている。焚き付けた趙雲はというと、何事もなかったかの様にお茶を啜っていた。

 

結局、趙雲、関羽、一刀の三名で行くことになった。

 

 

 

 

それから場所を、町の外。森の出入り口付近に移した三人。

 

「これか……」

「うむ、この中に入る」

 

用意された棺の様な木箱。一人ならまだしも、三人が入るには少し窮屈な大きさだった。

 

「う〜ん、これだとよっぽどくっついて入らないと………」

「一刀殿?分かってはいるでしょうが、もしも何か変なことを考えたその時は……」

「い、いやいやいや!そ、そそそんなことはしないって!?」

「……なら、いいです」

念を押し、関羽は瞳を鋭くし、睨み付ける。心臓を打ち抜かれる程の眼光。睥睨の視線が収まったのを確認し、一刀は安堵の息をつく。

 

「えっと、趙雲さんもごめんな……。男と一緒は嫌だろ?」

「案ずるな。例え間違いがあったとしても、むしろ大歓迎だ♪」

「そっか。それじゃ……………ってえっ!?」

「なっ!」

「ふふっ」

 

まさかの発言に、同時に顔を赤らめる二人であった。

 

 

 

 

 

 

赤銅山の山中、少数人の隊商が進んでいた。その荷車に乗っている荷物の一つである大きな箱。その中に、三人は入っていた。

 

暗がりの中、一刀は微動だにせず、じっとしていた。右側には愛紗、左側に趙雲が横になっている。

 

ゆらゆらと荷車が揺れ、彼女達の柔らかな肢体が触れ合ってしまう。女性特有の膨らみも腕に当たっており、甘い香りが鼻孔を擽る。

 

そんな状況の中で、一刀は必死に理性を保っていた。

 

「うぅ……」

「しっ、静かに。いつ賊が攻めてくるやも知れんのだぞ?」

「い、いや……そ、そうなんだけど、さ……。趙雲さんの、その………」

「私の胸が、何か?」

小悪魔のような笑みを浮かべる趙雲。抱きつく力を強め、中々に育った胸を更に押し付ける。あろうことか足まで絡めてきた。思わず体を震わせてしまう。

 

「あ、あの、趙雲さん!?そ、それは」

「ふふっ……何なら、もっと“イイコト”をしませんかな?」

「いっ!?」

 

耳元で不意にささやかれ、体が強ばる一刀。全身を電流が迸った様な感覚だ。なんとか逃げようと、体を捩らせる。

今度は、愛紗の体に触れてしまう。

 

「か、一刀殿!何をやってるんですか!?」

「い、いや、違うんだ!わざとじゃなくて……」

 

気がつくと右腕の肘が愛紗の胸をつついていた。弾力があり、程よく押し返される。

 

欲を言えば……もっと感じていたい……

 

と、口にしたら命はないだろう。頭の中を過るが、すぐに煩悩を断ち切る。何とか、状況打開を試みる。しかし、そう上手くはいかない。

更に状況は悪化。腰に忍ばせていた木刀が、動いている内にずれてしまい、愛紗の股に挟まってしまった。

 

「っ!?」

「ご、ごめん!」

 

羞恥に染まる端正な顔。

一刀は急いで、木刀を抜こうとした。しかし、中は窮屈な為、動きが制限される。抜く事ができず、あろうことか、彼女の下半身――――股の部分を擦ってしまっていた。布が擦れ合う音に紛れ、彼女の口から、微かに悶える声が出てしまう。愛紗は必死に声を噛み殺すが、無に等しい距離では、意味がない。

 

「あっ……ちょ、ちょっと!んっ……や、やぁ……あん!」

「北郷殿、やはり中々の“手練れ”ですな♪」

「な、何言っ――――って、ちょっと待ったぁあああ!?」

 

以上。箱の中では、こんなやり取りが行われていた。無論、中の声は漏れており、運んでいる男性達は、皆顔を赤くしていた。同時に、羨ましい……と、涙を堪えている。

 

