魔法少女リリカルなのは~月光の鎮魂歌~   作:心は永遠の中学二年生

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遂に無印スタートです!
ところで…なぜ本編よりも人物紹介のほうが人気なのでしょうか??
読まれてる回数見れるから確認したら、最新話になるほど減っていく数字が、人物紹介だけ第四話以降より読まれている…
解せぬ…
そして………どんどん本編から外れていく(涙)



第七話 無印編 目覚め

Side フォルテ・L・ブルックリン

 

 

「将来かぁ…三人はもう決まってるんだよね」

 

それは、ある晴れた日の昼休みのこと。

なのはは、どこか愁いを帯びた表情で、隣に座る親友達に問いかけた。

 

「でもふんわりとした感じよ?いっぱい勉強して、パパとママの会社経営のあとを継がなきゃ…ってくらい」

 

さらっと答えるアリサ。

その言葉に躊躇いの色はない。

 

アリサは分かっているのだろうか?

それのどこも、まったくふんわり(・・・・)していないことに。

もの凄くしっかり決まってるじゃないか。

 

「…私は、機械系が好きだから…工学系で専門職がいいなって思ってるけど」

 

普段は主張することを控えているすずかは、アリサに続くように言葉を紡ぐ。

去年の暮れの誘拐事件以降、彼女は少し吹っ切れたように笑うようになった。

それは今までと比較してであるが、実は本人以外全員気付いている。

言えばせっかくのそれを隠してしまいかねないので、何も知らないはずのなのはまでもが無言のナイス連携プレーで言い出さないのだ。

 

「賭けてもいい。普通の小学三年生はそこまで考えて生きてない」

 

なんなら僕の研究成果を賭けよう。

大丈夫だ、勝率は99%だ。

欧州を渡り歩いてきた僕の経験は伊達ではないのだ。

 

「そういうフォルテくんが一番考えてると思うな…」

 

とても似合う苦笑いですずかが言った。

 

「そうよ!あんたは将来「テロリスト」そうそうテロリsって違うでしょ!科学者はどうしたのよ、科学者は!」

 

「こまけぇこたぁいいんだよぉ~(棒)」

 

「全然っ細かくっないっ!」

 

いつも通り、すずかの指摘、僕のボケ、アリサのツッコミの流れで漫才。

最近、ちょっと以上に面倒な“異物”のせいで、研究が滞っているストレスの緩和に貢献してもらっている。

ちょっと癖になりそうだという本音は、言ったら最後、アリサにドツキ殺されるのは目に見えていたので、僕の心の中だけにしまっておく。

 

「にゃはは……そっかー…二人ともすごいよね…」

 

「さらっと僕を省いたな…」

 

酷い…って、ボケた僕が悪いんだけど。

 

なのはが最近ちょっと僕にそっけないのは、なんとなく気付いているのかもしれない。

アリサとすずか、そして僕が秘密を共有しているということに…その首謀者がおそらく僕であるという予測がついているのだろう。

なのはをのけ者にしたいわけではないが、内容が内容だけに言えないのだ。

特に高町(・・)には。

僕はそのあたりをあんまり知らないけど、簡単に話して良い内容と相手でないことだけは確定だ。

 

「なのはは喫茶翠屋の二代目じゃないの?ものすごい人気店だし!」

 

「翠屋のシュークリームとコーヒー、すごく美味しくて私好き!」

 

「むしろ二号店作って店主になると思ってたよ?あの一号店はお兄さんかお姉さんに任せて」

 

僕としては是非そうしてほしい。

本音で言うと、そのうち僕の国にも店を出してほしい。

じゃないと、向こうに戻らなくちゃいけなくなった時、毎回日本まで買いに来ないといけない。

さすがに旅費がとんでもない値段になる……買いに来るだろうけど。

 

「うん…それも、将来のビジョンのひとつではあるんだけど」

 

そこで一度箸を置き、彼女は今まで口にしたことのない悩みを口にした。

 

「やりたいことは何かあるような気もするんだけど……まだ、それがなんなのか…はっきりしていないんだ」

 

なのははどこか遠くを見るように、空の向こうを見るように目を細めてそう言った。

 

「……私、特技も取り柄も特にないし」

 

直後、おちゃらけて見せた彼女の姿を、僕らはそれぞれの想いで見ていた。

 

ぺちんっ

 

「あうっ」

 

「……ばかちん!自分からそーゆーこと言うんじゃないの」

 

アリサはなのはにオレンジのスライスを投げて、怒った。

親友の弱音に。

ちなみに、オレンジはなのはの頬に直撃した。

 

「そうだよ。なのはちゃんにしかできないこと……きっとあるよ」

 

すずかはいつにも増して心配そうな表情で、親友の気持ちを思いやった。

彼女にとって不安とは、いつもすぐそばにあるものであるがゆえに。

 

「気長に探せばいいだろう、だってまだ小学生だよ?」

 

僕は…僕だけは、誤魔化した。

僕だけが知っている彼女の秘密、そのあまりに次元の違う才能を。

誰にも言えない、彼女の人生を狂わせるその()を。

 

「アリサちゃん…すずかちゃん…フォルテくん…」

 

なのはは感極まったような、泣きそうな顔をしていた。

もしこのまま放置していれば、間違いなくなのはは泣いていたことだろう。

親友に笑いながら、涙を隠して。

だが…彼女がいる限りそうはならない。

 

「だいたいあんた、理数系の成績はこのあたしよりいーじゃないの!それで取り柄がないとかどの口が言うわけ、あー!?」

 

「にゃああああ!だ、だって文系苦手だし、体育も苦手だし~!」

 

アリサは、なのはのよく伸びるほっぺたを思いっきり引っ張って、とても愉快な幻術品を創造していた。

 

命名、ネコ伸びなのは

 

「どうでもいいけど、女の子が女の子に馬乗りって…しかも屋上で人もそれなりに……………ま、いっか。すずか、そういえば昨日言ってた本のことなんだけど…」

 

「え!?フォルテくん、この状況を流すの!?」

 

仕方ないだろう、解決策が思いつかないんだ。

 

なお、このあと特に何のわだかまりもなく、二人は仲直りしていた。

そもそも、あれがケンカと言えたかどうかは微妙である。

 

 

 

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Side フォルテ・L・ブルックリン

 

 

なのはのちょっとした人生相談の日の放課後。

塾に行く三人と別れた僕は真っ直ぐ帰宅し、ここ最近僕を悩ませる“異物”の調査を再開した。

………既に暗礁に乗り上げかけているのだが。

 

「現状わかっていることを並べてみるか」

 

そう言いながら、僕は親指ほどの小さな青い石…僕が“異物”と呼んでいる物体を取り出した。

 

「まず、これは人工創造物である」

 

これは間違いない、と僕は断じる。

なだらかな曲線を描く造形、左右対称の物体というものは普通自然界で発生するものではない。

そもそもそんな考察などなくとも、どの角度から見ても石の中に数字の“Ⅳ”らしきものが見える段階で、自然界のものと考える方が無理がある。

青く見えている部分も、何かしらの透明な物質でできた容器の中に青い液体、または気体を満たしているように見える。

 

「これは地球人類が作ったものではない」

 

これに関しては、僕の知らない未知の研究機関等の可能性を考慮してもなお、信憑性は90%程度とした。

理由は単純にして明快。

この“異物”の表面を構成している物質を調べようとしたときに、少量だけ表面物質を削り取ったのだ。

だが少し目を離した隙に、この削り取った欠片の行方がわからなくなった。

不審に思ったので再度削り取り、今度は目を離さないように数分程観察し続けたところ、なんと削り取った欠片が勝手に“異物”に張り付き、傷跡も残さずに自己修復してしまったのだ。

現状、地球人類に自己修復機能を持たせた人工物質は、クローニング技術等の生体技術に関する分野のみで、それすらも未完成で生命力頼り。

そして、鉱物等の無機物は全くと言っていいほど手付かずなのだ。

形状記憶云々といったものがないわけではないが、形が元に戻るだけで、壊して治るわけではないのだ。

 

