魔法少女リリカルなのは~月光の鎮魂歌~   作:心は永遠の中学二年生

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時間の流れが速すぎる?スマヌ…
今回は殺意が湧く回です、多分R15としてれば大丈夫なはず…
説明が少々面倒…?
専門的なところは、作者はド素人ですのでそういうものかと生暖かく見守ってください



第六話

Side フォルテ・L・ブルックリン

 

 

日本の冬は欧州に比べると比較的暖かい。

緯度を比較すれば、欧州という括りの中に日本より緯度の低い、つまり比較的赤道に近い場所は存在するが、フォルテの故郷は北方に位置するので冬は本当に殺人的に寒い。

同じ時期に気温を比較してみると日本の方が暖かいのだ。

もちろん比較した場合の話であり、主観的に寒いということに変化はない。

殺人的な寒さでなくても、寒いものは寒いのだ。

でもちょっとだけ良いこともある。

ここ数か月、なぜか猫に尾行されていたようなのだが、さすがに冬は寒さのおかげで猫はどこかのコタツで丸くなっているらしい。

すずかの猫好きの匂いが移ったのかな?

…ファ○リーズ買っといたほうがいいかもしれない。

 

「雪、降ってきたな…日本で言うところの初雪だっけ?向こうじゃ雪解けの方が待ち遠しいってのに…」

 

いつも手元にないものを欲しがるのは人間の性か…などと子供らしくもない考察をしつつも、ついにやってきた冬休みに内心小躍りするほど喜んでいる事実は、彼もまだまだ子供であることを証明していた。

 

ちなみに、なぜこんな寒い日に外出しているかというと、市立図書館に新しい本が入荷する日だからだ。

秋に市立図書館の4Fは完全に制覇したのだが、その事実を知った館長が「若いというのに良い心がけだ!君のような若者が増えたら未来は安泰だ!よし、もっと蔵書を増やそう!」と、宝物を見つけた子供みたいな笑顔で肩をバンバン叩いてくるもんだからさあ大変。

館長が希望する本を聞いてきたから、片っ端から書き出してジャンルの指定までして分厚いレポートで提出してみたら、館長が本当に大人げないほど人脈やらなんやらを駆使してほとんど揃えてしまったものだから、市立図書館の技術書の充実感がキチガって、全く関係のない付近の大学関係者からものすごく感謝された。

気持ちはとてもわかる!

僕も思わず、館長に後光がさして見えたもんな!

増えた蔵書が本当に高いものばかりだし、ブックオ○じゃ取り扱わないような次元の本ばかりなので、お財布的にとても助かるのだ。

 

「この時間なら開館のギリギリ前に着きそうだな!うん、早起きは三冊の得だ!」

 

ちなみに、今回は覚え間違いでもなんでもない。

いつもより早起きして、およそ三冊読む分の時間を本当に得しているのだ。

 

世間はクリスマス一色だが、彼だけは一足早くサンタクロースが来た気分だ。

何度かサンタクロースが風船を配っていたが、横目に見ることもしない可愛げのないところも彼らしさと言えるだろう。

サンタクロースが笑みを崩さなかったことは、正直賞賛に値することだったと、彼は大人になってから気付くのだが。

 

そこに一台の車が通りかかる。

 

「うわっ!?」

 

よそ見をしていたわけでも、気が抜けていたわけでもないし、歩道がないとは言っても道が狭いわけでもない。当然道路の真ん中を歩いていたわけでもない。

ただ、脇を歩いていても、すれ違っただけで子供が思わず尻餅をついてしまう程の速度で車が走り去っていっただけだ。

 

「………………マナーって知らないのか?」

 

思わずため息が出る。

良くて酔っ払いか若者が調子に乗って速度を出している、悪ければ…何かの悪事を行った逃走車。

とはいえ、別段彼には関係ない。

誰かが通報くらいするだろうと、そんな風にとても他人事として考えていた。

 

「…………………………………僕は不幸の星の下に生まれたような気がする」

 

角を曲がった先…先程車が出てきた先で、見覚えのあるカチューシャを見つけるまでは。

 

 

 

 

Side 月村すずか

 

 

こんなはずじゃなかった。

 

後悔なんて意味がない。

だって、後から悔いても、もう今は本当にどうしようもないから。

後悔って言葉は、先がある人にしか意味のない言葉だと思う。

少なくとも私には…私たちにはない。

 

今日は塾の日だった。

冬休みなので午前中にも塾がある。

いつもアリサちゃんやなのはちゃんと待ち合わせをして一緒に行くけど、今日なのはちゃんは家の用事で来られないらしい。

なのはちゃんがいないのはちょっぴり寂しいけど、逆に言えばそれだけだった。

ただそれだけの…普通の冬休みの一日だった。

 

なのになんで?

どうして私たちだけが、こんな目に合わなくちゃいけないの?

ダメなの…?

私みたいな×××が幸せになっちゃ、いけないの…?

 

人通りのない道に差し掛かった途端、私たちは襲われた。

突然知らない人たちに囲まれて、何かを嗅がされて…そこからは、なんとなくしかわからない。

辛うじて意識を保てた私も抵抗をできるほどの力は出なくて、アリサちゃんと一緒に車に乗せられた。

 

首元に押しつけられた冷たい感触。

そこからチクっと微かな痛みを感じて、途端に首元を中心に感じる熱。

 

熱い…

熱い……!

熱いっ………!!

熱いぃぃぃっっっ!!!!

 

体中に溶けた鉄を流し込まれたような…熱が体中に広がっていく感覚。

 

でも感覚は遠くて…

悲鳴を上げたいのに声が出なくて…

目を開けることすらできなくて…

それが……………

 

 

それが何よりもどかしくて……!!

 

 

アリサちゃんが縛られていく。

それを見た私は…それでなくても悔し涙がにじみ出る。

 

怖い。

苦しい。

辛い。

哀しい。

 

どうして…?

アリサちゃんは関係ないじゃない…!

どうして私だけじゃないの!?

アリサちゃんが何かしたのっ!?

わかってる、私と一緒に居たからだ…。

私のせいだ…私の………。

ごめん、アリサちゃん……ごめんっ…ごめんなさいっ…!!

 

時間の感覚は、多分狂っている。

一瞬にも一年にも感じた車での移動は唐突に終わった。

 

そこから私は、米俵でも担ぐかのように運ばれて、コンクリートの地面に下ろされる。

どこかの倉庫みたいだ。

視線を動かすと隣にはアリサちゃんがいた。

 

良かった…怪我はないみたい。

 

今はまだ、という状態なのはわかっている。

それでも私は、アリサちゃんがそこにいることに安心して…すぐに自己嫌悪した。

 

私、なんでまだアリサちゃんに頼っているの…?

最低だ…自分が巻き込んだのに…。

最低……最悪だ………。

 

猿轡を噛まされたアリサちゃんが、必死に私を励まそうとしてくれている。

それが私には正直…辛い。

申し訳ない、という言葉ではとても足りない。

どんな言葉でも言い表せない罪悪感。

でもアリサちゃんを心配させたままなのは嫌だから、私はちょっと無理してでも笑顔を浮かべた。

上手くいった自信はないけど、一応意図は伝わったらしい。

 

あの人たちの目的はわかってる。

今まで何度か同じことがあったから。

目的は私だ。

正確には私じゃない。

×××の私だ。

 

何をされるのか、想像もつかない。

本当に何をされてもおかしくないから。

だって私は×××だから…。

 

向こうであの人たちが何か言ってる…。

ここからはよく聞こえないし、感覚もおかしいままだから何を言っているのかよくわからないけど…発音からして日本語じゃない。

多分英語か、それに準じる言葉。

暗号とかもあるだろうから、確実とは言えないけど…。

 

アリサちゃんが必死に何か言おうとしている。

でも「んーっ!んんーー!!」と聞こえるだけで、言葉としての意味はよくわからない。

ひょっとしたら、アリサちゃんにはあの人たちが何を言っているのかわかったのかもしれない。

 

あの人たちがこっちに来た。

なんだかニヤニヤというかニタニタと気持ち悪く笑って、私たちを…いや違う。

アリサちゃんを見ている。

 

やめて…アリサちゃんに手を出さないで…!

 

体が熱いのも気にならない。

今にも死んでしまいたいほどの気持ちが、私の中で暴れまわっている。

 

どうして………

どうして私は…こんな時まで声が出ないのっ…!

 

一人の男がアリサちゃんの後ろに回って、猿轡を外した。

 

まずい…!

 

次の瞬間、私が想像した通りの最悪の事態が発生した。

 

「ちょっとアンタ達なんなのよっ!こんなことして、タタじゃおかないんだから!!自分が何してるかわかってるのっ!?こんなずさんな誘拐、すぐに捕まるわよ!!」

 

だめ…!

刺激しちゃだめ…!

その人たちは、アリサちゃんを殺す気なんだよ…!!

 

声にならない声は…音にすらも届かずに、吐息として空気に虚しく溶けていった。

 

「言いたいことは、それだけかいお嬢ちゃん?」

 

真ん中に立っていた金髪の男の人が、アリサちゃんの髪をつかんでニタニタした顔の目の前に引っ張った。

 

「痛いじゃない!何すんのよ!!」

 

「おーおー、活きのいいお嬢ちゃんだこと♪ん~、いい顔してるねぇ~?後せめて十年したら俺の奴隷にくらいはしてやったのに…ごめんな~?でも子供は可愛くてもヤリ捨てする派なんだわ~俺らww」

 

今、なんて言った…?

今いったい…なんて言ったの…?

嘘、でしょう……?

嘘だって…嘘だって言って!!

