魔法少女リリカルなのは~月光の鎮魂歌~   作:心は永遠の中学二年生

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申し訳ないぎりぎり間に合わなかった!!
それと忘れてました!
あけましておめでとうございました!!←1/16ですし…
今回は、日常回(?)です。
日常ってなんだっけ?
短編集っぽくなってしまっている…。



第十話 無印編 歩きはじめるもの

Side ???

 

暦の上で春とされる時期であっても、陽が落ちればさすがに冷え込む。

それは極東の島国において、常識とされる範囲の事象であり、過去のデータを紐解くまでもない周知の事実である。

それでもなお人々は暖かい春を幻視し、実体のないそれに僅かばかりの希望を抱く。

だがそれは逃避であり、間違いなく、ただ目の前のそれを認めない盲目の徒に成り下がっているということを意味する。

かつて盲目の神が、悪神の口車に乗せられて実の兄を殺めてしまったように…。

こうまで持って回った言い回しの末に一体何を言いたいのかと言えば………たとえ天気予報で「明日は一日穏やかな過ぎしやすい気温となりそうです」という言葉があったとしても、夜になれば冷えるのだから、薄着は控えましょうということだ。

 

「くしゅんっ」

 

たとえば今、可愛らしいクシャミをした少女のように。

いくら昼間が暖かいとはいえ、季節は春先である。

薄いワンピースで夜まで出かけるというのは、いささか無謀としか言いようがないだろう。

黒は確かに熱を集めやすい色だが、半袖ではそれほどの効果は期待できない。

綺麗な金髪を流すそよ風が、少女から熱を奪っていく。

腕をさすって簡易的な暖を取りながら、この服装を後悔するも、それでも彼女はこの時間まで外にいたことは正解だったとポケットの中にある探し物のことを思う。

正直、これが何であろうと彼女には関係なかったが、なんであるのか興味を抱かないということとイコールではない。

彼女の歳で、好奇心が枯れ果てるなどということはないし、今彼女がやっていることを思えば、知りたい気持ちが大きくなるのも無理からぬことであった。

だが同時に、それを聞いても教えてもらえないだろうことは予想できたし、そこに意味がないこともわかっていた。

すべては、大切なあの人のために…。

 

「おまたせー、待ったかい?」

 

しばらくすると、少女というにはいささかグラマラスな長身の女性が、茜色の長い髪をたなびかせてやってきた。

良く言えば健康的、悪く言えば野性的ともとれるジーパンに、微妙にサイズが合わずにへそ出し状態になっているキャミソールという出で立ちは、言うまでもなく日々多くの男をあしらう苦労を窺わせていた。

キャミソールの胸元には、彼女にとって大切な少女の頭文字“F”が大きくプリントされている。

その文字は、大切な少女とのつながりとして気に入っただけの事なのだが…どう考えても別の意味にしか見えない。

日々のナンパも、これのせいなのではなかろうか?

…いや、仮につなぎを着ていたとしても、彼女の苦労が無くなるとは思えないのだが。

 

「ううん、今来たところだよ」

 

会話だけ聞けば、どこの初々しいカップルだと某車椅子少女なら突っ込んだだろうが、残念ながら彼女は今、自宅で読書タイムを満喫していた。

 

「どうだった?私はさっき、発動前のを一つ見つけたんだ」

 

少女はそう言うと、ポケットから青い石を取り出した。

綺麗なその石は、奇妙なことに中から“Ⅵ”という数字が浮かび上がっている。

 

「そっかそっか、あたしも発動前のが一個。一週間とちょっとで三個集まるなんて、幸先いいねぇ~」

 

そう言って彼女もポケットから青い石を取り出した。

“Ⅱ”と浮かび上がっている、自然界には存在しない、無機質な輝きを放つそれを前に、彼女達は無邪気に笑う。

まるで砂浜で拾った綺麗な貝殻でも見せ合うように。

 

「あと18個…早く見つけたら、母さんに喜んでもらえるかな」

 

「―――ッ…大丈夫だよ、この短期間でこんなに見つけたんだからさ」

 

少女が先の長さと、そして僅かな期待を込めた呟きに、何かがひび割れるような感覚に陥ったが、それを取り繕って彼女は笑う。

その期待が、ほぼ間違いなく砕かれるとわかっていても。

 

「絶対…褒めてもらえるさ!」

 

それが…何より残酷な嘘だとわかっていても、彼女はそう言うのだ。

どこにいるとも知れない神が、その懇願にも似た祈りを、叶えてくれることを信じて。

 

