リリカルなのはvivid―アナザーメモリーズ― 作:NOマル
夜の公園から、少し外れた場所にて、激闘が繰り広げられていた。
「「っ!!!」」
拳による連打、鋭い蹴りを織り交ぜ、覇王は攻め続ける。目の前の敵を討つべく、攻撃の手を休めない。拳と拳がぶつかり合い、鳴り止まない打撃音。両者、共に引けを取らない。
互いの正拳突きがぶつかった後、反発する磁石の様に、距離を取る。
「でやあっ!!」
即座に攻撃に出るアインハルト。腰を低くし、鋭い蹴りを繰り出す。対するネクサスは、それを難なく回避。蹴りは空を切るも、アインハルトは勢いをつけたまま、再び蹴りを入れる。
今度は直撃。ドガッ!と鈍い音が鳴る。決まったかと思われたが、それはネクサスの腕によって防がれていた。
「っ!!」
ネクサスは直ぐに足を払い除け、相手の腹部に拳を入れる。僅かに体を後ろへ動かし、威力を殺そうとするアインハルト。
しかし、その拳は腹部の深くまで入っており、意味を為さなかった。
「ぐぅっ……!?」
ネクサスは相手の衣服を掴み、こちらへ引き寄せ、またも腹部に一撃。肘打ちを食らわせる。
後退するも、足を踏ん張り、前へ出るアインハルト。腹部の痛みに耐え、拳を振るう。ネクサスはそれを容易くかわし、振るわれた相手の腕を、外側へ払い除ける。
「しまっ――――」
払い除ける為、広げた両手で、相手の両耳を叩く。
アインハルトは防御出来ず、耳鳴りが発生。更にネクサスは、叩いた両手で相手の頭を持ち、頭突きを繰り出す。激痛が走り、視界が揺らぐ。今度は、景色が大きく揺れ動いた。地面に倒れた事により、自分は投げ飛ばされていたという事実に気がつく。
すぐに起き上がろうとするも、足元が覚束ない。ネクサスは構わず前進し、拳を繰り出す。咄嗟に防御姿勢を取るアインハルト。しかし、それはフェイントだった。気づいた頃には、右脇腹に拳が。
「うぐっ……!」
歯を食い縛り、持ちこたえようとするも、最早攻撃する隙がない。脇腹の次は、膝の裏を蹴られ、足が崩れ落ちる。
「っ!!」
顎に目掛け、ネクサスは拳を振り上げた。アッパーを食らい、アインハルトの体は宙に舞い上がる。ふわり……と、弧を描く様に、やがて地面に落ちた。
月光に照らされ、息を切らしながら、覇王は地に背中を着ける。
(まさか……ここまで、とは……)
学院で、唯一の友達である彼。自分に見せる、優しい微笑み。戦いとは無縁な、大人しい人。
しかし、今はどうだ。自惚れる訳ではないが、これでも格闘選手相手に、決闘を申し込み、多くの勝利を収めて――先日、喧嘩両成敗となったが――きた。その自分が、完膚無きまでに、叩きのめされた。魔法を使う暇を与えられず、魔法を使うまでもなく、自分は――――敗けた。
「………」
仰向けで、大の字に倒れているアインハルト。その視線は、満天の星空に向けられている。宝石の様に輝く、小さな星の数々。
「――――まだ、やるか?」
ふと、声をかけられた。
視線を向けたら、そこにいるのは当然、先程拳をぶつけ合った友人。息切れ一つしておらず、疲労の色が全く見当たらない。
対し、こっちはもう、戦える力は残っていない。起き上がろうとするだけで、体がズキズキと痛む。顔を歪ませながら起き上がろうとすると、友人が歩み寄り、優しく起き上がらせる。
「……私の、負けです」
「…………」
「私は、負けてしまった……これでは、覇王の悲願を……」
「アインハルト」
両肩に手を起き、目を合わせて向き合うネクサス。
「確かに、君は覇王の末裔かもしれない。御先祖様の為に強くなろうとするのは、凄いと思うよ。でも、君は“アインハルト”であって“覇王”自身じゃない」
「…………」
「末裔だからって、君がそこまで背負う必要はないだろ……君は、自由に生きていけば、それでいいんじゃないか?」
ネクサスなりに、言葉をかけた。自分が思い付く言葉を、慎重に選びながら、投げ掛けていく。
しかし、アインハルトは俯いたまま、沈黙。迷いが、生じていた
「それでも……私は……私は……」
思い悩む友人の姿を見て、悲痛な表情を浮かべるネクサス。もう少し、自分にも何かしてあげたら。考えてもキリがない。
どうすればいいか、またも思考に走る。
――――ッ!