 

「あ、アンタ…馬ッ鹿じゃないの!?あたしら子供よ!?変態!女の敵!ロリコン!変質者!クズ男!」

 

「え~?俺ら馬鹿だからぁ、聞こえなぁ~い。それに安心しなよ?そっちの娘には手を出さないよ、大事な商品だしねぇ~す・ず・かちゃ~ん?」

 

ゾゾゾゾゾッ!!

 

体は熱いままなのに、全身に鳥肌が立った。

見ず知らずの人から名前を呼ばれるのが、こんなにも気持ち悪いだなんて知らなかった。

 

「…………ぅに…」

 

「あ゙?」

 

「本当に…すずかには、手を出さないんでしょうね!?」

 

涙目になったアリサちゃんは、それでも力強く男を睨んだ。

 

「ぷっ…ぎゃはははははははは!あははははははははは!!ああ、大丈夫だぜ安心しなよ!そっちの娘には手を出さねぇように『お客様』から注文来てるから!」

 

大笑いした男の人につられたのか、周りにいた人たちも同じように笑い出した。

 

「お、お客…?なによそれ…そいつ、すずかになんか恨みでもあるわけッ!?」

 

「あ、やっぱ知らない?大事なすずかちゃんが狙われるワケ…友達なのに知らないの~?」

 

アリサちゃんの表情が、こっちからは見えないのに…わかる。

きっと悔しい顔をしてるはずだ。

アリサちゃんは、そういう人だから。

 

「ぁ…ぁぇ……」

 

駄目だ。

頑張って声は出せたけど、ろくに言葉にならない。

 

「教えてあげてもいいけどぉ~、それは遊びながらで良いでしょ!」

 

「いやぁぁぁあああああああ!!!!」

 

ビリビリと嫌な音を立てて、アリサちゃんのお気に入りのお洋服が破られた。

アリサちゃんのパパが、今年は一緒にクリスマスを祝えないからって先に貰ったプレゼント。

大事にしてるって言っていた、アリサちゃんの宝物。

それが今………初めて会った悪い人の手で、破られた。

私の中で、抑えきれないほどの黒い感情が溢れ出す。

それでも私は動けなくて…それが無性に悔しくて、悲しくて、腹が立った。

 

「ゆ…ぅ……さ……n…ぃッ…!!」

 

でも私が爆発するよりも早く…アリサちゃんがどうしようもない傷を負ってしまうよりも早く、状況は動いた。

 

ドォォォォォォォォォォンッッッ!!!!!!!!

 

一つの爆音によって。

 

そこで私は、ある奇妙な既視感を抱いた。

全然似ていない。

あの時よりも最悪で、最低で、絶望的で………でも…それでも、抱いた既視感は拭えなくて。

 

そう、今回だけじゃない。

前に一度、アリサちゃんを巻き込んでしまったことがある。

そして………怖かったあの人に、私たちは、助けられた。

 

「よくヒーローは遅れてやってくるって言うけどさ…おかしいと思わないか?」

 

その声はいつも通りで………

 

「ヒーローが間に合わなくてどうするんだよ?」

 

何故だか少し感情が読めなくて………

 

「ヒーローは間に合うように頑張るべきだよな?」

 

それでも、なぜだかすごく安心できて………

 

「でももしも、ヒーローが頑張っても間に合わないっていうならさ…」

 

立ち上る砂煙の向こうから、小さな人影が徐々に姿を現した。

心に生まれた暗い願いが溶けていって、代わりにとても温かい想いが広がっていく。

 

「例えば慌てん坊のサンタクロースとかなら…ひょっとしたら間に合うんじゃないか?って思うわけだ」

 

ああ、私は………

 

「この仮説は正しくはなかったみたいだけど…」

 

私は彼を………

 

「手遅れってところまでは…行ってないな?」

 

彼は…サンタクロースは、いつか違って全くの自然体で…慣れているように違和感なく彼らに対峙した。

 

「遅くなったな、見ての通りサンタクロースだ。クリスマスの前に…クリスマスプレゼントを届けに来たぞ?」

 

初雪が降ったこの日…人生最悪の日だと思っていたこの日、私は生まれて初めて感じたこの想いを、素直に受け入れた。

 

 

 

 

Side フォルテ・L・ブルックリン

 

 

滑稽だと、僕は思った。

僕がここに辿り着いたのがついさっき。

すずかのカチューシャを拾わなければ、ここに辿り着くこともできなかった。

本来なら、警察を呼ぶなりなんなり手段はあったし、一人で行くにしても状況を把握してから動くべきだった。

最善手は、間違いなく他にあって…でもできなかった。

 

中の様子を窺ったとき…アリサの悲鳴が聞こえてしまったから。

アリサのお気に入りの服が破られるのが見えたから。

すずかの頬を伝うものが、見えたから。

 

そして…そしてその瞬間、

  一瞬の激しい頭痛ト、共ニ、見、エ タ  ビ   ジョ     ン      ガ

 

 

 

    ―――――此処ではない何処か、今ではない何時か…

 

        ―――――綺麗な黄金の少女が無残に引き裂かれ…

 

  ―――――汚らしい液体にまみれた吐き気を催す光景…

 

             ―――――泣いても喚いても誰にも助けてもらえなくて…

 

 ―――――どうしてッあたしは何も悪いことしてないじゃないッ…

 

                  ―――――魂は救われることなくそこに在り続け…

 

      ―――――死んで初めてで来た友達に泣いてもらって…

 

                ―――――それで少女の魂はようやく天に還った…

 

―――――それが救いだと…これが運命だと………?

 

            フ        ザ      ケ   ル ナッ!!!!

 

 

 

僕の理性は限界を超え、気が付いたときにはもう、僕の体は動いていた。

目の前の邪魔な鉄塊を、破壊していたんだ。

頭痛はもうない。

今さっきまで僕の頭の中を支配していた何かのビジョンは、まるで霞のように実体を掴めなくなり、数秒後には、僕の記憶から消えてなくなっていた。

それに関する何かが消えてなくなった代わりに、僕の中で冷静な思考が戻ってくる。

 

今、何が…?

…頭痛が無くなって?

頭痛なんてあったか………?

……………………いや、今は目の前に集中しよう。

 

クールダウンした僕の思考は、現状をまだ問題ないと告げている。

 

鋼鉄の扉を叩き壊した僕は、なるべく平静を装って、圧倒的強者のごとく戯言をほざいた。

効果は覿面…奴らの注目を一身に集め、かつ、奴らは冷静な思考ができていないようだ。

 

確かに伯父さんには、危険なことをしてはいけないと言われている。

僕の将来にも影響を与えるからって。

僕の場合は問題が大きくなりすぎるから、正しいと思う。

僕だけの問題じゃなく、伯父さんや、周りの人に迷惑をかける。

なにより、僕の『仲間』の未来にまで迷惑をかけてしまう。

でも伯父さんは、こうも言ったはずだ。

男には、絶対に引いてはいけない瞬間があるものだって。

母さんは言っていた。

女を泣かせることは、男がやってはいけない最も大きな罪の一つだって。

父さんは言っていた。

大切な人のために、立ち上がれる男になれって。

なら僕は、今ここで絶対に引いちゃいけない。

僕は一人の男として、引くようなことはできないし、この選択に後悔はない。

 

辛うじてできたことは、いつも伯父さんに渡されているお面(今回はサンタクロース)を着けることだけだった。

いや…意外と冷静なのかもしれない。

僕自身意外なのだけど、頭に血が上っているはずなのに、中身は驚くほどにクールなままだ。

鉄製の重たい扉を本能のまま力任せに叩き壊したはずだが、扉が二人にぶつからないように、ちゃんと地面に向かって叩きつけたらしい。

目の前にいる戦力の分析も最低限できた。

 

目の前にいる、すずかを囲っているクズが七匹。

アリサの目の前にいる、アリサのお気に入りの服を破いた汚物が一つ。

 

「……ここはお子様の来るところじゃねぇぜ?」

 

汚物が何か音を鳴らした。

驚くべきことに、この汚物は日本語によく似た音を鳴らすようだ。

醜い顔のような形をしている部分が、更に醜く変化した。

とても不愉快だ。

 

周りに立っているクズ達が、徐々に間合いを詰めてくる。

すごく愚かしいことだ。

 

「…そっちの二人、僕と同い歳だけど?子供っていうなら、そっちもここを出て行かないとな?なんなら僕が送っていくよ?」

 

ただの戯れに、会話しているかのような声を返してやる。

アリサとすずかには、僕が石ころに向かって話しているように見えないか、すごく心配だ。

 

「いらねぇよ。俺らぁこの娘らに用があるワケ、おわかりぃ~?やっちまえッ!」

 

クズども四匹が一斉に飛びかかってきた。

正しい判断だ。

おそらく上等なチンピラからヤクザ崩れくらいの戦闘力だ。

未知の相手とケンカする場合、相手の動きを制限するのは正しく、数で圧し潰すのが理想的だ。

 

「でもそれは…退路を塞いでから、かつ敵戦力が想定を超えないことが前提だ」

 

まず右手のクズが一番早いから、その腕を掴んで中の骨だけ握り潰す。

肉が飛び出したら、二人のトラウマになってしまうから。

それに反応する間も与えずにその腕を、もう一つ隣のクズの首に叩きつける。

窒息には時間がかかり過ぎるから、当然、巻きつけるような窒息が目的じゃない。

喉は生物にとって最も無防備な急所だから、喉に何かがぶつかることに、生物は根源的な嫌悪がある。

では、喉に何かがぶつかった、あるいはぶつかりそうな生物は、この後どうするのか?

それを排除しようとする。

必然その他が無防備になるので、その無防備になった脚に触れ………

 

「≪雷光(バルカ)≫!!」

 

バンッ!