 

 

森の茂みより、隊商の列を物陰で見ている二人組。二人は互いに頷くと、どこかへ去っていった。

 

監視していた二人の存在に、誰も気付く事はなかった。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

その頃、待機している公孫賛は、屋敷で書類の整理をしていた。筆を走らせていると、従者の一人がやって来た。

 

「公孫賛様、隊商が賊に襲われました! 」

「……そうか、首尾の方は?」

「はい。隊の怪我は一切なく、荷物は全て賊の手に渡りました」

 

趙雲の企てた策が、上手くいった様だ。

 

「所で、張飛殿にこの事は?」

 

公孫賛が聞くと従者は言いにくそうに報告する。

 

「それが、報告した途端に“やはり心配だから、自分も賊のアジトへ行く”と止める暇もなく行ってしまいました………」

「行くって……。賊のアジトがわからないからこその作戦なのに」

 

重い溜め息をつき、頭を悩ませる公孫賛であった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

そんな彼女の気苦労など知る由もなく、鈴々は陀矛を担いで、一人森の中を歩いていた。

 

「う〜ん、賊のアジトってどっちなのだ?」

 

公孫賛の予想通り、鈴々は早速迷っていた。すると、何かを思い付いたのか、ポン、と手を叩く。

 

「そうだ!こういうときは、木のネンリンを見ればわかるって、じっさまが言ってたのだ!」

 

そういうと、鈴々は側に生えている、木の切り口を見始めた。外側へと波紋が広がっている様な模様をじっくりと眺めている。

 

「……………………………………多分、こっちなのだ♪」

そもそも、それをしたからと言って、目的地に辿り着くとは限らない。何となく自分でもそう思ったのだろう。

当てもなく、鈴々は歩み始める。

 

「や〜ま〜があ〜るか〜らや〜まな〜のだ〜♪」

 

歌を歌いながら鈴々は歩き始めた。陽気に歌う鈴々。

 

 

 

 

その姿を、木の茂みに身を潜めながら、観察している一人の人物。

 

「………………」

 

金色の瞳を光らせながら、自分もその後を追跡するのであった。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

一方……。

 

赤銅山の内部に設けられた賊のアジト。賊達は、先程襲撃をかけ、強奪した荷物類を物置に運んでいた。次々と運ばれていく荷物。手下の一人である図体のでかい太った男も、大きい箱を運んでいた。

 

「よっこらしょ!」

「――――きゃっ!」

「ん?」

「どうしやした?アニキ?」

「今、なんか女の声が聞こえなかったか?」

「はあ?なにいってんすか?幻聴が聞こえてくるなんて、よっぽど餓えてるんすねアニキ」

「かもな、よし!また村の娘に酌でもさせるか!」

「今夜も祝盃っすね〜♪」

 

汚い笑い声を上げながら、賊達は物置から出ていった。

 

 

それから数秒経ち、箱の蓋が動いた。

 

「…………大丈夫、の様だな」

 

隙間から、賊がいなくなった事を確認。趙雲は窮屈な箱から身を出す。

同時に、関羽と一刀も出てくる。顔が火照っており、服もちょっとはだけていた。箱の中で、散々な目にあったようだ。

 

「ふむ、どうやらここは地下のようだ」

「「地下?」」

 

それから三人は物置から出て、警戒しながら道を進んでいた。

壁に松明が掛けられており、暗い洞窟内部を明るく照らしている。今の所、賊らしき手下とは遭遇していない。

 

「見た所、ここは鉱山の跡地。坑道を利用していたんだろうな」

「道理で、どれだけ探しても見つからない訳だ」

 

公孫賛が派遣した部隊の目を欺いた理由が判明。歩いている最中、愛紗は一本の短剣を手にする。そして、趙雲の目にふと、愛紗の胸元に写った。

 

