それでは、どうぞ!
鈴々と別れた一刀は一人、町外れの森の中を歩いていた。何も喋る事はなく、ただ無言で歩いていた。
暫く歩き続けると、一呼吸置き、その場に立ち止まった。
「――――さて、そろそろ出てきてくれないかな?」
急に、そう言い出した。
周りから見れば、独り言のように見えるかもしれない。一刀は丁度、真横――右の方向――を見つめた。
そこにあるのは、一本の木。一刀の視線は、その“木の枝に立っている人物”に向けられていた。
忍者を思わせる、深い紺色の忍装束を着ており、フードを顔が隠れる位に深く被っている。フードの奥から見える、金色に輝く眼が、一刀を見据えていた。
「なるほど……あの時からのも全部、君だったんだね」
「…………」
一刀の言葉に無言で返す人物。同時に木の上から飛び下り、地面に着地した。
よく見ると背が低く、鈴々と同じ位だろうか。
「君は一体、何者なんだ?」
「…………」
「何で、俺をつけていたんだ?」
「…………」
一刀の問いに、一言も返さない。無言で、こちらを見つめている。
これでは埒があかない。溜め息をついていると、剣を抜く音がした。前を向くと、フードの人物は背中から剣を抜いていた。
そして唐突に、襲いかかってきた。
「うおっ!ちょ、ちょっと待てって!!」
咄嗟に、その剣を避ける。謎の人物は、構わず攻撃を続ける。まるで、“二人組で同時に振っている”かの様な高速の斬撃は空を切る。
一刀は何とか避けるも、顔が次第に苦痛で歪んでいく。ついに、木刀で防いだ。
「くっ!」
「――――木刀?」
「くっ………ぉおおお!」
その一撃を防ぐと、力の限り押し返し、上へ切り上げた。その際、木刀の先端がフードに引っ掛かる。その人物は後ろに転がりながら、バク転で体勢を立て直した。
目の前の人物を見て、一刀は目を丸くする。
「こ、子供? 」
「真剣を木刀で防ぐなんてね……」
フードが取れ、その顔は露になった。
綺麗な瑠璃色の髪で、幼さ故に美少女にも見えるという、実に中性的な顔立ち。満月の様な金色の瞳と合わさって、不思議な雰囲気を漂わせていた。
同時に、こんな小さい子供が、あの凄まじい程の“氣”を自分へ発していた事にも驚いていた。
「君は、一体………」
「しかも、木刀に傷一つ付いていない」
少年は、目を細めて呟いた。木刀をよく見てみると、あの凄まじい斬撃を受けていたのにも関わらず、一切傷が付いていない。新品同様と言っても疑われないだろう。
「ああ、結構丈夫なんだよ。これ」
「………丈夫で済むの?それ」
「うん」
「…………」
あっさりとした返答に、少年は呆れた様に視線を送る。
(本当にこの人で、いいのかな?)
「さてと――――どうする?まだやるかい?」
その言葉を聞き、少年は答えるかの様に剣を構える。今度は逆手に持ち変え、体勢を低くする。
「まだやる、か………」
「今度は……殺す気で行くよ」
少年は獲物の狙うかの様に、一刀を睨み付けた。金色の眼光が鋭くなる。
はぁ……と、ため息をつく。その直後、顔を引き締め、木刀を構えた。
「やる気になった?」
「いや、まだ納得がいってないんだけどさ……“
「………気づいてたんだ」
「まぁな」
少年は一瞬、大きく目を見開くが、すぐに戻した。
すると、少年は剣を持っている手とは、逆の手を出した。左手には鋭利なクナイが握られており、剣の柄の部分に紐――或いは鞭――が付いており、クナイの柄の部分と繋がっていた。一刀に繰り出したあの斬撃は、恐らく剣とクナイを上手く使った攻撃だろう。
撃剣というのは、武器の名称ではなく、刀剣を扱った剣術の総称だ。明治初期の日本では、剣道の事を指す。
少年が手にしている得物は、言うなれば、クナイを括りつけた長穂剣。
(だけど、あの高速の斬撃は本物だ。どっちにせよ、警戒は怠るもんじゃない)
(今度こそ、あんたの力を見せてもらう)
二人は相手の動向に警戒しながら、武器を構えた。
「「ッ!!」」
