リリカルなのはvivid―アナザーメモリーズ― 作:NOマル
これからも、こんな遅いペースになってしまうかと思います。皆さんに読んで頂ける様、頑張りますので、応援よろしくお願い致します。
チュンチュン、と鳥の囀りが耳に届く。窓から射し込む太陽の光が一日の始まりを告げる。
「…………ん……」
少年、ネクサスはゆっくりと、瞼を開いた。視界に入る見慣れた天井。
寝台から上半身を起き上がらせ、体を伸ばそうとする。
「――――っ!いたた……」
瞬間、体に痛みが生じる。
よく見ると、彼の額には包帯らしき物が巻かれていた。鈍い痛みが生じ、微かに顔を歪める。
昨日、キバとなってネオファンガイアを撃破したネクサス。その際、現場にいた一人の少女。学院のクラスメイトであるアインハルトが倒れていた。
徹底的に痛め付けられ、すぐにでも病院に搬送させなければならない状態だった。だが運の悪いことに、通信端末を持ち合わせておらず、救急車を呼ぶことが出来ない。それに加え、自分が現場にいたら、必ず事情聴取をされる。そうなれば、周知に秘密にしてある“キバ”の事がバレてしまう可能性が高い。
しかし、大事なクラスメイトを放っておく訳にもいかない。そんな時、応急処置を取る事にした。一緒に暮らしている四人を救うために行った時にも利用した方法だ。
それが“吸血”によるダメージの吸収だ。
怪我をした人間の血を吸うことにより、その負担を引き受ける。自分の中に溜め込み、特殊な魔力によって少しずつ溶かしていく。“ある理由”で魔法が充分に扱えない、ネクサスが唯一出来る治療方法。といっても、ダメージを丸ごと貰うので、滅多に使わない。
昨日、家に帰った途端、一気に症状が現れ、その場で倒れてしまった。それを見たレヴィとユーリは完全パニック状態。シュテルとディアーチェも、二人程ではないが少し焦っていた。キバーラはというと、冷静に容態を把握し、指示を――若干、声が震えていた――を出していく。
キバーラに言われ、ホロンが慣れた手つきでネクサスの治療を行った。彼の“デバイス”としての機能を使い、回復を行う。シュテルとディアーチェも自分達に出来る簡単な治癒魔法を使い、協力した。レヴィとユーリが二人で見守る中、何とか治療に成功。全員が安堵の息をついた。
しかし、今回はまだマシなほうだ。彼女達を助けようとした時は、それはそれは大変だった。
四人分のダメージを請け負った為、全治二ヶ月――人間よりやや高い、持ち前の自己治癒力を以てしても――の入院を余儀なくされた。もうちょっと考えて行動する様に!と、“あの人達”から念を押されて言われたのはよく覚えている。
何はともあれ、一晩寝れば傷は大体塞がった。多少の痛みはあるが、問題はない。包帯を取り、鏡を見る。
少し痣はあるが、前髪で隠せる程度にまで回復している、問題はない。
「うん、今日も良い天気だ」
カーテンを開け、朝日の光を全身に浴びる。学院へ行く為、身支度を行うのであった。
制服に着替え、部屋を出ると、階段を下りてリビングに向かう。居間にしては広々としており、キッチンも向かい合う様に設置されている。
「あっ、ディアーチェ、シュテル。おはよう」
「おお、ネクサスか」
「おはようございます」
台所には先客がいた。髪を短いポニーテールに束ねており、黒のエプロンを身に付け、朝食を作っているディアーチェ。シュテルは食器類をテーブルに並べている。二人とも、テキパキと行動し、無駄な動きが一切ない。
「僕も手伝おうか?」
「いや、構わん。もうすぐ出来上がるし、お前に無理をさせる訳にはいかん」
「そうです。本当なら、安全を考えて、今日休ませようと思っていた所なのですから」