「しかし、短剣一つとはちょっと心細いな」

「しょうがないだろう。お主の胸がでかすぎて、武器が持ち込めないのだから」

「なっ!そ、それは別に……」

「北郷殿もそう思わぬか?」

「えっ!?」

趙雲はいきなり一刀に話を振ってきた。突然の事で対応できず、動揺を隠せない。

 

「えっとぉ……」

「ん?あそこみたいだな」

「えっ?」

 

先程の質問は何処に。

何かを見つけたらしく、趙雲についていく。大広間で、そこには数十人の賊が集まっている。

 

宴でもしているのか、酒を飲み、料理にありついていた。

 

「ここに集まっている様だな。」

「ああ――――」

「やめて下さい!」

 

突然、悲鳴が聞こえた。音源の方へ視線を向ける。

 

「へへ、いいじゃねぇか。減るもんじゃねぇしよ〜」

「い、嫌……!」

 

玉座に座っている、賊の頭らしき男。側には、若い女性がいた。先程、部下の会話に出ていた村の娘であろうか。顔を厭らしく歪め、女性の体を触り始める。

 

 

「くっ!下郎が!」

「待て関羽!どうするつもりだ!」

 

外道を見過ごせる筈がなく、愛紗は怒りを爆発させる。立ち上がると、趙雲に引き止められる。

 

「決まっている!助けに行くのだ!」

「落ち着け!我々の任務はあくまで賊の隠れ家の捜索だ」

「し、しかし………」

「今、ここで騒ぎを起こせば作戦が台無しに――――」

 

突然、二人の横を、何かが通り過ぎた。

 

「なっ!?」

「一刀殿!?」

 

趙雲が愛紗を説得している最中、一刀はいきなり飛び出した。愛紗と同様、目の前の光景をじっと見ていられなかった。そして、一目散に走り出した。

 

「うおおおおっ!」

「……へっ?――――ぐぼぉ!」

 

走る勢いをつけ、賊の頭の顔面目掛けて蹴りを食らわせた。深くめり込み、頭は横向きに倒れた。

 

「大丈夫か?」

「え?あ、はい………」

 

茫然としながらも、女性は返事を返す。しかし、当然ながらあっという間に賊に囲まれてしまった。

 

「なんだ、てめぇは!?」

「お前らなんかに名乗る筋合いはねぇよ」

「ふん、強がりやがって!この状況をどうやって切り抜けるつもりだ?」

「ちっ!」

 

数十人に囲まれ、守りながらは厳しいこの状況。一刀も流石に歯噛みする。

その様子を見ていた関羽達。

 

「いかん!早く助けねば!」

「待て関羽!闇雲に突っ込むな。こっちだ!」

「趙雲殿!」

 

意図を全く読み当てられず、愛紗はただ趙雲についていった。

 

(流石に、この状況はヤバイな……。一人だったらなんともないんだけど)

「へへっ!終わりだな!」

 

勝ち誇った様に、下卑た笑いを浮かべる賊達。各々が武器を取り出している。

 

この状況をどう打開するか、一刀は必死に頭を捻らせている。

 

その時、その場が暗闇に包まれていった。

 

「なっ!?」

「ど、どうした!?」

 

松明が次々と倒れていき、明かりが消えていく。愛紗と趙雲の二人が、石を投げて松明を倒していたのだ。

 

賊達が混乱している内に、投石を終えた二人は一刀の方へ向かう。暗闇の中、一刀の氣を頼りに辿り着いた。

 

「一刀殿、こっちだ!」

「愛紗か!?よし、分かった!」

 

一刀は女性と共に、愛紗達についていく。

 

広場を出て、四人は坑道に隠れた。後方を見るが、賊の追手はいない。一先ず、安堵する一同。

 

「まったく、ここにも猪武者がおりましたか」

「あはは、面目ない……」

 

申し訳なさそうに頭をかく一刀。趙雲は呆れはしているものの、それ以上責める事はなかった。

すると、賊に捕まっていた女性が話し掛けてくる。

 