 

爆竹のような軽い音と共に、『力』を使う。

『力』を使えるということは、少し特別なことだ。

『力』は非常に純粋なエネルギーで、何にでも染められる。

今回はそれを電力に変換した。

スタンガンに毛が生えた程度だから、気絶しただけで殺してなんていない。

 

反対側にいた二匹は、今のを見て足を止めた。

もちろんそんな隙を僕が見逃してやる理由もない。

倉庫突入の段階から全身に廻らせていた『力』を、脚に集中する。

クズ達には僕の影が動いたようにしか見えなかったのだろう。

 

「≪雷光(バルカ)≫!!」

 

バンッ!

 

再び響いた軽い音。

その音が合図となって、先程に二匹も合わせた四匹のクズは倒れた。

 

「は…?」

 

誰かの酷く間の抜けた声が、静寂が帰ってきた倉庫内に響いた。

 

「お前ら、素手でかかってくるとか馬鹿?今僕が鉄の扉壊したの、見てなかった?物理的に超強いとか、普通じゃない何かがあるってなんで気付けない?」

 

僕には理解できない。

凡人に天才の考えはわからないらしいけど…愚人の考えも、人間には理解できないようだ。

人間の理解はなんというか…上限と下限の制限が厳しいことで…。

 

「ガキテメェ…ただもんじゃねぇな、ナニモンだよ!?」

 

汚物がまた音を鳴らした。

うるさい限りだ。

 

「見て分からないのか?サンタクロースだ」

 

「ふざけんなよ!どこがどうサンタなんだよ!?」

 

汚物め…人様が対応してやっているのになんだその態度は。

廃棄決定だ。

 

「見てもわからないのか……慌てん坊のサンタクロースが、クリスマスの前にやってきたんだよ…天罰(クリスマスプレゼント)下し(届け)に、な?」

 

本当はここで殺気を叩きつけたかったが、二人も巻き込んでしまうので、なんとか自制した。

我ながらよく耐えたと褒めてやりたい。

 

「…じゃあサンタクロースさまよぉ、これ何か見えるか?」

 

そう言って汚物はとても自慢げに、その黒光りする玩具を取り出した。

 

「マカロフPM…グラッチの前の化石か」

 

「お~お~、よく知ってるねぇ~?じゃあ正解したいい子には、特別に教えてあげるよ~~……一歩でも動いたらこの金髪の頭ザクロだぞ?」

 

そう言って汚物は、アリサの頭にマカロフを押し付けた。

 

…訂正、汚物じゃなかった。

これは有害物質だ。

ここに在ることそのものが害悪だ。

 

アリサはこの状況で口を出さない方がいいと判断したようで、さっきから一言も口を開いていない。

恐怖で声が出ないのか?

すずかは多分薬にやられてるのみたいだ…さっさと掃除しよう。

 

「おいテメェら!さっさと商品運べ!」

 

「「「へ、へいっ!!」」」

 

…こいつら、質が低すぎるな。

僕だったら頼まれても部下にしない。

ところで商品って、すずかのことを言ったのか?

よっぽど殺されたいのか…ドM確定だ。

 

「動くんじゃねぇぞ?」

 

安心しろよ、今はこっちの都合的にも動けない。

 

「ついてくるなよ?」

 

ちょっとずつ後ずさっていく有害物質。

クズがすずかを持ち上げたが、まだだ。

まだ早い。

故に、アリサとすずかに触れるという極罪を、今この瞬間だけ黙っててやる。

 

「……なんとか言えよッ!!」

 

ガンッ!

 

業を煮やした有害物質が近くにあったドラム缶を蹴りつけた。

 

まだだ。

まだあと、もうちょっとなんだ。

 

「……………なんとか」

 

わざと挑発するようなことを言う僕。

有害物質は、僕が何も言わなかったことに何かの罠を想像したはずだ。

でも僕は有害物質の言うとおりに、一歩も動いていない。

有害物質は脅しがちゃんと効いているのか、もしくは罠があってその為に何も言わなかったのか判断に迷った。

だから僕はここであえて挑発という行為を入れることで、脅しが成功しているという安堵と、その精神的空白に怒りというものを滑り込ませ、感情が安堵から怒りにシフトする…意識の空白を強制的に発生させたわけだ。

そしてこの瞬間が最大の好機となる。

 

「テメェわかってn「≪超電磁砲(レールガン)≫!!」

 

有害物質が一際うるさい音を鳴らそうとした瞬間、僕は既に有害物質の目の前にいた。

 

ドッ!!!!!!

 

とても重く、低い音がして、有害物質は数メートル向こうにあった壁に激突した。

あれで十分意識は飛ばせたことだろう。

有害物質が持っていたマカロフPMは吹っ飛ぶ前に接収し、握り潰した。

銃口を潰すだけで、銃は無効化できる。

 

アリサに掠らないように、ちょっと離れたところに着地した僕は、クズ三匹に狙いを定める。

三匹は未だ状況に理解できていない模様…いや、気付いてすらいないのか?

頭悪そうだし、ありえる。

 

「≪超電磁砲(レールガン)≫!!」

 

再度弾丸と化した僕は、瞬時に三匹に一撃を決めて下がる。

体に負担が大きいけど、気にしている場合じゃない。

ちょっと殴った右腕の『中身』にダメージがあったり、両脚の『中身』がちょっと切れかかっていたり、お腹の『中身』がちょっとダメージを受けて口の中に鉄錆の味が広がっているだけだ。

大丈夫だ、何も問題ない。

でも…鉄分たっぷりだな、ほうれん草…しばらく食べるのは御免こうむりたい。

 

三匹の体が傾くタイミングを逃さず、すずかを奪取してミッションコンプリートだ。

 

「す、すずかぁ~!」

 

「おおっと!?」

 

アリサが突撃してきて、さすがにちょっとのけ反る。

というか、ちょっと待ってほしい。

 

「今降ろすから、ちょっと離れて」

 

「あ…うん」

 

…素直なアリサか、ちょっと珍しいものを見られた(・・・・)な。

っと、危ない危ない…もうちょっとでアリサに殺されるところだった。

 

僕はすずかを近くのコンテナに寄りかからせて、着ていた上着をアリサに差し出した。

伯父さんがこういう事態を想定していたとは思わないけれど、大き目の服を買ってくれて感謝しています。

 

「私よりすずかに差し出しなさいよ!すずかは「ストップ」

 

アリサは自分の状態に気付いてない様子。

女の子なんだから、その辺は気を使うべきだろう…まぁ、今回は場合が場合だけに何も言わないけど。

 

「いい?ゆっくり視線を下げてみよう?ちなみに僕は何も見てないよ?」

 

「はぁ?視線?見てないって…………………………………上着貸しなさいッ!!!!!!」

 

「だから差し出してるじゃん?」

 

どういうことかと言えば、先程有害物質に破かれた服から、まぁなんというか………まだ未発達ながら、女の子的にちょっと見えちゃいけない部分が、ね?

僕らの歳ではその意味わからないけど…あと五年か十年くらいしたらわかるんだっけ?

先生が言うにはそうだし、本でもそう書いていた。

 

「何を注射された?意識ある?声出せる?」

 

「…ぅ……ぃ…」

 

「無理、と…呂律は回らない、麻痺系?麻酔…眠気はある?イエスなら『あー』、ノーなら『うー』って言って」

 

「…ぅー……」

 

このコミュニケーションで正しいらしい。

八神さんの関係で、医学関係の本を読む率が前より上がっていたおかげだ。

 

「身体は動く?」

 

「…ぅー……」

 

「身体が熱いとか寒いとかの異常はある?」

 

「ぁぁーーー………」

 

「寒い?」

 

「ぅ~~……」

 

「熱い?」

 

「ぁ~……」

 

しばらく問診を重ねてわかったことは、即効性が高く、おそらく長時間にわたって効果が持続するタイプの麻痺系の薬であるということ。

薬そのものは、どこかの誰かが作ったオリジナルのものだろう。僕でも「月村すずかに薬を投入する」というのなら、目的問わず普通の人向けの薬を選択しない。

憶測だが高確率で、専用の解毒剤が必要だ。

この場合なら、まず間違いなくオリジナルの、即効性と効果は高いが解毒剤があれば必ず治るものであると推察される。

ただ、なにかしらの処置がないと、死に至るものである可能性は高い。

万が一取り戻されても、解毒剤は向こうにあるから結局引き渡すしかないという保険…腰抜けなゴミの考えなら、そんなところだろう。

 

「………『応急処置』した方がいいかな?」

 

「できるのっ!?」

 

問診の間ずっと静かにしていたアリサは、目を向いて食いついた。

正直恐い。

 

「………誰にも言わないことが条件だ」

 

「え…?」

 

「誰にも言わないことが条件」

 

意味が伝わらなかったようなので二回言った。

アリサには悪いけど、これは誰にも知られるわけにはいかない。

 

「わ、わかったわ、誰にも、言わない!」

 

僕の声に真剣さを感じ取ってくれたようで、真っ直ぐ目を見て頷いてくれた。

…サンタクロースのお面をつけているのが若干アレだけど。

 

「まずはじめに謝る。とある大事なものをもらう必要がある。それは場合によっては地球より重いそうだ。でもこのままだと、解毒剤が何かわからないから治るかどうかわからない、最悪の場合も考えられる…でもひょっとしたら医者があっさり解決策を見つけて、治る可能性もある…月村すずか、あなたはどうしたいですか?僕の応急処置を、望みますか?」

 

極力感情は省いて、心の篭らない声で説明をした。

でないと僕は、無理矢理応急処置をしてしまいそうだから。

ちょっぴり強引だったけど、彼女は僕の、この国でできた初めての親友だから。

親友が死ぬかもしれないのを放っておくなんて、僕は絶対にできないだろうから。

 

「ぁぁぁぁーーーー…………」

 

「…ありがとう、信じてくれて」

 

精一杯力強く声を出してくれたことに、僕は心から感謝した。

 

「あ、あたしにも手伝えることない!?すずかを助けるためなら何でもするわよ!?」

 

「…手伝ってもらえるならありがたいけど、いいの?同じものを…いや、健康な分、それ以外にも大事なものを貰うことになるよ?」

 

「上等!すずかだけ何か無くなるより、あたしも一緒に無くした方がマシよ!」

 

本当に、何をって聞かないでよくそんなことを言えるな。

言えない僕が言うべきじゃないんだろうけど。

 

「…わかった」

 

僕はお面を外した。

そこには、僕の晒した素顔に驚愕する二人の顔が…………!!

