リリカルなのはvivid―アナザーメモリーズ― 作:NOマル
雄叫びを上げる闘牛の如く、ミノタウロスは突進。頭に備えた鋭利な角で、キバを突き刺そうとする。
「ふんっ」
それを、またも片手であしらう。下から上へと振り上げ、目前の巨体を吹き飛ばした。
裏拳を食らったミノタウロスは、仰向けに倒れる。呻きながらも、すぐに立ち上がった。
「どうした?貴様の力はその程度か?見かけ倒しにも程があるぞ。家畜にも劣る塵芥が」
「ブォオオオオアアアアア!!」
罵倒し、鼻で笑うキバ。
挑発に乗り、ミノタウロスは憤怒する。地面を拳で叩き、再度突撃した。
「猪突猛進。まるで闘牛だな」
そう呟くと、キバは斧――――クロイツアックスを構える。そして、こちらに向かってくるミノタウロスの角、その間にある頭蓋骨目掛け、刺先(スパイク)で突いた。
「グブ、ォ、ォォォォォ……!?」
鈍い音が鳴ると同時に、ミノタウロスはよろめく。コンクリートの壁に勢い良く頭突きしたかの様に、激痛は勿論の事、脳が揺さぶられる感覚に見舞われた。
「はぁっ!!」
キバは斧を両手に持ち、上から振り下ろす。相手の胴体を切りつけ、更に追撃。横薙ぎ、足払い、そして振り上げる。袈裟斬りを食らい、更にふらつくミノタウロス。がら空きになった腹部に、キバは刺突を繰り出す。相手の巨体はくの字に曲がり、後方に押し出された。やがて壁に激突。
「でぇぇえい!!」
「ぶっ飛び~~!」
キバは両手の力を振り絞り、ミノタウロスの巨体を持ち上げ、後ろへと投げ飛ばした。
「ブホァ!?」
背中から落ち、身悶える。必死に立ち上がろうとするも、膝が震え、言うことを聞かない。耐久性の高い肉体であっても、キバが繰り出す重い攻撃に、体が耐えれなかった様だ。
「貴様の命も、最早ここまで」
クロイツアックスを振り回し、石突きで地面を叩く。
「――――裁きを受けよ」
冷徹に言い放ち、柄をベルトに近付ける。そして、キバーラは柄を咥えた。
「【アイシクルバイト】!!」
魔皇力を注ぎ、キバはクロイツアックスを一回転し、地面に叩きつける。地面が抉れると同時に、叩きつけた部分から凍りついていく。そのまま前方へ行き、冷気はミノタウロスを包んだ。足から順に、肉体がみるみる内に凍結。必死にもがくも、抵抗虚しく、ミノタウロスは一つの氷像と化した。
キバはクロイツアックスを上に掲げる。すると、刃に冷気が集中し、覆う様にして、氷の刃が出来上がった。それはキバの身の丈を容易く越え、狭い廃墟の天井を突き抜ける程。
「ふんっ!!」
巨大な氷の斧を振り回し、柱、天井を破壊。大きく振りかぶり、鉄槌を下した。
【アイシクルバニッシュ】
バキィン!と、氷像は粉々に砕け散る。氷の破片が飛び散り、ミノタウロスのライフエナジーが浮上。それは素早く、キャッスルドランが捕食した。
冷気を肌に感じながら、アインハルトは茫然と眺めていた。
「これが、魔王の力……」
力の片鱗を目の当たりにし、そう小さく呟いた。
そして、一連の戦闘を観察しているイデア。単眼を思わせるレンズに、数列が幾つも並んで表示されていく。更にそこへ、キバの画像が追加された。
キバフォームに続き、ライトニング、フレア、そして目前にいるアイシクルフォーム。四つの形態がレンズに写し出され、何かの解析を行う。
「――――分析完了」
イデアは、小さく、そう呟いた。
キバは斧の先端を、イデアに突きつける。
「次は貴様だ。この外道」
「おぉ、怖い怖い」
キバの姿を見て、ディアーチェの存在を察したイデア。おどける様に、肩を揺らす。
「悪いが、私はもう退散する事にするよ――――“データ”も手に入った事だしな」
「待てっ!!」
斧を手に、イデア目掛けて振り下ろす。相手は、それを容易くかわし、距離を置いた。
「ファウスト、メフィスト、撤退だ」
「「了解」」
部下二人にそう言うと、イデアは指を鳴らす。それを合図に、影から無数の黒い物体――――ジェノムが出現。それは蛇の様に動き、キバを弾き飛ばした後、イデア達三人を取り囲んだ。
「では、ご機嫌よう」