「そんな大袈裟だよ。ほら、僕ならもう大丈夫――――」
「「はっ?」」
「……何でもありません」
二人に睨まれ、萎縮しながら、大人しく席につく。
「そ、そういえば、レヴィとユーリはまだなんだね」
「二人なら、さっきキバーラとホロンが起こしに行ってくれました」
「そっか」
すると、リビングにまた一人、少女がやって来た。後ろには、パーカーだけの物体が浮遊して控えている。
「おはようございます、ネクサス。シュテル、ディアーチェも」
「うん、おはよう。ホロンもおはよう」
ホロンは手を振り、挨拶を返す。
そこでネクサスは、ユーリの髪が少しだけ跳ねている事に気づく。
「ユーリ、寝癖が付いてるよ。ほら、ちょっと座って」
「えっ?あっ、はい……」
指摘され、仄かに頬を赤く染めるユーリ。畏まった様に、椅子に座る。ネクサスは櫛を持ってくると、慣れた手つきでとかしていく。
ややウェーブのかかったブロンドの髪。跳ねていた所も直り、指通しもサラサラで心地よい。鼻歌混じりでやるネクサスに対し、ユーリは何故か緊張した面持ちで、固くなっていた。
「これで、よし。終わったよ、ユーリ」
「……えっ?もう、終わりですか?」
「うん、そうだよ?」
そう返すと、ユーリはやや俯く。背後からだと、表情は見えない。しかし、どこか残念そうにしているのは、気のせいだろうか?
不思議に思っていると、ネクサスの目の前を、シュテルが強引に入り込む。
「ネクサス、朝食がもうじき出来上がります。早く席についてください」
「う、うん、そうだね」
無表情で答えるシュテル。だが、少し威圧的な雰囲気を感じてしまう。やや押される様に、ネクサスは席についた。
長方形のテーブルで、人数的には六人座れる。一番端の席がネクサス。ネクサスから見て、右側には、シュテルとレヴィ――向こう側から――。左はディアーチェとユーリという風に座る。
ディアーチェが出来上がった朝食を皿に乗せ、テーブルに置いていく。スクランブルエッグにポテトサラダ。白いご飯と味噌汁もある。和と洋が混ざった朝食がテーブルに置かれた。
「うひゃあああああああ!?」
全員が席についた途端、二階から聞き覚えのある悲鳴が聞こえてきた。思わず目を丸くし、天井に視線をやる。
ドタドタ!と階段を駆け下り、レヴィはパジャマ姿――紺色のTシャツに水色の短いズボン――でリビングにやって来た。顔を赤くし、息が少し荒い。
「レ、レヴィ、どうしたの?」
「うぅっ、キバーラが……」
「レヴィ、家の中で暴れちゃ駄目よ?」
「うひゃあっ!?」
突如現れたキバーラの声に反応し、その場から飛び退くレヴィ。ネクサスの後ろに避難し、彼女に警戒の視線を向ける。
「キバーラ……何したの?」
「別に?起こそうとしても全然起きないから、ほんのちょっとだけ“カァ~プ”っとしてあげただけよん♪」
「うん、それだね」
呆れた様に、溜め息をつくネクサス。
蝙蝠故の習性か、彼女の悪ふざけか。こうやって不意に首にかぶりつくのはやめてほしいものだ。
レヴィ曰く、「すんごく、くすぐったい」らしい。
「ごめんごめん。もうしないから、ね?」
「…………」
「だ、そうだよ。レヴィ、もう大丈夫だから」
「…………うん」
渋々といった風に、レヴィは自分の席につく。こうして、全員が揃った。
「それじゃあ――――」
いただきます――――と、朝食を味わう五人。卵も良い焼き加減で、味噌汁の出汁もよく出ている。ディアーチェの料理の腕がまた上がっているようだ。
レヴィもすっかり機嫌を良くし、朝食を瞬く間に平らげていく。
朝食を食べ終え、食器類を水に浸ける。ネクサスは鞄を背負い、靴を履く。すると、ディアーチェが慌てて呼び止める。
「おいネクサス!弁当を忘れているぞ!」