「これには高純度の生命エネルギーが詰め込まれている」

 

これにはさすがに驚いた。

現状の科学技術で調べられる範囲で、僕の所持している数多の計測機器などを用いての調査が一通り終わった時、暗礁に乗り上げた調査の一環として、現状地球人類でほぼ唯一生命エネルギーの精密操作が可能であるという利点を生かして新たな道を切り開こうとしたのだ。

結果は想像を遥かに超えた結果となった。

確かに、あらゆるものに生命エネルギーは宿っている。

それでも、ここまで高エネルギーだとは想像を遥かに超えている。

現状、手元にある計測機器でわかりうる限界の範囲で計測したところ、“異物”の中に含まれている生命エネルギーは、最低でも原子力発電所一つ分以上ということがわかった。

 

「これ、作ろうと思ったら、現状の地球人類の科学力と僕の研究の完成とか含めても最低………五百年は無理だ」

 

これにより、当該物質“異物”が地球外物質であることが、ほぼ確定となる。

もちろん、世界のどこかに未知の研究機関があって、そこで開発されたという可能性もゼロではないが…。

 

「以上考察終わり!手段が無いわけじゃないけど、これだけ時間かけて、この程度しかわからないっていう、ね…」

 

疲れた溜息を吐いた僕は、ついこの間買ってもらったばかりの携帯電話の存在を思い出した。

研究室には携帯電話の持ち込みなど論外なので、一定時間に一度、自室に戻って着信の確認をするのだ。

 

「……?伯父さんから?」

 

非常に珍しいことに、最近忙しいはずの伯父さんから不在着信が入っていた。

さっそく折り返し電話をする。

 

『フォルテか?』

 

「伯父さん、そうだよフォルテ。何かあった?着信があったから折り返したんだけど…」

 

『緊急で確認したいことができた』

 

「…穏やかじゃないね、何があったの?」

 

いつもは必ず余裕を見せるようにしている伯父さんが、緊急という言葉を使った段階で、それは速やかに対処しなきゃいけない事態ってことだろう。

 

『昨晩、三丁目の公園で艀とボートが壊されていた…何か知っているか?』

 

「いや…知らない。僕のことで秘密にしていることはあるけど、周りに迷惑がかかる場合かどうかくらいは気を付けるよ。わざわざ電話をかけてきたってことは…」

 

『そうだ、普通の壊され方ではない…大砲のようなものでも打ち込まれたような、そんな壊され方だった。大砲あった場合、砲弾は30mm前後であると予想されるが、奇妙なことにそれだけの破壊が成されていても、近隣住民は誰も気付かず、艀にもボートにも焼け焦げなどはなかったし、砲弾も発見されなかった』

 

それはつまり、小型キャノン並みの破壊が成されても無音でかつ、火薬を用いていないということだ。

なるほど、緊急だ。

もはや新兵器の存在を疑う事態…軍どころか、伯父さんの古巣(・・)が出張りかねない。

 

「確かに奇妙だけど…僕は公園の件、今初めて聞いたよ?」

 

『確かだな?』

 

「ブルックリンの家の名前を賭けるよ」

 

ブルックリン家はアームストロング家と比肩しうるほどの名家だから、僕の本気度が伝わって信じてもらえるはずだ。

 

『わかった、手間を取らせたな…』

 

「いやいや!伯父さんに迷惑ばっかりかけてるし、このくらいなんでもないよ!…今日は帰ってくる?晩御飯は?」

 

『今日は戻れそうにない、また明日………この約束も守れなくなってきたな』

 

「それが社会で生きるってことでしょ?」

 

『生意気を言うようになりおって…では、寂しくないように、我がアームストロング家に代々つt「切るよ」

 

容赦なく僕は電話を切った。

昔このパターンで最後まで聞いたら五時間ぐらいずっと通話状態で大変だったので、もう色々諦めたのだ。

 

「………謎の新兵器、あるいは能力者…僕の仲間?それなら可能だけど…僕ほどでなくてもそれなりに研究してないと…研究?まさか……“異物”が関係してたり………………………ものすごく、ありえるんだけど、どうしよう?」

 

つい最近発見した、超技術で作られた“異物”。

つい昨日起きた、謎の破壊兵器…あるいは能力。

兵器の場合、火薬を用いなかった…つまり砲弾が加熱しない方法で射出可能で、無音で、砲弾も発見されていないことから、弾が残らないものかもしれない。

わざわざ日本で使用した上で隠蔽もしていないという矛盾…暗殺武器としては恐ろしいものになるだろうが、意味がわからないとしか言いようもないので、兵器のテストという線は消える。

当然死体もないから目標の抹殺という線もない。

となると……………………………………………

 

「やーめたっ」

 

まったく、なんでこんなことを考察しているのやら…これは警察や軍の仕事だ。

断じて小学生の仕事じゃない。

仮にこの“異物”が関係していたとしても、その時になってから提出すれば問題ない。

「綺麗な石なんで気になりました」って言えば何の問題もなく丸く収まる。

 

ピリリリリ…ピリリリリ…

 

「メール?アリサから?」

 

件名:募集中!

本文:今日塾の帰りに怪我をしたフェレットをなのはが見つけたの。

   飼い主がいるかもわかんないけど、もしいなかったらフォルテの家で飼えない?

   あたしとすずかの家はなんというか…捕食の危険が、ね?

   なのはは一応聞いてみるって言ってたけど、家が食べ物を扱ってるし…。

   動物アレルギーとかあったりする?

 

「…………いや無いけど、この家の方が危険だと思う」

 

犬猫レベルでなく、近隣の家が吹っ飛ぶ。

冗談でなく化学薬品や色々な研究機器を置いているので、もしもの時の被害総額は目が眩むことになる。

研究機器の値段は笑えないし、もし薬品の化学反応で危険な大爆発でも起きれば、いくらなんでも引越しでは済まないだろう。

 

「アレルギーはともかく、近隣の家が二、三個消し飛ぶかもしれないから無理、っと送信!」

 

ピリリリリ…ピリリリリ…

 

「電話?アリサから?早くね?」

 

まだ二十秒経ってないと思う。

 

「もしもし?」

 

『あんたん家は火薬庫かなんかかぁぁぁっ!』

 

「アリサは相変わらず元気だねぇー…」

 

安定のツッコミ体質に、さすがの僕も苦笑を禁じ得ないよ。

 

「前にも言ったと思うけど、僕は科学者なんだから、いろいろ触るとまずい機械とかあるし、薬品とかもあるんだよ。あ、フェレットが“混ぜるな危険”とか読めるなら問題ないよ?」

 

『それで、家が二、三個消し飛ぶのね…』

 

「わかっていただけて何よりです」

 

まあ、もし家に来たとしても、このセキュリティを無傷で突破するフェレットなんていたら、それこそ見てみたいけど。

 

『わかったわ、なのはとすずかにもあんたん家が無理なのは伝えとくわ』

 

「ありがとう、助かるよ」

 

この調子だと多分、すぐにメールの嵐だろうしな…。

正直、“異物”調べの最終手段を使うつもりなので、あんまり時間を取りたくない。

 

『と、ところで、なんだけど…』

 

「ん?」

 

アリサが何か言いにくそうに切り出した。

 

『あんたってその…クッキー、好き?』

 

「え?クッキー?」

 

何だ?

Cookieの話?

いや、不自然だろう…この場合、食べ物のクッキーのことか?

 

『いやあの!今度ちょっと作ってみようかと思って味見役が欲しいと思っただけよ!ええそうよ!特に他意なんてないわよ!ただ単純に味見役が欲しかっただけよ!ええそうよそれだけよ!それだけなんだからね!勘違いしないように!』

 

「ちょ、落ち着いて?」

 

突然アリサが混乱し始めたぞ?

なにかあったのか?