「あ、あの、先程は助けていただきありがとうございました」

「気にしないでいいさ。それにしても、君はどうしてこんな所に?」

「はい、私はこの山の麓に住む者ですが、村の子供たちと山菜摘みに山へ入った時、ここへの出入口を見つけてしまって……」

「それで捕まった、ということか」

「実は、ここの地下牢に村の子供たちが捕まっているんです!もし、私が一人で逃げだしたら奴等に何をされるか………」

 

顔を両手で覆い、言い終えた後に泣き出す。

すると、一刀は嗚咽する女性の肩に、優しく手を乗せた。

 

「大丈夫、必ず助け出すよ」

「一刀殿……」

「ふっ、だろうな」

 

三人の意志は共通で決まっていた。

 

早速、女性の案内で、四人は地下牢へと向かった。子供達と共に、一度だけ牢に入れられた事があり、難なく部屋に辿り着いた。

陰から見ると、そこには見張りらしき男が一人いた。自分だけそんな役割になった事に対する不満なのか。舌打ちしながら、苛立っていた。

 

牢屋の中では、捕らえられた子供たちが身を寄せあい、恐怖に怯えている。

 

「ったく!なんで俺がこんなことを――――」

 

突如、男の元に一人の影が迫ってくる。目にも止まらぬ早さで、気づいた時にはもう遅かった。

 

「っ!」

「ぐほぁ!」

 

一刀は素早く見張りの懐に入り、顔面に一発。拳が頬を捉え、賊は壁に激突する。後頭部を強く打ち、武器を手放して気絶した。

賊の男から鍵を奪い、牢屋の扉を開けた。

 

「よし!みんな、早く出ろ!」

 

子供達は、女性の元へと駆け寄る。怖かったのだろう、安堵して泣き出していた。

しかし、安心するのはまだ早い。ここから脱出する為、一刀達は出口に向かって走り出した。中は迷路の様に入り組んでおり、中々出口へと辿り着けない。

 

「娘!出口までの道は分からぬのか?」

「すいません、それがまったく……」

「いたぞっ!こっちだぁ!」

「しまった!」

 

賊の一人に見つかり、更に早く走り出した。焦燥感を抱きながらひたすら足を動かす。

すると、一筋の光が見えてきた。

 

「おお、出口だ!」

 

愛紗の言葉と共に一気に走り出す。そして出口と思わしき穴へと向かった。

 

しかし、期待は一気に崩れ去った。

 

「なっ!?」

「くそっ!」

 

見下ろせば、そこは崖であった。断崖絶壁。落ちたら人たまりもない。

悔しさで歯を軋ませる。

 

「万事休すか……」

「なにか、なにか良い方法は――――」

「お兄ちゃ〜ん!愛紗〜!」

「鈴々!?」

 

自分達の名前を呼ぶ声。その聞き慣れた大きな声がした方を見る。向こう側の崖に、赤毛の妹がいた。

 

「そこでなにやってるのだ〜?」

「そうだ!鈴々、今すぐその木を斬り倒してくれ!」

 

愛紗は何かを思い付いたか、向こう側にいる鈴々の横にある大きな木を指差した。

 

「はにゃ?なんでなのだ?」

「いいから早く!」

 

首を傾げる鈴々。愛紗は、急かす様に声を荒げる。

 

「う〜ん、なんだかよく分かんないけど……てりゃ~~~!!」

 

訳の分からないまま、鈴々は陀矛を構える。そのまま思い切り振り切り、大木を斬り倒した。メキメキと軋み、愛紗達のいる崖へと倒れる。そして、崖と崖を繋ぐ橋となった。

 

「よし!みんな、これを渡るんだ!」

「はい!さあ、みんな!」

 

女性と子供たちは、全員その木を渡り始める。慎重に、細心の注意を払って進んでいく。

 

更にまずいことに、洞窟内にいた大勢の賊たちが、こっちに向かってきた。

 