ボウ・アンド・スクレープのお辞儀をし、イデアはそのままジェノムに飲み込まれる。ジェノムはやがて収縮し、跡形もなく消え去った。
「くそっ……!」
逃げられた。キバは拳を地面に叩き込み、ひびを作る。その拳には、悔しさが滲み出ていた。
「落ち着いて。あの子を助け出せただけでも、良しとしましょう?」
「……分かった」
キバーラに諭され、落ち着きを取り戻すキバ。一呼吸置き、立ち上がってアインハルトに近づく。
そして、手を差し伸べた。一瞬、意識が遅れたが、徐に手を伸ばし、立ち上がる。
「あっ……!」
「おっと」
ふらつき、鎧にもたれかかるアインハルト。
そして、キバの顔を見上げる。紫色の複眼と、蒼と紫の虹彩異色が交じり合う。そして、少女は、そのまま胸元に顔を埋め、ぎゅっと抱き締める。
「ネクサスさん……ありがとう、ございます……!」
「……生憎、今は我なのだが」
「へっ?」
そう言われて、アインハルトは気づいた。この口調、雰囲気。確かに、彼とは違う、どこぞの王様の様な立ち振舞い。
「も、もしかして、ディアーチェさん?」
「うむ」
「あっ、そう……なんですか」
「如何にも残念そうな顔をするでない!我だって助けにきたのだぞ!?」
「は、はい!ごめんなさい!」
ディアーチェは声を荒げ、アインハルトは慌てて謝罪する。
「まぁ、何はともあれ……無事で何よりだ」
「ディアーチェさん……」
「アインハルト~~!」
「きゃっ!?」
バリアスーツ姿のレヴィが、横から抱きつく。
「よかったぁ、無事でよかったよぉ~……」
「レヴィさん……」
「大事に至らなくて、本当に良かったです」
「シュテルさん」
自分の友達は、彼一人しかいない、そう思っていた。だが、今は違う。
心の底から、自分の身を案じてくれる友達が、目の前にいる。
「そういえば……爆発した時、どうやって脱出したんですか?」
「それは、ホロンのおかげよ」
アインハルトの質問に答えるキバーラ。ベルトから離れ、鎧を解除させる。変身が解けたネクサス、その身に灰色のパーカーを着込んでいた。
事前にホロンを身に纏っており、能力の一つである
「因みに場所の特定は、ユーリが発見してくれたわ。戦闘には立てないけど、あの子が捜索をサポートしてくれたおかげで、あなたを見つける事ができた」
「ユーリさん……」
この場にいない友人の一人であるユーリ。彼女に対し、心中で感謝の意を告げる。
「アインハルトちゃん、ごめんなさいね」
「えっ?」
「はっきり言って、私あなたの事を警戒してたのよ。更に言えば、秘密裏に“あんさ”――――“しま”――――遠ざけようともしてたわ」
「「「「キバーラ?」」」」
「ごめんなちゃい」
唐突に謝罪するキバーラ。何やら不穏な言葉が出かけたが、何とか別の言葉を出す。家族四人に睨まれ、冷や汗をかきながらも話を続ける。
「でも、よくよく考えたら、あなただって、まだ“子供”だものね。先祖は先祖。子孫は子孫。覇王の末裔というだけで勝手に敵と決めつけて、話し合いもしようとも考えなかった……ごめんなさい」
「い、いえ!私の方こそ、ネクサスさんに怪我をさせてしまって……それに、皆さんにご迷惑をお掛けして」
アインハルトは涙ぐみながら、ややボロボロになっているネクサス達を見る。所々、傷も出来ていた。
「本当に、ごめんなさい……!」
深々と頭を下げるアインハルト。
「アインハルト、謝る必要はないよ」
後悔の念に苛まれる
「僕は、君の事を大事な友達だと思ってる。僕だけじゃない。ここにいる皆、君が大事な人だから、助けに来たんだ」
「ネクサスさん……」
「まあ、キバーラはどうか知らないけどね」
「ちょ、ちょっと!私はもう警戒解いてるわよ~!」
「ホントかな~?」
「本当ですか?」
「真か?」
冗談を言い、ネクサス達は笑みをこぼす。見ているだけで、とても温かい。
徐に、ネクサスは手を出す。
「アインハルトさん、一緒に帰ろう?」
「……はい!」
それに対し、綺麗な笑顔で手を取るアインハルト。
こうして二人は、やっと本当の親友になれたのかもしれない。
「「「「…………」」」」