 

「えっと、僕は好きだよ(クッキーのこと)」

 

『―――――――ッッッ//////////////』

 

なんと言っても母さんの得意料理だったし。

…あれ?クッキーは得意料理(・・)なのか?

 

「ん?アリサ、どうかした?」

 

『な、なんえもにゃいわ!!』

 

「………………わかった」

 

なんだかよくわからないけど、なんでもないと言うならなんでもないんだろう。

藪をつついて虎が出てくるのは僕も避けたい。

 

この後しばらく話してから、電話を切った。

今度クッキーをご馳走になる約束ができた。

ところで、この間すずかからも「良い紅茶が手に入ったから」とお茶に誘われたりしたけど、なんで二人からはこうも絶妙にズレた時期に、しかも高確率で交互にお誘いが来るのだろうか?

それも、必ず二人っきりになるように。

秘密の話をするわけでもないし、なのはも呼んで、四人でもいいはずなんだけど…。

そのせいか、なのはが若干ボッチだし、アリサとすずかも微かに険悪っぽい雰囲気を発することがあるんだけど、何故だ?

 

割と普通の日常的な疑問を頭の隅に追いやって、また“異物”の研究を再開する。

 

「と言っても、これが本当に最終手段だ」

 

最終手段。

“異物”の生命エネルギーには若干の揺らぎ(・・・)がある。

どこか寝息のようにも感じるそれが、なぜか僕は非常に気になる。

具体的に何がどう、というわけではなく、ただなぜか気になるのだ。

この揺らぎ(・・・)声を掛けたらどうなる(・・・・・・・・・・)

あくまで感覚に過ぎないけど、この“異物”が眠っているように僕は感じるのだ。

まるでそう…暗い部屋の片隅で膝を抱えている一人ぼっちの誰かのような…。

なぜこうまで放っておけないような気持ちになるのだろう?

 

NGST-4(ネグストフォー)、シェルターを。耐熱、耐衝撃、耐音ほか、全障壁レベル最大値にて展開」

 

『イエス、マイロード』

 

NGST-4(ネグストフォー)、僕の開発した新人類能力補助用自己成長型演算装置の試作型。

Next Generation Support system Type-4

全部で36種類試して生き残った唯一のもので、名前などはまだ決めていないので、NGST-4(ネグストフォー)と呼んでいる、世界最初の生命エネルギーを扱うことを前提とした装置だ。

ちょっとした業務用掃除機のような形状ではあるから、あまり見かけはよろしくないが、それでもスーパーコンピューターあたりを除けば、現状地球で最高クラスの演算能力を与えているつもりだ。

“異物”の調査にも少々役立ってもらっている。

これでもし携帯して動くとか言い出したら、幽霊バスターズのような姿になることが避けられないのが目下最大の問題だ。

それこそ、伝説級の化石、初代携帯電話のような事態になる。

それはさておき…

 

「これで、戦術級核爆弾くらいなら耐えられる」

 

実は僕が今いる研究室、地下に造られていて、シェルターにもなる。

もっとも、普通のシェルターと違って、内側からの衝撃にも耐えられるように作ってあるのは、科学者としての僕なりのマナーだ。

シェルターを閉鎖してある限り、内側で核爆弾を使用しても、外へ被害が行かないようになっている。

 

NGST-4(ネグストフォー)、可能な限り記録を」

 

『イエス、マイロード』

 

僕の足元に五芒星の魔法陣が展開される。

最近気づいたんだけど、術式発動段階で、あらかじめどこかに基本公式…この五芒星を展開しておいた方が、複雑な術式も組みやすいし、発動までの時間魔短縮できるようだ。

ほんの少しだけ、生命エネルギーの消費が激しくなるけど、許容できるレベルである。

僕の意思を、生命エネルギーに乗せて少しずつ“異物”に送る。

最悪、増幅した生命エネルギーが暴発するけど、シェルターは耐えられるはずだ。

 

「…………………僕はあなたに問います、あなたは何者ですか?」

 

―――揺らぎに変化はない。

 

「…………………僕の問いに答えてください、あなたは一体何者ですか?」

 

―――揺らぎに変化はない。

 

「…………………僕の名前はフォルテ」

 

―――揺らぎに変化はない。

 

「…………………僕はあなたに問います、あなたの望みはなんですか?」

 

―――っ!微かに、揺らいだ。

 

「…………………僕は今一度あなたに問います、あなたは何者ですか?」

 

『I……p…ay…………o…e……………………ワ…………シ…ハ……… 』

 

―――ッ!?

 

無音の衝撃が僕を襲った。

吹き飛ばされた僕は、積み上げられて研究資料の山に叩きつけられる。

舞い散る資料の向こうで、“異物”は青い光を纏って浮いているのを見て、ようやく僕は“異物”に吹き飛ばされたことを悟った。

 

『ワタ、シ、ハ…………………………………ワタシ』

 

「…個の概念がない、のか?いや…」

 

いや、そもそも無機物(?)にこの概念どころか、意思がある段階で既に色々前提となる常識が役に立たない。

個の概念云々は一度置いておこう。

 

あちこちぶつけたものの、ちゃんと受け身をとれたらしく、軽い打ち身だけで済んだ。

これだけならと、僕は普通に立ち上がる。

 

………………いやちょっとまて。

今、“異物”は何語で話した?

英語でもフランス語でもアラビア語でも中国語でもなんでもなく、日本語で話してないか?

そもそも最初の言葉は英語らしきものだったのに、なぜ?

…違う!これは日本語でもない!

僕の脳に直接意思を投げかけている?

でないと僕の中でこんなにあっさりと言葉を受け入れられるわけがないし、耳から聞こえている感じがしない。

多少片言に聞こえる、もとい感じるのは…仕様か?

 

『ワタシハ、アナタニトウ…アナタハダレ?』

 

「僕の名前は、フォルテ。フォルテ・L・ブルックリン」

 

『フォルテエルブルックリン、ニンシキ』

 

「…あなたの名前は?」

 

『ナマエ………………ナマエ?』

 

「そう、名前。言い回しを変えると、個体名称、認識コードなどとも言える」

 

個の概念がなさそうな段階で気付いていたが、名前の概念も知らないのか。

 

『………ワタシハ、ネガイカナエル、モノ…ガンボウキ、ソウ、ヨバレテイタ』

 

「願い叶える者?ガンボウキ…願望器、か?」

 

魔法かよ、願いを叶えるって考えることは誰だってするだろうけど、個別の願いに対応するんじゃなくて、願いそのものを叶える?

見事に狂ってるな。

そんなことしたら、世界があっという間に滅びるぞ?

教会とか流れ星とか七夕に留めとけよ…。

 

軽く湧いてきた嫌悪感を何とか押し殺す。

“異物”そのものに罪はない、そもそも語りかけたのは僕の方だし、“異物”はただそうあるだけだ。

 

「では願望器さん、あなたはどこから来たのですか?」

 

間違いなく、地球じゃない。

最低でも、現在の技術水準ではどうしようもない次元ということは、最大限に譲歩しても異星、異世界か異時間あたりが妥当だろうか。

 

『…………………………………………………ワカラナイ、クライ、フカイ、サムイ、ヒロイセマイドコカ』

 

「…最悪な環境だな」

 

想定よりも酷い答えだった。

気のせいかもしれないけど、ほんの僅かに“異物”…いや、願望器の声は、どこか暗く、冷たく、弱々しく、無力感を感じた。

研究施設としては正しいかもしれないけど、今こうして意思疎通が取れる存在がそんなところにいたと思うと、あまり良い感情は浮かんでこない。

 

「………我、フォルテ・L・ブルックリンは願いを叶える者、願望器に問う。汝の願いは何か?」

 

僕は、居住まいを正し、かつての過去に学んだ作法を元に、願望器に問うことにした。

ブルックリン家の、子爵の家系の長男として学んだ僕の姿。

 

『ワ、タシノ…ネガ、イ?』

 

「願いを叶えるの者よ、果たして汝は自身の願いを本当に持たぬのか?」

 

僕は感じた。

願望器の、微かな渇望を。

 

『ネ、ガ…イ………』

 

「我が願いは、汝の願いを知ることなり」

 

僕にはわからない。

願望器が、一体どれだけの何を持っているのか。

 

「我は汝に問う」

 

だから答えろ。

答えてくれ!

