リリカルなのはvivid―アナザーメモリーズ― 作:NOマル
――――翌朝。
いつもの様に、ネクサスは家族と共に、朝食をとる。
「それじゃあ、いただきます」
それを合図に、家族全員と“もう一人”が食事を行う。
「アインハルト、それ取って~」
「はい、どうぞ」
「ありがと~」
レヴィは向かい側にいる“アインハルト”に、醤油を取ってもらった。
「アインハルトさん、どうぞ」
「ありがとうございます、ユーリさん」
オレンジジュースを入れてもらい、コップを受け取る。
「……お味の方はどうでしょうか?」
「はい。どの料理も、とても美味しいです。特にこの炒め物が」
「ふっ、当然であろうな」
シュテルが聞くと、素直に美味しいと述べるアインハルト。自分の作った料理が褒められ、自信満々に、嬉しそうに頷くディアーチェ。
(……………………な~んでこうなっちゃったのかしら?)
専用の木箱――曲線を描いた様な形で、住み心地は良いらしい――の中から、観察する様に覗き見るキバーラ。その隣には、一着のパーカー――黒い生地で、灰色のラインがある――が、ハンガーにかけられている。
今、目の前で広げられている、平穏かつ和やかな食卓風景。自分の身内に加え、その友人が朝食を共にしている。
昨日、ネクサスからアインハルトに食事の誘いを言い出した。前々から、一人暮らしである事を聞いていたネクサス。
その時でも、誘えば良かった。しかし、当時は“キバ”となり、まだ間もなかった為、そうした時間が取れずにいた。
しかも、彼女は覇王の末裔かもしれない。因縁ある関係である為、こうした行動に出る事が出来なかった。
だが、昨日のヴィヴィオとの模擬戦を目にした。その時の、彼女の悲しそうな表情。見た瞬間、もう迷ってなどいられなかった。
思い切って誘ってみた結果が、この通りだ。
(とはいえ、追い出すのもねぇ……)
流石にそんな酷な事は出来ない。キバーラは疲れた様に、ため息を漏らす。
見た所、ネクサスはともかく、他の四人もアインハルトの事を歓迎している様だ。
“とある事情”で、極力に外出は控えて、人目につかない様にしている四人。無論、今の生活に文句など微塵もない。しかし、どこか物足りなく感じてしまう、という事もあった。
アインハルト自身、戸惑いながらも、こうして四人と楽しく会話が出来る様になっていた。
「ごちそうさまでした」
楽しい食事も終わり、食器を集める。
「アインハルトさん、片付けは僕がするから」
「いいえ。ご馳走して頂いたのですから、これくらいは手伝わせて下さい」
アインハルトは積極的に手伝いを行っている。汚れた食器を手に、洗い場まで持っていく。
「どうぞ」
「うむ、すまんな」
食器を洗っているディアーチェに渡し、今度はシュテルが行っている食器を拭く手伝いをする。
やがて作業を終え、一段落する。
「ねぇねぇアインハルト!一緒にゲームでもしようよ!」
「レヴィ、あまり強引に寄ってはいけませんよ?」
「え~、いいじゃんか~」
困惑するアインハルトに抱きつきながら、口を尖らせるレヴィ。シュテルが呆れながら注意する。
「お前ははしゃぎすぎだ。見ろ、戸惑っているではないか」
「すみません、アインハルトさん。レヴィったら落ち着きがなくって」
「い、いえ……」
「だってさ、初めてじゃん!ネクが友達連れてくるのなんて」
「そう、なんですか?」
目を丸くするアインハルト。彼から聞いた話によると、二人の親友がいる筈。一度くらいは遊びに誘っているものだと思っていたからだ。
「そう、だね……うん」
訪ねられると、ネクサスは困った様に、目を反らした。
怪訝に思い、もう一度尋ねようとする。
「あの、ネクサスさん――――きゃあっ!?」
「ねぇねぇ、早く遊ぼうよ~」
「これレヴィ、いちいち騒ぐでないわ」
「では、何して遊びます?」
「サッカー!」
しかし、外は生憎の雨だ。
「じゃあ鬼ごっこ!」
せっかく綺麗にした家の中をまた散らかすつもりなのだろうか?
