リリカルなのはvivid―アナザーメモリーズ―   作:NOマル

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simulation―継続は大事なり―

ミッドチルダの人々が寝静まった夜。

町から少し離れた海辺。浜辺を歩いている“ソレ”は、不意に立ち止まる。

 

暗闇を思わせる、深紫のロングコート。顔を、機械的なマスクで覆っている。単眼の様な、透明なレンズ越しに、その人物は辺りを少し見渡す。

 

「――――さて、人数はこれだけかな?」

 

そう呟くと、その場に二体――――いや、三体の異形が現れた。姿に違いはあれど、ステンドグラス状の体表など、共通した部分がある。

そう、この三体はネオファンガイアだ。

 

「貴様か。我等を呼び寄せたのは」

「それで、何の用なのかしら?」

 

不機嫌な声色の男性。もう一人は女性型のネオファンガイアだ。

そして最後の一人はというと、海中にて待機している。

 

「そんなに警戒しないでくれたまえ。私は敵ではないよ」

「ふん、どうだがな」

「見るからに怪しいし、ファンガイアでもなければ……人間でもないわよね?」

「ふむ……そうとも言えるな」

 

一言で言うと、得体が知れない。警戒心を解かないまま、その人物を睨み付ける三体。

対して、相手は怯む事もなく、普段通りの姿勢でいる。

 

「何が目的だというのだ。つまらん理由なら、容赦はせんぞ」

「まあまあ、落ち着いてくれよ。今日は、耳寄りな情報を与えようと思ってね」

 

その言葉に、疑問を持つネオファンガイア達。再度、三体を見渡し、その人物は答えた。

 

「“覇王の末裔”を知っているかい?」

 

三体の雰囲気が、変わった。反応は、驚愕の二文字に尽きる。男性型と女性型は、顔を見合わせ、人物に視線を向けた。

 

「……知っているのか?」

「信じるか信じないかは、君達次第」

「まあ、話くらいは聞いてあげるわ」

「それは有り難いね。では早速」

 

町外れの小さな浜辺にて、秘密の会談が行われていた。

 

 

◇◆◇◆

 

 

――――親友よ……。

 

「っ!」

 

少女は、目を覚ました。

息は荒く、汗も少し出ている。寝起きだというのに、瞼は大きく開かれ、悪夢に魘されていた様に見える。

 

深呼吸し、息を整える。

 

「……クラウス」

 

先祖の名を呟き、寝台から立ち上がるアインハルト。カーテンを開け、眩い日光を全身に浴びる。それでも、彼女の表情が晴れる事はなかった。どこか、思い詰めている様に見える。

 

「覇王の、悲願を……!」

 

絶対に忘れてはならない。自分の成すべき事を。

楽しい日常に甘えてはならない。強くなる為に。

 

怠けていた昨日の自分を叱咤し、決意を思い返した――――直後、アラームが鳴った。

 

「きゃっ!?」

 

耳を通じ、脳にまで響くけたたましい大音量。思わず肩を震わせ、茫然と立ち尽くす。

 

『緊急事態発生!エネミー出現!』

「えっ?えっ?」

『全員、直ちに行動を開始!至急、避難せよ!』

「えぇ……!?」

 

一体何事……?

 

戸惑いながら、部屋の外に出るアインハルト。ドアを開け、廊下に出た瞬間。

 

「うわっ!」

「ぬおっ!?」

「あうっ……」

「きゃっ!」

 

走っていたレヴィ、ディアーチェ、そしてシュテルと激突してしまった。

揉みくちゃになり、三人の下敷きになってしまうアインハルト。

 

「いったた……あっ、ごめんアインハルト!」

「い、いえ……」

 

アインハルトの体に馬乗りになっていたレヴィ。彼女の胸に置いてしまった両手を離し、直ぐ様体を退けた。手を取り、ゆっくりと立たせる。

 

「あやつめ……客人が来ているというのに、これだけはやるのだな」

「習慣みたいなものですからね」

「してシュテルよ……そろそろ退いてくれぬか?」

「はい……ですが、中々座り心地が良いので、もう暫くこのまま――――」

「早くどかんかっ!!」

 

うつ伏せで倒れているディアーチェの背中に跨がっているシュテル。王に怒鳴られ、渋々退くのであった。

 

「まったく」

「あ、あの……これは一体……?」

「申し訳ありません。唐突な事で、驚かれたでしょう」

「そうそう、これはね――――」

 