次の瞬間、二人は同時に走りだし、大きな金属音を響かせた。武器と武器をぶつけ合い、力を込め、押し返さんと、鍔競り合いをしている。
「うぉおおっ!」
「っ!」
二人は同時に後ろへ飛び退き、横に走り出した。森の木々を抜け、二人は川原に出てくる。
「っ!!」
「くっ!」
少年は大きく跳躍し、横向きに回転しながら、一撃を与える。落下の速度を利用した重い斬撃。一刀はそれを防ぎ、押し返すと、素早く突きを繰り出した。
「ハッ!!」
「っ!」
少年は体を捻らせて回避し、飛び退くと同時にクナイを投げつけた。一刀はそれを木刀で横に薙ぎ払う。
構わず、少年は紐を掴むと、数回回してから、一刀の足目掛けて投げつけた。
「うわっ!」
紐が足に絡まり、バランスを崩して後ろに倒れた。少年はジャンプし、剣を両手で逆手に持ち、一刀の首目掛けて刃を向ける。落下してくる少年を見て、一刀も木刀を構える――――
「っ!?」
――――事はなく、そのまま仰向けに倒れている。少年は目を見開きながらも、そのまま落下する。
そして、突きつけた刃の切っ先が、一刀の首の喉仏に触れるかどうかの距離で制止した。
「………」
「………何で、反撃しない?」
「………」
馬乗りしたまま、少年は怒気を含めて言った。
対して一刀は、大の字で寝転び、少年を見つめていた。その態度に苛立つ少年。
「……する必要がないだろ?」
「え?」
「君は、俺を殺したりはしない。いや、本当は人を殺したくはないんだろ?」
「ッ!」
その言葉に、少年はそこから飛び退く。一刀は砂埃を払いながら起き上がり、少年と向かい合った。
「何を……言ってるんだ……」
「その言葉通りだよ。君は無闇に人を殺す様な事はしたくない。俺も、君とは戦いたくない。だったら、戦う必要なんてないだろ?」
「ふざけるな!!」
少年は肩を震わせ、怒りを込めた声で大きく叫んだ。
「一体何を言ってるんだ!僕はそんな事思ってなんかいない!勝手な想像するな!」
「じゃあ何で“あの時”、あんな悲しそうな眼をしていたんだ。」
「……なんの事?」
「赤銅山で、賊を殺した後の君の眼だよ。人を殺すことに抵抗を感じている……悲しみの眼だ」
今でも鮮明に思い出す。
自分達に振り返り、目と目が合った際、金色の瞳が微かに震えている様に見えた。
「……抵抗?なんで?あんな奴等、生きる価値なんかない!だってそうだろ!?何の罪もない弱い人達を傷つけ、何かも奪っていく!あんな奴らを殺すのを躊躇ってるって言うのか!?」
「ああ、そうさ」
「ッ!」
少年はまたも沈黙し、一刀を睨み付ける。
一刀は臆することなく、少年の眼を見つめている。
確かに、この少年の言う通り、賊がやってきたことは皆、許されることではない。殺されて当然なのかもしれない。
しかし、こんな小さな少年まで辛い思いをしなければならないというこの現実、賊の様な輩なんかの為に、未来あるこの子の人生を狂わせてしまう、この乱世に悲しみを隠せないのも事実。
「君は、その罪もない弱い人達を助けたいんだろ?」
「別に……僕はただ、賊を殺せればそれでいいんだ!人助けなんて興味もない!平気で人を殺す悪魔なんだよ僕は!」
「本当に?」
「そうだよ!」
「じゃあ、何で助けたんだ?」
「別に、僕は……助けてなんか………」
「赤銅山の時だって、俺達を助けてくれたじゃないか」
「か、勘違いするな!あれは偶然だよ!別に助けたくて、助けた訳じゃ――――」
「じゃあ何故?」
「………」
一刀の問いに少年は口を閉じた。数瞬の後、口を開く。
「――――復讐さ」
「復讐?」
「“ある男”を殺す為に、あんたの力が必要なんだ。だから助けた」
怒りを堪える様に、拳を握り締める。その様子を見た一刀の表情が曇る。
「俺は……」
「分かってる。復讐を手伝う気はない、でしょ?そもそも、他人である僕の頼みを聞くなんて、都合が良すぎるしね」
ある意味予想通りだ。やっぱりか、と自嘲気味に笑う少年。
「――――俺は、手伝うって言うよりも君を助けたいんだ」