 

 

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Side フォルテ・L・ブルックリン

 

 

時間は早朝。

朝日が辺りを照らした頃、まだ人気のない臨海公園に二人の子供と一匹のフェレットがいた。

一人は黒い服を着た少年。

全身を黒で染め上げた幼さを感じさせる赤髪の少年は、口を開くことなく静かにそこに佇んでいた。

もう一人は白い服を着た少女。

栗色のツインテールを僅かに揺らしながら、テレビアニメに出てくる魔法少女が持っているような杖を構えて、さながら魔法少女のように少年と対峙している。

…………事実魔法少女なのだが。

そしてベンチには、二人の様子をじっと見つめる一匹のフェレットがいた。

言わずと知れた、“始まりの魔導師”フォルテ・L・ブルックリン、“不屈の少女”高町なのは、そして“人語を解す異世界の珍獣”ユーノ・スクライアだ。

 

「―――っ!」

 

風が弱まった一瞬、なのはは動いた。

長物の長所であるリーチを最大限に利用した、打撃という原始的な攻撃。

思い切りのいい一撃が、フォルテに頭上に振り下ろされ、それが吸い込まれる様をなのはは見た………つもりだった。

しかし、腕に手応えは伝わってこない。

 

「終わりだ」

 

たった一言。

それが、渾身の一撃を空振りに終えた高町なのはの首元にあたる、たった一本のボールペンを使った模擬戦の結末だった。

 

 

 

「なのは、前に言ったことを、あえてもう一度言わせてくれ…君、よく生きてたね?」

 

「うぅ…」

 

フォルテの呆れと共に吐き出されたとても素直な感想に、言われたなのはは身を小さくする他ない。

早朝や空き時間に魔法の訓練を始めたという話は、同盟の翌日に聞いたことだ。

いっしょに訓練を、という話も当然その時に出たのだが、フォルテは当初、これに難色を示した。

ある意味では当然のことなのだが、フォルテはあくまで技術者であり科学者なのだ。

その彼の矜持や信念、あるいは誇りや驕りともいうべきものにとって、ある意味では完成した(・・・・)ミッドチルダ式を見てしまうというのは、“犯人はヤス”どころの騒ぎではなく、断じて許容できない技術の簒奪だ。

名誉など豚にでも食わせてしまえ、という気概でガーディアンズを設立したり、人類との戦争の矢面に立つ程度の覚悟はあるフォルテでも、自身の内にあるものまでは騙すことができない。

「バリアジャケット?ハァ?ナニソレ?オイシイノ?んなもん僕の後継者が作るんだよ!息子とか孫とかかもしれないけど地球で独自に作るんだよ!余計なもん見せてんじゃねぇよっ!!」とはさすがに言えはしないが、胸中はそのものズバリだ。

だが、どうしてもと頼まれてなおも足蹴にできるほど、彼は非常になりきれなかったし、命がかかわる以上、多少の妥協は必要となる。

結果、早朝だけという条件付きでなのはの訓練に付き合ったわけなのだが………

 

「なのは…こんなこと言いたくないよ?でもね、近接戦どころか運動能力が低すぎるのは問題だからね?」

 

「うぅっ…!」

 

学校の体育でわかっていたことではあるのだが、なのはの運動神経が文字通りに、神経を疑うレベルなのだ。

臨海公園に着くまでに三回も転んだ?

何もないところで三回も?

思わず聞き返しても仕方があるまい。

集まってからは時間の許す限り魔法の訓練に充て、それぞれ個々に動き回る。

これはある意味仕方のないことだ。

魔術体系が絶対的に違う上に、その差異について擦り合わせなど、年単位で時間がかかるのだから、あるわけがない。

互いの戦闘スタイルについてもわかっていない。

いや、口頭では伝え合ってはいても、実際に目にしないと伝わらないものが多すぎるのだ。

なにせ、両者共に戦闘は本職ではない…一応カテゴリーは非戦闘要員たる民間人なのだからやむを得ないのだが、片や砲撃特化の天才素人、片や基礎魔法技術開発者…立ち位置がかけ離れすぎている。

ミッドチルダ版の≪フォトンボール≫、もとい≪アクセルシューター≫で空き缶をひたすら打ち上げる様は開いた口が塞がらなかったが…。

訓練の締めは体術の訓練とした。

本当に最後の方に少しだけなのだが、それでも意味があるとフォルテが強引に捻じ込んだ結果だ。

それが、レイジングハートを持ったなのはと、ボールペンを持ったフォルテの模擬戦だった。

 