 

「汝の願いは、何か?」

 

『ワ、タシ、ハ……………………』

 

躊躇うかのような沈黙。

僕は促すことはせず、ただ、答えを待つ。

 

『ワタ、シハ…………………………………………サ、ム、イ………アタ、タカイ…ヲ、ネガ、ウ』

 

その言葉を聞き届けた瞬間、大気が震えたような錯覚を覚えた。

 

『エマージェンシー、エマージェンシー、生命エネルギー増大、生命エネルギー増大、シェルター許容レベル突破、危険レベルオーバーS、脱出を推奨します』

 

願望器のデータを取っていたNGST-4(ネグストフォー)が警告を発した。

 

シェルター許容レベル突破ってことは、核兵器を超える力があったというわけだ。

僕の総力を使えば、さすがに日本が無くなるなんて事態は回避できるだろう。

確実に死ぬけど。

それを承知の上で…僕は諦めるつもりなど、ないっ!

 

ズキッ…

 

一瞬の激しい頭痛。

 

僕自身、なぜそう考えたのかわからなかったけど、それでもなんとなく、やり方がわかった。

僕はただ手を伸ばせばいいだけだって。

 

僕は願望器に手を伸ばす。

途端にやってくる水面に手を沈めるような、前に手を伸ばしているのに手前に押し返されるような浮遊感という違和感。

次に感じたのは冷たさ。

まるで真冬の分厚い氷の張った湖の氷を穿ち、そこに手を入れたような言いようもない冷たさ。

その冷たさは、死を直視するに等しい冷たさだ。

だが、そこまでだった。

それ以上手を伸ばすことができなかったのだ。

 

「届かない…?」

 

不可視の壁があるというわけでもなく、核兵器を超えるエネルギーの奔流に押し返されるにしてはそれほどでもない。

だが言うなれば、潜水しようとして自身の浮力を制御できずに浮いてしまうような感覚が非常に強くなったような感じだ。

 

「水みたいだね………水は、嫌いなんだっ…!」

 

いつだって、必要なときにそこにないから大嫌いだ!

 

だから僕の中の反発心は、より強く反発する。

僕は生命エネルギーを指先に集中する。

指先が蒼く、激しく輝く。

更に集束していく生命エネルギーが更に輝かせていく。

徐々に光量を増していく指先が、何か薄い、しかし固い膜のようなものに触れる。

 

「と・ど・けええええええええええええええええぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」

 

クポン…

 

水面から手を出したような感覚と、そこにある何か(・・)に触れる感触。

僕は考えるまもなくそれを掴み、引っ張る。

手を引いた途端、今度は水風船を割って中から水が吐き出されるかのように、僕と何か(・・)は壁に向かって吹き飛ばされた。

 

舐めるな!

 

僕は意地で、何か(・・)を抱きかかえて壁から守る。

 

「ぐっ!」

 

それなりの衝撃が背中を襲い、一瞬息が止まる。

何か(・・)が鳩尾に衝撃を与えたことも影響して、目の奥がちかちかしたが、なんとか浅い呼吸から深呼吸をしていって徐々に自身を落ち着かせる。

 

落ち着け、欠片も甚大なダメージじゃない。

そう、背中もぶつけただけだ。

鳩尾も、ぶつけただけ…そう、ちょっとぶつけただけだ。

死ぬ目にあったけど。

 

「大丈夫かい、願ぼ、う…き………?」

 

「は、い、大丈、夫、です…?」

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………はっ、フリーズしてる場合じゃない!!

 

「えっと、願望器、さん…?」

 

「あ、えっと…はい………」

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。

 

「お…」

 

「お?」

 

「女の子ぉぉぉおおおおおおおおおおおっっ!?!?」

 

僕が抱きかかえていた何か(・・)(願望器…?)は真っ白な雪のような肢体と、特徴的な濃い緑の髪、そして、僕より若干紫がかった青い瞳の、どう見ても僕と同世代の人間の、全裸の女の子(・・・・・・)だった。

 

薄い胸や、僕らに有って女の子に無いとか、そういう違いについて普通に気になるんだけど、全然それどころではない!

こっちが恥ずかしいんだ!

ちょっとは隠せよ!!

 

「服!そう白衣だ!服はなくても白衣は予備を常備してたはずだ!どこだっけ!?」

 

『資料棚の引き出し、右側です』

 

NGST-4(ネグストフォー)が律儀に保管場所を教えてくれる。

その声に、若干呆れのような感情を感じたのは、僕の気のせいだ、間違いない、NGST-4(ネグストフォー)にそんな機能はないし!

 

「あ、あった!願b…いやいい!とりあえずこれ着て!僕はあっち向いてるから!」

 

「あ、はい…」

 

なんだかとても不思議なものを見たような顔で、彼女は白衣を受け取る。

衣擦れの音が妙に室内に響く。

数秒が数時間に感じるような錯覚の中、彼女からようやく声がかかった。

 

「着ました」

 

「よし、じゃあ…ってなんで前閉めてないんだ!?閉めてよ!見えてるよ!?余計状況が悪化してるよっ!?」

 

いや、可愛らしく首を傾げられても…。

僕は心を無に…いや、マリアにしつつ菩薩にしつつ、ボタンを留めてやる。

ただ僕は忘れられないだろう、裸に白衣でボタンを留めないって気恥ずかしさ(破壊力)が異常だって。

いくら小学生が性的ないろいろを知らないって言っても、さすがにショッキングなことくらいは覚えてるよ?

 

やむを得ずボタンを閉めてやって研究室を出る。

若干サイズが不安だけど、僕のお古が部屋にあったはずだ。

 

 

 

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Side フォルテ・L・ブルックリン

 

 

「さて、じゃあ話を聞かせてもらいたいんだけど、何から聞けばいいかな…」

 

運よくサイズの合った服が見つかり、願望器さんはジーパンにTシャツとオーソドックスな格好に落ち着いた。

僕の精神衛生的には一緒にいるとちょっときついけど、なんというか起こした(?)以上責任は全うしようと考えたわけだ。

 

「改めまして自己紹介から、フォルテ・L・ブルックリン、今は一般的な民間人の小学生をやっている」

 

もしもここにアリサがいたら、「どこが一般的な民間人よ!?」と派手なツッコミをくれたことだろう。

はやてなら、もうちょっとひねるだろうか?

とにかく、どっちもいないからその絶大な勘違いは修正されなかった。

 

「えっと…願望器、です…?名前なのかよくわかりません…」

 

何とも申し訳なさそうに名乗る願望器さん。

自己紹介だけで申し訳ない気持ちになる日が来るとは、正直なところ、夢にも思わなかった。

 

「願望器は名前じゃないんじゃないかな…今は名前のことは置いておこう」

 

そう、今は、ね。

 

「君は…この世界の出身かな?どう考えても、今のこの世界の技術じゃ君を再現不可能なんだけど」

 

「あの……この世界はなんという名前なのでしょう?」

 

「あ、そこからか…」

 

異世界を前提としながらなんという失態…。

異世界人(?)ならこの世界のことなんて知らないのが当然か、知っていても他の異世界と判別がつかないのだろう。

 

「とはいえ、僕はこの世界に名前がついているなんて聞いたこともないからなぁー…」

 

思わず考える人になる僕。

困った、何をどう説明したらいい?

