リリカルなのはvivid―アナザーメモリーズ― 作:NOマル
荒れ果てた荒野。そこに建っている少数のビル群。
人が全く寄り付かないであろう、その地区は、今は“ある人物”の根城として使用されていた。
その根城へと向かう、二体のネオファンガイア。その表情は憤慨に満ちている。
何も知らない人間が鉢合わせれば、瞬く間に八つ裂きにされる程に。
「あそこね」
「我らをコケにしやがって……!」
目的地が見え、更に憤る二体。一歩進む、と同時に、歩みを止めた。
「まさか……」
「追ってきたか」
微かなバイク音と共に、遥か後方から、何かが近づいてくる。誰が追いかけているかは、言うまでもない。
「先に行って。ここは私が」
「なに?それなら――――」
「早く行かないと、あいつが覇王に何かするかもしれないでしょ。それを止めておいて」
「……分かった」
ゲンホウに言われ、ミノタウロスは先に向かう。一人残ったネオファンガイアは、近くのビル群を一瞥する。
「迎撃、開始」
踵を返し、そのビル群へと消えていった。
◇◆◇◆
荒野を走る、一台のオートバイ。深紅に染められた車体。“深紅の鉄馬”という異名を持つバイク――――マシンキバー。
そのマシンキバーに誇るは、キバに変身したネクサス。速度を上げ、目的地へと急行していく。
――――因みに、免許の方は特殊な経緯にて取得している。
荒野を走る鉄馬。その後は、砂煙が吹き上がる。そのまま現場まで行ける――――かと思いきや、そうはいかない。
「っ!?」
突然、銃声が鳴った。
同時に、バイクのすぐ真横に銃弾が突き刺さる。それだけに止まらず、銃声は鳴り続け、銃撃が繰り出された。
キバはマシンを乗りこなし、ジグザグに走りながら、射撃を回避していく。
「キバ!あそこに避難するわよ!」
キバーラの指示により、キバはバイクを旋回させ、建物の陰に身を隠す。
それを目にし、銃口を下げる一体のネオファンガイア。
「さて……どう動くかな?」
二丁の銃を手にしながら、ゲンホウファンガイアはその場を後にする。姿が見えない以上、長居は無用だ。ならば、こちらから出向くとしよう。
ゲンホウが移動を開始した頃、キバはマシンキバーを停車。バイクから降り、物陰に潜む。
「もしかして、ネオファンガイア……」
「ここで通せん坊って所かしら」
柱から顔を覗かせ、周囲を見渡す。敵は、どこから来るか分からない。警戒し、身を潜めながら、先へと向かう。
一歩、また一歩と踏み出していく――――更に一歩目、足元に銃弾が被弾した。
キバはすぐにその場から離れ、近くの柱に身を隠す。
「残念、外しちゃった」
二丁の銃を肩に担ぎ、こちらを見据えるゲンホウファンガイア。静かに歩みながら、周りを見渡している。
「出てらっしゃい、隠れても無駄よ~?」
おどけた口調で話しかけるも、その眼差しは獲物を捜索。手に持っている銃も、構えたままだ。
油断も隙もない。その佇みから、キバはそう感じ取る。
『見るからに遠距離攻撃を得意としてる。なら……』
『時間もかけたくないしね。あの子に任せましょう』
念話で作戦を練った後、キバは橙色のフエッスルを取り出し、キバーラに咥えさせる。
「メラメラと撃ち抜いちゃって!」
そして、笛の音を奏でる。
◇◆◇◆
少女の頭に響き渡る、聞き慣れた笛の音色。自分を呼ぶ号令であると確認。
「――――参ります」
少女の体は橙色の光に包まれ、球体となる。そして待機場所から、自らを呼ぶ者の元へと向かった。
◇◆◇◆
突如、後方の彼方から“何か”が接近。ゲンホウはそれに気づき、すかさず銃口を向け、引き金を引いた。銃が火を吹き、銃弾が放たれるも、橙色の光球は難なく回避。ゲンホウに体当たりし、ファンガイアの体から火花が散る。一撃を入れ、直ぐ様キバの元に向かった。
『カモン、シュテルッ!』
『承知致しました』
キバが右手を伸ばし、橙色の光はその手に収まった。
その瞬間、光は形を成していく。
橙色を主体に緋色のパーツが所々に埋め込まれている銃、【魔焔銃・ルシフェリオバスター】。右腕、胸元を鎖が何重にも巻き付き、弾け飛んだ。
体は、焔を模した形状の鎧へと、瞳の色は橙へと変化した。
『失礼します』
キバは【フレアフォーム】となり、ルシフェリオバスターを手に取る。
身を隠した柱から飛び出し、両手で構え、一瞬で照準を定めた。突然、獲物が堂々と姿を現した事に動揺してしまい、咄嗟の行動が遅れてしまうゲンホウ。慌てて引き金にかけている指に力を入れた。
「発射」
こちらが素早く引き金を引き、銃口から炎の弾丸を射出。キバが放った一発が、ゲンホウの肩に直撃した。
「があっ!?」
初弾は見事に命中。火花が飛び散り、ゲンホウは大きく後退した。痛みに耐え、再度狙いを定めようとするが――――。
「このぉ……!」
「させません」
更に二、三発目を撃ち込む。
二発目は銃を弾き、最後は右膝部分に被弾した。悲鳴を漏らし、膝が地面につく。
「ぐ、ぅぅ……!」
痛む箇所を押さえながら、ゲンホウは一人考える。この場から逃げる方法を。
まさかの事態になってしまった。紛い物だと思っていた相手の手によって、瞬く間にこちらが不利に。
(くそっ!くそっ!こんなの想定外よ!冗談じゃない!)