「あの黒い魔導師、レイジングハートさんからデータ見せてもらったけど、どう見ても近接型だ。最低限の体術も合わせて身につけた方がいい」

 

一緒に訓練する上で、体術を捻じ込んだ言い分がこれだ。

戦闘データを確認すると、黒い魔導師の補助機…もといデバイスは半月斧型で、途中で変形して大鎌型になったのだ。

その一事を取ってしても、近接戦に特化したタイプの魔導師であることが見て取れたし、加えて黒い魔導師の行った射撃ウェポンも、その判断を裏付けるようであった。

 

「どう考えても、コントロール性が悪そう」

 

なのはの≪アクセルシューター≫を引き合いに出せばわかることだが、≪アクセルシューター≫はその軌道を自在に操ることができるのだ。

前に向かって真っすぐ飛ばそうが、カーブをかけて飛ばそうが自由自在だし、飛んで行った後もコントロールで軌道変更が可能なのだ。

扱いが難しいことを除けば、ある意味これだけで世界のパワーバランスをひっくり返しかねないのだが、まだ魔導師として経験の浅いなのはのコントロールの限界は2個。

ユーノくん曰く、十分すぎる上達速度らしい。

その意見にはフォルテも同意せざるを得ない。

ガーディアンズにおける、≪フォトンボール≫の習得期間と習得率、そして修業性を考えれば、一週間程度で2個もコントロールしているなのはの異常性が際立つものだ。

なんせ≪フォトンボール≫は、習得に多少のムラはあれど、発現に一週間、安定に一か月、コントロールに三ヵ月の時間が平均でかかっている。

≪フォトンボール≫の技術成立が二年前だから、最長記録はまだ伸びていくだろうが、これは1個のコントロールまでにかかる時間だ。

2個目以降はかなりのムラがでて、早ければ一週間で一気に4個まで行くこともあるが、この速度は流石にイレギュラーだ。

2個目に到達しない場合もある。

最も多いパターンは、1個目をコントロール後、半年から一年で2個目の形成、もしくはコントロールとなる。

コントロールは確かにコツを掴めばなんとかなる話だが、思考能力の限界なのか、4個以上形成し、かつその全てをコントロールできる人物はそれほど多くない。

それらに対して、黒い魔導師の≪スマッシャー≫と呼ばれる≪フォトンボール≫もどきは端的に言えば直射型なのだ。

軌道をほとんど操作できない反面、威力と速度、および形成できる数は≪アクセルシューター≫のそれを上回る。

拙速は巧遅に勝るとは有名な言葉だが、黒い魔導師はそれを実践しているようだ。

あえてコントロール性を捨て、速度に重視した射撃ウェポン。

ユーノくんとレイジングハートさんの統一見解として、速度の為に威力まで犠牲にしているらしい。

速度に対する威力が、通常の≪スマッシャー≫より低すぎるということらしい。

それでも、十分≪アクセルシューター≫よりも高威力なのだが、当たらない攻撃をする理由は、牽制か誘導、あるいは別の戦略的意図のためだと考えるべきであり、つまりその攻撃で決着をつけるつもりはない、ということだ。

空間制圧射撃をやれるならそれもありだが、消費魔力量から連射は現実性が低く、仮にやるとしても最後の一撃としてしか役に立たないだろう。

無論、近付いて攻撃できない場合には使われるだろうが、戦闘データを見るに近接戦に持ち込むための牽制や誘導といった使い方が主になるだろうことは想像に難くない。

少なくとも、彼はそうする。

いくらなのはが砲撃型で、そもそもが接近を許さないタイプだとしても、接近された場合の対処法もなく対峙するのは危険すぎる。

 

「かなりハードなスケジュールになるけど、魔法の訓練以外にも体を鍛えた方がいい」

 

「うぅっ!で、でもでも!相手も魔法を使うわけだし、魔法の訓練に力を入れた方がいいと思うの!」

 

「フォルテ、僕が言うのもなんだけど、なのはは魔法の才能の方が高いんだから、そっちを優先してあげた方がいいんじゃないかな?」

 

半ば逃避ともとれるなのはの言葉にユーノくんが追随する。

その考えは間違いではない。

天才的な野球のセンスを持つ人物に、わざわざ将棋で世界一を目指させる必要などない。

その時間をピッチングに充てた方が、何倍もの効果が期待できるだろう。

 