 

「…………………………………………やっぱり正体バレてたよね?」

 

「あれで隠してたつもりだったの!?」

 

「ぁぁぁぁ~~~~~~……………」

 

二人とも酷い。

早く指摘してほしかった。

 

「これは伯父さんが『いざというときはこれで正体を隠しなさい』って、いつも持たされてたからなんだよ!?やっぱり隠せるわけないとは思ってたけどね!!」

 

心の中でジャパニーズ男泣きをする僕は、間違っていないと思う。

正体がバレるのは確かにまずいけど、あのお面はないとか、面積的に隠せているようには見えないとか、いっそ覆面の方がマシかもしれないとかとか思っていたけど、今以上にまずいのを持って来られたらと思うと、どうしても二の足を踏んでしまった僕の落ち度と割り切る。

 

「……じゃあアリサ、ちょっと目を閉じてくれ」

 

「え…?こう?」

 

一切の疑いもなく、普通に目を閉じるアリサ。

ちょっと罪悪感が加速度的に上昇するけど、今は必要なんだ。

 

「そのままちょっと顎を突き出して…そう、そんな感じ。そのまま何があっても動かないで」

 

「わかったわ…」

 

若干緊張しているようだけど、それを解くほどの余裕は、実を言うと僕にもない。

さっきから緊張で喉がカラカラだし、息もちょっと苦しい。

 

僕はアリサの顔に手を添えて、ゆっくり近づき…………

 

「――――――――ッッッ!?!?!?」

 

僕らの距離は、ゼロになった。

 

 

 

 

Side アリサ・バニングス

 

 

誰でもいい!

誰でもいいから、あたしが今どうなっているのか教えて!!

ホントに全く意味がわからないからッ!!

 

あたしは確かに、すずかを助けるためなら何でもすると言った。

あたしの何か大切なものを貰うとも言っていた。

でもこれはさすがに想定外だ。

 

「~~~っ―――――っッ~~~~~~~~~~ッッッ////////////」

 

あたしの声にならない乙女の叫びを尻目に、フォルテは何かを貪り食うかのようにしゃぶりつく。

まずい速度で、あたしの大事なものが奪われていく。

焦って思考が空回っているあたしは、抵抗するとか逃げ出すとか何にも思いつかず、結果あたしは、フォルテの唇をただ受け入れ続けるしかできなかった。

 

「―――――ッ?」

 

どれだけの時間そうしていたのかわからないけど、僅かに落ち着きを取り戻したあたしは違和感に気付いた。

おかしい、体から力が抜けていく…。

キスで体から力が抜けていくというのは、漫画で読んだ。

けどこれは違う。

これは漫画に載っていたような夢のように甘く蕩けるような温かさではなくて、もっとこう…現実的でとても苦くて冷たい何かの感覚。

例えるなら、温水でもない冬の屋外プールに体を沈める感覚とでも言えばいいのだろうか?

寒いというのか冷たいというのかよくわからない感覚が、手足の先からちょっとずつ広がっていって、それが本能的に危険だと、あたしは気付いた。

 

あ…これ、このまま広がりきったらあたし…死ぬんだ。

 

驚くほど自然にあっさりと、まるで手の平の雪が解けるように簡単に、あたしはその事実を理解した。

 

あたしを抱きしめるフォルテの力が若干強くなる。

正直ちょっと痛い。

でも今唯一感じられる温もりが暖かくて、それを手放したくない。

 

その感覚こそが、彼女の中に芽生えつつあった、とても小さく確かな感情から派生したものだと、彼女は知らない。

そして、今アリサの感じているであろう苦しみがせめて少しでも緩和されることを願って、それを強いているフォルテが腕に力を込めたことを彼女は知らない。

 

永遠にも似た数秒…もしかしたら数分かそれ以上だったかもしれない。

ようやくフォルテは、あたしを解放した。

でもあたしは動けなくて、フォルテがすずかの隣に座らせてくれた。

 

…離れていくフォルテにちょっと手を伸ばしかけてしまったのは、寒かったせいということにする。

 

 

 

 

Side フォルテ・L・ブルックリン

 

 

正直、とても申し訳ないことを知っている自覚はあった。

何をしているのか説明できない以上、今のアリサには何も言えないのだ。

 

「………アリサ、説明は後で必ずする。納得いかなかったら、殴ってくれてもいい。でも今は、すずかの処置を優先する…それでいい?」

 

「……わかったわ。ちゃんとやりなさいよ?/////」

 

アリサはちょっと赤くなりつつも、そう言ってそっぽ向いた。

典型的なツンデレをするアリサに、ちょっと心臓が跳ねたのは内緒だ。

 

「すずか、今見てた通りのことをする。最終確n「ぁぁぁーーーー………」………ありがとう」

 

確認の言葉を言い切る前に、すずかの辛そうな声がそれを遮った。

女の子にここまでさせて、男の僕が躊躇うわけにもいかない。

僕の唇とすずかの唇が静かに重なり、瞬間、僕の中で膨大な測定と計算が成される。

 

僕がやっていること、それは八神さんにやっていることの亜種だ。

 

すずかの体を巡る『力』の流れを視る。

甘く見過ぎていたかもしれない、と一瞬弱気になった僕を心の中で殴りつける。

僕が今やらなくちゃいけないことは、そんなことじゃない。

 

すずかの体は普通じゃない。

それでも確実に、普通の人間と同じ形をしていて、普通の人間の遺伝子を使用し、普通の人間と同じ形態で生息し、普通の人間と同じ生殖を行う地球出身の生命体だ。

そして、生命体の体というのは実に合理的なのだ。

一見、非合理的に見える身体構造や、用途のよくわからない器官など、人間の視点では未だ理解できない範囲も多いが、バックアップ等に意味も含めて必ずそれらは必要なのだ。

でなければ、人間などという構造的に無駄の多すぎるように見える直立二足歩行の生命体が、進化の過程で淘汰されていないのは矛盾する。

 

生命体の構造が合理的であるという前提の上で…

現在薬品に犯されているすずかの体で非合理的な部分(・・・・・・・)があれば、それは薬品に犯された結果なのではないか?

という仮説が成り立つ。

 

条件として、生体構造内に元々あった人間の主観的に非合理的に見える部分と、薬品によって変質された非合理的な部分の区別ができなければならない。

だからそのための、先程のアリサの協力だ。

 

アリサとキスをした際に、アリサの体中の『力』の流れを事細かに調べ、これらを記憶した。

これにより、人間の健康な女の子の正常な『力』の流れを知ることができた。

これを元に、すずかの中にある非合理的な部分…歪みとでもいうべき部分を探り当てる。

繰り返すが、月村すずかがいかに普通と違うとはいえ、大分すればホモサピエンス。

多少の差異があろうとも、そこまで大きな問題にはならない。

実際今視ている中に、普通は存在しない未知の器官の存在をいくつか確認している。

でもその部分の『力』の流れは自然に視える。

そもそも、すずかをどう扱うつもりであったにせよ、普通ではないすずかの体の、普通ではない部分に影響する可能性のある薬を投薬するはずがないということは、あらかじめ想定していた。

それこそ、投薬を指示した者の意図に反して影響が出た場合を除き、自分達で制御できない事態を望むわけがない。

 

しばらくすずかの『力』の流れの歪んでいる部分を正すことに終始し、『力』が足りなければ補完する。

これもアリサに手伝ってもらった結果だ。

実はあの時、アリサから『力』を少し抜かせてもらったのだ。

僕の観測した限り、『力』は生命活動を続けるうえで必須のものだけど、多少消費されても、生命活動を続けるうちに少しずつ回復する、血液と同じようなものであると研究で明らかにしてある。

 

投薬によって、すずかの『力』は少なからず歪められ、是正のためには『力』が必要になる。

必要とするのは是正される側のすずかが消費する『力』と、是正する側の僕が(・・)消費する『力』だ。

僕の分くらいは自分で何とかしたかったけど、さっきの戦闘でちょっと心許無いので、そこは勝手ながらアリサに甘えさせてもらった。

 

数秒か数分か、あるいは数時間かの時間の後、僕はすずかから唇を離した。

 

「すずか…どう?」

 

僕はすずかに目を覗き込む。

どこかボーっとしているのは、まだ薬が抜けきっていないからだろうか?

一応体内の薬はうまいこと段階分けして分解したつもりだ。

 

「すずか…?」

 

隣のアリサも心配げに見守る。

途端に、すずかの顔が真っ赤になった。

 

「ちょっ!?すずかっ!大丈夫かッ!?」

 

「すずかッ!?どうしたのッ!傷は深いわよッ!!」

 

「それ患者に言っちゃいけないセリフだからッ!!」

 

なんてことを言うんだアリサ!

これをもし病院で医者が言ったら、即刻クビになるレベルだぞ!?

