リリカルなのはvivid―アナザーメモリーズ― 作:NOマル
その日は休日であると同時に、催し物がある為、より一層賑わいを見せていた。
通りにはバザーが催されており、人々はそれぞれ商品を物色している。更に屋台も並んでおり、香ばしい匂いが客を引き寄せていた。
「おっ、うっまそ~!」
「おい、あんまはしゃぎすぎんな」
出店の料理を目にし、顔を綻ばせるジャン。その姿に呆れながら、アイザは後を追う。
「ジャン君ってば、相変わらずだね」
「食べ物の事に関しては、いつもああだから」
更に後ろの方で、ユミナとネクサスは苦笑しながら歩いていた。
「…………」
「アインハルトさん?」
「は、はい!」
「どうかした?」
「い、いえ……こうして、大勢で出掛けるという事が、なかったので」
今まで、孤独に過ごしてきた自分。だが、親友と向き合うことで、今こうして新たな友人達とも巡り会えた。
嬉しい反面、どうすればいいか分からない、といった困惑もあった。
「まあ、気楽に考えればいいよ」
「そうそう。私、アインハルトさんと、こうしてお話出来て、すごく嬉しいんだ」
「ユミナさん……」
「あっ、あそこのクレープ美味しそう!行ってみようよ」
「は、はい」
ユミナに手を引かれ、アインハルトも慌てて同行する。それを微笑ましく見ながら、ネクサスもついていった。
「……まあ、特に問題はなさそうね」
またも柱に隠れ、双眼鏡で覗き見する不審者――――もとい、キバーラ。
今回は、本当に友達としての交流らしく、ラブコメの様な状況はなさそうだ。
「でも、あの子の事だし、そういう状況になってもおかしくな――――」
「ボク、焼きそば食~べよっと」
「中々、面白い本がありますね」
「ふわぁ~、可愛いです♪」
急に固まり、後ろを向くキバーラ。
焼きそばを購入し、大口で食べるレヴィ。移動式本屋で、本を手に取るシュテルに、動物の触れ合い広場にて数匹の小動物達と触れあうユーリ。
尾行している事をすっかり忘れ、催し物を楽しんでいる三人。
「まっ、今日はもう素直に楽しんじゃいますか」
「最初からそうすれば良かろうに」
「ほら、私って気分屋な所もあるから――――って、自分もちゃっかり楽しんでんじゃないの」
「我は最初から乗り気じゃなかったからな」
否、四人だった。
いつの間に買ったのか、ホットドッグを頬張るディアーチェ。美味しそうに咀嚼し、唇に付いたケチャップを舐める。
「それじゃあ、これから各自で自由行動にしちゃいましょう。あっでも、くれぐれも目立ち過ぎない様にね?」
「は~い!」
「了解です」
「分かりました」
キバーラの号令に返事をし、三人は自由行動をする。
ふと、ディアーチェがキバーラに念話で話しかけてきた。
(来る可能性はないんだな?)
(下調べはしたわよ。三人共、今日は仕事だって)
(ふむ、なら良いか)
(でも、念には念を。気を付けて、楽しんでおいで)
(無論だ)
再確認を終え、念話を終えた。
「さぁてっと。どっかで良い男でも転がってないかしらね~」
(……婚期に焦る女か)
「まぁたイケナイ事言うのはこの子かしら?」
「むぐぁががががっ!?」
心の声が聞こえたのか、ディアーチェは暫くの間、キバーラの制裁を食らっていた。
◇◆◇◆
休日に行われている催し物。それには、ヴィヴィオも来ていた。今日は、大好きな母が偶々休暇だった為、こうして遊びに来たのだ。後で、もう一人の母と友人も来るとの事。それを聞き、楽しみが倍増した。
「フェイトママとはやてさん、早く来ないかなぁ~」
ベンチに座り、足をプラプラさせながら、ヴィヴィオは待っていた。母がジュースを買いに行き、こうして待っているのだ。
「そういえば、ネクサスさんも来てるんだっけ」
図書室にて会話した際、ネクサスも友達と一緒に来るという事を言っていた。それを思い出すヴィヴィオ。
(あの模擬戦で、アインハルトさんと少しは近づけたかな)
自分の気持ちを、全力でぶつけた練習試合。ほんの少しだが、距離を近付ける事が出来たのでは、と期待する。
「もっと、色んなお話してみたいな」
笑みを浮かべ、憧れの先輩との更なる交流を楽しみにしている。
「んっ?」
ふと、人混みの中で、“見覚えのある少女”を見かけた。本を片手に、その少女は雑踏の中を一人歩く。身に付けている眼鏡が、知的な印象を与えていた。
