阿部晴明の鵺騒動が終わり、半妖の里から奴良本家に帰って来て宴が終わり一安心したリクオはふと気が付いた。
そういえば花開院さん達、宴に来ていたなかったなと。
宴に来ていたら話をしようと思っていたんだよねと時計を見る。
朝の11時。
お昼には早いけどちょっと携帯でお話しする位は良いだろうとゆらの電話番号を押す。
コール数回で出たゆらの声は元気だった。
『なんや奴良くん、中途半端な時間やな』
「うん、ちょっとお話ししたくてね、今どこ?」
学校だったら悪いと思って訊くと花開院本家で休憩中だというのでほっとして話を続けることにした。
「えっと、今花開院のみなさんもいるのかな?」
『うん、いるで。竜二兄さん以外なら』
「・・・・・・・・・」
『あれ、奴良くん無言でどうしたん? 兄さんに話だったん?』
突如声が聞こえなくなったので、いぶかしげな声を出すゆらには見えなかっただろうが、リクオの前に座っていたつららは見ていた。
突如立ち上がったリクオの瞳が輝き、にっこり笑っている事を。
「絶対花開院さん達、特に竜二さんには話したい事があって! あ、でもアポとっていないから失礼かと思うけどすぐ行くから内緒で竜二さんの居所、探ってもらえないかな!」
『・・・なんで内緒?』
「うん、そうした方が良いってぬらりひょんのカンが囁くから!」
『納得いくようないかないような答えやな・・・』
つららは引きつりつつも急いで支度と護衛選別の為に席を立つ。
新幹線の予約に護衛達と共に一泊できるくらいの荷造りを指示していると、黒田坊と青田坊が近寄ってきて小さな声で囁く。
「若の顔、昔のいたずらする時の顔そっくりなのだが」
「そうですよね、そう見えますよね、私の気のせいじゃないですよね」
「いいじゃねぇか、それが若なんだからよ」
「まぁ、そうなのだが」
きっといたずらの矛先は自分達じゃない花開院の誰かなんだろうから。
一方、花開院竜二は疲弊していた。
同級生のアサミは竜二の隣で満面の笑顔で竜二が買って来てくれたクッキー缶数個を持っているのとは対照的に。
「わからん。クッキーに何の差があるんだ」
「だから言ってるじゃん、4つの支店でちょっとずつ柄が違うんだって。これを机の上に並べるのが夢だったんだ~ 販売10分で売り切れるから4回来園しないとダメだと思ってたから嬉しいの」
「お前・・・俺らは受験生だぞ、わかってるのか」
「だから、大学生になってからと思ってたんだって~」
夕方6時開店の土産店を狙っていたので、もう日が落ちている。
3時からつきあって式神言言も使ったので精神的に疲労していたが式神を使ったお礼でアサミに夕食を奢ってもらったのでもういい時間だ。
京都はらせんの封印で妖怪的には安全が守られているが、女子高校生1人が夜歩く街としては不用心と言う物だから、家まで送るのはやぶさかではない。
「小学生位まではYSJって毎年行ってたんだけどさ、久々で楽しかったなぁ、花開院君は初めてだったでしょ」
「・・・いや」
「嘘バレバレだって、どう、アサミ監修YSJ回り! ま、3時間位じゃ回りきれなかったから大学生になったらまた行こうね!」
「また行くのか?」
「うん!」
にこっと笑うアサミに一度押し黙ってフンと鼻で笑う
「大学生になったらな、浪人生だったらナシだからな」
「うおぅ、プレッシャーかけるね」
「お前だけだプレッシャーになるのは。俺は余裕で大学行けるからな」
「ムキー! 腹立つ!!」
片手だけ振り上げて、勢い良く肩を叩かれるのかと思ったらアサミにぎゅうっと手を握られた。
「一緒に大学生になる、約束だからね!」
「・・・・・・・・・」
「ほら、私偶然花開院君と同じ志望大学だしさ、ね!」
さっきまで笑っていたアサミだったが、今は真剣に竜二を見つめている。
どきっとした。
「大学行って勉強してバイトして、時々一緒に遊びに行くの。花開院君がいないと楽しくないから」
そういえば、と気づいた。
今までゆら以外、未来について楽しく話した奴はいただろうか。
皆、花開院の早世の呪いに遠慮して今は話すが未来について語ろうとはしなかった。
アサミの周りが穏やかにキラキラして・・・小さい鬼火がキラキラを擬態している。
「・・・・・・・・・餓狼行け」
思わずペットボトルの水を使ってしまう。
アサミがびっくりして竜二にしがみついている間に、餓狼は隠れていた者達を燻り出した。
「あああ、良い所やったのにぃぃ!」
「演出過多だったんですよ! リクオ君!」
「大丈夫、写真は撮った!」
「わわわわ! ギブ! ギブ!」
ゆら、秋房、パドは抵抗なく(もしくは抵抗する暇がなく)餓狼に噛みつかれ、カメラだけを結界で守った雅次はぐるぐる巻きに水で縛った状態になっている。
