5ヶ月も何していたんだクオリティです、すみません
本当は本編の方でもう少し進めてからこの話はあげようと思ったのですが、日付の関係で先に上げることになりました。
注意
・ただバトルが書きたくてしょうがなかった野望(?)を叩きつけただけ
・誕生日なんて建前(最低)
・メインは過去の話な上に1人で突っ走る
・通常運転だね!(殴)
・時系列的には本編のもう少し先(リーリンが来てから9巻目が始まる3ヶ月の間)
・日付なんてこじつけ(最低)
等が含まれます。
誕生日について触れてますが、実際の誕生日は決めてないです。
書類上では生年月日とかいるよね、と思ってこうなりました。
道を歩いていたら、唐突に声をかけられた。
僕がそちらへ眼を向けると、淡い赤色を基調にした服を着ている見知った顔の人がいた。
眼鏡に、錆鼠色の眼、山吹色の髪。確か、前にあったことがある。
「週刊ルックン」に勤めている、ミィフィの先輩に当たる人で、僕の小隊の先輩であるウォルターの同級生の人。
名前は確か……ミハイル・ルディア先輩だったはずだ。
「えぇと…ミハイル先輩、ですよね?」
「そうそう。みんなだいすき! ミハイル先輩だよー!」
「は、はぁ…」
「なにその返事ー。つれないなー」
のほほんとした性格の彼は、むすっとした顔で僕を見る。
それで、と僕は苦笑しつつ話の先を促す。
「どうかされたんですか?」
「これからウォルターの家に行くところだよ~」
「え? ウォルターの家に…ですか?」
がさがさと手に持った袋をゆすりながら、ミハイル先輩は嬉しそうに言う。
だけど、僕には不明解だ。あのウォルターの家に、どういう理由で行く必要があるのか、と。
「どうしてですか?」
「え、知らないの? 同じ小隊なのに……あぁ、ウォルターだし、言わないね」
「……えっと…どういう……」
僕はミハイル先輩から視線を逸らした。彼は「ふふふー」と何処か意地悪そうな…と言うか、なにかを企んでいるような笑みを浮かべて、袋の中身を僕に見せる。
「彼、今日誕生日なんだよ」
「……………………え」
「本当だよ? 12月13日。なにせ、このミハイル・ルディアの情報だからねー!」
確かに、彼の言う情報は信用できる。
このミハイルという生徒は、おそらくツェルニ屈指の情報通だ。
あのウォルターが言うほどなのだ。
「あいつのテンションは理解出来ないが情報だけは信用できる。…情報だけは」
だけど、今の僕にはそんなこと関係なくて。
「…ウォルターが、今日…誕生日…?」
「ま、書類上だしウォルターのことだから、本当の誕生日かどうかはわからないけどね。さすがにそこまではさ」
片目を閉じて言いながら、ミハイル先輩は僕にそう言った。
それでも書類上とは言え、誕生日だと聞かされた僕は頭をがつんと殴られるのと同じくらい衝撃的なことだ。
ミハイル先輩は特に気にしていないようで、袋の中に入っているケーキごと僕に差し出しながら、先輩は言う。
「まぁ、それはキミ達のお仕事だと思うしね~。お願いしようかな、これ」
「どう…いう?」
「だから、十七小隊でお祝いしてあげて。ウォルターもそのほうが嬉しいと思うし。キミ達のことを、結構気にかけてるみたいだから…」
「え、えぇ?! ど…どういう…?」
「鈍感ルーキーは先輩の厚意にも鈍感なのかな~?」
「……………………そ、そういう事では…」
「じゃあ、わかってる筈でしょ? ウォルターに色々してもらったって自覚があるなら、十七小隊みんなで労ってあげてね」
にっこりと笑ったミハイル先輩に、僕は唖然とした表情を向けた。渡されたケーキをおもむろに受け取った僕に、ミハイル先輩はやはり笑みを浮かべる。
