リリカルなのはvivid―アナザーメモリーズ―   作:NOマル

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何故だか、結構長い文章になってしまいました。


reminiscence2―はやてとシグナム―

――――最後はわたしやね。まだ機動六課を設立する前、私が所属していた部署に一通、映像付きのメールが届いたんよ。今でも、思い出す度に、腹が立つ映像や……!

 

 

 

はやてのパソコンに送信された、一通のメール。差出人は不明。内容は以下の通り。

 

【正午、送信した映像を御覧下さい。一人でも構いませんが、せっかくですので部署内の局員全員で御鑑賞頂けたらと思います】

 

メールに添付された映像フォルダを押しても反応がない。記された通り、時間通りに再生するのだろうか?

時計を見ると、残り三十分で正午となる。はやては他の局員にこの奇妙なメールの事を告げ、課内全員で確かめる事に。

その場には、仕事の応援で駆けつけていたシグナムもいた。

 

「一体何なんやろ?」

「さぁ、私からは何とも……」

 

はやてとシグナムは勿論、局員達の間で様々な疑惑が飛び交う中、時計の針が、正午を指した。と、同時に、パソコンに送られた映像がプロジェクタースクリーンに写し出される。

 

「っ!?」

 

その場にいた全員が、言葉を失う。

 

写っていたのは、男女五人の管理局員。

実は、“とある人物”の調査を担当する事になり、“五人一組”でチームを組んでいたのだ。そして、映像に映っているのが、その五人。

全員が椅子に座り――――否、鎖で縛り付けられ、身動きが取れずにいた。口にも鎖が巻かれ、無理矢理咥えられている様に見える。そして何より、全員が傷だらけになっていた。皮膚から血が流れ、痣も出来ており、一人は“片目を潰されて”いた。全員が苦悶の表情を浮かべ、憔悴している上、痛々しく見える。

側にはナイフ、ペンチ、鞭、鎚、鋸――どれも血が付着している――等が置かれた作業机があり、五人が“何をされたのか”を物語っている。

 

場所は、まるで刑務所の様な、薄暗い部屋。壁も床も、コンクリートで埋め尽くされていた。

 

すると、映像内で、映っていない所で、扉を開ける音が聞こえた。それを聞き、怪訝な表情を浮かべるはやて達。

それに対し、映像の中にいる局員達は、扉があるであろう方角を目にした途端に、顔面蒼白。表情が恐怖に染め上げられていき、女性に至っては、小刻みに怯え、震え、パニックに陥っていた。

コツ、コツ、と歩く音がその部屋に反響する。その音は段々と近付いてきた。ゆっくり、ゆっくりと。

 

――――突然、画面が大きく揺れた。

 

「どうも、初めまして管理局の諸君。私からのビデオメールをご覧頂き、誠に感謝する。因みに、この場所は絶対に特定されない様にしているから。探そうと思っても、逆探知しようとしても無駄だよ」

 

ビデオカメラを手にしているのだろう。揺れる画面の向こうで、機械のマスクを被った謎の人物が、こちらに話しかけてきた。

短く話した後、カメラを定位置の場所に置き、その人物は五人の元へ近寄る。

 

「突然の事に驚き、疑問を抱いている事だろう。何故、このビデオを送りつけてきたのか?何故、ここに五人の管理局員がいるのか?そして、私が今から“何を”するのか」

 

不気味に笑い、作業机にある道具を指で弄る。その一挙一動に、五人は更なる恐怖を植え付けられる。

謎の人物は、五人の顔に、自分の顔を近づけた。

 

「さぁ、何をすると思う?」

「っぐ……ぅ…」

「何だと思う?」

「ひぃ……ぅ、ぅぅ……!」

「何をされると思う?」

「んん、んんっ……!」

「何をしようとしていると思うぅ?」

「ふぅ…ぐ……ぅうう!」

 

一人一人に、問いかけていくイデア。局員達が目を反らそうとしても、髪を乱暴に掴み、無理矢理自分と向き合わせる。

 