「それは短期的な見方だ」

 

だがフォルテはそれを否定する。

一つのことに特化するのは決して間違いではない。

間違いではないが、汎用や万能の適応力を求められる人間という存在には、いささか不適当だ。

一つのことに特化し、それであらゆることを解決できてしまうと、それに頼ることが常になり、他を頼ることが無くなる。

つまり、それが無くなった瞬間に、無力なカカシに成り下がることを意味する。

それゆえに、一つのことに特化するという歪な成長をフォルテは認めない。

 

「砲撃魔法を軸にするのは構わないけど、砲撃魔法に頼る戦い方はいずれ破綻する。少なくとも、ガーディアンズには対砲撃戦に強そうなのが何人かいるし」

 

未だに規模も小さく未熟な組織に、数人もの該当者がいるのだ。

そして、黒い魔導師がそうでないとは限らない。

 

「現に、なのはは神社で懐に入られたんだろ?じゃあ駄目じゃん?最低限の身のこなしくらいは身に着けよう?せめて、何もないところで転ばない程度に…」

 

さすがにそれを言われては反論の目がないと悟ったのか、なのはもユーノくんもバツが悪そうに俯いた。

なのはのは、若干別の要素も入っているが、それは特に気にされることもなかった。

 

「でもまあ、なのはの魔法センスは間違いなく地球最強だから安心していいよ」

 

「ふぇっ!?さ、最強って…」

 

突然あたふたし始めるなのはだが、それも本来なら当然の反応だ。

女の子に最強と言う称号は、人気とは言い難い上に、優れているという評価自体に慣れていないのだ。

もっとも、フォルテとしては口がちょっと滑っただけで、増長の心配からまだ伝えていなかったのだが。

 

「まあ、センスだけなら僕でも十分に倒せるけどね?…ボールペンで」

 

だからこうして上げて落す。

なのはが肩をがっくりと落しているが、それ自体はどうでもいいことだ。

なのはの素質については、どこかで落ち込んでいるときに励ましの材料としてでも使おうと、こっそり胸中で決めた瞬間だった。

 

 

 

◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□

 

 

 

Side ピアノ・F・ブルックリン

 

 

温泉です。

………いえ、温泉に行きたいとか、そういう催促ではなく、現在位置が、です。

なのはさんに、誘われました。

なのはさんから、誘われたとき、義兄さんは「高町…温泉…高町…温泉…高町…温泉…」と呟きながら、なぜか、何かの花びらを、むしり取っていました。

何かの、おまじないでしょうか?

十本以上の花を、犠牲にした、義兄さんは、とても怖い顔で、「行く…」と返事をしました。

何か、怖いのでしょうか?

後から、義兄さんに聞いたのですが、答えてくれません。

義兄さんが、言うには、「この世の中には知らない方がいいことも…割とたくさんある」ということです。

…よく、わかりません。

 

「ほらピアノ、こっちよ!卓球やるわよ!」

 

「はい、アルク・バクダンマさん」

 

「違うわよ!アリサ・バニングス!変なところだけ似るなーっ!」

 

「アリサちゃんが、ものすごく危険人物になっちゃったね…」

 

アルクさん…じゃなくて、アリサさんが怒って、あの、えっと、紫の……………酢豚さん、でしたか、苦笑いしています。

間違えてしまったようです。

 

「あの…義兄さんは?」

 

「お父さんたちが先に連れて行っちゃった…ごめんね?」

 

「いえ、お構い、なく………」

 

義兄さんは、恭也さんたちと、一緒みたいです。

向こうも、卓球らしいです。

でも、借りられた台が、別の部屋にあるので、別行動です。

…別に、寂しくなんて、ありません。

 

「ピアノちゃんは卓球、知ってる?」

 

「いえ、知りません」

 

なのはさんが、親切に、聞いてくれますが、聞いたこともありません。

酢豚さんが、一通りのルールを、説明してくれました。

念のために、他の人のを、見学してから、やることにします。

隣の台では、他のお客さんが、プレイしていたので、それを、見せてもらいます。

恭也さんくらいの、お兄さんと、同じくらいの、眼帯のお兄さんのチーム。

相手は、無精髭の、30歳くらいのおじさんと、顔に傷のある、40歳くらいのおじさんのチーム。

審判に、金髪の、お兄さんです。

 

「狙い撃つ!狙い撃つ!狙い撃つぜーっ!!」

 