面識はない。初対面である事は、間違いないだろう。しかし、その面持ちは、“誰か”に似ている気がした。
道行く少女から目を離す事が出来ず、紅と翠の眼差しは釘付けとなる。
「――――なのは、ママ?」
「ヴィヴィオ~!」
両手にジュースを持ち、こちらへと小走りで駆け寄る一人の女性。栗色のサイドテールに、明るい笑顔が似合う美人。
時空管理局の空戦魔導師、“エースオブエース”にして、高町ヴィヴィオの母、【高町なのは】だ。
「ごめんごめん、遅くなっちゃって。人が多くって」
「あ、あれ?なのはママ?」
「うん?」
視線を向けると、あの少女はいなかった。
暫く、なのはと少女がいた方向を、交互に見直す。
「ん~?」
「ん~?」
首を傾げるヴィヴィオ。娘の姿を見て、同じく首を傾げるなのは。
端から見れば、実に微笑ましい光景だった。
「なのは~、ヴィヴィオ~」
「今来たで~」
そこへ、フェイトとはやてが合流。お互いに笑顔で駆け寄り、一緒に歩き出した。
そのまま、四人で屋台を見て回る。お菓子を買ったり、軽いゲームをしたり等。元気にはしゃぐヴィヴィオの姿を見て、大人三人も微笑む。
それぞれソフトクリームを片手に歩いている中、ふとヴィヴィオは、母であるなのはに、先程見かけた少女の事について話した。
「えっ?私にそっくりな女の子?」
「チラッとしか見えなかったんだけど、何だか、どこかなのはママに似てるなぁって」
アイスを舐めながら、会話をする四人。娘からの言葉に、大人三人は首を傾げる。
「まあ、稀にやけど、顔が似てるっていう人も、おるっちゃおるって聞いた事あるし」
「これだけ大勢の人がいるから、可能性はなくはないのかな?」
はやてとフェイトは、ヴィヴィオの言葉を信じ、そう答える。
「私にそっくりな子か~。う~ん、ちょっと見てみたかったかも」
そう呟き、なのははアイスをパクっと小さく口に含む。
四人はベンチに座り、暫し休憩を取っていた。
「おっ、あそこの服屋、結構繁盛しとるっぽい」
はやてが見つけたのは、一店の古着屋。人だかりもややあり、特に女性客が多い。
「はやて、気になるなら、見てきたら?」
「う~ん……ほんなら、ちょ~っとな?」
フェイトに促され、はやては席を立って古着屋に向かう。
「なのは、ヴィヴィオ。私ゴミ捨ててくるよ」
「あっ、うん。ありがとフェイトちゃん」
「ありがとうフェイトママ」
空になったペットボトルなどを手に、フェイトも席を立った。
そして、二人だけになったなのはとヴィヴィオ。すると、目の前に一匹の子猫が歩んできた。
「ミャァ」
可愛らしい鳴き声と、その愛らしい仕草。一目見ただけで、二人はメロメロになった。
「可愛い~」
「ほら、おいでおいで~」
手招きをし、子猫を誘う。対して猫は、毛繕いをした後、一回鳴いてなのは達に背を向けた。
「あっ、待ってよ~」
「ヴィヴィオ!」
愛でたい気持ちが溢れ、堪らずヴィヴィオは後を追う。なのはも慌てて席から立ち、駆け出した。
◇◆◇◆
三人と分かれ、キバーラとユーリを仲良く手を繋ぎ、歩いていた。ユーリは小さめのパンケーキを美味しそうに頬張り、キバーラはストローでジュースを味わう。
美女と美少女の親子という風にも見える二人。
「ユーリ、美味しい?」
「むぐ、ふぁい」
「もう、口元汚れてるわよ?」
「えへへ」
ハンカチで、汚れているユーリの口元を拭いてあげるキバーラ。照れている笑顔を見て、心中で激しく悶絶する。
「いや~、にしても人多いわね」
「とっても賑やかです」
「まあ、今日は三人共、気兼ねなく羽を伸ばせるし、良い日になりそうだわ」
心配事がない為、ディアーチェ達三人も楽しめる事だろう。無論、ユーリも楽しめている様でなにより。キバーラからすれば、妹か娘も同然の存在。喜んでくれるだけで、こちらも笑顔になる。
最初は、ただの野次馬も同然で来たが、本音を言えば、こうして皆でお出掛けしたかったというのが一番の理由。
一つだけ、“不安な事”も考えられたが、この様子だと、“遭遇する”事もなさそうだ。
満足気味に笑みを浮かべ、キバーラはストローを咥えてジュースを飲みながら、周りを見渡す。
(さてさて、今度はどこへ――――)
人込みの中、“サイドテール”が、視界に入った。
(――――えっ?)