「おっと、申し訳ない。これじゃあ喋れないな」

 

そう言うと、片目の潰れた局員の口に巻かれた鎖を外し、再度、質問をする。

 

「さぁて、私はこれから君達に何を――――」

 

ぺっ!と、マスクのレンズに血の混じった唾が吐かれた。その局員は、震えながらも、まだ残っている片目でイデアを精一杯睨み付ける。

 

「そんなもの……知るかっ!」

「…………」

 

目の前の人物に対する恐怖は、嫌という程植え付けられた。こうしている時も、怖くて仕方がない。それでも、例え片目を潰されたとしても、これ以上怖じ気づく訳にはいかない。自分は時空管理局の一員だ。この凶悪犯に、決して屈する訳にはいかない。

そんな局員の抵抗に、イデアは何も言わず、踵を返す。そして、作業机に手を置いた。

 

「お前、みたいな……お前みたいなイカれた奴に、負けてたまるか……!」

「………」

「絶対に、他の局員達が……はぁ…はぁ…お前を、捕まえる」

「………」

「絶対に、逃げ……られないぞ……ごほっ、ごほっ!必ず、お前を――――」

 

ドガッ!!と、イデアはバールを手に取り、振り返り様に局員の顔めがけて殴り付けた。

その局員は口から血を吹き出し、椅子ごと後ろ向きに倒れる。そんな彼に、イデアは更に追い打ちをかける。

 

「質問に!答えろと!言って!いるんだ!この!愚図がっ!私が!質問!して!いるだろっ!お前らは!それに!黙って!従って!いれば!いいんだよっ!そんな事も出来ないのかこのゴミがあああああああああああっ!!」

 

何度も何度も何度も何度も何度も何度も殴り続けるイデア。殴る度に、真新しい血が壁に、床に、付近の局員達やイデア自身に飛び散る。

他の四人が制止の声を上げる。鎖を巻かれて喋れない為、大きく唸るが、それでも止まない。

一方、この光景をスクリーン越しに見ている――――否“見る”事しか出来ないはやて達。先程から、探知しようとしているが、場所の特定が一切出来なかった。映像に映っている建物内部も、特徴らしい特徴もない。

はやては勿論の事、全局員達が、歯を食い縛り、拳を握りしめている。悔しさ、怒り、悲しみ等の負の感情が、この課内を支配していた。

 

中でも、“彼女”は色濃く面に出ていた。

 

ドガッ!!と室内の壁に拳を叩きつけるシグナム。その音に驚き、他の局員達が彼女の方を見る。

 

「――――」

 

その瞳は、主であるはやてですら、見たことのない。恐怖さえも抱く程、憎悪に満ちていた。

 

「シグナム……」

「……取り乱して、申し訳ありません」

「ううん、気持ちは分かるで。私も、ぶちギレる寸前やから……」

 

何とかシグナムを宥めるはやて。しかし、止める彼女自身も、画面にいる悪魔の所業に対し、言い知れない怒りを抱いていた。

 

「――――ふぅ」

 

グチャ……と、バールを引き抜き、イデアは無造作に放る。地面に落ちて生じる金属音に、四人はビクッ!と体を震わせた。

 

「いやぁ~お恥ずかしい所をお見せしてしまった!だが、あれは彼が悪いなぁ?まったく、そちらの教育はどうなっているんだい?あまりにも失礼な奴だから、つい殺してしまったよぉ……フフフフ」

 

カメラに向けて、狂った様に言い放つ。

同僚を殺されて憤る者。

狂気を目にして恐れ戦く者。

前述の二つを一切表に出さず、冷静に分析する者。

 

映像を目にした局員達は、その三つに分かれた。はやては、三者だ。ここで感情を爆発させても、どうにもならない。何とか、この場所がどこにあるか、どうやって探せばいいかを考えなくては。

胸の内から湧き出る怒りを必死に抑え、はやては映像から目を離さない。

 

「興が削がれてしまった。もうちょっと楽しむ所だったんだけどなぁ……はぁ」

 