「まずい、急げ!」

「なんとか時間稼ぎをするしかないか」

 

一刀は木刀を構え、趙雲は賊から奪った槍で足止めをする。愛紗は子供たちが渡り終えるのを見守っていた。

 

「さあ、急いで!」

「は、はい!」

 

女性が最後に渡りきり、無事全員、渡り終えた。途端に、よっぽど怖かったのか、安堵のあまり、子供たちが泣き出す。

 

「ふぅ、本当に良かっ――――」

 

穏やかな表情を浮かべる愛紗。

すると、大木の重さに耐えきれなかったのか、彼女の足場となる岩場が崩れ出した。

 

「きゃああっ!!」

「愛紗!?」

「関羽!」

 

鈴々と趙雲は愛紗の名を呼ぶ。

 

「くっ!大丈夫か、愛紗………!」

「か、一刀殿………」

「くっ……ぉおおお!」

 

間一髪、一刀が愛紗の手を掴み、なんとか事なきを得た。一刀は手をしっかりと握りしめ、絶対に離す事はない。歯を食い縛り、力を振り絞って引っ張り上げた。

 

一気に脱力し、一刀と愛紗は息を荒くする。

 

「はぁ、危なかったな……」

「ああ、おかげで助かった……。ありがとう一刀殿」

「うん。でも、これじゃもう渡れないな」

 

一刀の言う通り、さっきの崖崩れで橋となる木が下へ落ちてしまい、向こうへと戻れなくなってしまった。

 

「鈴々!その子達を村へ返してやってくれ!」

「任せるのだ〜!」

 

向こう側にいる鈴々にそう言うと、鈴々も大声で答えた。そして、愛紗は体を後ろへ向ける。

 

「……こうなったら、やるしかないか」

「ああ、その様だ」

 

一刀は木刀を持ち、愛紗は賊の一人が落とした剣を拾った。二人は、趙雲の元へと駆け寄る。

 

「趙雲殿――――」

「“(せい)”だ」

「えっ?」

「共に死地へ赴くのだ。我が真名を二人に預けたい」

「………そうか。なら私も我が真名を預ける」

「俺も預けたいけど、真名がなくってさ。俺は一刀って呼んでくれ」

「うむ――――では行くぞ!一刀!愛紗!」

「「ああっ!」」

 

一刀、愛紗、そして趙雲改め星の三人は、賊の大群へと走り出した。

 

 

 

一方、鈴々の方は、

 

「よし!それじゃ行くのだ!」

「で、でも、あの人たちは………」

「お兄ちゃんと愛紗だったら大丈夫なのだ!賊なんてちょちょいのぷ~なのだ!」

「は、はぁ………」

「じゃあ、早速帰っ――――」

 

鈴々が言い出した瞬間、何かが横切った。風が通り過ぎた様に、鈴々の赤毛がふわり、と跳ねる。

救出した女性と子供達は、気づいた様子はない。

 

しかし、鈴々はその目で捉えていた。

 

金色の何かを。

 

「…………はにゃ?」

 

鈴々は首を傾げていた。

 

あれは気のせいなのか?

 

 

 

それとも…………

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「うおおおっ!!」

「はああ!!」

「でりゃあ!!」

 

その頃、賊の洞窟では熾烈な戦いが繰り広げられていた。

一刀達は三人で協力し合い、賊と戦闘。三人共、見事な武で賊を討ち取っていく。

 

「くそっ!囲め囲め!」

 

苛立ちながら、賊の頭が命令を出す。手下達は一斉に三人を取り囲んだ。同時に、三人もお互いの背中を合わせた。

 

「囲まれたか……やれるか?」

「当然!二人がいるしね!」

「ふふっ、私もお主達がいると心強い!背中は任せた!」

「了解!行くぜ!」

「「おお!」」

 