ネクサスは瞬時に動いた。
「アインハルトっ!!」
咄嗟に飛び上がり、アインハルトを抱き抱えるネクサス。彼女が驚くのも束の間。先程いた地面が、急に破裂したのだ。
そのまま、地面の上を滑る二人。
「あ~あ、残念。外しちゃった」
二人は、声のする方に視線を向ける。
暗闇に染まった木の上に、狙撃手がいた。
ステンドグラス状の黄色い皮膚。まるで、蜂を思わせる容姿をした怪物。インセクトクラスに属する、ゲンホウファンガイア。
その手には、ステンドグラス状の銃が握られている。
「ネオファンガイア……!」
ネクサスは、アインハルトを庇う様に、前へ出る。ゲンホウファンガイアは、銃を構え、狙撃。
「くっ……!」
「ほらほらぁ!逃げないと痛い目に遭うわよぉ!!」
アインハルトを立たせ、その場から逃走するネクサス。相手は面白がっているのか、わざと外して撃っているゲンホウ。木の裏に隠れようとするも、相手は空を飛びながら、狙い撃ってくる。
二人を追う様に、地面に銃弾の軌跡が刻まれていった。森を抜けた直後、見計らったかの様に、銃撃が収まる。
「僕達を、どうする気だ……?」
「どうする気って……分かってるくせに」
地面に着地し、二人と対峙するゲンホウ。余裕綽々といった態度で、こちらを見ていた。
「覇王の末裔である、そのお嬢ちゃん。貴女のライフエナジーが欲しくて堪らないのよ~」
「私、の……?」
「何といっても、歴史に残る覇王の純血。この身に味わいたいのは当然でしょ?」
不気味に笑いながら、ゲンホウは銃を構える。
「そんな……そんな事の為に、アインハルトを……!」
「私達にとっては、“そんな事”じゃないのよ。まっ、出来損ないの“雑種”には分かる訳ないか」
やれやれ、と言わんばかりに、首を振る。まるで、ネクサスの事を知っているかの様な口振り。こちらの神経を逆撫でする様な動作、大切な友人を危険な目に遭わせたという事もあり、冷静さを失いつつあるネクサス。そんな後ろ姿を、心配そうに見つめるアインハルト。
「お前の好きにはさせない」
「へぇ~、格好良い事言うじゃない。でも、ちょっと台詞が違うわよ?」
「っ?」
「お前、じゃなくて――――“お前達”、ね」
ドガッ!!という衝撃と共に、一瞬でネクサスの姿が消えた。
「ごふっ……!?」
鉄塊を叩きつけられたかの様に、ネクサスは抵抗出来ないまま、木にぶつけられた。大木が揺れる程の力を受け、ネクサスはそのまま地面に横たわる。
「ネクサスさんっ!!」
「おっとぉ」
悲鳴にも似た叫びを上げるアインハルト。友人の元に向かおうとするも、ゲンホウの銃弾に足元を狙われ、行く手を阻まれる。
その隙に背後を取られ、跪いて後頭部に銃口を突きつけられた。
「ぐっ……!」
「はい、捕獲。そっちはどう?」
「他愛ない」
ネクサスを襲撃した、もう一体のネオファンガイア。猪、或いは牛を思わせる、ミノタウロスファンガイアは、同志であるゲンホウにそう答える。
「でも、これでお目当ての物はゲット出来たって訳ね」
「そういう事だな」
この状況を見て、満足そうに会話を交わすネオファンガイアの二人。
地面に倒れたまま、動く素振りを見せないネクサス。ピクリとも動かない彼の姿を目にし、焦燥に駆られる。すぐにでも駆けつけたい。しかし、それをネオファンガイアが許す筈もなく、拘束を解けずにいた。
「こらこら、暴れちゃ駄目だって」
「大人しくしていろっ!!」
必死に抗っている所を、ミノタウロスに殴り付けられ、地面にひれ伏す。重い一撃で頭を強く強打し、視界が揺れ動く。
(ネク…サス……)
そのまま、意識を失った。
「さて、戻りますか」
「そうだな」
二人は頷き、その場から去ろうとする。ミノタウロスがアインハルトを背負おうと、身を屈めた――――。
「「っ!?」」
突如、黒い集合体が出現。無数の塊が集まったかの様な見た目で、蛇の様にうねっている。大蛇の如き“ソレ”は、地中から勢い良く飛び出し、二体のネオファンガイアを弾き飛ばした。
「うっ!?」
「ぐおっ!!」
二体は容易に吹き飛ばされ、地面を転がる。すると“ソレ”は、一人となったアインハルトを囲んだ。そして、彼女を“取り込む”。
正に電光石火の如く。アインハルトを取り込んだ“ソレ”は、そのまま宙を飛び、空の彼方へと去っていった。
「あれは……!」
「おのれぇ……横取りしやがったな!!」
どうやら、あの“黒い物体”に覚えがあるらしい。犯人を特定し、直ぐに後を追いかける。
「あの野郎……!」
「落とし前はきちんと付けさせてやるわ」
憤慨しながら、二体はその場を去っていった。
一人、公園に置き去りにされたネクサス。視界が段々と霞み、やがて闇に閉ざされていった。
――――ネクサスッ!!
自らの名前に反応し、少年は目を覚ました。
視界に写り込んだのは、家族同然の存在である、一匹の白い蝙蝠。
「キバァ…ラ……」
「アンタ……このおバカっ!!」
怒声を浴びせるキバーラ。いつもの飄々とした雰囲気はなく、焦燥に駆られていた。
その姿を目にし、心配をかけてしまったと、後悔するネクサス。
「……ごめんなさい」
素直に謝罪する。
そこへ、遅れて四人の少女達がやって来た。
「ネクサス~っ!!」
「無事かっ!?」
レヴィとディアーチェが先に駆けつけ、シュテルとユーリも後から到着した。
「無事、の様ですね……」
「本当に、良かったです……」
四人は、共通して安堵の表情を浮かべていた。これだけの心配をかけてしまった事を、深く反省する。
しかし、今は考えを切り替える。一刻も早く、友人を救出する為に。
「ごめん、皆……心配かけて――――でも!」
「助けに行くんでしょう?」
言い切る前に、キバーラがそれを遮った。
「無論、私達もそのつもりです」
「アインハルトは、もうボク達の友達だもんね!」
「放っておく訳にもいかんだろう」
「その通りです」
皆、ネクサスと同じ想いの様だ。やる気に満ちた表情で、頷く。それを目にし、ネクサスは微笑んだ。
「ありがとう、みんな」
感謝の言葉を述べ、ネクサスは立ち上がる。
大事な友達を、救い出す為に。