リリカルなのはvivid―アナザーメモリーズ―   作:NOマル

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lyrical&materials―そっくりさん達大集合―

ネクサス達はというと、こちらはこちらで楽しい時間――談笑し、食事を取り、ゲームをしたりと――を過ごしていた。

 

「にしても、分からないもんだよなぁ」

「何が?」

 

ベンチに座り、ストローでジュースを飲むジャンの言葉に、同じくジュースを飲みながら尋ねるネクサス。アイザも、黙って飲んでいた。

 

「だってよ、学院でも抜群の美少女であるあのアインハルトと、こうして遊びに行けるなんて、夢にも思わなかったし」

「そう?」

「そうだって!それにネクサスのクラスでも人気があるユミナも一緒だしさ」

「まあ、他の男子からは恨まれるだろうな」

 

成績優秀でクールな美少女と、当然の如く、アインハルトは人気があった。殆どの男子が狙っているといっても過言ではない。

同じくネクサスのクラスメイトであり、クラス委員のユミナ。その社交的な性格や、可憐な容姿から、男子だけでなく、女子からも慕われている。

 

そんな二人の美少女はというと、別の屋台にて、クレープを買おうと、列に並んでいる。並んでいる最中も、話しており、会話が弾んでいる様子。

 

「確か、ネクサスは俺達より付き合いがあるんだよな?アインハルトと」

「そうだね。クラス替えとかで、丁度二人と離れた時に、アインハルトさんと一緒だったから」

 

今でも思い出す。初めて会った時の事を。

初等部一年生として学院に入学し、所属するクラスにて、席が隣だった。

第一印象は、綺麗な女の子。左右で色が違う、宝石の様な瞳。思わず、見惚れてしまった。

今はこうして友達と談笑出来てはいるが、ネクサス自身も、そんなに口上手という訳ではない。そんな自分だが、勇気を振り絞り、声をかけた。

その時は、ほんの一言しか返されなかったが、一年生にしては、とても礼儀正しいものだった。

それから、ネクサスは話をし続けた。もっと、彼女の事を知りたかったから。

 

「席が隣同士っていうのもあったから、話をする機会はよくあったよ。それにこっちから話し掛ければ、アインハルトさんもちゃんと言葉を返してくれるし、今はもう普通に会話できるけど」

「へぇ~!つまり、ネクサスの粘り勝ちってやつか」

「粘り勝ち……なのかな?」

 

昔の事を思い出し、照れ臭そうにしているネクサス。

すると、アイザはストローから口を離した。

 

「ネクサスはネクサスで、ちゃんと歩み寄ったって事だろ」

「アインハルトって他のクラスでは、何だか近寄り難いって言われてたけど、話してみたら、そうでもないもんな」

「噂は当てにならないって事だろ」

「だな」

 

ジャンとアイザは、再度ジュースを飲む。

二人の様子を見て、ネクサスも安心する。二人も、アインハルトの事を友人として接してくれていると。

ジュースを飲み干し、ジャンとアイザの分が空となった。そこでジャンが、ゴミ箱に捨てに行くついでに、便所へと向かう。

そして、ベンチにはネクサスとアイザの二人。

 

「で、ネクサス――――お前アインハルトと付き合ってんのか?」

「ぶふぉあっ!?」

 

アイザからの問いかけに、ネクサスは口に含んでいたジュースを全て吹き出してしまう。

そのまま何度も咳をしてしまい、荒い息遣いとなる。

 

「ア、アイザ!いきなり何っ!?」

「いや、てっきりアインハルトに告ったのかと」

「いや、告っただなんて……僕にはとても」

 

顔を真っ赤にし、ボソボソと小声になる。

その様子を見て、アイザは自分の推測は正しかったと見る。といっても、バレバレなのだが。

 

「早めに仕掛けた方がいいと思うぞ?狙ってる奴らはいっぱいいるだろうし」

「…………」

 

アイザがそう言うと、ネクサスは黙ってしまった。

 

(告白、か……)

 

しかし、それは出来ない。

 

否、する事は出来ない。

 

(僕は……これ以上、幸せを望んじゃいけないんだ)

 