説明しようとした時、爆発が起きた。向こう側にある部屋が、だ。爆風で、彼女達の髪が激しく靡く。

 

「えええええええっ!!?」

「やっば!」

「時間が危ういです」

「説明は後だ!とりあえずついてこい!」

「えっ、えぇ~~!!?」

 

木っ端微塵に吹き飛ぶ廊下内。いつもの冷静さも忘れ、大声で叫ぶアインハルト。ディアーチェに手を引かれ、訳が分からないまま先へと進む。

爆発が止まない廊下を抜け、二階の手すりに着いた。

リビングに設けられた、煉瓦で作られた暖炉。それが変形し、人が入れる程の扉となっていた。しかも、上からシャッターがゆっくりと下りていく。

 

「行くぞっ!者共!」

「お~~!」

「お~~」

「お、お~~……?」

 

堂々とした、ディアーチェの号令。

レヴィは元気よく、シュテルは棒読み、アインハルトはやらされてる感満載の掛け声で返す。

 

彼女達を追いかける様に、爆発が起き、爆風が迫ってきた。

 

三人は階段を駆け下り、アインハルトも慌ててついていく。

シャッターは既に、閉じられる寸前にまで、地面に近づいていた。

 

「でぇいっ!」

「ゴロゴロ~」

「とおっ!」

「っ!」

 

ディアーチェは何とか走りきり、中に入る。シュテルはゴロゴロと転がり、レヴィはスライディング、アインハルトも頭から滑り込み、シャッターの中へギリギリ入る事ができた。

 

四人が入った直後、バタンッ!と閉じられたシャッター。

中は、真っ暗闇で何も見えない。相手の姿はもちろん、自分の体すらも認識出来ない。

 

すると、急に明かりが点いた。

 

『ミッション、コンプリート!』

 

ゲームクリア時に発せられる音声と共に、BGMが流れる。

アインハルトはまたも驚き、他の三人は慣れているのか、然程の動揺はしなかった。

すると、前方からネクサスとユーリがやって来た。

 

「みんな、おはよう」

「皆さん、お疲れ様でした~」

「えっ?えっ?えぇ……!?」

「ごめんねアインハルトさん。今から説明するから」

 

訳が分からず、混乱の渦中にいるアインハルトに話しかけ、ネクサスは説明を行う。

 

 

◇◆◇◆

 

 

“過去に起きた事件”により、両親――――そして“兄”を失ったネクサス。

それ以来、キバーラがネクサスを親代わりとして引き取っている。しかし、この事実はあまり周囲には知られていない。知っているのは、学院の中でも、ごく少数――ゼラムなど――だ。

隠しているという訳ではない。かと言って別に自分から言う事でもない。

両親が死んでしまった、などとわざわざ言いたくない。

 

そして今は、ネオファンガイアという脅威が存在している。何時、如何なる時も、自分の身は守れる様にしなければならない。

 

その為に、強くなる。

 

「つまり……避難訓練、ですか?」

「まあ、そんな感じだね」

 

キョトンとした表情を浮かべるアインハルトに対し、ネクサスはそう説明する。

万が一に備えて、ありとあらゆる状況を想定し、臨機応変に行動できる様に。そういう目的で始められたのが、このシミュレーションシステムだ。手掛けたのは、ゴースト族きっての頭脳陣。

先程の爆発も、その内の一つ。デバイスと同様、非殺傷設定にしている為、怪我をする事はない。

 

「月に一回程の頻度で行われます」

「しかも日時、内容までもが全てランダムだからな。攻略しようにも、攻略しきれん」

「こんな風に、バン!バン!来るからね~」

「因みにプログラミングは、ユーリがやってくれてるんだ」

「そうなんですか!?」

「えへへ……」

 

他の三人も説明に加わり、何となく理解するアインハルト。ただ、このシステムに携わったというユーリに対しては、驚きを隠せずにいた。当の本人は、ネクサスに頭を撫でられ、照れ笑いを浮かべている。

そんな状態――他の三人と同様、羨ましそうに見つめながら――の中、改めて、明るくなった部屋を見渡す。

 

ランニングマシーン、エアロバイク、バランスボールなど、ごく普通のトレーニングマシンが設置されていた。一種の、ジム風景の様だ。

 

ここまでは、“普通”だ。アインハルトの視界に、“あるもの”が写った。

 

「あの……あれは?」

「ああ、“ロボタフ”だよ」

 

部屋の隅にて、待機している人型のロボット。丸みを帯びた、橙色のボディ。両手が、ボクサーミットの形をしている。

その名も、トレーニングドロイド“ロボタフ”。今は充電中で、活動を停止している。

 

「その人のレベルに応じて、トレーニングの相手になってくれるんだ。といっても、これはあくまで初心者向けの練習用だから。本物の格闘技選手に比べると、戦闘能力は低いけどね」

 

ポンポンと、待機状態となっているロボタフの肩を叩くネクサス。アインハルトはというと、興味津々な様子で、じっと見つめていた。いつものクールな雰囲気は何処へ?