「ところがギッチョン!ギッチョン!チョォンッ!!」

 

「スペシャルで!二千回で!模擬戦なんだよーっ!!」

 

「羽ばたけ!アジアン!ビューティーッ!!」

 

「ふむ、素晴らしい試合だ。ここまでラリーが続けられるとはな…乙女座の私には、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられないなッ!」

 

………………………………………。

なぜでしょう…絶対に、参考にしては、いけない気がします。

皆さんと一緒に、そっと、移動します。

ちょっと、疲れた気が、しますが、大丈夫です。

 

「…そうよ、温泉に来たらゲーセンよね!」

 

良いことを、思いついたのか、アリサさんが、ゲーセンなるものに、連れて行ってくれました。

 

「このワニを、叩けばいいのですか?」

 

ルールは、簡単でした。

でも、腕が足りるでしょうか?

 

「ユーノくん、手伝ってください」

 

「ピアノちゃん、それ、反則だから…」

 

「大体、フェレットにそれを言ってもわからないと思うわよ?」

 

酢豚さんに、注意…されて、しまいました。

アリサさん、ユーノくんが話せること、知らないんでしょうか?

 

(ピアノちゃん、ごめん、手伝っちゃまずそうだから…)

 

ユーノくんから、謝罪の声が、聞こえます。

とりあえず、ユーノくんの頭を、撫でることにしました。

これは、念話と言うそうです。

義兄さんが、「テレパシー…テレパシーか…何年かかるかな…」と言いながら、遠い目を、していました。

よく、わかりません。

 

「…えい」

 

ピコッ♪

ワニッ♪

 

「…えいえい」

 

ピコピコッ♪

ワニワニッ♪

 

パララタッタタ~♪

 

「…189点です」

 

「ピアノちゃん、凄すぎるよ…」

 

パーフェクト…というのが、200点だそうです。

よく、わかりません。

でも、もう一度、やりたいです。

順番は、守らないといけないので、皆さんが、終わるのを、待ちます。

 

「だ~~~~~~っ!!なんであたしが127点で最下位なのよっ!?」

 

「お、落ち着いて…私は148点だけど…」

 

「あ、私が二位だ。174点!」

 

「「「ピアノちゃん強っ!」」」

 

皆さんに見つめられて、ちょっと、怖いです。

 

「あー…お嬢ちゃん達?終わったんなら、代わってもらってもいいか?」

 

あ、後ろに、並んでる人が、いました。

美由紀さんより、年下の、私たちより、年上の、褐色のお兄さんです

 

「あ、すいません!ほら、行こ!」

 

酢豚さんが、私の手を、引いてくれます。

後ろから、「グゥレイト!数だけは多いぜッ!!」という声が、聞こえましたが、私たちは、他のゲームをします。

アリサさんが言うには、この温泉宿は「温泉以外がちょっと充実しすぎ」だそうです。

基準が、わかりません。

しばらくゲームをしたら、温泉です。

義兄さんはいませんでしたが、皆さんといると、楽しかったです。

今度は、義兄さんも、一緒がいいです。

 

 

 

 

Side フォルテ・L・ブルックリン

 

 

卓球でかいた汗を流した一行は、既に部屋で酒盛りを始めていた。

もちろん、長湯を最初から宣言していた女湯からの参加者はいない。

即ち、士郎さん、恭也さん、伯父さんだ。

酒が飲めない約一名の哀れな生贄子羊は、一心不乱に給仕に徹する。

 

「お~いフォルふぇ~…ビールが足りんぞ~~」

 

「はい、ただいま」

 

「何か甘いものはないかい?」

 

「持ってきていますので、少々お待ちください」

 

「…フォルテくん、すまない」

 

「気に、しないでください……恭也さん」

 

哀れな子羊の仕事と考えなければ、心が折れる…とはさすがに言えないが、さすがに酔っぱらいの相手をさせられる小学生の気持ちというものを、もう少々考えてほしい。

そう考えるのは傲慢だろうか?

