花開院家とぬらりひょんの孫   作:よしの桜

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地獄の沙汰も妖しだい

とある早朝、花開院家は日が昇る前から戦闘態勢に入った。

場所はとある井戸の前、有名な「黄泉への入り口」とされるものの前だ。

 

ゆらとパドと竜二は式神を配置し、秋房は薙刀を持ちマミルと共に最前線に立ち、雅次はいつでも結界術を行使できる態勢で待機している。

 

「・・・来るぞ」

 

竜二が眉間のシワを一本多くした所でゆらとパトは警戒心を強く上げる。

 

「行け!」

 

竜二の号令と共に、井戸から何者かが出て来た。

 

「ゆらMAX!」

「ゴモラマル!」

 

水泡とゴモラマルの鉄拳、秋房の薙刀が何者かに撃ち放たれる。

数瞬後に竜二の言言が放たれるが雅次は目を点にして動きを止めていた。

 

「いや、みんな、これはちょっと」

「妖怪は悪! とにかく悪だ! 黒だ! 攻撃続行!!」

 

雅次の後ろにいる陰陽師達も無言で動きを止める。

 

「ゴモラ行け! 鉄拳だ! 鉄拳だ!」

 

言言とゴモラマルのみ井戸から現れた妖に攻撃を加えるが、初撃を避けた妖はのらりくらりと躱している。

 

「竜二兄さん・・・ストレス溜まってたんかいな」

 

ゆらは式神を解除して頭をかく。2人を止める術が思いつかないからだ。

 

「そういえば御門院家の人達とか、彼に攻撃を避けられてムカついていたって言ってたよね。あの避けられ方はねぇ」

「避けるだけなら世界一じゃないか?」

 

薙刀をにぎりつつ眉をしかめる秋房と静観する雅次の視線の先には彼がいた。

 

関東一の妖、ぬらりひょんの奴良リクオ。

白と黒の長い髪に紅の瞳、表情は珍しく焦った顔になっている。

 

「なんで攻撃されるんだ? オイ、やめろって」

 

攻撃の意思がないらしく、リクオは刀を抜き放っていないが竜二とパトは攻撃を止めない。

そして、間が悪く朝日がこぼれて来た。

 

妖気が拡散して人間になりつつあるリクオに、なぜか止めを刺そうとする言言にマミルが素早く動いて札で止める。

 

「止めるなマミル!」

「ありがとぉ~」

 

疲れた顔をしたリクオに、素早くマミルは手を動かした。

頭と顔にいっぱい貼られた「封」の札。マミルの早業でリクオの顔と頭は札で埋められた。

 

「えっと、なにこれ」

 

見えないが触って首まで札で覆われた状態がわかったらしい。

マミルは無言でリクオと竜二とパトを見た。

 

「ケンカは両成敗」

 

 

 

 

結局リクオはお札で頭が隠れた状態で花開院家に連行された。

 

 

 

花開院家のお年寄りに説教されて解放されたリクオはちょっとむくれていた。

リクオはおじいちゃん子なので、お年寄りの説教はとりあえず聞く子なのだ。

 

「地獄から帰ってくるのにちょっと使っただけなのに・・・」

「時期が悪すぎや! 鵺警戒結界作動中やのに」

「いや、まて。お前地獄に行ってたのか?」

 

自分で札を剥がしてグチるリクオに竜二が意外に思って突っ込んだ。

てっきり人間(特に花開院の誰か)を脅かそうとか思って井戸から出て来たと思っていたのだが、あにはからんや。

 

「地獄は散歩先の範囲だよ」

「え、地獄に行って帰ってこれるもんなの?」

「地獄生まれの妖だと基本浮世は来れないけど、ボクらは浮世出身だからね、行けるし帰れるよ」

 

人間の物差しは妖とは違うらしい。

リクオは人間として育ったハズなのに、妖世界のお坊ちゃんなので時折常識の行き違いが発生する。

日常生活での行き違いは幼馴染のカナに修正されていたのだが。

 

「あ、そうか、人間は行き来できないんだっけ」

「行けるがコチラに帰ってこれないな。片道切符ってヤツだ」

「お父さんに会いに行ったんか?」

 

リクオの縁戚で鬼籍にいるのは祖母と父だけだと聞いているのでゆらが遠慮なく訊くと、リクオは笑顔で頭を横に振る。

 

「訊きたい? 訊きたいよね?」

 

訊きたいけど何を要求されるのか、身構えるゆらの前にリクオは時計を指さした。

 

「朝食で手を打ってあげる」

 

 

 

朝食に満足したリクオは、食後のお茶をいただきながら携帯の写真を見せた。

はっきり言って食事時に見る写真ではない。人間らしきものがひき肉団子になっている。

雅次は口元に手を当てて堪えたが、他の皆は興味深げに見るだけだ。

 

「おい、ゆら。お前も女ならせめて口元に手を当てろ」

「大丈夫や、私は嫁に行かん。婿とりや」

 