「ちゃあんと素直に言ってあげなくちゃだめだよ、おめでとうって。こっちはこっちで色々またサプライズしてあげるから」
「……………………あ、…えぇぇぇ…」
「……言いなさいよ」
「が、頑張ります……」
僕はミハイル先輩に小さくそう返した。ミハイル先輩は満足そうに頷いて、足取り軽く去っていく。
だが、爆弾発言を残して嬉しそうに去って行かれても、僕としてはどうすればいいのかさっぱりわからない。
とりあえず、隊長に相談してみようと思った。
「何だとっ?!」
隊長はやっぱり怒っている。怒っていると言っても、いつものように激怒しているとかではなくて、なんだか嬉しそうだ。
「あいつ……また黙っていたのか、そういう大事なことを!」
「え、えぇ…ついさっき、ミハイル先輩からそう言った話を聞きまして…それで、隊長達と祝ってあげてくれって言われたんです。ケーキまでくれましたよ」
「助かる! じゃあシャーニッド、ダルシェナ先輩、ハーレイ、フェリ、ナルキ、レイフォン、わたしで、早急に準備を進めよう」
「せっかくならレイフォンの同級生の女の子達も呼ぼうぜ。他のヤツもさ」
シャーニッド先輩がそう嬉しそうに言う。
彼もなんだかんだいって仲間思いの人だ。だから、ウォルターに対してこういうサプライズが出来るというのは嬉しいのだろうと僕は思った。
ほかの人たちを呼び集めて、練武館から移動した僕らは隊長達の寮で祝いの準備をすることにした。
前回のリーリンとレイフォンの誕生日パーティをした時の機材の残りを更に修復して用意し、料理等はリーリンやメイ、そして僕が担当する事に。
ウォルターはと言うと、フェリが担当して足止めに行った。彼ははっきりと言われなければ大抵の事は気にしない。フェリもさっくりとした性格だし、言わないだろう。いまは目的をさっさと達する事が必要だ。
僕は出来た料理を運んでくれと言われて、皿を持ってリビングへ移動して行った。ちょうど、リビングでミィと隊長が話をしているのを小耳に挟んだ。
「隊長さん、ウォルター先輩って去年言わなかったんですか?」
「む? …あぁ、去年の夏終わり目ごろに入ったんだが、あいつはつっけんどんでな。何も教えてくれなかった」
「じゃあ、お祝いどころじゃなかったんですか」
ミィがどこか困ったような顔でそう呟くと、隊長は苦笑交じりに答える。
「まぁ、そうだな。ただ…、事件があって、それ以来ちょっとずつ、打ち解けてはくれたが」
「……事件? 事件ってなんですか?」
「レイフォン。……そうだな、お前たちにも話しておくべきか」
隊長はそう言って、作業していた手の速度を少し遅め、シャーニッド先輩へ視線を送った。先輩も苦笑していて、どうやら先輩にも色々複雑な思いがあることのようだ。
「ウォルターに、何が?」
「ウォルター、と言うよりも…わたし達十七小隊、そしてツェルニだ。……あの日は、予想外の事件が起きていて……わたし達は、無力だった。何も出来なかった。彼以外は」
「何が…あったんですか?」
「…都市の端に、未だ放置されている廃墟があるだろう。その事件で火事になって崩れ、廃墟になったんだ。誘拐事件だった。犯人を追い詰め、逮捕直前までこぎつけたのだが、フェリが犯人の仲間に囚われ…状況は絶望的だった」
どうして、学園都市であんな事件が起きたのか。
隊長の言葉には、苦渋がにじみ出ていた。僕はただ、隊長の話に耳を傾けるだけだった。
わたしは鼻につく臭いに顔をしかめていた。
学園都市とは思えない程、いま、この外縁部は悲惨な状況だ。なんと言っていいのか…分からないほどに。建物は犯人の化錬剄により炎上をはじめ、炎に飲み込まれつつある目の前の建物には、仲間がいるというのに。