四方八方を囲まれているにも関わらず、三人は笑みを溢した。これほど頼れる仲間はいない。三人は一斉に走り出した。

一刀は木刀で敵の急所目掛け、一撃を繰り出す。愛紗も手持ちの剣で相手の武器を捌き、斬り倒していく。星は華麗にかわしながら、賊から奪った槍で賊を貫く。

徐々に、賊達を討ち取っていく三人。例え数が多いとしても、三人にとっては何の苦でもなかった様だ。

 

「くそっ!こうなったら……」

 

業を煮やした頭は、合図を出す。

すると、上の岩の陰から弓を持った手下達が構えて出てきた。

 

「やれ!」

 

掛け声と共に、手下は一斉に矢を放った。

 

「うおっ!」

「くっ!」

「ちっ!」

 

間一髪、一刀達は何とか回避。足元に矢が刺さり、お互いに背中を合わせる。

 

「へへっ、形勢逆転だなぁ!ぎゃははは!!」

 

頭は余裕の笑みを浮かべ、汚い笑い声を上げた。手下達は弓矢を構えて三人を狙っている。頭上を包囲されており、三人は下手に動けなくなった。

 

「くそっ!」

「……ここまでか」

(畜生……何とか、二人だけでも!)

 

愛紗と星は悔しそうに顔を歪める。一刀も、この場の打開方法が浮かび上がらず、歯軋りをする。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

最悪の状況を浮かべ、三人は覚悟を決める。

 

賊の矢が、一気に放たれる――――

 

 

 

 

 

 

 

その時だった。

 

 

何かが空を切る。ヒュンッ!という風切り音と共に、全ての松明が地面に落ちていく。落ちた衝撃で火が消え、辺りは暗闇に包まれた。

 

その場にいた全員が何が起こったのか分からずにいた。

 

一刀達も、下手に動かない方がいいと判断し、武器を構えて動かずにいた。

 

次の瞬間、

 

「ぎゃあああああ!!」

「な、どうした!?」

 

肉を切る音と共に、叫び声が鳴り響く。頭は訳もわからず、動揺していた。

 

「な、何なんだ――――」

「ぐはぁ!」

「ひぃっ!」

 

頭は恐怖に怯え、頭を抱えてしゃがみこんだ。それでも耳に直接、嫌でも入ってしまう。手下達の断末魔が。

そして、ボトリ……と、“何かが”落ちる音も。

 

「うわっ、うわあああ!」

 

恐怖の余り、剣を大袈裟に振り回す賊の一人。すると、目の前を何かが通りすぎる。その直後、自分の両手が“なくなっている”事に気づいた。

 

「ぎぃやああ!!?」

 

叫ぶのも束の間。喉元を切られ、今度こそ絶命する。

謎の襲撃は、まだ終わらない。

 

「お、おい!何が起こってんだ!?」

「知るかよ!俺に聞くな――――」

 

苛立って声を荒げると、右足首に何かが絡み付く。強い力で引っ張られ、地面に仰向けに倒れてしまう。がはっ!と呻きながら上半身を起き上がらせる。

 

 

その時、“ソレ”と目が合ってしまった。

 

 

ソレは、高く跳躍。得物を逆手に持ち替え、地面にいた賊の腹めがけて振り下ろす。深々と突き刺さり、追い打ちと言わんばかりに、捻る。

賊は口から血を吐き出し、白目になりながら、地面に横たわる。

 

茫然と立ち尽くすもう一人の賊。するとソレは、次はお前だ、と言わんばかりに、横目で睨み付けた。

 

「あっ、ああああっ!!」

 

氷の様に冷たい眼光。それに威圧され、武器を放り出して逃走する。しかし、それは許されない。

 

「ごぼっ!?」

 

逃げる賊の首に何かが巻き付いた。ギリギリと締め上げられ、呼吸が出来なくなる。それだけではなく、今度は背中に刃を突き刺し、腹から刃が姿を見せる。

 

賊の血で真っ赤に染まる刃。ソレは勢いよく引き抜くと、また、次の獲物目掛けて走り出した。

 

 

その場には、肉を切り裂く音、血が地面に飛び散る音、賊の断末魔が響いた。

愛紗は謎の襲撃に備え、尚も武器を構えている。

そんな中、一刀はある事に気づいた。

 

(なんだ……あれ?)