肩を落とし、あからさまに落胆するイデア。すると、何やら端末らしき物を取り出し、操作する。

同時に、またもはやてのパソコンにメールが送信された。彼女は急いでデスクに向かい、メールを開く。

そこには、住所が記載されていた。

 

「届いたかな?それで、私が今いる場所が分かる筈だ」

 

どうやら、自分の居場所を教えたらしい。

またも不可解な行動に、全員が混乱する。

 

「来たいなら来ればいい。なんなら、大勢で来るか?歓迎するよぉ……“こいつら”と同じ様になぁ」

 

捕まっている二人の局員を掴みながら、挑発する。来てもいいが、相応の覚悟はしろ、との事。

 

「安心したまえ。私はまだ目的を達成できていない。ここにはもうちょっと滞在するつもりだ。こいつらで遊ぶのも飽きてきた所だから、早めに来てくれるとありがたいな」

 

本人は、そこから動かないつもりらしい。罠の可能性は充分にあるだろう。しかし、同じ局員同士、見殺しには出来ない。

一人は救えなかった。しかし、まだ四人は生きている。見た所、これ以上の危害は加えない旨をこちらに伝えた。今、局内にいる局員達も、映像にいる四人も、一先ずは安堵の表情を浮かべる。

これを好機と判断。被害を増やす事はもう出来ない。部隊長が指示を出し、大至急、救出部隊と戦闘部隊の出動準備を行う。

はやても、参加すべく準備に取りかかる。

 

「――――さて、君達が来るまで暇だな」

 

映像は、まだ消えていない。

イデアは、徐に作業机に近づき、またも道具を手にする。

 

「飽きてきたが……まあ“暇潰し”にはなるだろ」

 

片手にナイフ、もう一方に鎚を手にし、四人の方を向く。

 

「さぁ……今度は暇潰しの時間だ!!」

「ううっ!?」

「んんっ!!いあ、いあああっ!! 」

「ひぃっ!う、うぅあっ!?」

「あぐ、あぐげでぇっ!!」

「ああぁははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ!!!!!」

 

カメラが倒れ、映像は地面だけを映す。

それでも、四人の局員による悲鳴、断末魔。

そして悪魔の笑い声が響き渡る。

 

「総員!!急いで救出に向かうっ!!」

「「「「了解っ!!」」」」

 

事態が悪化し、はやてはシグナムと共に救出部隊へ加わり、現場へと向かった。

 

 

 

指定された場所へと、辿り着いた局員達。管理局内の機動部隊、救出部隊らが駆けつけ、目的地である廃墟を取り囲む。

 

「総員、突撃っ!!」

 

一刻を争う事態。部隊長が指揮を執り、全員が廃墟へと突入する。

それに続く、はやてとシグナム。二人共、バリアジャケットを身に付けている。

 

廃墟の入り口まで後少し――――といった所で、シグナムが“微弱な魔力反応”を感じ取り、足を止める。遅れてはやても停止し、先行している部隊に警告を出す。

 

「止まれぇえええええ!!!」

「あかんっ!!今すぐ止まってぇ!!」

 

しかし、遅かった。

 

突如、部隊の先頭がいた場所が、爆発したのだ。しかも、一回だけではない。連鎖する様に、爆発が広がっていき、次々と管理局員達を飲み込んでいく。

 

「皆さん!急いで防御魔法を展開してください!!」

 

はやての掛け声により、武装隊は急いでプロテクションをかける。それにより、爆発を防ぐ事に成功した。

そして、爆発が止んだ。爆風によって砂煙が立ち込め、視界が悪化してしまう。

 

「もしかして、爆弾……?」

「恐らくは。魔力による遠隔操作を行っていたものかと」

 

ただ、その魔力があまりにも微弱すぎた為、気付くのが遅れてしまった。それと同時に、感知できない程の弱い魔力で操作し、起爆するとは。

 

「ほんま、何者なんや」

 

そう呟いた瞬間、地面から何かが吹き出した。

黒い塊が重なり合った様な、集合体。それは蛇の様にうねり、凄まじい速さで武装隊員達を飲み込んで――防御魔法ごと――いく。

 