そしてクサイ演出をしたであろう、にっくき妖ぬらりひょんの孫は妖怪の姿で塀の上で笑っている。
「せっかくときめき演出してやったのに、餓狼けしかけるなんてヒドイ奴だな」
「妖は黒、滅びろ」
「いや、リア充こそ滅びろだよな」
からから笑うリクオの横で餓狼まみれになっているゆら達は無言でうなずく。
「せや、裏切り者ぉぉ!」
「ずるいよ、自分だけ!」
「僕と君の仲だ、事後報告より事前報告が義務だよな!!」
ゆら、パト、雅次は餓狼を千切る勢いで加勢する傍ら、秋房は視線をそらせて曖昧な笑みを浮かべている。
何せ秋房は数日前、百石のことで同じように皆に迫られていたからだ。
その時はリクオがいなかったから今よりはマシだが。
数時間前、リクオが京都にいた小妖怪を臨時雇いにして小百鬼夜行を作り上げ、花開院に向け小行進してから突撃して来て宣言したのだ。
摂政・花開院竜二殿の婚約決定おめでとうございます。 と
昼間の人間の姿で「悪意は全くありません」という笑顔で連続口撃を放った。
早世だからといって妹のゆらの婚約者を決めるのに闘争しながら兄の竜二はそっちのけとはどういうものか。
ゆらが兄を気にしているのに気付いているくせに、兄の婚約者候補が幼児というのはいかがなものか。
「今、竜二殿は己で契りを交わす方と巡り会えた様です。ここはひとつ、皆今まで行ってきた事を振り返り2人を祝福してはどうですか? あ、狐の早世の呪いは解けましたよ。そのご報告に来たのです」
早世の呪いが解けたと聞いた途端、目の色を変えた者達もいたが、ゆらが皆の前に出て睨むので頭を下げる。
こうして竜二の結婚が決まってしまった。
<この娘、もう結婚から墓場まで決まってしまってかわいそうな気がするけど・・・まぁ竜二がどうにかするだろうからいっか>
秋房は遠くを見ているので、竜二はのらりくらりの妖をひとまず置いて、彼を締め上げようと一歩歩いてぎくりと後ろを振り返る。
「よぉ、お嬢さん」
いつの間にか後ろにいたアサミの両肩をがっしり掴み、甘露を含んだ笑みを浮かべ紅瑪瑙の瞳が怪しく煌き涼しげな顔をアサミに近づける。
「竜二は口はキツイが優しい男だ。誰にでも優しくはないので誤解される事が多いが、連れあって共に歩く男としては申し分はない」
混乱しているアサミから、思わぬ事を言われて固まった竜二に視線を向けてフ、と笑いアサミを掴んだ手を少し緩める。アサミは動かずこちらに視線を戻したリクオを見つめていた。
「だが、竜二はちょっと特殊でな、連れ歩く異性ってだけで親戚が叩きのめしに来る。それじゃぁ無情だろうってんでさっきコイツの家に大音声で君という婚約者がいるって宣言してきた」
「「は?!」」
アサミは驚いて目の前の妖をまじまじと見つめたが竜二は再度振り返ってゆら達を見る。
秋房、パド、雅次はバっとゆらを指さし、ゆらは両手を振って知らん、知らんと言うという事はゆらが何がしかしゃべってリクオが大行進してきた予想図が竜二の脳裏にひらめいた。
ゆらへのおしおきをずらっと15図思い浮かんだ竜二は悪くないだろう。
「おせっかいなのは承知している。お嬢さんにその気がないなら悪かったから俺が君を引き取ろう。何、志望大学を東京にすればいいだけさ、大学を卒業する頃にはお互い良い思い出って笑いあえるさ」
<まぁ、大学卒業したら竜二の事はけろっと忘れているだろうさ>
アサミ以外の全員にリクオの副音声が聞こえたのは気のせいではないだろう。
真っ赤な顔になるアサミをつい、奪うようにリクオから遠ざけてしまった。
「おおお! 男見せたね竜二!」
「やるな、竜二!」
ハっと気が付くとアサミを後ろから抱きついた竜二と、それに気づいて更に真っ赤になるアサミに秋房とパドは祝福し、雅次はカメラで良い写真が撮れる場所に移動して連写し、ゆらはなぜか涙ぐんでいた。
「竜二兄・・・立派になって」
「お熱いねぇ」
リクオの最後の止めに、竜二とアサミがパっと身を離したが後の祭り。
その日、花開院では夜を徹してお祭り騒ぎになった・・・小妖怪達によって。
その後、花開院竜二について、花開院歴史書では多くを語らない。
なぜか竜二と後の妻アサミのベストショット写真が数枚残されている。
特筆すべきは花開院家のこの時代、なぜかぬらりひょん一族が何度か突撃してきて宴を催し帰っていく事だけは記されている。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
色々訂正しています。
2016.10/7
パド×→パト
振り下す×→肩を叩く
アサミの周りが穏やかに 以下を~→キラキラして~ に変更
血道×→闘争 (作者注:いや、血は見ていないよね、マダ(汗)
所々の文末。