お世話になっているからと言って、これは意外ときつい。

なにより、話しかけられるたびに酒の匂いがダメージを加速させる。

辛い…。

 

「ビールのおかわりと、甘めのオツマミです」

 

「おぉ~ありがとう」

 

「おや、そういえばチョコレートがあったんだったね。すっかり忘れていたよ」

 

「…父さん、それ、母さんが作ったんだぞ?」

 

「心して食べるよ…」

 

恭也さんの、釘…と言うにはいささか威力過多な一撃で、士郎さんは大人しくチョコレートを食べ始めた。

正直、心から助かる。

 

「む~ん…」

 

「………」

 

伯父さんの方は駄目らしい。

昔聞いた話だと、ちゃんとした席ではしっかりしたまま酒を飲めるらしいが、こう言う私的な席だとすぐに酔っぱらって、しかも酔ってからの方が時間が長いという、とても悪質な酔っ払いになるらしい。

父さんは、それでとても苦労したそうです。

僕は今、とても苦労しています。

日本で言うところのインガ@オーホーだったか、恐ろしい。

 

「ん?あれ、スルメが無くなった?買いに行った方がいいかな…」

 

確か誰だったか忘れたけど、あれが好物だって何かの時に聞いた気がする。

 

「それは美由紀の好物だな、俺が買いに…」

 

「あ、いえ、大丈夫です。ちょっと行ってくるだけなんで…正直、ちょっと外の空気を吸いたい…」

 

「…すまん」

 

ちょっと本音が出てしまったが、なんとか室内から脱出。

軽く遠回りしてゆっくりと戻るとしよう。

 

「…売店ってどこだっけ?」

 

受付に行けばわかるか。

中庭を回って、渡り廊下を抜けた方が遠回りになる。

 

「…厄介事だ」

 

どうやらなのはたちが、他の客に絡まれているらしい。

長身の女性に話しかけられて、あわあわ状態になっているのが遠目にもわかる。

 

「介入確定ってことで…おーい、皆どうした?遅いから伯父さんたち、先に酒盛り始めちゃったよ?」

 

険悪とまではいかないが、微妙に緊張した空気はこれで晴れたようだ。

こういう空気は、外から風を入れてやるだけで割とあっさり入れ替え可能だ。

 

「…風呂の場所を聞いてただけだよ、ごめんね?」

 

長身の女性は振り返ると、軽く手を合わせてそのまま行ってしまった。

…本当に道を聞いていただけか?

 

(あんまりおいた(・・・)が過ぎると、ガブッとやっちゃうよ?)

 

―――ッ!?

 

辛うじて…本当に、辛うじて、不審げな視線から動揺を見せずに済むことができた。

念話、だったか?

あれは黒い魔導師の仲間か、それとも…どちらにしても友好的な相手ではなさそうだ。

 

「皆、大丈夫だった?アリサ、勝気なのはいいけど、あんまり前に出過ぎるなよ?」

 

「仕方ないじゃない?あっちがなんか絡んできたんだから…」

 

「それが心配なんだって…」

 

ごく当たり前の、当たり障りのない普通の会話で胸中の張りつめた空気を覆い隠す。

横目でなのはとピアノの様子を窺う。

人としてどうかと思うが、一応こっちの意図に気付いて上辺だけでも取り繕えたようだ。

いや…すずかにはバレたかもしれない。

すずかは感情の機微に人一倍敏感だ。

…すずかなら他言しないか。

 

「まあとにかく、ちょっと早目に戻ろう?…酔っぱらいの相手を僕一人ではきついし」

 

「本音はそれね?気持ちはわからなくないけど…」

 

「お父さん…フォルテくんに迷惑かけちゃだめだよぅ…」

 

む~っと頬を膨らませるなのはを見て、皆が笑う。

そんな中で、僕はうまく空気が入れ替わったことを感じ取っていた。

なのはが隠し切れたとしても、ピアノは隠し事が得意かどうかはわからない。

ピアノに直接声を掛ければ、ぼろが出る可能性がある以上、全体の空気を入れ替えるしかない。

…兄って、こんなに大変なのか。

別に嫌というわけではないけど。

 

「ほら、サッサと戻るよアクヲ・コラシメール」

 

「どこの正義の味方よっ!?」

 

「早く行きましょう、酢豚さん」

 

「すずかだよ!月村すずかだよ!!その間違いは酷過ぎるからねっ!!」

 

ごめんピアノ…さすがにそれはフォローできない。

その後、ワーギャー言いながら皆で部屋に戻った僕は、スルメを買い忘れたことを思い出すのだが、それは部屋の前まで戻った後だった。

 

 

 




申し訳ない!ぎりぎり間に合わなかった!!
m(__)m
次回戦闘回です!
っていうか、今回の予定だったのに、間に合わないから端折ってしまった…。
ギリギリ日常回ってことで勘弁してください…。
戦闘回…ちょっと頑張ります。

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