「な、なんなんだっ!?」

「くそっ、くそぉ!!」

「く、来るなぁ!!?」

「ああ、ああああ……」

 

隊員達はデバイスを構え、魔力弾を放つ。やや混乱、冷静さを大いに欠いた、自棄気味に放たれた弾は、当たってはいる。しかし、その黒い物体はものともせず、隊員を次々と飲み込んでいく。

 

「何なんやあれは……!?」

「ぐっ!」

「シグナムッ?」

 

黒い物体が現れた瞬間、シグナムは頭を押さえた。突然の頭痛に、顔を歪める。

 

「どないしたん?」

「分かり、ません……あの物体を、見た瞬間……“何かを思い出しそう”に……っ!」

「シグナムっ!?」

 

痛みは更に増し、シグナムは体勢を保てなくなる。はやては心配し、家族である彼女の様子を窺う。

 

「シグナム、無茶せんとここは引いて。あの黒いモジャモジャは私が何とかしたる」

「あ、主……」

 

シグナムに下がる様に言い、はやては前線へと向かう。

 

(急に、何だ……私は、あの物体を“知っている”?)

 

記憶の奥底に眠る、“古の時代の記憶”。それが無理矢理呼び起こされようとしていた。

 

一方、前方ではまた一人、隊員が飲まれようとしている。しかし、それは“プロテクション”によって防御された。隊員が仕掛けたものではない。

後方支援において、圧倒的な能力を持つ八神はやてによるものだった。防御魔法が展開された瞬間、黒い物体は弾かれ、軌道を変える。

 

「ここは私が防ぎます!撤退の指示を!」

「す、すまない……!全員、撤退だぁ!!」

 

痛手を負った部隊長――黒い物体により、片腕を損傷――は、はやてに一言告げ、部下を連れて撤退する。

それを見逃さず、黒い物体が襲いかかってきた。

 

「させへんっ!!」

 

物体の行く手を阻む様に出ると、はやてはデバイス――――シュベルトクロイツを掲げ、古代ベルカ式の魔法陣が足元に浮かぶ。

 

「【ブリューナク】ッ!!」

 

ダガー状の弾が、黒い物体に炸裂。威力が低い為、対したダメージにはならない。しかし、こちらに意識を向けさせる事は成功した。

思惑通り、その物体は、はやて目掛けて突進する。それに伴い、防御魔法を展開する――――寸前、はやての前に、一人の騎士が出る。

 

「はああああああああっ!!」

 

愛用のデバイス、レヴァンティンを構え、突進してくる物体目掛けて突きを繰り出すシグナム。

剣先は物体の先端に刺さり、黒の物体が四方へと散らばっていく。

 

「でやあっ!!」

 

終いに、レヴァンティンで全てを振り払う。

物体はバラバラになり、彼女から避ける様に、四散していった。

剣を下げ、肩を上下させて呼吸するシグナム。

 

「はぁ……はぁ……」

「シグナム――――」

「お見事」

 

声に反応し、シグナムとはやては、顔を向ける。

そこに、奴がいた。後ろで手を組み、何の警戒もなしで、こちらへと歩み寄る。

はやてはデバイスを構え、奴を睥睨する。すると、またも痛みを感じたのか、シグナムが頭を押さえた。

 

「シグナムっ!?」

「ぐうっ!!あ、頭が……!!」

 

走馬灯の様に、頭の中に映像が流れ込んでくる。

 

 

遥か昔の、ベルカの時代。人間と魔族との間に大きな壁があり、住む場所全てが戦場となっていた。

次に思い出したのは、“かつての主”の姿。“人間ではない”にも関わらず、偶然にも夜天の書を手にした稀有な存在。

しかし、今の主であるはやてと同じく、自分達ヴォルケンリッターの事を道具ではなく、“仲間”として迎え入れてくれた、心優しきもう一人の主。

 

それから、“もう一人”。主の親友となり、またヴォルケンリッターの四人とも良き仲間となった人物。

騎士としても――――“一人の男性”としても、自分が心中で慕っていた男性。

 