 

「えーっと…まず、この惑星の名称は地球です」

 

「あ、地球知ってます」

 

「地球知ってんの!?マジでっ!?」

 

思わず高速ツッコミをしてしまった。

 

知らなかった…地球って異世界にも名前知られてたんだ…。

もっとドマイナーな辺境だと思ってた。←地球人類に超失礼

 

「はい、確か…第46未開拓世界でしたよね?」

 

「未開拓…未開、拓…?」

 

おもわずorzになる僕。

 

知らなかった…僕自身が辺境じゃないかと思っていても、実際異世界人(?)に未開拓なんて言われると、ものすごいショックだったんだ…。

 

「あの…大丈夫、ですか?」

 

「大丈夫…ちょっと、ダメージが大きかっただけ…生きてるよ」

 

本当はまだちょっと回復しがたいダメージが残っているけど。

 

「君の世界は…なんていうところ?」

 

名前なんか聞いても知らないのだけど、名前というのは大事なのだ。

 

「私の、世界…?えっと…………ユージスブレイド…私がいた世界は第34植民世界ユージスブレイド、だったと思い、ます…」

 

「植民、世界ね…」

 

嫌な言葉を聞いた。

どこの世界でも人間(?)の考えることは一緒だということか…。

 

「割としっかり色々覚えてるじゃん…」

 

本気でそう思う。

個の概念どうたらこうたらで悩んでいたのが遠い過去のようだ。

 

「でもあの…すいません、他に覚えてることって…」

 

「んー…じゃあ、いろいろ質問するから、それに答えてくれる?」

 

それが一番かもしれない。

というか、前提知識が全く違うんだから、どんな情報も修正できないんだけど。

 

「名前、はわからないんだよね…どうして“異物”…あの石の中に?」

 

もの凄く純粋な疑問だ。

 

「石、ですか…?」

 

小首を傾げて何を言っているのかわからないと言いたげな姿に、ちょっと頭を抱えたくなった。

 

NGST-4(ネグストフォー)、ちょっと画面に“異物”を表示してくれる?」

 

『イエス、マイロード』

 

ササッとテレビにNGST-4(ネグストフォー)を繋いで最初に撮影した“異物”の映像を出す。

 

「あの、これって…?」

 

「僕がたまたま拾った綺麗な青い石、“異物”と呼んでいた物体だね。それで君がこの中から出てきたんだ」

 

「この中から、ですか…?」

 

驚いている、のか?

ちょっと無表情すぎてよくわからない。

 

「正確には、なんというか…引っ張ったら出てきた感じ?NGST-4(ネグストフォー)、さっき記録を…あ、数値とかはいい。今は映像記録を」

 

『イエス、マイロード』

 

するとNGST-4(ネグストフォー)は先程の光景を映し出す。

 

うん、なんというか…すごく恥ずかしいものを見ている気分になるな。

なんでだろう?

別段おかしなことなんてしてないはずなのに…。←異常なことはしています

 

「私、あれ、知らないです…」

 

「……………………………そうか」

 

困った、まさかの行き詰まりだ。

 

「家族構成とか、そういうのはどうだろう?もう片っ端から質問だ!」

 

「家族…………姉妹が、いたような気も、しますけど…すみません、なんだか靄がかかったみたいに思い出せなくて…」

 

「そのくらい仕方がないって!“異物”なんて謎の石から出てきて会話ができる段階で奇跡なんてとっくに通り越してるから!次は…そうだ、ユージスブレイドってどんなところ?」

 

これはかなり純粋に好奇心で聞いている。

異世界の知識なんて普通は手に入らない。

 

「どんなところ…どんなところでしょう?私が覚えているのは暗くて、寒くて、狭いか広いかわからないどこかにいたことくらいで…」

 

「それ…多分“異物”の中でのことだと思う…」

 

実際さっき“異物”の中にいた時に言っていたことだし。

 

「それ以前とか…ぶっちゃけ知識以外の記憶ってある?」

 

さっきからどうも気にかかっていたことである。

世界の名前や自身がどういう存在かという内容は、記憶ではなく知識なのだ。

姉妹がいた可能性というのは、記憶と言えば記憶なのだが、はっきりしていない内容だし、先程までいた“異物”の中での記憶は記憶というより、つい先ほど体験したことだから忘れていたらその方が困る。

 

「知識以外の記憶、ですか…」

 

うーん、と長考に走ってしまったが、必要な時間だと急かすことなく待ち続ける。

 

「第1世界ベルカ…知識ですね………魔法…知識です………皇歴…何年かわかりませんし、これも知識です………………騎士……………知識ばっかり、です………」

 

「お、落ち込まないで?」

 

思わず慰める。

こんな涙目で、慰めない選択肢の方が存在しない。

 

というか、なぜ魔法?

ファンタジーすぎるだろうと思うけど、異世界とか既にSFだから正しいのかもしれない。

魔法+騎士=剣と魔法の世界?

…生命エネルギーを詰め込んだ超技術持って中世の街並み?

何かのギャグか?

第1世界ってことはユージスブレイドを支配していた世界か?

ベルカめ、いつか滅ぼそう。

 

「あっ………………………………記憶じゃなくて知識の方ですけど、聞いてもいいでしょうか?」

 

「もちろんだよ?何が聞きたい?」

 

知識のすり合わせはあとでやるつもりだったけど、まあ気にしない。

疑問があるなら、そこから何か、ヒントが出るかもしれない。

 

「ブルックリンさんの使っていた魔法って、“ベルカ式”じゃありませんでしたよね?この世界に伝わる“異端魔法”でしょうか?」

 

「は、い…?」

 

はて?彼女は一体何を言っているのやら?

 

「僕が魔法?何言ってんの?さっきからどう見ても科学技術しか使ってないじゃん?あ、魔法って言葉の定義が違うとか!?」

 

あ、ありえる…科学技術を指して魔法って言葉で表現している可能性…。

 

「???さっき、石から私を出すときに足元に魔法陣が出てました」

 

「あれのことっ!?」

 

驚愕!僕は知らない内に魔法使いになっていた!?

 

「いや待て!あれは体内に流れる生命エネルギーを利用した、ぶっちゃけ超能力の方が近い能力だぞ!?しかも膨大な演算とか普通に必要になるし!」

 

「魔法って、そういうものです」

 

「はいぃぃっ!?いやいや、箒に跨って空を飛んだりできないぞ!?」

 

「えっと…飛べない魔導師もいます」

 

「魔導師!?魔法使いじゃねぇのっ!?」

 

「あ、魔法使いって言葉もあります。でも、魔導師と意味は同じです」

 

「マジかよ…いやちょ!?待った!そう、体内に血流とほぼ同じ経路で流れているエネルギーがある!それを君は知っているかい!?」

 

「え…?あの…魔力、ですよね?」

 

「マジでっ!?こ、これだよ?≪アイギス≫!」

 

空中に小さめの≪アイギス≫を展開する。

厳密には空気を圧縮したものなんだけど、その中にある生命エネルギーの密度は高いので、言い方を変えれば生命エネルギーを圧縮して盾にしていると言えなくもない。

実際、生命エネルギーだけで形成しようとした場合との違いは、強度や弾力、燃費の違いだけで、術式を変更する必要すらなかった。

最大の特徴は、使用する生命エネルギーの最小値が少なくて済むところだけど。

 

「これは盾…でしょうか?はい、間違いないと思います。これは魔力で形成された盾です。魔法の詳しい知識まではありませんが、これは間違いなく魔法だと思います」

 

緊急!いつか僕や仲間の力が世間に出たら中世の魔女裁判再びって事態になると思ってたら、事実“魔女”裁判だった件!!

全力の抵抗で生命エネルギーについて聞いたら、魔力って即答された件!!