 

「だ、大丈夫…だよ!うん、大丈夫!/////////」

 

「いや、なんか、でm「大丈夫だから!!」……まあ、そういうなら…」

 

よくわからないけど、すずかがそう言うなら問題ないのだろう。

実際、さっきまで話せなかったはずなのに、ここまでしっかり発音できているなら問題ないだろう。

 

「速くここを離れましょう!あ…あたし、動けないんだっけ…えっと…」

 

「大丈夫だよ、ここに来る前に月村とバニングスに連絡しといたから、多分そろそろ鮫島さんたちが迎えに…――――ッ≪星盾(アイギス)≫!!」

 

背後に感じた危機感に逆らわず、僕は空気中に盾を展開する。

展開された盾は、空中に光の五芒星の魔法陣として可視化された。

盾に感じた衝撃。

その向こうで…有害物質がふらつく体を支えながら、マカロフを構えている。

予備の銃があったのか。

 

「驚いたな…あれで動けたのか?軽トラに撥ねられた程度のダメージはあったと思うけど?」

 

有害物質は息も絶え絶えに、焦点の合っていない目でこちらを睨んでいた。

もしもゾンビというものが実在すれば、こう言う目をしていることだろう。

 

「ば………………化け物ッ!!」

 

「…………うん、そうだな…それで?」

 

特段否定する理由もない事実を突き付けられたところで、当たり前だが痛くも痒くもないのだ。

 

「テメェもか!テメェもなのか!テメェもその化け物と同じなのかッ!!」

 

「…お前、何を言っている?」

 

…………………………………まさか、こいつ知ってるのか?この末端くさい有害物質風情が?

 

「よく聞け金髪ッ!その月村って女はなぁ!!吸k「≪雷光(バルカ)≫!!」…つ、き…」

 

その言葉を最後に、有害物質は今度こそ沈黙した。

場を静寂が支配する。

有害物質は、最後の最後で非常に不愉快な害を残していった。

殺さなかったのは、単純にこいつの持っている情報が必要になるだろうと思ったからギリギリ踏みとどまっただけだ。

正直今も…殺したい。

でも…それよりも今は優先すべきことがある。

 

「…………アリサ、君には選択肢がある」

 

僕は感情を排して彼女に選択肢を提示する。

 

「一つ、今見たこと、聞いたことを全てなかったものとして今まで通り過ごすこと。

 二つ、僕たちと完全に決別し、二度と会わないこと。この場合も今見たことや聞いたことに関して、口をつぐんでもらうことになる。

 三つ……真実を受け止めること。断言する。これが間違いなく一番危険で、一番重たい選択だ。最悪生涯全てに影響しかねない問題だ……強制はしない、が…どの選択でも誰にも今のことを含めた全てを秘密にしてもらう。もしも誰かにこれを話した場合………僕は君を殺す」

 

ゴクリと、誰かが唾を飲む音が、静かになった倉庫に響いた。

 

「………………フォルテくん、あの「今は黙っていろ、すずか」

 

今、すずかが何を言おうとし、何を背負おうとしたのか、僕は知っている。

でもそれは駄目だ。

そんなものを、君が背負うべきじゃない。

その十字架は重すぎる…生涯そんなものに苦しめられるなんて論外だ。

大丈夫だ、悪には僕がなる。

僕はテロリスト(・・・・・)だからな。

 

「………フォルテ、あんた…あたしの事、なめてるでしょ?」

 

想定よりもはるかに短い沈黙の後、アリサは怒りの形相で僕のことを睨んでいた。

 

「あたしは!すずかとフォルテの親友なの!あんたたちが何を背負っていて、どんな思いをしているのかは知らないけど!あたしはそんなことで!親友を!辞めたり!しないッ!話したくないなら無理強いはしないけど…あたしは何があっても、月村すずかとフォルテ・L・ブルックリンの親友よッ!!」

 

「…………わかった、僕は話す。ごめんな、アリサ。すずか…君はどうする?」

 

「…………………」

 

「念のために言っとくけど、強制なんてしないし、もしもアリサが無理矢理聞き出そうとしたら…「しないって言ってるでしょ!」……もしもって言ったよね?聞いてよ…」

 

アリサのボルテージが異常に上がっている模様。

どうも今の有害物質の発言が、アリサの何かに火を点けてしまったらしい。

やっぱり殺しておくべきだったかな?

 

「私は……………………うん、話す。ううん、話さなきゃいけないから」

 

「それは、義務感?それとも、これに巻き込んだっていう罪悪感?」

 

「そうかもしれないけど…よくわからない………………でも私も……アリサちゃんと、親友でいたいから!」

 

「…………そっか」

 

余計な確認だったかもしれない。

いや…それでも悪人が必要だった。

意地悪く確認してやる嫌味なやつが…。

一生を左右する問題である以上、そのくらいは軽く引き受けるべきだ。

 

「なら、説明………は、後日な?」

 

「「へ…?」」

 

「いや…鮫島さんたち着いたみたいだし」

 

もの凄い速度でリムジンが倉庫の前に止まる。

驚くべきことに、あれだけの速度を出しながら、車体をほとんど揺らすことなく停車している。

その向こうからさらにもう一台のリムジン。

こちらの運転は少々荒く、強いブレーキ音を立てながら止まった。

中から人が降りてくる。

 

…………どうしよう?

逃げられる状況じゃないし。

 

アリサとすずかが家族と(執事やメイドも家族です!)熱い抱擁を交わしている間、僕はどうしたものかと頭を抱えていた。

逃げるタイミングを完全に失った。

僕が何かをやったということくらい、状況から見て即バレする。

説明のしようもないし、公にされると非常にまずい。

 

しかしその問題は、意外とあっさり解決することになる。

リムジンから最後に降りてきた人物によって。

 

「お………おお、伯父さん…?きょ、今日はたしか、かかか会議で遅くなるのでは…!?」

 

冷や汗を流す僕の前に、無言で立ちはだかる伯父さん。

 

まずい。

まずいまずいまずいまずいまずい!!

 

伯父さんには『力』に関して一切話していない。

この惨状で言い逃れするのは不可能!

このままでは…「アームストロング家に伝わる代々芸術的尋問術」にかけられてしまうッ!!

し、死ぬ…!

あ、いや!「アームストロング家に代々伝わる芸術的健康術」で筋肉達磨にされる方がありうるか!?

(社会的に)し、死ぬ…!!

なにより、普段は温厚で暑苦しい伯父さんの、この沈黙が一番怖い!!

 

「………………………………………」

 

「………………………………………」

 

「………………………………………」

 

「………………………………………」

 

「………………………………………」

 

「………………………………………」

 

「………………………………………何をしているのだ、フォルテ?」

 

「………………………………………『男には、絶対に引いてはいけない瞬間がある』らしいから、実践していました」

 

正直、泣きたい気持ちだった。

だけど、僕は真っ直ぐ胸を張って言い切った。

僕は絶対に間違ってないって。

何も後ろ暗いことはないって。

 

「………………………………………………そうか、よろしい。で、あれは…お前の友達か?」

 

思いの外…いや、異常なほどにあっさりとそれを認めた伯父さんは、それよりもと何かを指し示した。

その先には、先程のしたはずのクズの一匹が、そそくさと逃げ出そうとしていた。

 

「いいえ、あれは違います。あれは、ただの唾棄すべき人間のクズです。断じて、知り合いとかじゃ、ありません」

 

僕はキッパリ断言する。

あんなものと友達とか、冗談でも言われた側にはたまったものじゃない。

怒りのあまり、中学生の和訳した英文のようになってしまったのは目を瞑ってほしい。

 

伯父さんは黙って頷くと、転がっていたドラム缶を拾って、クズの方に歩いて行った。

………………………ドラム缶?

 

「君、少し尋ねたいことがあるのだが…構わないかね?」

 

そう言いながら、伯父さんはあろうことかドラム缶をアルミ缶のように潰し始めた。

ギキッギーッと微妙な金属音を上げながら体積を減らしていくドラム缶が、僕らには信じられなかったのだけれど、鮫島さんだけは「お若いのによく鍛えてらっしゃいますな」とものすごく自然に受け入れていた。

………鮫島さん?あなたひょっとして、向こう側なんですか?

 

「なぁに、時間は取らせませんゆえ…何卒どうか!お願いできますかな?」

 

言葉だけ聞けば、間違いなく懇切丁寧に、失礼なことも何もなく紳士的にお願いしているはずなのに、表情と声色、そしてハンドボール大にまで圧縮された元ドラム缶がそれら全てを否定していた。

 

「ひゃ……ひゃいぃぃぃぃっ!!!!」

 

腰の抜けたクズに、ちょっぴりだけ同情した。

このあと「アームストロング家に代々伝わる芸術的拷問術」が待っているだろうから。

僕もその中身までは知らないけど、間違いなく芸術的な拷問術だ。

 

「フォルテ」

 

「は、はい…!」

 

あ、来た。

どうしよう…言い訳とか何にも思いつかない。

どうしよう…どうすればいい!?