覇王の血は惜しいが、自分の命の方が大事だ。この際、もう一人――ミノタウロス――に押し付け、自分はもう下がろう。
即決断し、ゲンホウはすぐに仕掛けた。
「食らいなぁ!!」
力を振り絞り、全身から鱗粉を撒き散らす。壁や地面に付着した瞬間、火花を散らしながら爆発。瞬く間に、煙が充満していく。
キバは咄嗟に身構え、後退した。
その隙に、ゲンホウは踵を返して、場を走り去る。否、羽根を動かし、出口目掛けて飛び立とうとしていた。
(こんな所でくたばるなんて真っ平ごめんだわっ!!早くここから逃げないと)
痛みが増しているのか、堪えているのか、ゲンホウは時折呻き声を漏らす。怪我した部位を押さえながらも、羽根を必死に動かす。
一瞬、後ろに視線を向けた。煙が立ちこもっており、こちらから
「――――
一方、キバは標的を“捉えていた”。しっかりと、その眼で。
フレアフォームが優れているのは、射撃能力だけではない。標的を決して逃さない、優れた視力。瞬時に相手の姿形を探知し、狙いを定めた。
そして、武器である銃を、キバーラに咥えさせる。
「【フレアバイト】!!」
魔皇力を注ぎ終え、キバは武器を構え直す。
建物の外、空は闇一色に染まり、橙色の半月が現れた。
「な、なにっ!?」
異様な光景に気づき、ゲンホウは動きを止めてしまう。否、止めてしまった。
「ああ、ぁぁああぁ……!!」
恐る恐る、横目で後方を確認。
燃え滾る炎の弾丸を装備した銃口が、自分に向けられていた。未だ、煙が晴れていないというのに、その輝きだけが自らの網膜に焼き付く。
同時に、底知れぬ恐怖がゲンホウを襲った。我に帰り、またも逃げようと試みる。
しかし、それは叶わなかった。
「ぐぁっ!?」
突如、地面に魔法陣が浮かび上がり、そこから数本の鎖が飛び出す。その鎖はゲンホウの全身に巻き付き、体に自由を奪った。
必死にもがき、拘束を破ろうとするも、手負いの状態では、解く事は出来ない。
「発射準備、完了」
赤き炎を操りし者の口から告げられる、冷徹な宣告。
「ま、待って……もう、降参…あ、あの末裔の事は諦めるから……お、お願い、た…助けて……ゆ、許して……」
恐怖に震えた声音で、必死に命乞いをするゲンホウ。煙の向こうで収束していく炎の輝きを目の当たりにし、更に恐怖へと陥る。それでも、腹の底から声を出し、慈悲を懇願。
「や、やめ――――」
「――――
引き金が、引かれた。
強烈な爆発音と共に、銃口から巨大な火炎放射、或いは熱線が放たれる。その風圧により、煙は容易く切り裂かれた。そして、膨大な熱エネルギーの塊は“的”目掛けて一直線に伸びる。
「ああああああああああああああ!!」
燃え盛る灼熱の炎は、鎖に繋がれた魔の者を飲み込んだ。全身に熱を浴び、断末魔の叫びさえ、その轟音にかき消される。
【フレア・デストラクター】
ほぼ消し炭と化した亡骸に、待機状態のルシフェリオンを模した紋章が浮かび上がる。その直後、亡骸は砕け散り、やや焦げたステンドガラスの破片が地面に落ちた。
そして、内包されたライフエナジーは、明るくなった外へと向かった。
「迎撃、完了しました」
「害虫駆除、お疲れ様」
報告するシュテルに、労いの言葉を述べるキバーラ、
『シュテル、悪いけど、急いでアインハルトさんの所に』
「はい、直ちに向かいます――――」
咄嗟に、シュテルはルシフェリオバスターを自らの背後に向けた。そこには、“誰もいない”
「この気配、まさか……」
ボソッと呟き、シュテルは再度武器を構え直した。
「シュテル、危ないっ!!」
キバーラの声に反応し、自らに襲いかかる“何か”に銃を向ける。
しかし、相手の方が早かった。“黒い集合体”は触手の様に、キバの両手足に絡み付く。先程、ゲンホウを捕らえていた時と同様。しかも、今度は自らが拘束されてしまうとは。
「“ジェノム”……って事は」
「間違い、ありませんね……」
キバーラとシュテルは、確信した。今回の出来事に、“奴”が関わっていると。
結論に辿り着いた直後、キバが立っている地面に、魔法陣が描かれた。地面だけでなく、壁や天井、あらゆる箇所に出現。
「やばっ……!」
「くっ!」
魔法陣の光が強くなった所を目にし、キバーラとシュテルは、同時に顔を歪ませる。
そして、爆発が起きた。