「……助ける?なんで?」
「君は、何故戦ってるんだ?」
「何故って……復讐するために決まってるだろ」
「確かに、それもあるかもしれない。でも、もう一つ。“弱い人達を助けたい”、これも理由じゃないか?」
「だから、そんなことないって言ってるだろ!」
一刀から顔を反らし、そう叫んだ。また、視線を前に戻し、
「じゃあ聞くけど、あんたは何の為に戦うの?」
「…………」
そう問うと、一刀は木刀とは逆の手を胸の前まで持っていき、ゆっくりと握り締めた。
「大切な人達を、守る為だ」
「守る?その木刀で?」
「ああ」
「………この世の中、賊や悪人は山程いる。人を殺したこともないくせに、簡単に言うなよ………!」
苛立ち、怒りを込めて、言い放つ。幼い頃に人を手にかけた自分からすれば、一刀の言っている事はただの夢物語に過ぎない。甘言しか口にしない彼に、余計憤ってしまう。
「確かに、君の言う通りだ。俺はまだ人を殺したことはない。でも、いつかはこの手で殺めてしまうかもしれない……」
一刀は両手を握り締め、震える手を抑えている。
「だけど、目の前で大切な人が奪われるのはもっと耐えられない………!仲間を守れるのなら、俺は、その罪を一生背負って生きていく覚悟だ」
一刀は顔を上げ、決意の言葉を述べた。信念が込められた眼で見られ、少年はたじろぐ。先程の弱々しい様子が、まったく見られない。
「君にも、そういう人がいるんじゃないのか?」
「――――そんな人は……いないよ……」
目線を反らし、顔を俯かせる。
「僕が守りたかったものは、全部奪われた……。僕にはもう、何もない………」
何かに耐える様に、少年は拳を握り締め、言葉を出す。
「一人、なのか……同じだな」
「えっ?」
「俺もさ、小さい頃に両親を亡くして、それからじいちゃんに育ててもらったんだ。でも、そのじいちゃんも亡くなって、今では一人なんだ………」
少年は顔を上げて、黙って聞いていた。
「だから、俺は決意した。今度こそ俺の大切なものを守ってみせる。守りたかったものの分まで守ってみせるって」
「…………」
「君は、どうする?」
「僕は………」
少年はまたも顔を俯かせる。
脳裏に、過去の記憶が横切った。
何一つ守ることができなかった。
守られてばかりの弱い自分が嫌だった。
だから強くなろうと思った。“あの人”が言い残した言葉を信じて、僕は虐げられていく人達を助けたいと思った。だが、自らが持つ“ある力”故に、守ろうとしているものに恐れられる様になってしまった。
それでも、少年は守り続けてみせると誓った。
“あの人”の言葉。そして、この世に平和が訪れることを信じて。
しかし、
「それでも……僕は、あの男を殺すことは諦めない」
「……そうか」
「……止めないの?」
「やるかどうかは、君の自由だ。俺がどうこう言う事はない」
「でも……まずはあんたを信じてみようと思うんだ」
予想だにしなかった少年の言葉に、一刀は目を丸くする。
「俺を?」
「うん……何でかな。あんたは信じてみてもいいんだって、なんか安心するんだ」
「そっか、なんか嬉しいよ」
微かな笑みを浮かべ、少年は言った。
年相応の優しく、愛らしい笑みに、一刀も微笑む。
「いや〜、やっと笑ってくれたな」
「え?――――あっ……」
一刀に指摘され、少年は手で顔を隠す。その頬は、微かに赤みを帯びていた。
それを見て、やっぱり子供は笑顔が一番だ、と一刀は更に笑みを深める。
そして、ある提案を述べる。
「なぁ、もしよかったらさ、俺と一緒に来ないか?」
「え?」
一刀は笑顔でそう持ちかけた。対して少年は、困惑した表情を浮かべた。
「で、でも、僕なんかが……」
「そんなこと言うなよ。何も、この世の人達全員がお前を嫌っている訳じゃない。約束する。俺はお前のことを拒絶しない。絶対にな」
真剣な眼差しで少年を見つめ、手を差し出した。
その強い眼差しを見て、少年の心にも揺らぎが生じる。
本当に、いいのだろうか?