脳裏に浮かぶ、“あの光景”。大事な家族を死なせてしまった、あの出来事を思い出してしまい、握っているコップを更に握り締めてしまう。

 

「――――ネクサスさん?」

 

我に帰り、頭を上げる。

クレープ屋台から戻ったアインハルトとユミナが、こちらを不思議そうに見つめていた。

 

「どうしたの?浮かない顔して」

「あ、いや、別に……」

 

ネクサスは顔を反らし、女子二人は怪訝そうに見つめる。

 

「クレープ、美味しそうだね」

 

話を反らそうと、ネクサスは目についたクレープの話題を出す。

 

「はい。よろしければ、一口どうぞ」

「えっ?」

 

すると、アインハルトは自分が食べていたクレープを、ネクサスの前に持っていく。呆気に取られる彼に対し、彼女は普段見せない、とても明るい笑みを浮かべていた。横で見ていたユミナはやや驚き、アイザは無表情で眺めていた。

 

「さぁ、どうぞ♪」

「い、いや、僕はいいよ」

「遠慮なさらないで下さい。ネクサスさんが後押しして下さったおかげで、私はヴィヴィオさんとちゃんと向き合う事が出来たんです。お礼の一つとして、受け取って下さい」

「で、でも……」

「さあ!」

 

やけに強く推してくる。しかも、自分が“口をつけたであろう部分”を、ネクサスの口元に近づけていた。

有無を言わせない姿に圧され、やや躊躇しながら、ネクサスは口を開く。

 

「ネクサス君、私もあげる!」

「えっ!?」

 

横入りする様に、今度はユミナが自分のクレープを差し出してきた。やや焦っている様にも見え、しかもアインハルト同様、自分が口をつけた部分を近づけている。

そして、目を合わせる二人。どういう訳か、火花が散っている様に見える。

 

「ユミナさん、私がネクサスさんに食べさせてあげるので、ご遠慮下さい」

「アインハルトさん、ネクサス君は苺が好きなんだよ?だから、こっち食べるよね、ネクサス君?」

「ネクサスさんはフルーツ全般が好きだと言っていました。ですから、こちらのオレンジも該当する筈です。しかもチョコ付きですから、お得です!」

「それを言ったら、こっちは生クリームとアイスも付いてるんだよ?相性も抜群で、ネクサス君が気に入る事間違いなし!」

 

何故だか、二人して口論している。

アインハルトはチョコクリームのついたオレンジのトッピング。ユミナは苺とバニラアイスがトッピングされたクレープを持っている。

どちらがネクサスの好みに合うか等と、白熱していた。

 

「二人とも、どうしたの?さっきまで仲良くしてたのに――――」

「ネクサスさん、例え友人だったとしても、絶対に譲れない物があるのです」

「そうだよネクサス君。時と場合によって、女の友情は儚く散ってしまうの」

「えぇ……」

 

ついさっきまで仲良く会話していたのでは?今となっては、その欠片も見当たらない。

二人が争う理由が全くもって分からないネクサス。

 

(これから災難続きだろうな、あいつ)

 

目の前で狼狽える友人の姿を見つめながら、アイザは心中で思う。

すると、そこへジャンが戻ってきた。何やら、慌てている様子。

 

「お~い!大変だ大変だ!って、こっちも大変だぁ!?」

「あっ、ジャン」

「あ、あの二人、どうしたんだ?」

「それが、分からないんだ……」

「アイザ、どうなってんの?」

「強いて言うなら……“女の戦い”ってやつか」

 

ジャンからの質問に、アイザはそう呟く。その呟きに対し、ネクサスとジャンは首を傾げる。

 

「で、ジャン。大変って何が?」

「あっ、そうだった!」

 

思い出したかの様に、ジャンは口を開いた。

 

「さっき、ゴミ捨てに行ったんだ。そしたらさ!」

「「…………」」

「金髪のきれいなねーちゃんと青い髪のかわいい子が追いかけっこしてた!」

「「「「……はぁ?」」」」

 

ネクサスとアイザだけでなく、アインハルトとユミナでさえも、呆れた様な声を漏らした。

 