 

目を凝らしてよく見てみる。

金色に輝く、二つの眼のような物が、残像を残しながら、素早く動いていた。

 

(あれは、もしや……)

 

暗闇の中、月の光の様に、淡く光る瞳。それを目にした星。途端、どこか思うような表情を浮かべていた。

 

 

 

 

ザシュッ!という切り裂く音を機に、その場は静寂に包まれた。

 

 

 

音が無くなり、頭はゆっくりと頭を上げる。恐る恐る、顔を上げる――――

 

「ひぃ!!」

「…………」

 

金色の双眸が、賊の頭を見下ろしていた。睨んだだけで、死を予感させるその双眸に頭は恐怖した。

そして“ソレ”は、無言でゆっくりと近づいていく。

 

「はあ……ああ………!?」

 

暗闇の中、手探りで後ろへ行った結果、壁に追い詰められた。

すると、自棄になったのか、頭は剣を取り出す。

 

「ち、ちくしょうがあああああ!!」

 

視界がまともに機能していない中、無造作に得物を振り出す。恐怖で顔が歪み、大量の汗をかいていた。

 

“ソレ”は呆れて物が言えないのか、半眼で頭を見つめていた。悪足掻きとも言えるその攻撃は、当然ながら通用する事はない。

 

溜め息をつくと、“ソレ”は得物を軽く振った。すると、いとも簡単に頭の手から剣が弾かれる。

 

自分を守る物が無くなり、賊の頭は尻餅をつく。

 

「ま、待ってくれ……!頼む、命だけは――――ひいっ!」

 

頭は、無駄とも言える命乞いをした。

しかし、刃物が擦れる音がした瞬間、更に恐怖に落ちた。

 

“ソレ”は、得物をゆっくりと、振りかぶった。

 

「――――屑が……地獄に落ちろ……」

「た、助け――――」

 

断罪の一撃が、振り落とされた。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああ!!!」

 

闇の中、最後の断末魔が鳴り響いた。

 

「「「…………」」」

三人はただただ、立ち尽くすしかなかった。氣を確かめなくても、直感で分かった。賊は全滅した、と。

 

すると、金色の双眸が、こっちの方へゆっくりと振り向いた。

 

夜空に浮かぶ、満月を思わせる二つの瞳。それは、三人を視界に収めていた。

 

「…………」

「お前、一体何者だ?」

「…………」

「おい、聞いて――――」

 

“ソレ”は愛紗の質問に何も答えず、無言のまま、その姿を消していった。

 

「お、おい!」

「なんだったんだ、一体……?」

 

一刀はそう呟くも、誰も答えられなかった。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

因みに、

 

「よしっ!準備は万全!」

「あの〜公孫賛様」

「なんだ?」

「賊のアジトの場所が分かりました」

「おお、そうか!ではいざ!この白馬将軍が賊を討ち倒して――――」

「いえ、実は、もう賊は趙雲様達が討伐しまして……」

「ええ!?じゃ、じゃあ私の出番は!?白馬将軍の活躍は!?」

「それは……」

 

公孫賛の屋敷にて、こんな事があったのであった。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

翌朝、一刀達“四人”は森の道を歩いていた。メンバーは、一刀、愛紗、鈴々――――そして、星だ。

 

「しかし、良かったのか?我々は元から断るつもりでいたからいいものの、あのまま仕官していれば、将として任されただろうに」

「公孫賛殿は、決して悪い人物ではない。だが、只それだけだ。この乱世を治める器ではないし、影も薄い」

「な、何気にきついこと言ってないか?」

 

星の公孫賛に対する辛口評価に、一刀は苦笑いを浮かべる。

 