今となっては、主共々顔も名前も思い出せない。しかし、存在していた事は覚えている。

 

そして、彼ら二人を陥れ、王達との絆を無理矢理絶ち切らせ、葬り去った憎き存在。

そいつが今、目の前にいる。頭を押さえながら、徐に顔を向けた。

 

 

シグナムは、“その名”を口にする。

 

 

「イデアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

怒り爆発。レヴァンティンを携え、シグナムは目前にいる人物――――イデア目掛けて突進。

 

「おっと」

 

即座に透明な魔力障壁を展開。炎を纏った刃が触れ、そこを起点に火花が生じる。

 

「貴様……貴様だけは断じて許さんっ!!」

「やれやれ……相も変わらず、血の気の多い女だ」

 

憤怒の炎を燃やす烈火の将。手にしている剣に力を加え、障壁を切り裂かんとする。しかし、刃が食い込むことはなく、それ以上は進まない。

イデアは余裕綽々といった様子で、気楽に構えていた。

 

「何をそんなに怒っている?何がお前をそんな風に駆り立てている?」

「ほざけっ!忘れたとは言わせんぞ!貴様が行った悪行を」

「覚えてはいるが、罪悪感はこれっぽっちも抱いていない。寧ろ、楽しい思い出だったなぁ」

「何、だと……!?」

「お前はどうだい……嫌な事でも思い出したのかぁ?」

「ぁあああああああああああああああああああああああああ!!」

 

次々と紡いでいく挑発の言葉。

普段のシグナムなら、何事もなく受け流し、冷静に対処するだろう。しかし、今回は相手が悪かった。

今、漸く思い出せた宿敵。それにより、我を失ってしまっている。

 

「シグナムっ!どないしたんや!?シグナムっ!!」

 

主、八神はやてが必死に声をかけるも、全く届いていない。シグナムの怒りは、増すばかりだ。

 

「はぁ……いい加減、鬱陶しいぞ」

 

呆れ半分、苛立ち半分といった声音で、イデアは呟く。瞬時に手を掲げると、障壁が急に破裂。その衝撃に押され、シグナムは後退してしまう。

 

「しまっ――――」

「目障りだ」

 

イデアはシグナム目掛けて手をかざす。それに反応するかの様に、黒い物体が動き出す。今度は、集合するのではなく、それぞれが鋭利な刃物に変化した。十、二十、三十、四十と瞬く間に増えると、目標――――シグナム目掛けて一斉に射出。

 

「ぐぅぅっ!!」

 

障壁を出す間もなく、シグナムは刃の雨を浴びてしまう。だが、流石は歴戦の騎士というべきか、レヴァンティンで殆ど切り落としていく。しかし、落とし損ねた刃はあり、それらは彼女の衣服を切り裂き、肌を傷つけていく。

 

「シグナム、今行く――――」

「そうはいかない」

「っ!?」

 

助けに向かおうとするはやての背後へ、瞬時に移動するイデア。後ろから、己の左手で彼女の左手首を掴み、更に彼女の脇の下を通し、右手で首を締める。

 

「がっ、ぁぅ……!」

「すまないなぁ、お嬢さん。少し大人しくしててくれたまえ」

「イデアっ!主から、離れろ!!」

「お前の相手は御免だ」

「ぐっ、“ジェノム”か……!」

 

刃を叩き落としたシグナムは、全身傷だらけになりながらも、主の元へ助けに向かう。しかし、またも行く手を阻むのは黒い物体――――ジェノムだ。今度は蛇となり、シグナムに襲いかかる。イデアの元へ行かせぬ様、四体がかりでだ。

一方はやては、必死に抵抗する。しかし、体がピクリとも動かないのだ。それもその筈、シグナムと戦っている筈のジェノムが、足から胴体にかけて埋め尽くしている――デバイスも拘束された――からだ。気色の悪い感触に襲われ、寒気を感じる。

 

「シグ、ナム……!」

「さて、本来の目的を果たすとしよう」

 

