花開院竜二はそれなりに忙しい。
自分から忙しくしているねん、というのが妹ゆらの突っ込みだが自業自得に近い意味で忙しい。
花開院の摂政としての仕事。
陰陽師としての仕事。
大学に行く勉強。
最近できた婚約者(妻ではない!)との逢瀬。
「竜二兄さん、実は分身の術使ってはる?」
「睡眠時間を削っているだけだ」
「何時間眠りはる?」
「1日3時間だ」
「えええ、それって健康害する睡眠時間やわ~」
玄関で出会った妹ゆらと並び、摂政の仕事をする為に仕事部屋に着いた竜二は固まった。
同じくゆらも固まった。
「お久しぶりです、花開院さん、竜二さん」
「あ、この部屋ちょっと使わせてもらってます」
何故か花開院秋房と妖怪ぬらりひょんの孫奴良リクオが応接ソファーにいた。
「その後、アサミさんとお変わりないようで仲を取り持ったボクもうれしいです」
「妖怪は悪、滅!!」
「わぁぁ! 竜二、切れないでぇぇ! 私が呼んだんだからぁぁ!!」
「竜二兄、ストップ! 書類が伝票が領収書がぁぁ!」
会って直に茶化す妖に、竜二が問答無用で起爆札を取り出したがゆらと秋房に取り押さえられた。
良く見ればリクオは竜二の机を背にしている。札を起爆したら涙目になるのは竜二とゆらだ。
「秋房! なんでここにヤツを入れた!」
「いや、ここしか今空いてなくって」
「他の部屋でも良いだろうが!」
「まぁまぁ」
「俺はお前にまぁまぁ、と言われるだけで腹が立つ!!」
怒鳴るが秋房なりに、あまり花開院の者達に聞かれたくない事を話したかったのだろうと矛先を収めてテーブルを見て首をかしげる。
「なんだ秋房、コイツに刀を作ってやったのか?」
「頼まれてつい」
頭をかく秋房を見て、リクオから頼まれただろう場面がありありと浮かぶ。きっと美辞麗句と熱意をもっておだてて作ってもらったのだろう。人使いが上手い妖だ。
「だって、1回の出入りで刀がボロボロになるんだよ?
毎回もったいないお化けジュニアにめちゃくちゃ怒られるんだよ?」
「上手く刀が使えないお前が悪い」
「上手く使っても限度があるよ。世の中エコな時代なんだよ? ごみ処分所は有限なんだから」
「竜二、私も刀を作る練習にもなるよ、やっぱりコッチよりリクオ君の方が断然多く実地戦闘しているし」
秋房に言われると確かに刀を作る側としては実際使ってくれる者がいるのは有り難いだろう事は想像できる。
心持ち引き下がった竜二をよそに、リクオは新しい刀をすらりと抜いて見聞している。
「祢々切丸と同じ長さだけど、今回はちょっと重いかも」
「確かに、でもまぁ、これ位なら大丈夫」
「今回は前祢々切丸よりハードだよ、鵺の前で木っ端みじんにならない様に嘆願してみた」
「嘆願して強度が増すかな?」
和気あいあいと刀について熱く語っているとゆらがポスンと秋房の横に座って身を乗り出した。
「ここは陰陽師として呪いをかけるのがええやろ」
「呪い?」
「祝福って言ってもええで」
ゆらが自信満々に言い切り、リクオと秋房が首をかしげる。
竜二はこの妹、何かしょうもない事を言いだしそうな気がしてきた。
「刀の名前や、名前。強そうで折れない名前を付ければいいねん」
理解できないリクオは純粋に訊いてみた。
「例えばどんな?」
「新・祢々切丸デラックス」
「は?」
「新・祢々切丸ハイパーでもええねん」
竜二は天を仰いだ。この妹の命名センスは壊滅的に悪い。陰陽師的に。
しかし、ここには陰陽師とは違ったセンスの持ち主がいた。
「名前変えるんだったら製作者の名前でいいんじゃない? 秋房丸でしょ、ここは」
「え、秋房兄、羽衣狐戦で心折れまくってたで。新・祢々切丸ブラックが早々折れてまうで」
「あ、そうなんだ。じゃぁぬらりひょん丸ってどう? 強そうでしょ?」
「強そうっていうか、なまくら刀になりそうやで。それなら竜二丸やろ、強そうで堅そうで折れそうにないで」
「なんか、刀を持っていると嘘つきになりそうでイヤ」
「そうやな、それはなりそうやな」
う~んと悩む中学生達に、あまりのセンスに遠い目になった竜二をよそに秋房が急参戦してきた。
「時代は新しい刀を望んでいるんだよ!
ここはエクスカリバー改でどうだろうか!」
「いや、エクスカリバーって西洋剣じゃなかったっけ。それもアーサー王の時代でしょ。古いって」
「丸って男って意味やろ、ここは次は姫って事で祢々切子ってのはどうやろか」
「なんか、江戸切子の親戚みたいですぐ割れそうだ」
「え、前の刀って男だったんだ?」
ダン!!
熱血していた3人は、机の音に気が付き机に脚を乗せている竜二に注目した。
目が血走っている。
怒ってる。
血管がひくひくなってる。
思わず口を閉ざした3人に、竜二が顔をあげた。
「新しかろうがバージョンアップしようが、祢々切丸で決まりだ。お前ら・・・」
竜二が懐に手を入れた瞬間、リクオは刀を持ってダッシュし、秋房は懐から結界剣を出し、ゆらは頭を抱えて小さくなった。
「出ていけぇぇ!!」
大音声と共に摂政の仕事部屋の扉と窓が吹っ飛び、爆風と共に男子中学生が笑いながら建物から出ていくのを、花開院の術者は見送ってから部屋をのぞき込む。
「ああああ、書類がぁぁ」
「今日は残業決定や・・・」
「あの、2人共、がんば」
「「お前も手伝え」」
当主と摂政と弐篠城守護者が仲良く仕事をしている様を見て、安堵して部屋を後にした。
花開院家の摂政殿は結構短気ですね。
読んでいただきありがとうございました。