「この蒼天の下、真に仕えるに値する主はきっと他にいるはず。それに……」

「ん?」

「何よりもお前たちと一緒にいた方が楽しそうだからだ」

 

星がそう言うと、一刀と愛紗は笑みを浮かべ鈴々は、にゃははと笑った。それに、と、星は一刀の側に寄る

 

「あなたの事も気に入りましたしな、一刀殿♪」

「えっ……」

「なっ!」

「にゃあ」

 

星は笑みを浮かべながら、一刀の腕に抱きついた。中々に発育の言い、彼女の胸が、腕を挟み込む。胸元から見える谷間を目にしてしまい、一刀は一瞬で赤くなる。対して、愛紗はわなわなと肩を震わせていた。

「な、何をしている星!?」

「おや?何をって、見て分からぬか?」

「真顔で言うな!いいから離れろ!」

「やれやれ、嫉妬は程々にしないといかんぞ?」

「なっ!」

星の言葉に、愛紗は顔を更に紅潮する。

 

「し、嫉妬だと!?そそ、そんな事は……」

「じゃあ、このままで構わんだろう?」

「だ、駄目だ!」

「何故?」

「そ、それは………もう!とにかく駄目なものは駄目だ!」

「やれやれ、致し方ない。愛の時間を譲ってやるとするか」

「なっ!?う、うるさ〜い!!」

「はっはっは!」

「待てっ、星!」

「鬼ごっこなら鈴々もやるのだ〜!」

 

星を追いかける愛紗。続いて鈴々も加わり、鬼ごっこ?を始める。

一人、置いてきぼりを食らう一刀は、苦笑いを浮かべる。

 

「ははは、皆元気だな〜」

 

一刀も後に続いて走り出した。

 

そして走っている最中、一刀は昨日の事を思い出していた。

 

 

 

 

あの後、しばらくして公孫賛の隊がやって来た。

明かりを灯すと、そこには賊達の変わり果てた姿があった。

 

一刀達が討った賊は、体に切り傷が付いていたり、胴体を貫かれたり、といった所が多い。

しかし、謎の人物が手にかけた賊は皆、頭か首、目掛けて切り裂かれており、二つに分かれている“モノ”が多かった。何かが通り過ぎたと思いきや、次の瞬間、切り裂かれている。まるで、“鎌鼬(かまいたち)”の様だ。

 

あまりの凄惨さに、一刀は腹から込み上げてくる嘔吐感を、何とか耐え抜いた。

 

そして思った。

 

これは“討伐”ではなく、“殺戮”だと………

 

あれは一体なんだったのか?

どうして、あの場にいたのか?

何より、“あの時”の視線はもしかして……。

 

一刀は、愛紗と鈴々と歩いた、あの桃の花弁が舞い散る道での事を思い出していた。

 

(本当に何が起こってるんだ――――)

 

まただ。また、あの視線を感じる。一刀は後ろを振り返る。

 

しかし、そこには誰もいなかった。

 

「…………」

 

踵を返し、一刀は何も言わずに、愛紗達の所へ走っていった。

 

 

妙な胸騒ぎを感じながら…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

一刀が見つめていた一本の木の後ろ。そこに隠れている一人の人物がいた。

紺色のフードの奥から見える、金色の双眸をもつその人物。木にもたれ掛かり、横目で様子を窺っていた。

そして、一刀の姿がいなくなると、一息ついた。

 

「…………二回も気づかれるとは、そろそろかな。あの時にでしゃばっちゃったし、これ以上は」

 

木の上から飛び降り、着地する。そして、一刀が去っていった方を見つめる。

 

「“管輅さん”の予言通りだとすると……やっぱり、あの人が…………」

 

金色の双眸は蒼天を見上げる。

 

その瞳の奥で、一体、何を思っているのだろうか…………。

 

 

 

 




オリキャラ、登場致しました。

相も変わらず、戦闘描写が難しい……。すごい雑になってしまったかもしれません。

次回も、お楽しみに!
それでは!
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