「あっ、ごめんごめん」
「まったく……ほら」
「うん、いつもありがとう」
「うむ、心して食すがよい」
満足気に頷き、腕を組むディアーチェ。
玄関を出るネクサスに続き、四人と一匹と一着?が見送りに出る。別に毎日見送らなくてもいいのに、と思うが、これも家族として当然の事と、やりたくてやっている事らしい。
「それじゃ、行ってきます」
「お気をつけて」
「いってらっしゃ~~い!」
「うむ、行ってくるがよい」
「今日も頑張って下さいね」
「知らない人に付いてっちゃ駄目よ~?」
「大丈夫だから!」
キバーラの言葉に遠くから反論する。ホロンも両手を振り、主を見届ける。
やがて姿が見当たらなくなり、全員が家に戻る。
「さて、食器を洗うとするか」
「手伝います、ディアーチェ」
「私もやります」
「うむ、すまぬな」
「じゃあボクも――――」
「お主はテレビでも見ておれ」
「……ちぇ~」
即答だ。バッサリと切り捨てられ、そっぽを向くレヴィ。大丈夫大丈夫、とホロンが慰める様に肩を叩く。
ディアーチェが皿を洗い、シュテルが布巾で拭き、ユーリが棚に片付ける。そして大人しくホロンとテレビでも見るレヴィ。
そんな中、ある事に気がつく。
「あれ、そういえばキバーラは?」
「むっ?」
「そういえば……」
「見ていませんね」
ホロンも知らない様で、首を左右に振る。
白いコウモリは、いつの間にか姿を消していた。
◇◆◇◆
魔法学院への登校中。大勢の生徒達に紛れながら、ネクサスは一人、溜め息をついていた。
いつもなら、仲の良い友人達との触れ合いもあり、レベルは高いが楽しい授業もある。自分でも、充実した学院生活を送っていると実感している。
しかし、その足取りはどこか重い。
(はあ……顔合わせづらいな……)
救う為とはいえ、友人である彼女に“あんな事”をしてしまった。相手は気を失っていた為、気づいてはいないだろうが、それでも面と向かって話すのは抵抗がある。
(うぅ、憂鬱だ……)
「オッス!」
重い空気を掻き消すかの如く、明るい声がかけられた。屈託のない笑みを浮かべながら、こっちに走り寄る親友、ジャン。
「どったんだよネク。元気ねぇな~」
「うん、ちょっとね……」
「悩み事か何かか?」
対して、静かに語りかける、もう一人の親友アイザ。ネクサスは苦笑を浮かべる。
「まあ、そんなとこかな」
「ふ~ん。まあ、何があったか知んないけど、そんな暗い顔すんなって。今日も元気出して行こうぜ~!」
「お前は暑苦し過ぎるんだよ。ちょっとは静まれ、馬鹿」
「誰が馬鹿だ!」
「お前だ」
「何を~~!」
また始まった、二人の他愛ない喧嘩。こうして口喧嘩をするが、しばらく経ったらまた普通に会話をしている。
思わずネクサスは、クスッと微笑んでしまう。
今日も今日とて、普段通りの一日が送られる――――
◇◆◇◆
――――かに思われた。
「今日、アインハルトさん休みなんだ……」
担任であるゼラムの話によると、彼女はまだ学校に来ていないらしい。ホッとした様な、がっかりとした様な、複雑な気分になる。
しかし、そうなると気掛かりな事がある。
昨晩、何故一人であの場所にいたのか。そして、この町を脅かす怪人――――ネオファンガイアの事件と同様、起こっている“連続傷害事件”。
まだ事件として表立ってはいないが、近頃噂されていた。被害者はいずれも、腕の立つ戦闘に携わる人ばかり。そんな中、加害者は必ず、名乗りを上げていた。
『
“覇王流”
古代ベルカの時代に聖王と共に生きた、王の一人である“クラウス・G・Sイングヴァルド”が扱う格闘の流派だ。
そして彼は、魔王キバと拳をぶつけ合った好敵手でもある。