 

「なんてこった…orz」

 

「あの…」

 

なんか彼女がオロオロしているが、僕はちょっとそれどころではない。

常識ブレイクは結構きついのだ。

でもいつまでも落ち込むなんて無様な姿を見せるのもシャクなんで、無理矢理にでも立て直す。

 

「えっとね、まずごめんね?これ、魔法だったなんて知らなくてさ…そうか、この技術魔法だったんだ…作った僕も知らなかったよ…」

 

「作ったんですか…?ブルックリンさんはひょっとして、“始まりの魔導師”なんですか?」

 

「“始まりの魔導師”って何?」

 

いや、なんとなく意味は予測できなくもないんだけど…岩に剣を突き刺して「抜けた者が勇者」とかいう言葉を遺す人とかにはなりたくないなぁ…。

 

「本当に魔法についてご存じないんですね………“始まりの魔導師”というのは、世界において最初に魔法を生み出した人のことです。ベルカが生み出して広めた魔法術式、通称“ベルカ式”が魔法を使う多くの世界で使われていて、ごく一部で遠い昔に生まれた魔法術式、“アルハザード式”が使われています。稀に、ベルカから遠い世界で独自に生まれる魔法体系があって、それを指して“異端魔法”と呼ばれるのですが…」

 

そこで彼女は期待と不安、そして少々度の過ぎた憧れに満ちた目で僕を見つめた。

いや、相変わらず無表情だけど。

 

「ブルックリンさんが他の次元世界の存在を知らず、魔法の存在も、知識も何も知らないまま、一からその魔法を生み出したのだとしたら…これは“異端魔法”ということになり、あなたはこの世界、地球の“始まりの魔導師”だということに、なります」

 

無表情のまま、どこか興奮したように一気に言い切る彼女。

でも気持ちがわからないわけでもない。

多分、この世界で最初に歌を歌った人、この世界で最初に火を扱った人、この世界で最初に集団を作った人、この世界で最初に農業を始めた人…歴史に名前を残していない、でも世界のその後に明らかに大きすぎる影響を残した無名の偉人達。彼らと同じく、この世界で最初に魔法という術式を組み上げた人が目の前にいるのだ。言い方を変えれば、歴史的に記録に残らなかったかもしれない偉人に出会うような奇跡だと思っているのだろう。実際僕も、そんな状況なら興奮するだろう………それが僕自身でなければ!

なんというか、身体のあちこちがくすぐったい!

 

「あ~…恥ずかしいからあんまり見ないでほしいかな?」

 

ちょっと女の子っぽい言い回しになってしまったけど、正直な気持ちだ。

 

「あ、すみません…思わず興奮してしまって…」

 

「だ、大丈夫。なんとなく、言いたいことはわかるから…」

 

そう、覚悟していた。

でもそれは、生命エネルギー…もとい、魔力を研究するにあたって、その第一人者としてやり玉に挙げられて袋叩きになる覚悟だ。

この世界で僕の仲間…魔導師達が存在を認められる可能性は限りなく低い。

だから、その最先端にいる僕は、詐欺師かマッドサイエンティストとして世界中から非難されたり命を狙われたりするだろうと予測していた。

でも蓋を開ければ、こんなに恥ずかしい思いをするとは欠片も思っていなかった!

 

「本当に、なんて言ったらいいk――ッ!?≪閉鎖結界(フィールド)≫!」

「≪アイギス≫!!」

 

ドォォォォォンッ!!

 

一瞬の悪寒と刹那の判断。

僕は彼女を守るように≪アイギス≫を展開し、彼女は何かの魔法(?)を発動した…と同時に何か(・・)が壁を突き破って突っ込んできた。

 

腕にかかる強い衝撃。

咄嗟の機転で≪アイギス≫の展開角度をやや斜めにして衝撃を受け流し、何か(・・)と正面から押し合う状態だけは回避する。

何か(・・)はそのままリビングを横切り、キッチンに突っ込んで瓦礫や食器の山に埋もれた。

 

「よくわからないけど逃げよう!NGST-4(ネグストフォー)!」

 

「はい…!」

 

『イエス、マイロード』

 

大急ぎで家から飛び出す。

あれが何なのかとか、どうしてとか、色々考えたいことはあるがひとまず逃走を図る。

 

ここで説明しておこう。

NGST-4(ネグストフォー)は円筒状の業務用掃除機のような形状だが、こう言う万が一に備えて、研究データのバックアップ等を詰め込んだNGST-4(ネグストフォー)にはリュックのごとく背負えるように肩紐をちゃんとつけてあるのだ。

ただし、多少重いのが欠点である。

 

「うわっ…なにこれ?」

 

外に出ると、そこには見慣れた町並みがなぜか灰色に染まった光景が広がっていた。

完全な灰色というわけではなく、普段の色に灰色を混ぜたような色と言った方が正しいだろうか。

地面だけでなく、夜空の星や月までもそうなのだから、広範囲で何かが起きていることになる。

当然そんなことで足を止めるわけにもいかなかったのだが、ある程度離れたところで何か(・・)から目を離さないで済む距離で止まった。

 

『周囲に存在する物質の組成に異常はありません。しかし、各物質に内包されている生命エネルギーが希薄です』

 

「希薄?そう簡単に増減することはないはずなんだけど…」

 

NGST-4(ネグストフォー)の報告に僕は首を傾げる。

物質内包される魔力…いや、魔力とは分けて考えた方がいいか?それは外部から何かしらの魔力的な干渉がない限り摩耗しない。

石や水、空気に内包される魔力と、生命体の中で循環している魔力と同じではないのだ。

生命体は体調を崩すだけで内包している魔力量も変化するため、ここは要検証だ。

今はまだ未確認だが、予測では元素あたりに秘密があるのではないかと睨んでいる。

 

「これは私が展開した魔法です。≪閉鎖結界(フィールド)≫といって、効果範囲内をコピーした疑似空間を形成しています。中で物が壊されても≪閉鎖結界(フィールド)≫を解除したら外では壊れていない状態になり、魔法戦闘において被害を拡散させないための技術です」

 

「…この魔法、今度頑張って作ろう」

 

深く心に刻んだ。

これあったら地下の研究室のシェルター強度が超越する。

 

「で、君はあれ、何か知ってる?」

 

それはキッチンのあったあたりでモゾモゾ動く黒っぽい塊…黒マリモとでも言えばいいのか、なんというかそういう感じの何か(・・)

既に僕の家…もどき?は普通に全壊認定を受ける事態になっていた。

多分中型のトラックが、そこそこの速度で突っ込んだら、ちょうどあんな感じになるんだと思う。

 

「えっと…すみません…なんと言えばいいか、すごく怖い感じがしたので咄嗟に≪閉鎖結界(フィールド)≫を展開しただけなんで…」

 

「こっちで言う第六感的な?君の判断は正しいよ」

 

咄嗟にやった内容が、周囲に被害を出さないことだということが結構好きだ。

実際、ものすごく感激だったりする。

ちょっとは自分の命も優先した魔法とか使ってほしいけど、そもそもそんな魔法があるかわからないから何も言えない。

 

『計測の結果、あの正体不明の生命体には高濃度の生命エネルギーが内包されています』

 

「高濃度ってどのくらい?」

 

『正確なデータが取れたわけではありませんが、“異物”とほぼ同レベルです』

 

「ってことは、関係者?」

 

彼女は首を傾げているが、まあ当然だろう。

記憶がないのだから、見たことがあっても思い出せまい。

 

「あ、起き上がった」

 

モゾモゾと蠢いていた黒マリモは触手のような二本の長い手(?)で自分の体を瓦礫から引っこ抜き、微妙に浮いた状態で回転、こちらを見た。

 

「うわぁ~…目が合っちゃったよ…逃げられそうにないよね?」

 

『先程リビングに突っ込んできたときの速度から想定できる限りでは、仮に立ち止まらずに走り続けていたとしても撤退成功率は非常に低いと言わざるを得ません』

 

グォォォォォォォォッ!!

 

黒マリモが形容しようもない雄叫びを上げ、突っ込んできた。

 

「≪アイギス≫ッ!だよね!ふざけんなって!正体不明の生命体に襲われるいわれはない、のに、さっ!」

 

突っ込んできた黒マリモを今度は斜め上に突き上げるように弾き飛ばす、黒マリモは割とあっさりと空中で反転し近所の篁さん家の屋根に着地した(接地しているとは言っていない)。

様子見でもしているのだろうか、警戒は怠らずにこちらを睨んでいる。

実際は、目の形状がそう見えるだけで、睨んではいないかもしれないが。

 

グォォォォォォォォッ!!