目を輝かせ、感嘆の息を漏らしている。

 

「えっと……よかったら、やってみる?」

「いいのですか!?」

「あっ、うん」

 

眼前まで詰め寄られ、思わず仰け反るネクサス。

アインハルトは我に帰り、ネクサス同様、顔を真っ赤にする。気分が高揚してしまい、思わずはしゃいでしまった。

 

「す、すみません、いきなり……」

「い、いや……うん……」

 

顔を反らし、気まずい空気となる二人。微笑ましい、初心なカップルに見えなくもない。

それでいて、完全に蚊帳の外状態にある四人。共通しているのは、目を細めてジ~~っと、見ている――特にネクサスを――事だ。

 

『……ねぇ、これってさ』

『“そういう事”、ですよね』

『恐らくは……』

『成る程、“そういう事”か』

 

四人の中で“ある仮説”を立てる。

 

――――不意に、腹の虫が鳴った。

 

「あっ……」

「「「「「あっ……」」」」」

 

アインハルトの、お腹からだ。彼女の顔は更に赤みを増し、ついには俯いてしまう。

 

「とりあえず、朝食にしよっか」

「……はい」

「そうしましょう」

「体を動かしましたからね」

「てっきりレヴィが鳴らしたのかと思ったがな」

「ちょ、王様~!」

 

和気藹々と談笑しながら、その場を後にした。

 

 

朝食も食べ終え、食器類も片付け終わった。

 

「う~ん……ちょっと少なくなってきたかな」

 

冷蔵庫の中身を確認し、眉を潜めるネクサス。一先ず、食材を買いに行くことにした。

 

「ちょっと、買い物に行ってくるよ」

「私も参りましょうか?」

「いや、一人で平気だよ」

「だが……」

『ほら、最近、局員の人達もパトロールに出てるし、万が一、“オリジナルの人”に出会っちゃったらさ』

 

念話でのネクサスの言葉に、家族――――マテリアルズは閉口する。

特にシュテル、レヴィ、ディアーチェの三人は、“あの三人”に瓜二つな為、遭遇してしまったら面倒な事になるのは間違いない。

 

『では、私がついて――――』

『ユーリちゃん、あなたも行かなくていいわ』

『えっ、どうしてですか?』

『どうしても、よ』

 

今度は、キバーラが念話でユーリに話しかけてきた。怪訝に思い、木箱の方に視線を向けるユーリ。アインハルトに見つからない様、覗く様にしてこちらを眺めているキバーラ。

ルビーの様な紅の瞳。じっと見つめられ、ユーリは訳も分からないまま、黙る事にした。

 

「あ、あの……私が行きましょうか?」

 

遠慮気味に、アインハルトが挙手をする。

 

「いや、いいよアインハルトさん。僕一人で行けるから」

「ですが、荷物が多くなったら、両手では抱えきれないのでは?」

「でも……」

「私も手伝います。行きましょう、ネクサスさん」

 

押しきる様に、ネクサスの手を引いて、買い物に出掛けて行ったアインハルト。気分的にも余裕が出来たのか、中々積極的になっているアインハルト。ネクサスも手を引かれたまま、同行してもらう事になった。

思わず、四人は目を見開いて凝視する。ネクサスとアインハルトの手が、重なる所を。

 

バタン、と、玄関の扉が閉まった。

 

「……行った?」

「行きましたね」

「行ったね」

「行ったな」

「確認、OKです」

「よし、全員集合」

 

キバーラの号令に従い、四人は一ヶ所に集合。キバーラを中心に、円陣を組んでいる。

 

「さて、約一日過ごしたけど……みんなはどう思う?」

 

四人に問いかけるキバーラ。内容は勿論、アインハルトの事だ。

 

「シュテル、報告せよ」

「ネクサスの方から彼女への“チラ見”、12回。“ガン見”、10回。彼女からネクサスへの“チラ見”23回。“ガン見”、20回。目と目が合った回数、五回。この事から、彼女の気持ちの方が約二倍大きいと見られます。ネクサスとアインハルトが一緒にいる場面には、いつも立ち会っているので、数え間違いはない筈。以上です」