「いや、マジでマジで!本当なんだって!!」

「あんな人ごみの中、追いかけっこなんてできねぇだろ」

「それがさ、二人共すっげぇ速くて、何だろう――――なんか、稲妻になった感じで」

「稲妻って……」

 

ジャンの言葉に再度呆れるアイザに、苦笑するユミナ。

そんな二人とは違い、ネクサスとアインハルトは、表情を強張らせていた。まるで、心当たりがあるかの様に。

 

(いやいや、こんな人目につく場所で、しかもそんな目立つ様な事はしない筈。ていうか、家で留守番して――――)

「いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

悲鳴が聞こえた。一帯に広がり、周りにいた他の客達の視線が、音源に向けられる。

 

「なんだなんだ!?」

「すっげぇ悲鳴……」

「何か、あったのかな?」

 

三人も、悲鳴の聞こえた方向を向く。

ネクサスとアインハルトは、この声に聞き覚えがあった。

 

「ネクサスさん、この声って……」

「……嫌な予感がする」

 

そう呟き、ネクサスは走り出す。アインハルトも追いかけ、他の三人も気付き、慌てて駆け出した。

 

人混みの間をすり抜けていき、目的の場所に辿り着いた。

 

「やだやだやだやだこっちこないでぇ~~!!」

「むぐっ、ぐぐぐっ……!」

 

一人の女性が、二匹の子犬に怯えていた。子犬の方は、ただ甘えているだけなのだが、女性にとっては、恐怖そのもの。年甲斐もなく、まるで子供の様に泣き叫び、連れである少女に抱きついていた。

抱き付かれている少女はというと、女性の豊かな胸が顔に押し付けられており、白目を向いて窒息しかけている。

 

「…………」

「ネクサスさん、お二人が……」

「今全力で他人のふりしたいけど、そうはいかないよね……はぁ」

 

女性と少女――――キバーラとユーリの姿を見つけ、ネクサスは重いため息をついた。

 

しかし、これだけでは終わらない。

 

「――――あっ」

「えっ?」

 

人混みの中から、一人の少女が出てきた。やや息を荒くし、呼吸を整える。

その少女――――シュテルはネクサスと目が合う。

 

「シュ、シュテル」

「シュテル、さん?」

「ネクサス……アインハルト……」

 

すると、シュテルの後方から、彼女を追いかけてきたであろう、二人の親子がやって来た。

高町なのは、高町ヴィヴィオの二人だ。

 

「あっ、ネクサスさん!アインハルトさんまで!」

 

高町親子の登場に、ネクサスは驚きを隠せない。まさか、こんな所で遭遇してしまうなんて。

 

「うわわわわわっ!どいてどいて~~!!」

「危な~~いっ!!」

 

今度は、空から声が聞こえる。見上げると、水色の光と金色の光が合わさり、こちら目掛けて落ちてきた。

ネクサス達は慌てて回避。二つの光は、がら空きとなった地面に不時着する。

 

「うぅ~……」

「いっ、たぁ……」

 

水色の光――――レヴィは目が回って気絶しており、仰向けに倒れる。金色の光――――フェイトは勢い余って、レヴィに覆い被さる様に、四つん這いになっていた。

 

ネクサスは更に動揺する。そして、極めつけと言わんばかりか、またも後方から大声が聞こえてきた。

 

「は~な~さ~ん~か~~!!」

「は~な~さ~へ~ん~~!!」

 

歯を食い縛り、地面を踏み締めて一歩ずつ進むディアーチェ。そんな彼女を両腕で掴み、全体重をのせて止めようとするはやて。あの古着屋で出会い、この状態のまま、ここへとやって来たのだ。

 

「フェイトちゃんにはやてちゃん、その子達は……」

「なのは、その子は……?」

「ど、どないなっとるんや、これ?」

 

なのは、フェイト、はやての三人は、それぞれ自分に似ている少女と、友人二人に瓜二つの容姿をした少女達を見て驚きを隠せない。

 

「な、なのはママが…フェイトママも、はやてさんも……二人いる!?」

 

それぞれの顔を見比べ、ヴィヴィオは思わず叫んでしまう。

 

こうして、三人が揃ってしまった。

 

この事実に、ネクサスは頭を抱える事となった。

 

 

◇◆◇◆

 

 