今度は顔――――一人の女性を目にした。
“高町なのは”を。
「ぶふぉあっ!!?」
女性にあるまじき声を上げ、口に含んでいたジュースを全て吹き出してしまった。
「キ、キバーラ!大丈夫ですかっ!?」
驚いたユーリは、噎せているキバーラの背中を優しく擦る。おかげで、他の通行人の視線も集めてしまっていた。
「げほっ、がはっ!がっ、え、ちょ、ま……はぁっ!?」
何故、ここに!?キバーラの頭の中は、それでいっぱいだった。
更に顔を上げると、今度は“金髪”が見えた。そして顔が見え、“フェイト・T・ハラオウン”本人と確認。
「うっそでしょ……!?な、なんで」
「キ、キバーラ?」
高町なのはだけでなく、フェイト・T・ハラオウンまでもが、この場にいる。
この予想だにしていない事態に、キバーラは焦燥に駆られていた。傍で心配そうにしているユーリを気にかける余裕もなくなっていた。
「ふ、二人まとめているなんて……!早くシュテルとレヴィを連れて――――」
「う~~ん、どないしよ」
独特な発音。ミッドチルダの住人にしては、特徴的な喋り方。それを聞き取り、キバーラは徐に振り返る。
屋台の前にて、“八神はやて”が見回っていた。
「全員集合しちゃったぁ……」
頭を抱え、その場に崩れ落ちる。ユーリは何がなんだか理解出来ておらず、ただただ慌てるばかり。
「ど、どういう事?三人共、仕事があるんじゃ……」
キバーラは慌てて、懐から一つの端末を取り出す。画面には、管理局員の日程などが、詳しく詳細されていた。つまり、管理局内のデータを“ハッキング”した訳である。いつでも、あの三人の行動を把握する為に。よって、内容も三人のみなのだが――――。
「………………これ、昨日のだわ」
再確認したら、画面上に出ていたのは昨日の日程。軽く横へとスライドさせ、“本日の日程”を確認。
「今日全員完全オフじゃないのぉおおおおおおおおおおお!!!」
四つん這いで、地面目掛けて雄叫びを上げるキバーラ。こんな凡ミスをしてしまうとは、一生の不覚である。
言うなれば、完全にやっちまった。
「ユ、ユユユユユユユユユ、ユーリ!」
「は、はい!」
「申し訳ないんだけど、大至急帰るわよ!」
「きゅ、急にどうしたんですか?」
「い、いいから!」
こうしちゃいられない。一刻も早くディアーチェ、シュテル、レヴィの三人と合流しなくては。
キバーラは立ち上がった――――のだが、足に何かが“抱きついてきた”。
「ん?」
視線を下に下ろす。
二匹の子犬――それぞれ白と黒――が、舌を出し、尻尾を振りながら、こちらを見上げていた。
「わあ、可愛いです~。ねぇ、キバーラ」
ユーリは思わず頬を綻ばせ、キバーラの方を向いた。
「………………」
そのキバーラは、固まっていた。
よく見れば、顔が青ざめている。
「ど、どうしました?」
「あ、あわわ……あばばば……!」
「っ?」
何やら、様子がおかしい。口が震え、ガタガタと体も震えだした。
「い、いにゅ?い、いいいいいにゅ?いにゅぅ……!?」
「「わん!」」
「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
可愛らしい悲鳴が、その場全体に響き渡った。