体は正直なものだ。戸惑いながらも、少年の右手はゆっくりと上がっていく。そして、手を出そうとした――――
「「っ!」」
突然、二人は動きを止めた。そして何かを感知し、走り出した。
◇◆◇◆
袁紹が治める冀州から少し離れた、辺り一面が荒野の場所。曹操率いる軍勢が冀州に逃げ込んだ賊を、この荒野に追い詰め、討伐したのだ。
「華淋様」
「どうしたの?春蘭」
突然、夏侯惇が天幕に入ってきた。玉座に腰かけている曹操の前まで来る。
「はっ。捕らえた賊を尋問した所、どうやら途中ではぐれた仲間がいる様です」
「成程。道理で、賊の数が報告と違い、やけに少ないと思ったら………。で、春蘭。残りの賊の居場所は?」
「はっ。冀州より少し外れた、村の方へと向かったそうです」
「そう」
報告を聞き、曹操は玉座から腰を上げる。
「春蘭!今すぐ軍の隊列を整えよ!整い次第、残りの賊の討伐を開始する!」
「はっ!」
夏侯惇にそう命令した曹操は、堂々としており、覇王の威厳を放っていた。
◇◆◇◆
一刀と少年は、森を抜ける。
目の前には、一つの村があった。しかしそこは、正に賊の襲撃に遭っている最中だった。
「くっ!」
「っ……!」
一刀は拳を握りしめ、少年も忌々しそうに睨んでいた。
「きゃあ!」
悲鳴のした方を見ると、一人の女性が尻を付いて倒れていた。目の前にいる賊によって壁に追い詰められ、恐怖に怯えていた。
「へへ、もう逃げられねぇぞ」
「い、いや、た、助けて……」
賊は汚い笑みを浮かべて、女性にじりじりと近づいていく。もうだめだ、と女性が頭を抱えた――――その時だ。
「ぐぼはぁ!?」
殴打する音と共に、賊の悲鳴が聞こえた。恐る恐る見上げると、賊が白目になりながら仰向けに倒れていた。顔には痣ができており、目の前には青年と少年が立っていた。
「大丈夫か?」
「え?あ、はい……」
気づいた一刀は後ろにいる女性に声をかけた。女性は戸惑いながらも、返事する。
「君は、ここの村の人だよね?」
「えっ?――――あ、あの!助けて下さい!お願いします!」
「ああ、必ず助ける。とりあえず、君は安全な所へ逃げるんだ」
「は、はい」
もう一度礼を述べ、女性はその場から去っていった。それを見送り、一刀は村の方に視線を向ける。
「行くか。えっと……」
「――――【
「え?」
「僕の、名前」
「………俺は一刀、北郷一刀だ!」
北郷一刀、そして少年こと月読の二人は同時に走った。
奥の方へ進むと、そこでは賊が略奪の限りを尽くしていた。得物を手に次々と手にかけていく。
「うおおお!!」
その光景を目の当たりにし、怒りに燃える一刀。走る速度を落とさずに、そのまま賊の腹部に目掛けて、木刀を振り切った。
「げほぉ!」
肉に深々とめり込む。剣を落とし、呻きながら、賊は前のめりに倒れた。
「な、なんだ!てめえ!」
「お前らなんかに名乗る名なんかねぇよ」
「この野郎!」
賊は剣を大きく振りかぶった。しかし、大振りな上に隙がありすぎる一撃を食らう訳がない。
一刀は容易にかわし、突きを食らわす。屈んでくの字に曲がった所を、頬目掛けて横向きに薙ぐ。
仲間が倒れた所を目の当たりにし、賊の一人が仲間を呼ぶ。
「くそ!おい、囲め囲め!」
呼び掛けに応じ、かなりの数――総勢五十人――の賊が、一刀を中心に包囲する。対する一刀は焦る事なく、冷静に木刀を構えた。
「へっ!たった一人でこの数は無理だろ?」
「そいつはどうかな?それに俺は一人じゃないんでね」
「何――――ぐはっ!」
怪訝に思う賊の一人。突然、後方から鋭い短剣が飛来し、賊の脛椎を切り裂いた。
「正しくは、二人なんだよね」
「な、なんだ!?」
スタッ……と、どこからともなく、月読は一刀の背中に降り立つ。まるで瞬間移動したかの様に、前触れもなく現れた。