 

「………よくやった。一人の男として、正しい行動だ。胸を張っていい!ただ…ここから先は大人の仕事だ。今日はもう、帰ってゆっくりしなさい」

 

「へ…?」

 

思わず僕の喉から出た声は、あまりに間抜けで、あまりに僕の心境を表していた。

 

「そうですね…私達が来るまでリムジンでお送り致します」

 

「すずか、今日はうちでゆっくりしましょう?ファリン、後をお願いね?」

 

「かしこまりました」

 

「アリサお嬢様も、今日はゆっくりご静養ください」

 

「「「………………はい」」」

 

大人達にここまで言われてしまっては、子供としてそれに逆らうことはできない。

僕はすずかのお姉さんに(応急処置の辺りはぼかして)投薬されたことを話し、すずかは必ず検査してほしいとお願いした。

 

リムジンに乗せてもらうとき、後始末をするという伯父さんに頭を下げて僕らはそれぞれの家に帰った。

ひょっとしたら、もう二度と帰って来れなかったかもしれない家に。

なお、クズと有害物質がどうなったかなんて知りたがる暇人は、僕らの中にはいない。

今年の初雪の日に起きた誘拐事件は、こうして幕を閉じた。

 

 

 

◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□

 

 

 

Side フォルテ・L・ブルックリン

 

 

あの誘拐事件から数日後、僕は結局勇気を出せずに伯父さんに真実を告げられていない。

多分…いや、間違いなくおおよそのあたりくらいはつけているんだと思う。

そもそも、この歳の子供が電子顕微鏡が欲しいとか言うのを、普通に受け止めて用意する大人が一体この世界に何人いるというのか。

不義理だと思う。

だけど僕は、勇気が足りなかった僕は、一歩だけ…本当に微かな一歩だけ前に進むことにした。

僕はあの日、伯父さんに言ったのだ。

あれは僕がやったと、でもまだそれについて話すのは待ってほしいと、僕はそんな身勝手なことを言った。

 

「わかった。いつの日か、それを話してくれる日を楽しみにしている」

 

そう言って朗らかに笑った伯父さんの顔を、僕は生涯忘れないだろう。

本当に、僕なんかには過ぎた伯父さんだと思う。

その時僕は思った。

これが一つの大人の完成形かもしれないと、そう思ったのだ。

いつか僕も子供ができたら伯父さんのような大人になりたいと、素直にそう思った。

決して父さんへの背信行為ではない。

そして…ごめんなさい、筋肉達磨になりたいわけでもありません。

 

あの日から数日。

年末を前に僕らは月村邸に集まった。

申し訳ないけど、なのはには遠慮願った、と言ってもなのはの予定が入っている日に合わせただけだけど。

やっぱり申し訳ない気持ちだ。

テラスで無言のまま紅茶を飲む僕、アリサ、すずか。

葬式のような妙に破り難い沈黙であるが、この後の会話を思うと仕方がない…特にすずかの心情的に。

…ここは僕が、当たり障りのないところから先陣を切るべきか。

 

「すずか、その後はどう?えっと…体調的な意味で」

 

「う、うん。『お医者さん』が言うには、もう大丈夫だろうって。一応しばらくは様子を見るって言ってたけど、応急処置が良かったって…応急……応、急………~~~~ッッッ////////」

 

「~~~~~~~~~~~ッッッ」

 

し、しまった!盛大に自爆したッ!

 

気恥ずかしげに顔を覆って恥ずかしがるすずかと、そっぽを向いてチラチラこちらを窺いながら、時折確かめるように唇を撫でるアリサ………ヤバイ、僕もかなり混乱してきた。

どれだけ真面目に話そうと考えても、自然と彼女らの唇に視線が行き、あの時のことを思い出してしまう。

 

女の子の唇って、意外と柔らかかったな…って違う!そう、あれは医療行為だ!医療行為で…アリサって意外と華奢だったな…キスの後の赤くなった顔もまた…いやいや違う!ちょっと『力』を分けてもらっただけで、すずかにしたって…すずか……すずか………すずかってちょっといい匂いしたな…若干緊張した様子がもう…ってそうじゃなくて!!

あ゙~~~~~~~~~~~もう!話始まらない!!

 

「ア、アリサ!すずか!」

 

「「は、はいっ!」」

 

ドキッとした顔をしないでほしい。僕の理性を殺す気ですか…?

 

「まずは僕らの話をしよう!この話はその…そう!話が終わってからにしよう!」

 

「う、うん。そうだよね!そうしよう、アリサちゃん!」

 

「わ、わかったわよ…後で絶対説明してもらうわよ!」

 

よ、よし…ようやく話が進められる…。

 

一も二もなく賛成した二人よりも、安堵しているのは僕かもしれない。

とはいえ、この後の話は十分鬱なのだけれど。

 

「えーっと…まずはじめに、これから話すことは他言無用だ。大枠の部分については、僕とすずかは随分前から情報共有している。」

 

「そうなの?」

 

「う、うん…ごめんね、アリサちゃん…」

 

「べ、別に怒ってるわけじゃないから!」

 

ちょっとしょんぼりしたすずかに、たどたどしくもフォローするアリサ。

この先もこの関係が続くように、僕はこの後の話を慎重に進めなくてはならない。

 

「話し、続けるよ?まず前提として…僕は普通の人間じゃない、これはいい?」

 

「……ええ、あんな意味わかんない戦い方、普通じゃできないものね。目で追えないのもあったし…」

 

「その認識で正しい。多分、目で追えなかったのは≪超電磁砲(レールガン)≫の事だろうね」

 

「あの…フォルテくん、私もあのレールガンっていうのは初めて見たんだけど、あれは何?」

 

あ…そういえば、すずかにも概要までしか話してなかったっけ?

 

「まず骨子のところから話そう。アリサには初めて聞く話だけど、似たような概念とかで補完できる内容は適当に補完してほしい。僕もまだ研究中だし……すずかも、復習がてら聞いてほしい。質問があったら、随時受け付けるから」

 

「うん」

 

「?研究って?」

 

アリサがさっそく疑問を持ってしまったらしい。

先生って本当に大変な職業なんだな…話が一向に進まないし。

 

「アリサ、それはこの後話すからちょっとだけ待って…」

 

ここで僕は一瞬瞳を閉じ、これまでの生涯を振り返るように考えをまとめる。

これは…多分試練だ。

ここで躓くようじゃ、この先には行けない。

ここから先に、これと同じ道を歩むというなら、今ここで越えなくてはいけない。

 

「まず僕ではなく、僕を説明するのに必要な概念から………人間を始めとした全て生命体には、その体内に必ず『ある力』が血液のように循環している。僕はこれを『生命エネルギー』と名付けた」

 

「生命エネルギー?」

 

「そう。もっとも、現段階ではまだ仮称のままなんだけどね…」

 

これにはちょっと苦笑い。

この歳で決めた名前は、他の学問などで既に使われている名称もいくつか見つけてしまっているので、いずれは改名する運命にあるのだ。

 

「僕は、幼い頃からこの生命エネルギーを視ることができた。それが普通の事ではないことにすぐに気付いたのは、幸運だったのか不幸だったのかはわからないけど…僕は幸運だったということにした。僕は昔から生命エネルギーについて調べ、研究し、独自に理論を確立してきたんだ。つい最近になってからわかったことだけど、空気や水、岩なんかの無機物にでも微量の生命エネルギーが存在するらしくて、研究がものすごく大変になことになってる」

 

そう言って更に苦笑いしながら、僕は鞄から数冊のノートを取り出した。

 

「これは…?」

 

「僕の研究ノ-ト」

 

アリサとすずかはそれぞれ一冊ずつノートを手に取って開いた。

 

「………なにこれ?何のグラフ?横軸は時間として、縦軸は?P[f/s]ってなんのパワー?」

 

「こっちは難しい数式ばっかり……幾何学模様の魔法陣?みたいなのが書いてあるけど……」

 

予想通り、アリサとすずかは目の前のノートがチンプンカンプンらしい。

 

「それが僕の研究成果。アリサが見ているグラフは、僕が計測した生命エネルギーの瞬間出力の推移、f/sは一秒間における生命エネルギーの出力…生命エネルギーの単位fはフォルテって僕の名前を付けてるんだ。それから、すずかが見ている数式は、生命エネルギーの制御に関する基礎理論部分」

 

「「ええっ!?」」

 

そこまで驚かなくても…と思うんだけど、やっぱり驚くんだろうな。

同年代というものを僕もそれなりに見てきたけど、僕みたいな同年代、見たことないもの。

でも当時はただの好奇心だったから、そういう意味では十分子供だとは思う。

 

「続けるよ?生命エネルギーの存在に気付いた幼い僕は、いろいろ調べながら、まず最優先で仲間を探した。僕以外にも、僕と同じように生命エネルギーが視える人間がいるのか?それとも…僕は唯一種の孤独な突然変異なのか…」

 

「フォルテ………」

 

アリサが同情するような目で僕を見ていた。

でもそれは、ちょっと気が早すぎる。

 

「結果はすぐにわかった…遊びに行くなんて言いながら、近場から仲間を探していた僕は、公園で遊んでいた子供の一人が仲間であることに気付いた」

 

「ちょっと待って…フォルテくん、それって見分けがつくものなの?」

 

「すずかの疑問ももっともだ。外見じゃ無理だ。わかるわけない。だけど、僕が自分を調べて、一般の人間のデータを見た時に、僕にだけある奇妙な器官があることに気付いたんだ」

 

「奇妙な器官…?」

 

「そう…生命エネルギーが体内に循環しているって話したよね?生命エネルギーは血液と共に巡回している。血液と癒着しているのか、血液と同じ経路を使用しているだけなのかはまだ研究中だけど…一般の人の場合、生命エネルギーを循環させるための器官は心臓、あるいは心臓内部にある僕も知らない未知の器官だ。対して僕は、生命エネルギーの中心が心臓から少し外れていた…心臓とは別に、僕が『第二の心臓』と呼んでいる謎の器官が脈動していて、心臓の動きと連動しているけど、どうみても外部にある器官だった…僕はこれを、見分けに使う最初の手掛かりにした」

 

そう、そして出会った。

 

「僕は公園で出会ったその子と友達になった。正直、同種を仲間にしたかった、なんていう下心満載の僕に嫌気が差さなくもなかったけど…それでも、その子もどうやら、自分が他と違うことに気付いていたらしい。秘密は墓まで持っていくつもりだったみたいだけど、僕が打ち明けて見せると、あっちもすぐ打ち明けてくれた」

 

懐かしい日々だ。

本音のところで言えば、当時の僕は探偵と天才に同時になったような…そんな酔った考え方を持っていたように思う。

我ながら、愚かしいことこの上ない。

 

「それから、父さんの仕事の関係で欧州のあちこちに行く機会があったから、その先々で仲間を探した。そしてわかった。仲間は決して存在しないわけではないけど、非常に少数で、現状では若い…それこそ、最年長者でも僕より8~9歳ほど上の人までしかいなかった。それから導き出されることは…」

 