詳しい事は文献にも記されておらず、敵か味方かという関係は曖昧なまま。
この事は、ネクサス自身も目にした事がある。昔、無限書庫に通っていた時期があり、その時に読んでいたのだ。
「――――ネクサス君」
「…………」
「ネクサス君、聞こえてる?」
「……ん?あっ、ごめん!何かな、ユミナさん?」
クラスメイトである少女に話し掛けられ、慌てて返事をする。
肩まで伸びた黒髪で、サイドテールに纏めている。名はユミナ・アンクレイヴ。このクラスのクラス委員である。
「今日、アインハルトさんお休みなのかな?何か聞いてない?」
「う~ん……ごめん、僕も分かんないや」
「そっか……」
心配そうに窓を眺めるユミナ。クラス委員としての責任か、彼女自身の性格からか、この場合は両者だろう。
『私の友達は……あなたしかいませんから……』
かつて、彼女から言われた言葉だ。その時の表情は、とても切なく、悲しく、今にも壊れそうな程、弱々しいものだった。
だが、ネクサスは思う。彼女はまだ気づいていないだけだ。実際、こうして目の前に心配してくれる人がいる。それだけでも、救われる事だろう。
無論、自分もその一人だ。
こんな事なら、あの時そのまま残っていればよかったかもしれない。少しでも、側にいてやれれば……。
今更そんな事を言っても、もう遅い。ネクサスは溜め息をつく。
(やっぱり、何かあったのかな)
「――――あれ?」
「ん?どうかした?」
「今、何かが通り過ぎた様な……」
窓を眺めていたユミナが、ふと呟いた。怪訝に思い、ネクサスも窓を見る。
「鳥か何かじゃないの?」
「ううん。鳥じゃなかったと思う。確か、“体が白くて”、“目が紅くて”……」
横切った物をそこまで覚えているとは。
そう思いながら、窓を見る。しかし、何も見当たらない。
気のせいではないだろうか?と、ネクサスは窓から目を反らす――――
「鳥じゃなくて……そう!多分、あれは“蝙蝠”だったわ」
聞いた途端、食い入る様に、窓の外を凝視する。突然、席から立ち上がるネクサスを見て驚くユミナ。そんな彼女の驚きも気にせず、ネクサスは窓をじっと見つめる。
そして、見つけた。
(ハァ~イ、ネクサス~~♪)
(……………………何してんの?)
(来ちゃった、テヘ♪)
(…………………チッ)
(ちょっ、舌打ち!?ひ~ど~い~~!)
呆れてものが言えない。
体が白くて、目が紅くて、蝙蝠であるキバーラ。校舎の屋根に立っており、笑みを浮かべながら、こちらに翼を振っている。かわいこぶっているが、ネクサスにとっては腹立たしいの一言に終わる。
(そんなつれない顔しないでよ。あなたと話がしたくて来たんだから)
(話って……家に帰ってからでも――――)
(二人だけで、話がしたいのよ。昨日会った、“あの子”について……ね)
一変、張り詰めた様な空気になり、彼女の色っぽい声が、冷たい声音と化した。
窓を見ると、こちらをじっと見つめていた。深紅に染まった瞳に、ネクサスが写り込んでいる。
ネクサスも、いつの間にか、表情が変わっていた。何かを思考する様に。
そんな時、昼時のチャイムが鳴り渡る。
「ネ、ネクサス君……どうか、した?」
「……いや、何でもないよ。多分、ユミナさんの見間違いじゃないかな?こんな明るい時間に、蝙蝠なんて出てこないよ」
「そ、そうだよね……」
「うん、きっとそうだよ。それじゃあ」
「あっ……」
それだけ言うと、ネクサスは彼女の横を通り過ぎる。過ぎていく最中、ユミナはその横顔から目を離さなかった。
いつもの彼とは違う、どこか思い詰めている様な顔。そんな事を思ってしまう程の、違和感を感じてしまった。
やがて、彼は教室を後にする。ユミナは暫く、その後ろ姿をじっと見つめていた。