「――――との事だ」

「んなもん、どうでもいいわ!」

「お~、キバーラいいツッコミだね」

「あはは……」

 

意味不明な結果報告にツッコミを入れるキバーラ。レヴィは陽気に笑い、ユーリは苦笑する。

 

「みんな……見たら分かると思うけど」

「ええ、あんなに分かりやすいのは生まれて初めて見ました」

「ネクの奴、バレバレだよね~」

「まったく……我の事をあんな風に見てくれた事はないというのに……」

「こういう事だったのですね」

 

四人は納得したかの様に、何度も頷く。

宿泊している間、あの二人の雰囲気が、どうにも気がかりとなっていた

 

「だが、どうする?あやつは、“覇王の末裔”なのだろう?もし、ネクサスの事がばれれば……」

「確かに、最悪の場合、ネクサスに危害が及ぶのは防ぎたいですね」

 

ディアーチェ、シュテルは、重い面持ちで意見を述べる。アインハルトの事を疑っている訳ではないのだが、これからの事を考えると、距離を置いた方がいいのではないか?

 

「う~ん、そんな気にする事かな?アインハルト、いいやつだったよ」

「ネクサスの事も大事ですが、アインハルトさんも、友達ですから」

 

レヴィとユーリは、上記の二人とは逆の意見だ。敵対しているかもしれない。だが、話し合えば、分かりあえるんじゃないか?

 

「ふぅ……半々に分かれちゃったわね」

 

四人の様子を見た後、キバーラはその場から飛び去る。

 

「あれ、キバーラ?」

「どこか行かれるのですか?」

「ええ、ちょっと二人の事が気になっちゃってね。様子見てくるわ」

 

彼女達にそう告げ、キバーラは、今度こそ飛び去る――――と、思いきや、そのまま旋回してくる。

 

「と、いけないいけない。忘れる所だったわ」

「むっ?どうかしたか?」

「ほら、“罰ゲーム”があるじゃない」

 

――――四人の表情が、固まった。

 

対するキバーラは、ニヤニヤ~~と、深い笑みを浮かべ、四人の背筋に寒気が走る。

 

“罰ゲーム”とは、今朝行われた、シミュレーションで“負けた方”が課せられるペナルティ。シュテル、レヴィ、ディアーチェの三人VSプログラミングを行うユーリ。

三人の場合、制限時間を越えた上、最下位となった者が(ペナルティ)を受ける。他にも、攻撃を受けた回数や、判断力等も審査に加わる。

ユーリの場合、三人が制限時間内に到達した時に負けが確定する。

 

因みに、審判はキバーラ。公正な判定(ジャッジ)を執り行う。

 

今回のシミュレーションは、初心者(アインハルト)がいた為、比較的簡単だ。

制限時間内に、ゴールイン――無論、アインハルトと共に――する。そして、三人はそれを成し遂げた。

 

つまり、今回の敗者は――――

 

「という訳で……ユーリの負け~~」

「ええっ!?」

「さあ、行きましょうユーリ。キバーラが待ってますよ」

「ま、まままま待って下さい!今回は、その、簡単にし過ぎてしまったというか、そう!アインハルトさんがいたから、敢えて、敢えて簡単に調整したんですよ!アインハルトさんにとって、最初の訓練という事なので、その、ペナルティはなしで――――」

「諦めろユーリ。言い訳も見苦しいぞ」

「そんな~~……」

 

右腕をシュテル、左腕をレヴィに押さえつけられるユーリ。更には両足もディアーチェに持ち上げられ、身動きが取れずにいた。

ジタバタともがくも、こちらは日々鍛えている身。これしきの足掻きなど、苦にもならない。

 

三人に拘束され、真上から、キバーラが降りてくる。明かりを背に受け、ユーリには、それが悪魔の使いの様に見えた。

 

「いらっしゃ~~い、ユーリちゃぁん♪」

「あ、ああ……や、やめ――――」

「カァ~~プッ♪」

「にゃあぁぁぁあああああぁあぁぁぁぁぁぁぁああああああ」

 

屋敷から、少女の嬌声が鳴り響いた。

 

 




色々と、ごちゃごちゃになってしまいました。

因みに、ネオファンガイアは、原作のキバに出てきたファンガイアの色違いだと思っていただけたらいいです。

例・ユニコーン=角を生やしたゼブラファンガイア――みたいな感じで。
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