花開院ゆらは未成年ながらも花開院当主になっている。
羽衣狐騒動で花開院家の多くが亡くなり、新体制を作っているが日本では有数の陰陽師一家である。
そんな花開院家に一つの依頼が来た。
先祖伝来、この依頼は受けていたのだが感慨深い。
帝が代替わりすると今上で一度、神と妖の宴を開くのだ。その際の護衛が依頼内容である。
東京の皇居にて、ゆらは午前に終わった「神の宴」の後片付けが終わってため息をついた。
「はぁ、これはこれでメンドイけど、夜の「妖の宴」っていうのが本当に妖が来るんだったらメンドウやな~」
「来るんじゃないか、妖が」
同じく片づけを手伝った竜二も腕をぐるぐる回してため息をつく。
「え、本気? だってさっきの「神の宴」、神様来てへんかったやん」
「神様がひょっこり来るなんてありえないが、妖は気分が乗ったら招かれなくったって来るモンだろう」
「・・・せやな」
ゆらと竜二は「気分が乗ったら聖地になっていても茶を飲みに来る妖」を思い出し苦笑いを浮かべた。
「あいつ、来るかな~」
「来るんじゃないか、ただ飯食いに」
「ただ飯、好きな奴やしな~」
「いや、それ以外にもだな」
竜二の視線の先に目をやると、今日の宴の主催者の孫(皇太子の息子)と帝を守る陰陽師一家の当主の中年男が話をしている。
「神様なんていもしない奴の宴なんて、時間と供物の無駄じゃないか」
「いえいえ、これはこれで意味があるんですよ、お父上からお話あったでしょう」
なだめる当主に男の子は口をとがらせる。
「次の宴だって、例のヌエとかキツネとかは呼ばないんだろ?」
「呼べませんねぇ、なんと言って宴の主旨は親睦会ですから」
「つまんない」
更にむくれる男の子に当主は柔らかくたしなめるが聞いていない。最後には「妖なんているもんか」と文句を言って部屋を出て行ってしまった。
2人のやり取りを無言で見ていた兄妹2人は思う。
「妖を否定する人間脅すの、好きそうだよな、アイツら」
「好きや。めっちゃ好物や」
顔を見合わせて頷く。
「来るな、アイツ」
「絶対茶~飲みに来るで、アイツ」
数時間後、帝主催の夜の部「妖の宴」は、2人の予想通り大入りとなった。
今上帝と皇太子、その息子と共に宴の部屋にゆらと竜二が入ると席はほぼ満席。
50席はあろうかという所に大勢の妖がいると、妖気でむせるほどだ。普通の警備員は遠ざけられていて正解だろう。慣れていなければ昏倒する位だ。
今上帝と皇太子は妖が見える眼鏡をかけているので妖の姿がはっきり見えているが、それ以外の者達は自前の霊感で見るしかない。ゆらと竜二はお手の物だが、皇太子の息子、桐生にはおぼろげな黒い影や異形の者、怪しい雰囲気で3Dホラー映画に見えるだろう。
大きな頭の河童や塗り壁、包丁を持った婆さん、色々異形がいる中で美しい男の妖怪は目立つ。
ゆらが見ているのを気付いたのか、手を振ったがこちらに来る気はないぬらりひょんの孫に腹が立つ。
竜二としてもゆらの気持ちは同感だ。アイツ、早くこっち来い、締め上げてやらねば気が済まない。
あいさつに来た妖は、やはりおどろおどろしい見目をまとってにんまり笑いながら桐生を見る。
悲鳴を飲み込む桐生に満足したのか、妖は今上帝と盃を掲げる。この場合の盃は契りを結ぶという類ではなくあいさつ程度のあっさりしたものだが。
「いやいや、なんでも皇太子のお子様は妖はいないと断言しておられたとか。
いないように見せかけるのが昨今の流行りとはいえ、やはり無視されるのは悲しいものでしてなぁ。
どうですこの綺麗な羽織、一級品ですよ、この怖ろしさはここぞという時に着るモノでしてなぁ」
「怖ろしいまでの羽織ですね、鬼殿。桐生も貴方様の羽織を目にしては忘れはしまい」
「忘れない、それは本当に良き事です」
にんまり笑う鬼に、桐生は青ざめるのを止められない。
先程から、今上帝にあいさつに来る妖どもは皆桐生を怖がらせては喜んで帰っていく。
妖というのは、どいつもこいつも怯え、怖がる様を見るのを好きな奴らばかりだ。