「あっ……………『新人類(ネクストジェネレーション)』?」

 

「もしくは『突然変異(ミュータント)』」

 

アリサの気付いた答えに、僕はあえて冷酷な選択肢も追加した。

突然変異…つまり、進化の新たな道を模索した現存種族からの変異種。

生存競争に敗北する可能性もあり、多くの場合、弾圧に負けて滅びる種族。

上手くいけば、一種族として確立できるか、最良ならそのまま現存種族…今存在する人類が僕らと同じものに進化する。でも現状の人類を見る限りにおいて、旧人類と新人類の戦争なんて可能性も視野に言えれなければならない。………いや、非常に高い確率でそうなるだろう。

それゆえ僕はテロリストになるしかないんだ。

ほぼ間違いないだろう未来の予想…新人類を旧人類が認めない場合、テロリストとして旧人類が主軸である現行政府に反旗を翻す必要がある。

すずかはともかく、アリサはまだ、その答えには至ることはないだろう。

いかに天才とは言えども、まだ8歳の子供だ。

 

「それが『新人類(ネクストジェネレーション)』であろうと『突然変異(ミュータント)』であろうと、僕にとっては自分の所属する種族ということになるし、少なくない友達が同じ括りの中にいる。じゃあ僕ができることはなんだろうって考えて…こうして研究を続けているわけだ」

 

「はー……あんた、ものすごく将来について考えてたのね…」

 

「私はフォルテくんの能力の概要までしか聞いてなかったけど、そうだったんだ…」

 

アリサとすずかに感心されて悪い気はしないけど、ちょっと居心地が悪いというか、こそばゆいというか…。

 

「ちなみに、アリサとすずかを助けに行ったときに使った力…あれが生命エネルギーの有効利用方法というか、僕の研究成果の一端だ」

 

「確か…アイギスとレールガンとバル…バ、バルル…「≪雷光(バルカ)≫だよ」そう、それよ!あれってなんなの?」

 

雷光(バルカ)≫って言いにくいんだろうか?

必死に考えたのに………英雄ハンニバル・バルカから名前を貰ったのに!!

カルタゴの雷光なんて呼ばれてた歴史上最強クラスの天才だぞ!?

 

「≪星盾(アイギス)≫っていうのは神話から名前だけ借りたんだけど、空気中に存在する微量な生命エネルギーに働きかけて、空気を圧縮した壁を形成したものだ。これの亜種に≪大地の女神(ガイア)≫っていうのがあって、空気じゃなく土に働きかけて土を自在に操る…現状使えないわけじゃないけど、ぶっちゃけまだ未完成の…欠陥だらけの技術。≪大地の女神(ガイア)≫がいつか技術的に確立したら、建築技術が数段階飛躍するし、土砂災害における対策・救助技術も上がる………未完成だけど」

 

「あんた凄いわね!?」

 

アリサに褒められた。

うん、こんな美少女に褒められるのは、やっぱり悪い気はしない。

 

「≪超電磁砲(レールガン)≫の説明には、先に≪雷光(バルカ)≫の説明をした方がいいね。≪雷光(バルカ)≫は生命エネルギーそのものを変質させて電気エネルギーにしたものだ。生命エネルギーは非常に純粋なエネルギーだから、他への変換効率がいいんだ、これも長じれば、自然に優しい超クリーンな電気エネルギーになる。≪超電磁砲(レールガン)≫は文字通りの意味だよ?電磁石で金属を撃ち出す簡単に見えて高度な技術。現状、人類の技術では未だ実用に到達していない。リニアモーターカーの兵器版って言ったらわかる?…………どれもものすごく面倒な計算をしなきゃいけないから、そのうち外部演算装置…試作四号までは設計してるけど、パソコンもどきを使うことになると思う」

 

「レールガンって、あの瞬間フォルテくんの姿が見えなくなったけど…」

 

すずか…切り込むね。

せっかく、あっさり流して「パソコン作ってるの!?」にしようとしたのに…。

…………………………………いや、すずかにだけ辛い思いをさせるわけにはいかない、か。

 

「簡単なことだよ?≪大地の女神(ガイア)≫使って服の下にばれないように砂鉄を巻きつけて、≪雷光(バルカ)≫使って自分を射出…自分の速度は測ってないけど、たしか5900m/sの試作レールガンが1960年代には開発されてたはずだから、それよりは遅いくらいかな?」

 

「…………………フォルテ、ちょっといい?」

 

アリサが何か決意めいたものを秘めた目で睨んでいた。

やっぱり気付くか、アリサ・バニングス。

 

「………何かな?」

 

「砂鉄を服の下に巻きつけたって言ったわよね?」

 

「言ったね」

 

「レールガンの技術は、あたしたちの知ってるレールガンと同じ技術の上で成り立ってるように聞こえたんだけど、これは正しい?」

 

「正しい。エネルギー源とその変換方法が違うだけだよ」

 

「じゃあ、あんたの体に巻きついてた砂鉄は、通電した分加熱してたはずよね?」

 

「そうだね」

 

アリサ、君は天才過ぎる…。

僕はその才を称賛することを一切惜しまない。

ただ惜しむらくは………

 

「だったらあんた、あの日体中に大火傷負ってたはずよね!?」

 

「!?そんな…」

 

君が善良な心を持つ、優しい人間であるということだ。

 

「あんたが言った通りの力の使い方をしていたら、あんた今頃大火傷で入院してるはずでしょう!どういうことなの!?やせ我慢してていいもんじゃないでしょう!?」

 

本当に…この場で席を蹴られてもおかしくなかったのに、アリサが僕の言った全てを嘘だと断じてそれっきりの関係になる可能性もあったのに…アリサは一向に席を立つ気配がない。

どうしてそこまで信じてくれるのだろう…?

 

「アリサは…どうしてそこまで僕を信じてくれるんだ?」

 

僕は思った疑問をそのままぶつけた。

 

「火傷の件でおかしいと思ったなら、僕が嘘をついている可能性についても、当然わかってるはずだろう?『フォルテは火傷をしていないから、今までの話は嘘だったんじゃないか』ってさ。なのになんで…僕が嘘をついてるって言わないの?」

 

「なめんなッ!!」

 

アリサはテーブルに両手を叩きつけて立ち上がった。

 

「あたしが親友を信じられないとでも思ってるわけ!?あたしは相手が嘘ついてるかなんてわかんないけど、本当のことを言ってるかどうか位はわかるつもりよッ!!」

 

『嘘吐きは何考えてるかわからんが…本当のことを言ってるやつは、その瞳に必ず魂がのる』

 

かつて、父さんが言った言葉だ。

まさか遠い異郷の地で、実践している人がいたなんてな…。

 

「………………わかった、見せよう。そのほうが早そうだ…」

 

僕は鞄からライターを取り出した。

どこにでも売っている安っぽい百円ライターだ。

僕はライターに火を点け……………………………躊躇うことなく左手を炙りだした。

 

「ちょっ!やめなさいよ!!すずか、氷水貰ってきて!!」

 

「わかt「必要ない!」

 

僕は大騒ぎするアリサとすずかを止めるように左手を見せた。

 

「え…?なにこれ…?」

 

「火傷が…ない…?」

 

「そうだ。見ての通り、僕は生来火傷を負わない体質らしいんだ。多分、僕という新種の特徴…なんだと思う。まあ、冗談でも他の人に試してもらうとかできないから、僕だけかもしれないけど」

 

そう、僕の最大の秘密を解き明かすほんの一部(・・・・・)

僕に至る秘密の最大の鍵。

今回話す理由はなく、必要もないから、この先の秘密(・・・・・・)については避けさせてもらった。

いつか話せる日が来るのだろうかと、僕は内心首を傾げながらもアリサへの説明を終わらせることを優先する。

 

「僕からの説明はおしまい、かな?」

 

「……私の番、だね」

 

すずかが決意の表情でアリサに向かい合う。

なんとなく果たし合いのように見えたのは何故だろう?

 

「私は…月村すずかは………『夜の一族』と呼ばれる一族の人間なの」

 

「『夜の一族』???」

 

まぁ、そうなるよな。

聞いたことがあるような反応されたら、それはそれで困る。

 

「私たち、月村家を本家とする、亜人の一族………それが、『夜の一族』。月村家は吸血鬼の一族なの」

 

「………え?今、昼よね?」

 

「アリサの反応もわからなくはないけど、今はすずかの話を聞いてあげるといい。それと、フィクションに出てくる吸血鬼と、現実に目の前にいる吸血鬼が同じものであるとは思わない方がいい」

 

アリサの疑問にフォローしておく。

すずかから吸血鬼告白されたあの時に、すずかが説明とか苦手なタイプであるのはよくわかったし、今すずかはとても大きな試練に挑んでいるんだ。

ちょっとくらい手を貸したところで罰は当たらないだろう?

 

「えっと、フォルテくんの言ってくれた通りで、フィクションに出てくる吸血鬼と違って、太陽が苦手とかいうわけでもないし、銀が駄目っていうわけでもないの…ただ、人間と違って定期的に血液を摂取しないといけないから、私たちは自分を吸血鬼って言ってる…あ、今は輸血用血液があるから、私は人から飲んだことはないよ!?」

 

「大丈夫よ、そのくらいわかってるから、そこまで全力で否定しなくてもいいわよ…」

 

両手をあわあわと振って必死に釈明するすずか、腕を組んで憮然とするアリサの二人の姿にちょっと苦笑い。

普通はアリサのような反応はできない。

それに、話の内容を無視すれば、普通の友達の会話の空気にしか見えないのだ。

 

「月村家に残ってる伝承では、ご先祖様はもともと人間だったんだけど、ある日現れた妖怪と戦って吸血鬼に目覚めたんだって…」

 

「妖怪…?」

 

「フォローすると、当時は明治維新以前だから、意味不明な化け物や、新種・珍種の動物、外国人までも含めて理解できない気味の悪い何か…総じて化け物とか妖怪って言葉で、ひとまとめにしていたんだ…だからって本物の妖怪がいなかったかどうかはわからないんだけど………伝説の勇者とかジャ○プの主人公みたいなご先祖様だよね?」

 

「……………言わないで」

 

すずか自身も若干そう思っていたのか、否定の言葉は返って来なかった。

ご先祖様が厨二病を患ってましたって記録が出てきても、そりゃ嬉しくはないもんね。

 

「ジャ○プ主人公なご先祖様って……すずか、あんたも辛かったのね………」

 

アリサ、その追撃は間違いなくオーバーキルだ。

言い出しっぺの僕が言うべきではないんだろうけど、せめてここは、吸血鬼としてのすずかの苦労について同情してやれよ。

見ろ、すずかのやつ、真っ赤になって俯いてるぜ?