人里離れた場所に位置する、比較的小規模な研究施設。小規模といっても、それなりに大きな建物である為、目立つのは目立つ。しかし、この施設の存在に気が付く者は、関係者以外、誰一人としていない。

何故なら、特殊な結界魔法により、認識を阻害される上、触れる事すら出来ない。正に、幽霊の様な建造物となっているからだ。

 

その幽霊研究所内部にて、“とある実験”が行われようとしていた。

 

「スーツの状態は?」

「硬度、動力ユニット、機能全体、今の所問題は見当たりません」

 

研究員、作業員であるゴースト族達が、足早で作業に取り組んでいる。研究資料に目を遠し、点検を行い、細心の注意を払って、始めようとしていた。

 

「これで、準備は出来ました」

「いよいよですね」

 

ゴースト族の一人が言うと、隣にいた金髪の青年が、身に付けている眼鏡をかけ直し、同意する。

 

「ええ、ご協力感謝します――――【スクライア司書長】」

「僕の力でよければ、喜んでお手伝いしますよ」

 

研究員が礼を述べると、ユーノは笑みを浮かべて対応する。

そして、実験に参加する友人、ゼラムに声をかける。

 

「ゼラム、体の調子はどうだい?」

「問題ない」

「くれぐれも、無理はしないでよ?今日はあくまで、試運転みたいなものなんだから」

「分かっているさ」

 

“とある事件”をきっかけに出会い、今では良い友人関係を築き上げている二人。古い文献等でしか知らなかった、ファンガイア、レジェンドルガ等の魔族の存在。前述の事件にて深く関わる事となり、ユーノはこうして協力者の立場となっている。

 

「この実験成功すれば、次の段階へ行ける。そうすれば、ネオファンガイアの対抗手段が増え、“あの子”の負担も少しは軽くなれるかもしれない……」

「……そうだね」

 

今回の実験目的は、敵に対抗する為作られた、“パワードスーツ”の最終調整。

試作段階での起動となる為、その危険性は高い。

ゼラムはそれを承知とした上で、被験者となることを選んだ。

 

「では、行ってくる」

「うん、気を付けて」

 

友人に見送られながら、意を決して向かうゼラム。

 

「「ん?」」

 

突然、ゼラムの通信端末が震える。誰かからの連絡を受信した様だ。

思わず足を止め、端末を手にするゼラム。

 

「はい、こちらゼラム」

「あの、先生。ちょっと報告したい事がありまして」

「なんだ、ネクサスか」

「報告したい事って?」

「あれ?ユーノさん、どうしてそこに?」

「ちょっと用事があってね。それより、伝えたい事があるんじゃ……」

「ああ……はい」

 

通信に出たのは、ネクサス。何やら、深刻な面持ちをしている。訝しげに、画面を見るゼラムとユーノ。

 

「実は……こうなっちゃって」

 

重々しく述べ、ネクサスは“現場”に向けて、端末の映像として記録する。

 

「わ、私のそっくりさんがいたと思えば、フェイトちゃんとはやてちゃんのそっくりさんまで!?」

「とうとう、バレてしまいましたね」

 

驚きを露にするなのはに、観念して帽子を取ったシュテル。

 

「どっちも小さい頃のなのはとはやてにそっくり……」

「あ~あ、バ~レちゃったね」

 

フェイトも動揺しており、レヴィは観念したのか大人しくしている。

 

「そっくりさん言うても、これは似すぎやろ……!?」

「いい加減離さんか~~!」

 

驚愕の表情を浮かべるはやて。そんな彼女に抱き上げられたまま、ジタバタと抵抗するディアーチェ。しかし、まったく外れる気配がない。

 

「やだやだやだやだもうこんな所いられないお家帰るぅ~~~~!!!」

「…………ガクッ」

 

子犬に迫られ、幼児退行したかの様に、泣き喚くキバーラ。ユーリは限界に達したのか、キバーラの胸に埋もれたままピクリとも動かない。

 

「バレました」

「「…………」」

 

そう告げられ、重いため息をつくゼラムとユーノ。

とりあえず、今日の実験は中止。二人は、急いで現場へ向かった。

 

彼女達に真実を語る心構えをしながら。


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