何が起こったのか分からず、賊達に動揺が伝染していく。
「じゃ、背中頼むぜ」
「……了解」
反発する磁石が弾ける様に、二人は同時に駆け出した。
「ひ、ひいい!」
「な、なんなんだこいつら!?」
二人の気迫に、賊はたじたじになっていた。
一刀は迫り来る賊の攻撃を回避しながら、首や鳩尾など、急所を狙って攻撃を繰り出す。力の込められた、一つ一つ、重い一撃を食らい、賊はやられた所を押さえながら蹲っている。
月読は得意の速さで敵を翻弄しつつ、紐を持ち、短剣を回しながら、相手の武器を叩き落とす。更に逆手に構えた剣で切り裂いていく、正に電光石火の如く。
今の二人に敵う者など、この場にはいない。
二人の活躍によって、五十人近くいた賊の殆どが全滅した。
◇◆◇◆
賊を一掃した後、村人全員から感謝の言葉を投げ掛けられた一刀と月読。一刀は困ったように苦笑し、月読は無表情で傍観に徹している。
村を救った御礼をしたいと、一刀と月読の二人は、用意された部屋で一泊する事になった。気づけば、辺りはもう暗くなっている。野宿するよりは、とお言葉に甘える事にした。
二人は用意された部屋で寛いでいた。一刀は両手を頭の後ろにやり、ベッドに大の字に横になっている。
(結局、泊まることになっちゃったな。帰ったら、愛紗に叱られるかも……)
ここにはいない愛紗に説教される所を想像し、ブルブルと震えている一刀。
(月読は、もう寝てるのか?とにかく、今日はもう寝よっと)
一刀は眼を閉じ、眠りに落ちた。
「――――」
寝静まった後、“隣にいた少年”は、閉じていた瞼を開く。目にしたのは天井。そして視界を、隣にいる青年に向けた。
「……普通に寝てるし。僕が怪しい奴だったらどうするんだよ」
「うぅ……愛紗、頼む……偃月刀振り回しながら、町中を追いかけ回すのはやめてくれ~……謝るから~……」
「なに言ってるんだこの人」
やけに具体的な寝言を口走る一刀。魘されている様子を見ると、悪夢を見ているのだろう。
呆れてものが言えない。溜め息をついた後、月読は横になる。毛布を羽織、瞳を閉じた。
(そういえば、久し振りだな……誰かと一緒に寝るのって)
◇◆◇◆
翌朝、村人達に出迎えてもらいながら、二人は出発した。
やがて森を抜け、二人は冀州へ入った。
「これからどうするの?」
「ああ、俺の仲間にお前を紹介したいから、まずは宿へ行こうと思う。」
「………」
月読は急に顔を曇らせた。
「不安か?」
「ちょっと、ね……」
「大丈夫。きっと受け入れてくれるよ」
「う、うん………」
一刀は笑顔で答えるも、月読は尚も顔を曇らせたままである。そのまま町を歩いていると、一つの看板に眼を向けた。
「え~っと………うん、読めない」
「“袁紹軍適性試験、張飛・馬超組対文醜・顔良組”だってさ」
一刀が漢文を読むのに苦労していると、月読がスラスラと説明した。
張飛という名に反応し、えっ?と声を漏らす。
「り、鈴々?何でこんなことになってんだ?」
「知り合い?」
「ああ、さっき言ってた俺の仲間だよ」
「ふ〜ん……行ってくれば?」
「えっ、いいのか?」
「ああ、僕はここで待ってるよ。騒がしいのはあんまり好きじゃないんだ」
「………悪いな。それじゃあ」
一刀はそう言うと、闘技場へと向かった。
一人その場に残った月読。一息つき、壁にもたれかかる。背中を預けながら、ふと空を見上げた。
「……なにやってんだろ」
極力、誰とも干渉しない。“巻き込みたくない”から。
そう決意し、今まで一人旅を続けてきたというのに。なんだこの状況は。
何故だろう。何故、自分はあの男についているのだろう?何故、信用しようとしているのだろう?
分からない。
ただ、信頼できそうな人だったから?
