魔法少女リリカルなのは~月光の鎮魂歌~ 作:心は永遠の中学二年生
僕の名前はフォルテ・L・ブルックリン。
どこにでもいる普通の小学二年生だ。
特筆すべきところなんて、普段から長袖しか着ないことと、プールの授業には絶対に出ないことと、研究好きで
ほんのちょっとした事情があって、今年から日本の海鳴市というところに伯父さんと二人暮らしをしている。
そんな普通の小学生では手に負えないことが結構ある。
おかしなことではないはずだ。
よくあることだ。
ただちょっと…ここまで常識の範囲から逸脱すると、僕のような子供でなくても対処に困だろう。
「はなせ!はなしなさいよ!!」
「ムグッ!ンッンーーッッ!!」
お使いのために、たまたま通りかかっただけなのだが…とても困った。
どう見ても僕と同い年の金髪少女と青髪少女が、100%悪党な黒服の男達に、これまた悪者の乗りそうな黒のワゴンに連れ込もうとしていた。ぶっちゃけて言うと、誘拐されそうになっていた。
とっさに身を隠したが、解決案につながりはしない。
携帯電話なんて持っていない…というか、あったら即行警察に電話している。
電話ボックスが減少している昨今、そんなものを探すくらいならどこかのスーパーにでも助けを求めに行った方が早い。
だが、今目を離せば絶対に彼らはこの場から雲隠れする。
明日のニュースで彼女達が被害者として報道されれば、僕は一生後悔するだろう。
覚悟を決めるしかない。
鞄の中身を確認する。
図工の授業があって本当に良かった。
豆功先生、今日あなたの授業を受けられて、僕は本当に幸せです!
そして伯父さん、あなたのずれた価値観には前々から言いたいことだらけでしたが、今日だけは許してあげます。
「待てぇぇぇいッ!!」
しっかり顔が隠れるようにア○パンマンのお面をつけて、ライダーポーズをとってみる。
うん、我ながら滑稽の極みだな!
「…おい」
「うっす」
リーダー格らしい男が、坊主頭の男に指示を出す。
まあ、この状況で他の指示を出すものなど誰もいまい。
すなわち、目の前の悪事にくだらない正義感で乗り込んできた馬鹿なガキの口を封じようと考えたのだ。
おそらく彼女達を一緒に連れて行って、一緒に
それを
恐怖のあまり震えて動けないフリをする。
特別なことは何もない。
大の大人に迫られているという事実だけで、子供が震え上がるという反応を示すのは当然のことだからだ。
僕の攻撃の間合いにはいるよりも、間違いなくこの男の有効範囲に入ることは当然の帰結。
だが無力な子供と認識しているのに、油断するなという方が酷な話だ。
男の間合いに入った途端…正確には、後ろの彼らに自分が見えなくなる立ち位置に入ったタイミングで…僕は動いた。
大きく一歩踏み込んで…
「や、やぁ!!」
凄まじく気の抜けた子供っぽい掛け声と共に、男の急所(文字通りの意味)に本気の拳を叩き込む。
「ぐおっ!?」
………なんか、道端で犬の糞を踏んでしまった中年みたいな声を出して、坊主頭の男は倒れた。
当然僕はそんなものの確認なんてしない。
ただ前進する…トテトテと子供らしい速度で。
運転手込みで、あと6人。
今度は2人の男が迫ってきた。
どう見ても面倒臭いと顔に書いてある。
俗に言う、計画通りというやつだ。
「大人しくしやがれ!」
男が何か言っていたが、僕には何も関係ない。
関係あるとすれば降参くらいだ。
脚に
2人からしてみれば、僕が突然姿を消したか、見失ったようにしか見えないだろう。
まず一歩手前にいた右側の男の急所(文字通りの意味)にアッパーを打ち込む。
「げぁっ…!?」
酔っぱらいオヤジの嘔吐のような声と共に右にいた男の体が傾く。
当然そんなもの視界にも入れていない。
踏込足に更に
「お、ごぐぅ……」
………………息を引き取った気がするが気のせいだろう。
さて、さすがに子供に対する油断は最初の三人だけだ。
あと4人…次はどうする?
ってちょっ!?
何全力で逃亡しようとしてんだよ!
それでも大人かっ!
もしもこのとき、男達がたとえ仲間を見捨てて逃げたとしても、僕は決して怒らなかっただろう。
トカゲの尻尾だったのかと、多少屍となった男達に憐憫の情を抱くだけだ。
でも女の子2人をちゃんと連れて行こうとするのはいただけない。
「つーわけで、ライダーキック!!」
金髪少女を連れていた男の側頭部に、ライダーキックというにはいささか実践的すぎる横蹴りを叩き込む。
昏倒してしばらくは動けないだろう。
途端に車が走り出す。
目的が青髪少女の方だったのか、あるいは状況的に撤退を選んだだけなのかは知らないが、逃げられるとでも思っているのだろうか?
豆功先生、本当に図工の授業、ありがとうございました。
今日は図工だから、カッターナイフを忘れないように言ってくれてどうもありがとう!
車のタイヤに
走り出しの車の速度は、実を言うと大した速度ではない。
問題はその刹那に追いつけるかどうかだけだ。
威力の方は問題ない。
安っぽいドラマの効果音のように、ひどくショボイブレーキ音とともに車が止まる。
当然そのまま放っておいたら徒歩で逃げ出すので、車に乗り込んで
とりあえず男達を黙らせた後、怯えて声が出せないらしい青髪少女を確認する。
怪我をしていれば絆創膏くらいしかないが、対処がいる。
…見られた?
いや、瞬間的にしか
せいぜい、ものすごく速く動いて殴り飛ばした、くらいだろう。
「怪我はない?」
「あ…はい、大丈夫、です…あ、あれ?」
縛られてはいなかったようだが、どうやら腰が抜けてしまったらしく立てないらしい。
「ちょっと失礼」
「え、えっえぇー!?」
青髪少女の膝下と肩に手をまわして抱き上げる。
なんか顔が赤いが、恐怖で顔って赤くなるものだっけ?
とりあえず、金髪少女のいたところにまで連れて行く。
なぜか金髪少女の方は手足が縛られていたらしく、動けなかったようだ。
「そこの金髪、怪我ない?」
「誰が金髪よ!私にはちゃんとアリサ・バニングスっていう名前があるの!あと怪我はないわよ、おかげさまでねッ!」
…はて?何か怒らせたらしいが、覚えがないな。
「悪かった。じゃ、あとは警察でも呼んでくるといい。僕は逃げるから」
「ちょ、なんでそうなるのよッ!?」
「………内緒。もし誰が助けたって聞かれたら、なんかすごくスマートな素敵ヴォイスの剣士がものすっごい速度でこいつらを倒して颯爽と去っていきました、って言っといて」
そんなやつ現代日本にいるわけないけどな!
面倒なことはこのへんにしてさっさと逃げよう!
足に
この速度についてこれるはずもないし、視えるはずもない。
人間の動体視力じゃ突然消えたように見えたかもしれないけど…まあ、あの年頃の夢見がちな子供だ。妖精さんが助けてくれました並みの勘違いでもしてくれるだろう。
ちなみに、このとき買いに行ったシュークリームが美味しくて半ば常連になってしまったのだが、それはどうでもいいことだ。
翠屋か、生涯忘れん!
はい、誰のどういう場面かは皆さんの予想通りです!