耳元で呟くと、イデアの右手が黒く光る。すると、首の一部分から痛みが生じた。

 

「っ!!」

 

“針を刺した”様な痛みに、はやては瞼をぎゅっと閉じる。数秒経ち、イデアは右手、そして左手を離し、はやてを解放した。彼女は、膝から地面へと崩れ落ちる。

 

「くっ……!」

「くくく、良い物が手に入った」

 

手にしているのは、“赤い液体”の入った小さなカプセル。イデアは、それを懐に仕舞い込んだ。

 

「あの局員達もそこそこ役に立った。こうして八神はやてを誘う餌となり、私のストレス発散の道具としてもね」

「まさか……私を、おびき出す為に……たったそれだけの為に、彼等を…!」

「ああ。その上、私の周辺を嗅ぎ回っていて苛立たしかったからなぁ。助けに来た様で申し訳ないが――――全員死んだよ」

 

はやての耳元で、イデアはそう呟いた。

目を見開き、心の奥底から怒りが込み上げてくる。

普段の彼女を知る者から見れば、今の姿はとても思えない、恐ろしい表情をしていた。

 

「いや、しかし手荒な真似をして申し訳ない。か弱い女性に無理をさせてしまった」

「ご心配なく……女性は女性でも、私はそんなか弱くない方なんやっ!!」

 

震える手に力を入れ、杖の石突きを思い切り地面へと叩きつける。すると魔法陣が浮かび上がり、そこから剣を模した魔力弾が上へと飛び上がった。

 

「【バルムンク】ッ!!」

「おっと」

 

勢いよく飛び出し、はやての近くにいたイデアは、間一髪回避。

しかし、魔力弾は直ぐ様旋回し、イデア目掛けて突撃してくる。気が付けばかなりの至近距離にまで追い詰められていた。

 

(たかが支援系と、少し侮り過ぎたか)

 

舌打ちし、両手から光刃を出現させ、迫り来る剣の魔力弾を切り伏せる。

全弾を弾いた直後、目前に刃が迫っていた。

 

「はあっ!!」

「っぐ……!?」

 

シグナムは剣を振るう。それは、イデアの胸元を掠った。ただ掠った程度の事。しかし、相手はやや焦り気味に後退する。

 

「危ない、危ない。採取の為だけに、命を落としたんでは話にならん」

「貴様、我が主に何を!?」

「命を脅かす事は何もしちゃいないさ。もっとも、近い将来……“この世界”を脅かす事は、するだろうけどね」

 

両手を大きく広げ、天を仰ぐイデア。良からぬ事を企てているのは間違いないだろう。

ならば、ここで逃がす訳にはいかない。はやてとシグナムは、デバイスを構え直し、対峙する。

 

「目的を達成した以上、お前達とやり合うつもりはない。これにて失礼させてもらう」

「ちょ、待たんかいっ!」

「貴様……!」

「さらばだ」

 

ジェノムが黒い竜巻と化し、イデアを飲み込んでいく。そして瞬く間に、姿を消した。

逃がしてしまった。はやては歯を食い縛り、シグナムは拳を握りしめ、地面へと叩きつける。

 

 

 

――――その後、廃墟の中へ潜入したら、あいつの言う通り、“五人の死体”が発見されたんや。ほんま、酷い事されとったんやって……見た瞬間に理解したわ。

 

――――結局、イデアが何の為に私を呼び出したのか、その時は分からんかったんやけど……今回の話で、漸く分かった気がする。

 

 

 

なのは、フェイト、はやて。あの悪魔の様な存在との出会いにより、三人は凄まじい悪意を見せつけられた。




イデアがどれだけヤバい奴なのか、ご理解いただけたでしょうか?


また変更点があります。主にアナザーストライクの方で。オリジナルキャラであるロアを、“あの娘”に変えます。話を考えている中で、“あっ、これいいかも”というのが色々と浮かび上がりまして、変更しようという考えに至りました。
勝手ながら後日、アナザーストライクの話の方を少し編集させていただきます。
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