席に戻る妖に、わざわざ来たのはどういう事かとやんわり訊けば、皆奴良リクオから帝の孫が「妖なんていないさ、怖いものなんてないさ」と堂々と言い放っていると知らせを受けて、面白おかしく脅かしに来たと言う。
「脅かし甲斐のある坊主で楽しかったなぁ」
戻る鬼にもそう呟かれて、ゆらはため息をつく。
どうしたものだか、と遠くを見るゆらに、桐生がガシっと腕をつかみ揺さぶった。
「え、何ですか桐生様」
「あれ、あれ、あそこ見て!」
桐生が指さす方向を見ると、大勢の妖のほぼ中央で和やかに見える(が実は脅しあっているだろう)妖達が数人酒を飲んでいる。
その数人の中に、今日の騒動の火を放った奴良リクオがいた。人間の姿で。
「いつの間にか、人間が妖の真ん中にいるよ! あ、危ないよ!」
狸の玉章と河童と土蜘蛛に何やら言って笑いあっている平和な図にゆらは見えるが、桐生には黒い妖気のただ中に同世代の眼鏡っこがいる様に見えるのだろう。
竜二は眉間にシワを3本にしてゆらを見て顎をしゃくる。ゆらはため息をつきながら席を立った。
妖達はゆらを妨げる事はないが、新たな騒ぎに目を輝かせて注目している。騒ぎを起こす気はないが、こちらに背を向けているリクオの背中に鉄拳を叩き込む位は良いだろう。
案の定、然程痛そうではない顔でリクオが振り向いた。
「イタ、って花開院さんじゃん。こっち来て良いの?」
「妖の分際で人間に変化するのはどういう了見なん? さっさと妖に戻りぃ」
「いや、化けても変化している訳でも」
「早く戻りぃ」
有無を言わさぬ勢いに、リクオはとりあえず妖姿に戻った。
「せっかくリクオ君が妖だらけの宴に花一輪とばかりに人間姿で和ませていたっていうのに気が利かないねぇ、帝の孫は」
「人間でも妖でも大差ないだろうが・・・おい、あの孫はまたずいぶん驚いているみたいだぞ」
「あ、本当だ」
玉章と土蜘蛛に言われてゆらが桐生に目を向けると、彼はひえぇっと驚いていた。
「え、マジでここに人間が一人いると思ったんだ」
「大丈夫か、あの孫」
桐生の驚き様に、皇太子が背をさすって安心させているのが見える。まぁ戻ろうかと思ったが、今度は土蜘蛛がゆらに酒を注いだ盃を押し付けてきた。
「俺の酒が飲めねぇって言うか?」
のん兵衛3人に囲まれたゆらは、抵抗空しく頂戴した。飲んでから気付いたが用意した酒ではない。明らかに高い度数の酒だ。
次々に酒を注がれ、ゆらが覚えているのは4杯まで。その後は眠くなり・・・誰かに担がれ・・・
目を開けたらリクオのどアップで驚きの声をあげた。
朝の10時頃という、大層遅い時間に雪女に用意された朝食を食べ始める。味噌汁に氷が浮いているのに何故か美味しい。
「いや、ボクだって驚いたよ。ちゃんと違う部屋に布団敷いて寝かせたんだよ?
そうしたら朝になってアレでしょ。ゆら、寝相が悪いにも程があるよ」
「下の名前言わんといて! 違うやろ! 誰や、布団ごと奴良くんの部屋に運ぶ奴は。黄泉送りかましたる!」
どうやら酔って寝てしまったゆらを、リクオが自分の家に運んでくれたらしい。
運ばれた恥ずかしさと朝のいたずらでの憤怒でゆらは顔が赤くなるのを止められない。
「ゴラ、未成年カップル。責任という言葉を知っているか」
こちらはなぜかいる竜二も食事をとっている。
「はぁぁ?! 冗談キツすぎるで竜二兄さん!」
「責任っていってもねぇ。あ、そうだ、今日花開院さんの家に行って添い寝でお相子って事でどうかな」
「いいわけないやろ!」
「お前、そんなに俺の家にたかりに来るのが楽しいのか」
ああ言えがこう言う。竜二をもってしても、ぬらりくらりのぬらりひょんは堪えてはいないらしい。
更に真っ赤になるゆらを横目に、竜二もご飯をかきこむ振りをしてリクオの笑顔から隠れるしかなかった。
特にカップリングは考えていません(汗
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