妹の答えに兄として肩を落とす竜二を他所に、ゆらは首をかしげる。

 

「お父さん、えらい事になってるな」

「だから、お父さんじゃないから。阿部晴明だから。ほら、ここに立て札あるじゃん」

 

ひき肉団子の横に確かに立て札がある『阿部晴明の素』と。

 

「亡者とか地獄出身の妖が地獄から無許可で出て騒ぎを起こすと重罪なんだって」

「ああ、そうかもな」

「陰陽術で隠れてお父さんを殺した罪も上積みされて、地獄の鬼にフルコース折檻なんだって。

ボクは被害者遺族だから、呼ばれて説明受けたんだよね」

「そ、そうか」

「地獄の鬼って激強だね。鬼童丸なんて抵抗したけど金棒一振りでぺちゃんこになってたよ。ボクも避けるのは難しいかな。

地獄ってひき肉になっても生きているからゆっくり治るんだって。で、治ったらまたひき肉をあと95回だって。

その後阿鼻地獄に2千年落ちて移動はなしで直行ご案内だそうです」

 

リクオは写真から動画に切り替えて見せる。

こちらは晴明を叩きのめす動画で、確かに鬼が一人で金棒1本でつぶしていた。

怖ろしいのは叩きながら「ビザなしで浮世に行って私の仕事を増やしやがって!」とグチを言っている所だ。鬼にとって晴明はやっかいな書類仕事を増やしたヤツで、そのストレスを発散しているのだろう。

 

「あと山ン本五郎左衛門がこっち」

 

雅次が目を離して本格的に胃と格闘している間に、リクオは違う写真を見せる。

こちらはグロくない。というよりこれぞ地獄という地獄のカマだ。湯気が立っていて見えにくいが誰かの手だけが見えるので煮込まれているのだろう。

 

「山ン本も重罪だから、煮込んで煮込んで、更に煮込んで煮込んでから阿鼻地獄行きだって」

「4回煮込むん? 煮込む意味あるのかいな?」

「食べる訳じゃないからね、そういう責め苦なんだって」

 

責め苦と言われれば、ゆらも特にそれ以上突っ込めなかった。

朝食に煮込み料理がなくて良かったと思うパドと秋房の後ろを雅次がふらふらと横切る。限界なのでトイレに行くのだろう。

 

「本当にお父さんに会いに行かなかったんか? 今なら会えるで」

 

ゆらは腕を組んでリクオを睨むと、リクオは苦笑する。

 

「お母さんが会えないのにボクだけ、っていうのはダメだよ」

「・・・そか。そうやな」

 

しんみりするゆらに、リクオはいつもの穏やかな笑顔になりそれでね、と続ける。

 

「閻魔大王に頭を下げられてね、何か償いをって言われたから『お父さんが早く償いが終わるようにしてください』ってお願いしたの。ぎゅぎゅっと刑期を短くして30年位で出所できますように、って」

「ほぉ、30年か~ 多分短いんやな~」

「うん、特別報酬だって」

「でも、お父さんは何の償い?」

「一番はおじいちゃんより早く死んだ罪だって」

「ああ、それはそうやな~」

 

ぽやぽやとゆらとリクオは和やかに話しているが、竜二と秋房は見合ってしまった。

 

「今の、裏の意味って・・・」

「ああ、30年たったら転生させろって事だろ? 30年といえばリクオの母さん、60歳ちょいか」

「あの方、その、長生きしそうだよね」

「ああ、70歳以上生きるだろう」

 

2人はリクオを見る。いつもの穏やかな笑顔だが・・・

 

「後妻の母より先妻をとったんだから、もう顔出すなって事か?」

「ああ、良く考えれば昼ドラの世界だな。妖だから丑の刻ドラマかもしれんが」

「こ、怖いよ、リクオが実は怖い・・・!」

 

2人の会話を聞き、怖がるパトに竜二が優しく肩を叩く。

 

「ゆらだって気付いているぞ。わかっててリクオに賛成してるんだ、アレ」

「お互い、妻は1人にした方が無難だな」

「そうだな」

「ボ、ボクだってそうするよ!」

 

3人の男はゆらを見る。もし3人がその手の騒ぎを起こしたら、ゆらはきっとリクオにグチるだろう。そして、リクオはフェミニストだ。女性を悲しませた分は地獄で鬼と一緒に制裁に加わる・・・かもしれない。

 

3人は誓った。決して女性を泣かさない、と。

 

 

 

 

 

 

 

 




日本の宗教は難しい。
一応、裁判→天国or地獄→輪廻転生 じゃないのかな。
後半マミルはいますが会話していませんって事で(汗
最後まで読んでいただきありがとうございます。

色々訂正しています。
2016.10/7
体制×→態勢
パド×→パト
女性を悲しませた分は 以下→鬼と一緒に~ 訂正して追加
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