 

黒マリモが再び雄たけびを上げる…が、今回はそれだけで襲ってこなかった。

代わりにどこか、凄まじい高音が三半規管を刺激するような、そんな脳の芯を刺激するような頭痛が僕達を襲った。

 

「ぐっ!」

 

「あ、うぅ…!」

 

『生命エネルギーの高出力衝撃波を確認』

 

NGST-4(ネグストフォー)が何か言っているが、僕達はそれどころじゃない。

僕は辛うじて立っているが、彼女の方は耳を塞ぎながらうずくまっている。

いや………

 

「おい!君、大丈夫か!?」

 

「…………………」

 

彼女からの応えはない。

最悪の想定は、なぜか高確率で的中する。

彼女は意識を失っていたのだ。

 

このままだとまずい。

 

それがわかっていても、動けない彼女を背負って黒マリモに背中から…なんて事態は絶望的にまずい。

 

黒マリモは何を思ったのか、こちらに両手(?)を伸ばした。

そう、比喩ではなく伸ばした(・・・・)のだ。

漫画に出てくる触手のように、それは限界がないかのように伸びてくる。

その速度は、まるでパイルバンカーでも見ているようだ。

 

―――やるしかない。

 

僕はズボンに仕込んでおいた二本の軍事用ナイフを逆手に引き抜き、跳躍。

突っ込んでくる二本の触手を、切り払いながら突っ込む。

 

新人類連合(ガーディアンズ)次席司令官兼特別技術主任、ブルックリン家現当主、フォルテ・L・ブルックリン…バトルスタートだ!」

 

グォォォォォォォォッ!!

 

僕の声に応えるように、黒マリモは咆哮しながら更に数本の触手を伸ばしてきた。

 

「≪アイギス≫!」

 

僕は≪アイギス≫を展開するが、防御のためじゃない。

 

僕の足がどんなに早くても、空を飛んでいる黒マリモと相対するにはあまりに分が悪い。

人類の主力が戦車でなく戦闘機であることからも、制空権というものがどれほど重要なものであるのかわかろうというものだ。

では空を飛べばいいのか?

簡単に言ってくれる。

人間が空を飛ぶということは、あまりに多くの課題をクリアしなければいけないのだ。

飛行機やヘリコプターが人に近い形をしているだろうか?

否。

鳥や蝶が人に近い形をしているだろうか?

否。

まず第一に、人の体は空気抵抗が激しいのだ。

人間だけではなく、空を飛べない生物はほぼ全てがそうなのだ。

その上、人間に羽などは生えていないし、姿勢制御や重力制御、あらゆる観点から人間は飛ぶに適していない。

不可能ではない。

だが、歴史に名だたる偉人をしてなお、飛行機やヘリコプターといった外部装置に頼って飛ぶことを選択したのだ。

そして、魔力という新たな力を手に入れ、研究を続けている僕もまた、飛行における研究を続けていても、未だ完成していない技術だ。

では、易々と黒マリモに制空権を渡したまま戦うのか?

それは当然、否。

そのために≪アイギス≫を利用するのだ。

 

大きく空中に足を掛けるように踏み出した僕は、その足の裏に≪アイギス≫を展開した。

そこを軸足に、今度は反対の足を踏み出し、同様に≪アイギス≫を展開する。

さながら、階段を上るように空中に駆け上がった僕を無数の触手が追随する。

 

良かった、黒マリモの興味はこっちに引けたらしい。

 

迫ってくる触手の内、攻撃範囲内に入った数本を切り払いながら、僕は少し頬を釣り上げた。

 

僕は脚に魔力を流して、その速度を上げながら、追随する触手を切り払って、黒マリモを焦らすように空中を疾走する。

さすがに脚では触手を振り切るほどの速度は出ないし、黒マリモから必要以上に離れるわけにもいかない。

黒マリモが彼女に襲いかかるかもしれないし、この≪閉鎖結界(フィールド)≫というものがどこまで広がっているのかわからない以上、あまり遠くへ行ってしまうわけにもいかない。

 

幾度が触手を切り払っていると、ついに焦れたのか、黒マリモが突撃をかけてきた。

 

「って速い!?」

 

先程よりも速く、言うなれば野球選手の剛速球を見た時のような速度だ。

おそらく、時速100kmは超えていると思われる。

 

「僕はキャッチャーじゃない、よっ!」

 

足元に展開していた≪アイギス≫の角度を修正し、咄嗟にその場から飛び退く。

さすがに、次の着地地点に≪アイギス≫を展開する暇がなさそうなので、近所の長沼さん家の屋根に飛び降りた。

姿勢を低くして通り過ぎたのを確認すると、そこには勢いのままどこかの家に突っ込んで…いない黒マリモがいた。

どうやら、空中で器用に反転したらしい。

 

「避けるだけじゃ…勝てないよな?」

 

『アンノーンと戦闘する上で重荷となっている、私をパージすることを提案いたします』

 

「その提案は却下する」

 

再び突っ込んできた黒マリモを、今度は回避しつつ切りつける。

しかし傷は浅く、瞬きする間に傷跡を確認できなくなった。

おそらく隠したのではなく、回復したのではないかと思われる。

 

『しかし、重量の問題、そして私がいることで使用できない術式が多数あるなど、デメリットが目立ちます』

 

「お前がいないことで術式発動速度が低下するデメリットの方が大きい!」

 

NGST-4(ネグストフォー)の言っていることは間違っていない。

NGST-4(ネグストフォー)はまだ未完成と言える状態なのだ。

耐熱、耐電機構を搭載した新しい()に移し替える予定が、いろいろあって遅れているため、≪バルカ≫をはじめとする電撃攻撃など、使えなくなっている術式は多い。

また、NGST-4(ネグストフォー)自身の重量も戦闘においては無視できないレベルのものだ。

だが先程も言ったように、NGST-4(ネグストフォー)の演算能力は非常に高いのだ。

それこそ、先に挙げたデメリットを帳消しにするほどに。

 

飛んできた触手を切り払いながら、次の手を考える。

通常の切断で触手は対処可能だが、本体には即座に回復されてしまう。

 

「≪原初の光(フォトンボール)≫!!」

 

原初の光(フォトンボール)≫とは、誘導型の魔力集束弾だ。

大きさは任意に変更できるが、術式を一般化前提で開発しているので、手頃であると思われる手のひらサイズを統一規格にしてある。

人の集中力や思考能力によるが、2~4個ほどが同時に出現させられる平均値らしい。

魔力の制御や思考能力向上に適しているので、最優先で開発した術式だ。

 

4個の蒼い光弾形成され、3個が触手を迎撃し、1個が本体を牽制した。

 

「んっ!?NGST-4(ネグストフォー)、今のどう思う?」

 

『本体に一発かすりましたが、先程の斬撃よりも回復が遅かったようです』

 

「なるほど、納得した」

 

そもそも高濃度の魔力を有していて、彼女と同じか近しい何かである黒マリモに魔力攻撃が有効なのは当然の帰結。

なら有効とされる魔力攻撃を中心にすれば危なげなく勝てるだろう。

問題は一点。

彼女の体力が持つかだ。

彼女が倒れている現状、できるだけ早く彼女を安全なところで休ませたいが、≪閉鎖結界(フィールド)≫を展開してもらっている以上、黒マリモが彼女から離れているという程度では彼女を休ませるという目的を達せているとは言い難い。

ならば、なるべく早期で片づけるべきだ。

 

黒マリモはどうやら、さっきの≪原初の光(フォトンボール)≫に怒ったらしい。

空中で口を大きく開いて、そこに黒紫の三角を基調とした魔法陣が現れ、暗い色の魔力が収束していく。

 

「魔力弾…魔力砲か?なら…NGST-4(ネグストフォー)、≪ソード(・・・)≫をやるぞ!!」

 

『イエス、マイロード』

 

≪ソード≫とは、未だに名前すら決まっていない術式の仮称だ。

実体にある剣などに魔力を纏わせ、簡易的な魔力刃を形成する。

なお、魔力の濃度の上限はまだわかっていないために未完成でもあるが、現状使用可能な術式の中で、最高クラスの攻撃力を誇る術式だ。

反面、高度な演算も必要となるため、僕の頭脳とNGST-4(ネグストフォー)の演算能力を以ってしても、≪アイギス≫の展開を維持したままの発動することは難しい。

着陸し、徐々に蒼く輝きだす両手のナイフをクロスするように構えて、僕は黒マリモと真っ向から対峙する。

 

「こぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!!!!!!」

 

『魔力充填率、下限規定値の580%突破』

 

黒マリモの魔力弾らしきものは、既に直径1mを超えている。

 

『魔力充填率、下限規定値の760%突破』

 

後のことは考えるな!