笑顔で向かい合う二人。その蚊帳の外にいる少女達はというと。
『何やら、お邪魔の様な雰囲気ですね』
『むぅ、ボクらだって頑張ったのに~』
『何故かは分からぬが、今無性に苛立って仕方がない』
『みんな、気持ちは分からなくもないけど、ここは空気読んでおきましょ?ね?』
何故か、二人だけの世界に入ってしまっている様に見えてしまう。この光景を見せつけられ、三人の少女は不機嫌丸出しで見て――――否、睨んでいた。
そんな三人を、キバーラは何とか押さえている。
「さっ!取り敢えず早く戻りましょう!もうこんな遅い時間なんだから」
空はもう夜空に変わっていた。それに気が付き、全員は帰還する為、キャッスルドランに乗り込む。
巨大な竜に驚きながらも、アインハルトも乗ずる。その最中、ネクサスの背中に視線を向けた。
(ネクサスさん、あなたは私の親友です。そして――――)
――――大事な
顔を仄かに赤らめながら、胸を手で抑える。心臓がやや高鳴っているのが手に取る様に分かってしまう。
(いつか、“親友以上”になれたら……)
心中で、意中の相手に気づかれぬ様、一人呟く。
一人立ち止まっている少女の後ろから、三人の少女が前へと進む。
「――――負けませんよ」
「――――ネクはあげないよ」
「――――譲るつもりはないからな」
通り過ぎると同時に、それぞれの言葉が耳に届いた。気が付けば、後ろ姿が遠くなっている。
先程の言葉、“恋する乙女”として瞬時に理解。相手は一つの屋根の下で住んでいる。かなり手強い相手だろう。彼女達は親友だ。しかし、“場合”によっては好敵手と化す。
「――――受けて立ちます」
拳による闘いもそうだが、“この戦い”も決して負けられない。
(ワァオ……面白くなってきたぁ)
その様子を真顔――口元は笑みを浮かべている――で眺めるキバーラ。
少女達の戦い、これからも見物させてもらうとしよう。
因みに――――。
「何でしょう……強敵が一人増えた気配が……」
キーボードを素早く打っていた手を止め、小さく呟いた。
救出の為、コンピューターと向き合っているユーリ。キバーラから連絡を受け、アインハルトの無事を確認。安堵すると同時に、ゼラムへ連絡を行った。また後日、話し合いの場を設けるとの事。
連絡の終わり際、キバーラが気になる事を口にしていた。
「ユーリちゃん?これから“増える”と思うから、“取られない”様にしなくちゃね?」
一瞬、訳が分からなかった。だが、あの白い蝙蝠の非常に腹が立つ挑発的な笑みを目にし、“察した”。
「――――もっと攻めなければ」
そう言うと、ユーリは再びキーボードを打ち始める。
画面上に、一つのファイルが表情されていた。
その名も――――【N・Lゲット大作戦】
◇◆◇◆
薄暗い空間の中、空中に表示されているディスプレイに目を通し、作業を行っている一人の人物。
「今回は良い結果となってくれた。微量ながら、あの害虫共に感謝しておいてやろう」
キバによって葬られた三体のネオファンガイアの事を思い出し、そして完全に忘却。
作業に没頭し、キーボードらしき発光体をひたすら叩くイデア。
「後は、このデータをインストールすれば……」
そう言うと、ディスプレイの奥に位置する物に目を向ける。
無数のコードに繋がれ、脈動を打つかの様に、光がその“蝙蝠型のロボット”に送られていく。
そのロボットは微動だにせず、瞳に光が宿っていない。
「インストール、開始」
ボタンを一つ、押した。
それを合図に、画像に表示されていた、キバの三形態のデータに変化が訪れる。一つのファイルとして保存され、下部分にメーターが表示される。1、2、5、10%と、素早く増えていく。
電子音が鳴り響き、コードを通して電流が迸り、ロボットにデータが蓄積される。機械仕掛けの生物に今、命が吹き込まれようとしていた。
そして、100%に到達。
「――――完成だ……!」
歓喜に声を震わせながら、イデアは両手を広げた。
「さぁ、目覚めよ――――“アーク”」
深紅の瞳に、光が宿った。
漸く、アインハルト救出成功。
次は、マテリアルズが“自分達”と出会うかもしれません。