「じゃあチャンバラ!」
家を破壊しかねない為却下。
「ぶぅ~、ちょっと位ならギリギリ大丈夫だと思ったのに」
「煎餅をバリバリ食うな、溢れておるではないか!」
拗ねた様に、レヴィは菓子をやけ食い。その食べ滓を目にし、ディアーチェが叱咤する。
ともかく、暴れるのはテレビゲームの中だけにしてほしい。
「普通にゲームでいいんじゃない?」
「……えっ?」
聞き慣れない声。女性だというのは分かるが、この部屋にいる少女達の声ではないだろう。大人の女性特有の、熟成した声色だった。
アインハルトは疑問に思い、周りを見渡す。
「今の声は……」
「そうだ!ゲームしよっか!」
「室内で出来ますし」
「そうしましょう」
ネクサスが横入りする様に、そう提案する。やや慌てているのは気のせいだろうか?後からシュテルとユーリも加わり、アインハルトを促す。
「あの、誰かの声が聞こえた気が……」
「ああ、それ“キ”――――」
「“気のせい”ではあろう。案ずる事はない」
レヴィの口を後ろから素早く塞いだディアーチェ。危うく、ボロが出る所であった。
シュテルとユーリに誘われ、アインハルトは、部屋を移動する。先程の声について、怪訝に思いながら。
ディアーチェも、レヴィの口を手で覆ったまま、付いていく。去り際に振り返って、半目で睨んだ。
視線の先にあったのは、バイオリンに似た様な形をした木箱。壁に設置されており、一見この部屋の装飾にも見えるが……。
(あっぶな~~……!?)
その住人であるキバーラは、翼で口を覆い隠し、安堵する。その真横にて、ハンガーにかけられていたホロンが、木箱の中を様子見る。
「ついつい会話に突っ込んじゃったわ……だって、楽しそうに話してるんだもの~」
何をやってるんだが……、と言いたげに、呆れた視線を送るホロン。
アインハルトは、覇王の記憶を受け継いでいる。一応、覇王とは面識がある。といっても、ほんの一言二言話しただけ。
しかし、万が一という場合もある。その為、今こうして隠れているのだ。
「でも、さっきは危なかったわ。今度は気を付けないとね。ディアーチェにも睨まれちゃったし……もう、私のおバカさん」
片方の翼で、自分の額をコツン、と叩く。テヘッ♪という擬音、幻聴が聞こえるのは、疲れているせいだろうか?
――――いい歳して、本当に何をやってるんだか……。
ホロンは、顔に片手を置き、重いため息をつくのであった。
◇◆◇◆
テレビゲームや、トランプなどで遊び尽くし、夕食と風呂まで済ませた。アインハルトは一人、寝台の上で、横になっていた。
ネクサスが住んでいる我が家。外装は、古風な印象を与える西洋館。しかし、内装は今の時代と大差ない物となっている。
部屋の数も多く、ネクサス達が使っている自室を除けば、後七部屋程余っているのだ。その内の一部屋で、アインハルトは宿泊していた。
「自分の部屋だと思って、ゆっくりしていってね」
初めて案内された時、ネクサスからそう言われた。
高級ホテルと同等の、広々とした空間。部屋の隅から隅まで清掃が施されており、徹底されているのが分かる。別に、アインハルトが来ると分かって、急遽した訳ではない。週に一回は、普段使用しない部屋を掃除するのだ。その際、“一匹のコウモリ”が監視。厳しく目を光らせ、一切の妥協を許さない。
今、横になっているベッドも、実に心地よい。程よい柔らかさ、鼻腔を擽る仄かな花の香り。
アインハルトは、ゆったりと寛いでいた。
「はぁ……お泊まりなんて、初めてですね」
一言で言えば、楽しかった。
一緒に遊んだり、食事したり、友達と過ごす時間。
鍛練に身を注ぎ込んだ自分が、生まれて初めて抱いた感情だった。
「ネクサスさん……ありがとうございます」
楽しい機会を与えてくれた、大事な友達。彼に礼を述べ、笑顔を浮かべる。
「そういえば、ネクサスさんの家に来るのも初めて――――」
口を止め、改めて認識した。友達――――否、“男子の家”に泊まっている事実に。一つ屋根の下、当然の如く彼もいるのだ。
「……も、もう寝ますか」
赤みを帯びた顔を隠す様に、毛布を被ると、睡魔がやってくる。瞼が重くなり、アインハルトは、そのまま眠りについた。