今はこの一撃に全てを賭けるッ!

集中だ、全てを集中するッ!!

 

『魔力充填率、下限規定値の890%突破』

 

集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中集中!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

『魔力充填率、下限規定値の1000%突破』

 

黒マリモの魔力弾らしきものが一瞬小さくなった。

 

「今だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!!!」

 

僕は、黒マリモが魔力弾を発射する刹那にナイフを振るった。

魔力弾が小さくなったということは、あれは臨界点を迎えたと考えられる。

なら、精密演算を求められる臨界点に乱数を叩き込めばどうなるか?

その答えが今目の前で始まる。

 

グォォォォォォォォォォォォォッ!!!!

 

まるで逆十字(リバースクロス)のように交差する二本の魔力刃が黒マリモに向かう。

それは、黒マリモが発射する直前の魔力弾に(・・・・)ぶつかった。

想定外のイレギュラーな角度から切り付けられた魔力弾は、まるで壊れた蒸気機関のように暴発。

魔力刃によって魔力弾の暴発エネルギーは志向され、全てのエネルギーが黒マリモを襲ったのだ。

 

「少々エゲツナイかもしれないけど、相手が悪かったと思って諦めて?」

 

蒼と黒紫の凄まじい閃光をまき散らしながら、黒マリモは跡形もなく消し飛んだ。

後に残ったのは戦闘で破壊された町並みと、静寂だけだった。

 

「≪ソード≫の記録はとったか?上限値のデータのサンプルとして貴重なものだぞ?」

 

『先程の一撃は下限規定値の1000%まででした』

 

「それでも暴発しなかったか…」

 

どうやら、≪ソード≫の上限値はまだ先らしいが、考察は後にして、僕は彼女を迎えに行くことにした。

 

彼女は先程の暴発に巻き込まれなかったらしい。

当然角度的に計算はしていたから、巻き込まれるなら僕の方が先に被害を受けることはわかっていたけど、直接見て安心するのとわかっているのとではやはり違うのだ。

 

「おい、起きろ。こんなところで寝てると風邪ひくぞ?」

 

「ん…んんっ…?」

 

軽く揺すると彼女は薄目を開けて起き上がった。

 

「んー…ここ、は…?」

 

「寝ぼけてるのか?おい、起きてって!立てる?」

 

「あ…!化け物、黒いボール…!!」

 

どうやら状況認識が一拍以上遅れているらしい。

それにしても、僕と大差ないあだ名をつけられた黒マリモ、哀れ…。

 

「大丈夫だ、もう倒したから」

 

「あわ、わ、わ…」

 

慌てている彼女の頭をワシャワシャと撫でてやる。

初めは慌てていた彼女も、次第に落ち着いてきたらしく、目を細めて気持ちよさそうにしていた。

 

「落ち着いた?」

 

「は、はい。あの、えっと…すみません、お手数おかけして…」

 

「ありがとう」

 

「え?」

 

「こういう時は、ありがとうで良いらしい…この国の、風習?なんだってさ」

 

「あ、ありがとう…ですか?」

 

「そう」

 

「…ありがとうございます、フォルテさん」

 

「どういたしまして、これからよろしく、ピアノ(・・・)

 

「ピアノ?」

 

美少女が可愛らしく首を傾げている光景は、それなりに見ていて好きな光景ではあるけど、それはそれだ。

 

「僕が無理矢理起こした(?)んだし、記憶がないってことは頼るあてもない。当然この世界には世界を渡る技術なんてものはない。このままじゃ野宿になってしまう…でもそんなの僕が認めない。幸い僕の家は裕福だし、人一人養うくらいなんでもない。名前もないのは不便だろ?それとも、ピアノって名前、嫌?」

 

「い、いえそんなことは、ありませんが…」

 

「ならピアノだ。ピアノ、僕の義妹になるといい。面倒は全部僕が見てやる…どうだ?」

 

僕がそう言うと、彼女、ピアノは悩みこんでしまった。

無理もない。

普通に考えて義妹になれ、なんておかしい。

必要無ければ僕も言わなかった。

だが、この世界での戸籍を持たずに生活するには、ピアノはまだ幼く、また“異物”にしても、拾った場所が人気のない未開の地とかならともかく、普通にこの町の一角だ。

なら、“異物”を持ち込んだ何者かが存在する。

そしてそれは、胸糞の悪いことに人体実験の疑いのある存在だ。

最有力容疑者はベルカの人間、またはそれに組する者だ。

高濃度の魔力で願望器というなら、兵器運用か…仮に平和的利用を目的としていても、中に人間を組み込んでいる段階で狂っている。

ピアノが人間であるかどうかはともかく、ピアノはおそらくこの先、多くの何者か達に狙われる。

なら、ピアノの存在を理解し、守れる力があるのはおそらく現状僕か、あるいは僕の仲間の所属する組織、新人類連合(ガーディアンズ)だけだ。

だが新人類連合(ガーディアンズ)は未だ設立して間もないから、そこまでの組織的余裕はない。

それになにより、これは僕の責任だ。

責任を取らない男は最低だって、母さんが言っていたし!←意味はわかっていない

 

「あの…ご迷惑ではありませんか?」

 

しばらく考え込んでいたピアノは、おずおずと聞き難そうに聞いてきた。

 

「ない。僕の責任だし、家族が増えるのは嬉しい」

 

なら僕は断言するだけだ。

ピアノに不安を与えないように。

 

「改めまして、僕の名前はフォルテ・L・ブルックリンだ」

 

「私は…私は、ピアノ…私の名前は、ピアノ、です…!」

 

勇気を限界まで振り絞って、ピアノは名乗ってくれた。

なら僕は、それを受け止めるだけだ。

 

「よろしくピアノ、僕の義妹!」

 

「はい、よろしくお願いします、義兄さん」

 

多分これは、普通の出会いでも、普通の関係でもないのだろう。

だけどこれだけは言える。

僕はこの春…もう増えないと思っていた家族が増えた。

名前はピアノ。

僕の義妹だ。

 

音もなく、周囲の気配が変わる。

 

「あ、≪閉鎖結界(フィールド)≫を解除しました」

 

「そっか、じゃあ戻ろうか?帰ったら、これ(・・)のことも調べないといけないし」

 

そう言って僕が取り出したものに、ピアノが息をのんだ。

 

僕の手の中にあったもの、それは黒マリモの体内から出てきたと思われるもの――――――

 

 

 

 

―――――――――――――“異物”。

 

 

 

◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□◇□

 

 

 

同時刻。

 

「風は空に、星は天に…」

 

この町で、

 

「不屈の(こころ)はこの胸に!」

 

最も目覚めてほしくなかった少女が目覚め、

 

「この手に魔法を…!」

 

もう一つの物語が、

 

「レイジングハート、セットアップ!」

 

静かに始まりを告げていたことを、

 

『Standby ready setup.』

 

僕らはまだ、

 

「なんて魔力だ…!それにあの娘…砲撃型ッ!?」

 

知らなかったのだ。

 

 

 




まさかの本編スタートがアナザー√!!
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投稿、遅くならない用に気をつけないと…
お待たせしてしまって…申し訳ありませんでした!!

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