 

「すずか、気持ちはわかるけど…吸血鬼と人間の違いについて、まだ終わってないぞ?」

 

「誰のせいだと……はぁぁぁーーーー…」

 

そんなに溜息つくと、幸せが逃げてくぞ?

ただでさえ、苦笑いが板についてきて、幸薄そうなんだから。

 

「吸血鬼は文字通り血を飲む種族なんだけど、身体能力にも違いがあって、元々人間の数倍の筋力があるの。吸血状態だと更に身体能力が上がって、怪我や病気もあっという間に治ったりもするし」

 

「ちなみに、僕と吸血前のすずかが本気で追いかけっこした場合、僕が『力』で身体能力を強化してようやく互角か、僅差で僕が勝てるくらい…普通にケンカなんてしたらまず確定で負けるし、吸血状態なんてことになったら…考えたくもないな……………すずかが喧嘩っ早くなくてよかった」

 

ん?アリサ、なんで顔真っ青になってるの?

あ…そういえば、アリサとすずかとなのはが友達になった原因って、アリサがすずかに嫌がらせしてたのが原因なんだっけ?

それを思い出して、ようやく死の危険にあったことに気付いたのか。

……………あえてつつかないでおこう。蛇どころか虎が出てきそうだ。

 

「ん?ってことはこの間注射されたとき、あたしたちの血を飲ませてたらそれでよかったわけ!?」

 

「んー…それはどうかな?私もどれくらい飲んだらいいのかわからないし、お姉ちゃんが言うには、人間から吸血すると止め時がわからなくなっちゃうんだって。ご先祖様の中には、血の匂いを嗅いだだけでも理性をなくす人もいたみたいだし…」

 

「アリサの血だけじゃ足りなかった可能性もあるってこと。ちなみに…僕の血液は絶対に摂取させないからね?」

 

「まあ、他人の判断に口出しする気はないk「は~いストップ。何言おうとしたのかよく分かったから最後まで聞いてね?」

 

アリサの気持ちはわかるけど、無理なものは無理なんだよ。

 

「アリサ、さっきの僕の話覚えてる?僕は『新人類(ネクストジェネレーション)』か『突然変異(ミュータント)』っていう、普通の人間とは違う存在なんだよ?言ってみれば、普通の食用の豚から肌の青い豚が生まれたようなもの…普通の豚は間違いなく食べれる。蒼い豚を生んだ親は…ちょっと微妙だけど、特性としては普通の豚のはずだから大丈夫かもしれない。でも青い豚は?青い豚を人間が食べて大丈夫なものかもわからない。なのに食べるとかありえないでしょ?青い豚がどういう特性を持っているのか、誰も知らないんだからさ…」

 

「そうだったの、ごめんなさい………そっか、だから血で治す方法が取れなかったのね?」

 

「私は人から血を飲んだことがないから、止まらなくなったら困るし…」

 

「結果的にアリサから吸血してないし、すずかも暴走してない!すずかが本気でトチ狂ってたら、僕が止めたから気にしないの!」

 

落ち込むすずかをすかさずフォロー。

身体能力だけならまだしも、電撃で気絶させるなり、土で抑え込むなり、やり様はいくらでもあったから問題ない。

実はこっそり吸血を代理案として考えていたんだけど、それは言うまい。

 

「ちなみに、これはそのまますずかの『応急処置』の話にもつながって、すずかの体は普通の人間と違って吸血鬼の体だから、通常の薬を投与される可能性は低い…でも必ず解毒剤は存在していて、治せるものだから、僕の生命エネルギーの調整で治すことができたんだ」

 

「「生命エネルギーの調整?」」

 

…お前ら本当に…本っ当に、仲がいいな?

ここまで綺麗には持って首を傾げられると、いっそ清々しいぞ?

 

「また面倒臭い説明だけど、本的に生命体の体には基生命エネルギーが滞りなく循環していて、それは満ちているもの…つまりこれが健康状態にある生命体だ。逆に生命エネルギーが滞っていたり、満ちていなかったりすると、体調を崩していたりする…という統計があるから、そこからの逆算。生命エネルギーの流れが歪んでいたりするところを修正すれば、健康状態に戻せることになる。僕自身で確かめたから間違いないよ?まあ、つまりあの時、すずかの生命エネルギーの歪みを矯正しつつ、不足していた生命エネルギーを輸血よろしく補填していたんだ。その補填には、アリサから献血よろしく回収させてもらった生命エネルギーを当てさせてもらった。」

 

ちなみに、あの誘拐事件の後にも僕自身の治療はそれをやった。

もう腕とか脚とか内臓とか、エライことになってたから。

医者にはお見せできない事態だったなんて、あの伯父さんが知ったとしたら…「アームストロング家に代々伝わる芸術的処刑術」が炸裂するところだった。

いや、別にその炸裂先に問題があるワケじゃないんだけど、あの伯父さんが血濡れになるのは…正直忌避感が強すぎる。

 

「………あんた、絶対おかしい」

 

「実は僕もそう思ってる…この歳でやることじゃないもんな?」

 

「「自分で言うの!?」」

 

本当に息が合った二人だ。

難しい話と重い話というオブラートで包んで、ちゃっかりキスの件をさらっと流す作戦は大成功みたいだけど、そろそろまとめに入ろうか。

 

「まとめると…僕は新しく現れた人類の亜種。すずかは数世代前に現れた人類の亜種の末裔ってことだ。ぶっちゃけ、僕らの中で普通の人間ってアリサだけなんだよね…何度も言うけど、絶対に秘密な?」

 

あくまで予想だけど、すずかのご先祖様は進化し切れなかったんだと思う。

よほど人間に未練があったのかもしれないけど、子孫への影響も考えてやってほしかった。

なんせ種族的に欠点ばっかり多いし。

一応毎回人間と吸血鬼のハーフ…つまり片親は必ず人間なのに、子供は吸血鬼らしいから、普通の人間のよりは優性遺伝子であることは間違いないけど…。

代々生まれてくる子はほとんど女の子だから血統の繁栄には向かないし、定期的に吸血が必要だけど、人間のもの限定で吸血鬼同士での吸血は不可…動物による代用も同じくってことは、吸血鬼の存続には、人間の存続が前提条件なわけで…一個の種族として見ようとしたとき、これはあまりに大きすぎる問題だ。

まあ、他人の事言えるかどうかは、まだわからないけど…。

 

「わ、わかってるわよ!こんな重要なこと、誰かに言うわけないでしょ!」

 

相手に信じてもらえるかどうか以前に、情報が漏れるということそのものが既に問題だ。

特段説明していなかったが、『月村』がどこかの勢力から狙われているということと、吸血鬼であることの関連付けくらい、アリサなら余裕すぎる…天才だし。

 

「ありがとう、アリサちゃん」

 

「感謝する、アテヌ・バーストストリーム」

 

「誰の事よ!?千年前のパズルなんて持ってないし、白龍なんて従えてるわけないでしょ!っていうか、そのネタ久しぶりね!!」

 

うん、一度身内認定したら名前を忘れることはないんだ。

内緒だけどね?

面白いから、親友アリサ・バニングスだけは、これからもこのネタで楽しむとしよう。

 

本人に聞かれれば、間違いなく絞め殺されるようなことを内心思いながら、僕はこの光景がいつまでも続くことを願った。

そして…………………………いつかその願いが砕ける日が来ようとも、彼女達は守ると、この日僕は、密かに誓ったのだ。

 

 

 

◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□

 

 

 

春。

出会いと別れの季節と呼ばれるこの時期、僕の運命は大きく動き出そうとしていた。

 

 

―――――――――もしも人生に分岐点というものが本当に存在するなら

 

「ん?」

 

―――――――――これが間違いなく、それだったのだろう

 

「気のせいか?」

 

―――――――――もし仮に分岐点を作る神様なんてものがいるのなら

 

「今何か、光った…?」

 

―――――――――この分岐点を作った神様は、最低なクズ野郎だと思う

 

「…何か落ちてる?」

 

―――――――――だって僕は…………

 

「なんだこれ…?」

 

―――――――――ただ俺は…………

 

「青い…石?」

 

―――――――――道端に落ちていた石を、拾っただけなのだから

 

 

 

 

 

       そ   し   て   物   語   は   始   ま   る

 

 

 

 




長文失礼しました
ちなみに、アリサとすずかの二人が昔経験した誘拐(第一話参照)の件でフォルテに後日お礼を言いましたが、「記憶にございません」だそうで、また一悶着あったそうですが、お気になさらずにww
さらに蛇足ですが、有害物質がどこかの誰かと連絡していたときに、アリサが漏れ聞いた内容は、R18な内容です!彼女の判断で闇に葬られたのでしたww
遂に無印がスタートします!
原作と多々違うところが出てきそうですが、生暖かく見守ってください
コメント、お待ちしております!!

ひとりごと…なんで人物紹介をこの後に持ってくるようにしなかったのだ、私は!
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