我ながら、馬鹿みたいな理由だと思う。しかし、何故か自分は今、こうして町に来て、あの男と共にいる。
「訳わかんないな、まったく」
溜め息をついていると、自分に幾つかの視線が向けられている事に気づく。
道行く人々の、数人がこちらに視線を向けていた。
こちらが見ると、何故か視線を反らす。怪訝に思う月読。
理由としては、まず月読の容姿だ。
幼い顔立ちの為か、中性的な容貌をしており、尚且つ小柄だ。線が細く、どこか儚げな印象も与えている。初見では、少女と述べる人が多いだろう。男性と女性、両方の視線を集めていた。
しかし、全てが良く見られているとは限らない。
「なんだ、あの変な目」
「気味悪ぃな……」
「うわ、こっち見やがった」
「ねぇ、何なのあの子?」
「なんか怖いよね」
「行こう、関わりたくないし」
「うん、不気味だよね」
ひそひそと呟かれる、嘲笑と陰口の数々。月読が少し睨みを効かせただけで、その町民は直ぐ視線を反らし、そそくさと立ち去っていく。
この位の悪口、とっくに慣れている。鼻を鳴らし、月読は目を閉じる。
そのまま、一刀が来るのを待つのであった。
◇◆◇◆
「そういえば、お兄ちゃんは、どこに行ってたのだ?」
「ああ、実はね――――人と会ってたんだ」
「はにゃ?」
「あ、いたいた。お〜い!」
一刀は、壁にもたれている一人の少年に声をかけた。
「鈴々、この子は月読って言うんだ」
「ふ〜ん、鈴々は鈴々なのだ♪よろしくなのだ」
「………えと、よろしく。ていうか、真名じゃないの、それ?」
「にゃはは、そうなのだ」
笑いながら頭をかいていると、月読は眼を丸くしていた。
「あたしの名は馬超だ。よろしくな、月読」
「う、うん、よろしく」
今度は馬超が自己紹介をし、月読も返事を返す。
そして、夕焼けの中を四人で歩き、宿へと帰っていった。辺りはすっかり夜となり、一刀と鈴々は、二人仲良く愛紗に説教されるのであった。
「まったく――――ん?一刀殿、その子は?」
「ああ、紹介するよ。この子は――――」
「……月読」
一刀は月読を前に出し、月読も自分の名前を答える。
「一刀殿、これは一体どういう?」
「うん、実はね――――」
一刀は、月読と出会ってからの事を話した。途端、愛紗は形相を変えて詰め寄る。
「なっ!そんなことがあったんですか!?」
「いや、そんなに驚かなくても………」
「そういう問題ではない!」
愛紗は大声で叫んだ。一刀は思わず押し黙ってしまう。鈴々と月読は、同時に両手で耳を塞いだ。
「怪我ではすまなかったら、どうするんですか……!」
「………ご、ごめん」
「でも、無事でよかったです」
余程、心配をさせてしまったのだろう。一刀は素直に謝罪する。そして愛紗は、綺麗な笑顔で答えた。
「うむ、妻を待たせるのは良くないぞ、一刀」
「な、何を言う星!?私は妻などでは――――」
「おや、私は愛紗の事を言ったのではないのだが?」
「うっ!」
星はニヤニヤと笑みを浮かべ、愛紗は顔を真っ赤にした。星が茶々を入れる事によって、その場の空気が少し和らいだ。
「…………」
「おっと、すまないな月読とやら。我が名は関羽。よろしく頼む」
「同じく趙雲だ」
「う、うん……」
戸惑っている月読の視線に気づき、愛紗と趙雲は自己紹介をする。
「一刀殿から話は聞いた。これからよろしく頼む」
「……いいの?僕みたいなやつをそんな簡単に――――」
「一刀殿が信じるというのなら、私もお前を信じる。私達はもう仲間だ、な?」
身長に合わせる様、愛紗は屈む。不安な表情を浮かべる月読の頭を、そっと優しく撫でる。驚く月読だが、反抗はしない。彼女の笑顔は慈愛に満ちており、心に安らぎを感じる。
照れ臭そうに、俯く月読。その様子を見ていた一刀も優しい微笑みを浮かべた。
というわけでですね、このオリキャラも主人公っぽい扱いにしていきます。なろうで見ていた読者の方は、もうご存知かと思います。
そして、度々、様々なアドバイスや要望を提供して頂き、ありがとうございます。是非、参考にさせていただきます。
次回もご覧下さい。それでは♪