わたしは何も出来ない。わたしは無力なのだと、目の前の建物が突きつけてくる。
そんなわたしの肩に、手が触れた。
「ウォルター…!」
「……状況は」
黒と赤の混ざった髪を揺らす、同級生……ウォルター・ルレイスフォーン。
この都市で、最強と呼ばれる実力を持つ彼が、ここへ来てくれた。それだけで、わたしの心は一瞬軽くなる。だがそれでも、最悪の状況は続いているのだ。
彼は状況を聞きながら酷く面倒くさいという顔で、わたしの顔の横にその顔を覗かせる。
「…ロスが、中に」
「あぁ。なんとかして助けなければ…だが、ここまで炎上していては、手が出せない」
「…他に誰かいるのか」
「実行犯は3人。それに加えてフェリだ」
「3人か。…計画的とは言い難いな。追い詰められてばかを晒しているようにしか見えない」
ウォルターはそう言って呆れたように呟き、重そうな腰を上げた。
後衛としていたシャーニッドもこちらへやってきて、慌てた顔をしている。
「フェリちゃんは?」
「まだ中だ。……ウォルター、どうする気だ?」
「都市警察を全員下がらせろ。オレだけでやる」
ウォルターの言葉は冷静で、酷く重々しかった。
だがこんな状況に飛び込むなど、隊長としてもクラスメイトとしても許容出来るものではない。
「な……っ、ふざけるな! こんな非常事態まで、お前のわがままが通じると思うなよ!」
「じゃあ、お前らのくだらない集団行動に足並みそろえて救出を遅らせろって?」
「そうは言っていないだろう! お前のサポートをこちらがするから、お前もそれに合わせて、」
「冗談じゃない。お前らと手足揃えてたら鈍すぎて腐るぜ。分かったらとっとと下がらせろ。この押し問答自体無駄だと、いい加減気付け」
ざっくりと言い放たれ、わたしは呆然とした顔でウォルターを見た。
どうしろというのか。わたしは彼の小隊の隊長で、クラスメイトだ。こんな炎の中に彼を行かせるなど、みすみす死ねと言っているようにも思える。だが、それをしなければフェリは死ぬだろう。
いま、この都市で彼ほどに腕の立つ武芸者はいない。彼についていける武芸者もいない。
無理についていこうとしても、彼の足を引っ張るだけだ。ただの足手まといになる。
ウォルターはわたしの表情に気づいたらしく、大きく舌打ちをした。
「面倒くせぇヤツだな。楽に考えろ、オレはただロスを助けに行くだけだ」
「多勢に無勢、状況も最悪だ。……行くのか」
「オレ以外、誰が行く」
ウォルターは腰の剣帯から錬金鋼を引き抜き、復元する。
形状は銃だ。銃口、装弾する箇所から剄が漏れでているのが、はっきりと見える。
このわたしに、剄を見る能力……と言うより、技術はまだなかった。活剄を濃く練ることは出来なかったし、衝剄もまだ密度が足りているとは到底言えなかった。だが、そんなわたしが活剄をせずとも見ることが出来るほどに、衝剄の密度が高いのだ。彼がいま練り上げている衝剄は。
「サポートなら念威端子だけで十分だ。念威が届きにくくなるのはこっちが何とかする。サポートにあたっている念威操者の念威端子をよこせ」
「あ、あぁ」
シャーニッドがウォルターに念威端子を渡す。端子はポケットにしまい込まれ、ウォルターの持つ銃の剄が煌きを増した。
外力系衝剄を変化、
槍のように鋭い銃弾が、豪速で建物の入り口を覆う炎へ突っ込んだ。それに遅れないよう、ウォルターが剄弾について半歩後ろを走って行く。
着弾した剄弾は、周囲の剄を捻るように巻き付けながら威力を増し、入り口を塞ぐ瓦礫等々すべてを破砕する。砕け散った残骸を飛び越えながら、ウォルターはあっという間に炎の中へ消えていった。
「……わたしは、待つことしか出来ないのか」
待つしか出来ない歯がゆさに、わたしは剣帯に収まるふたつの黒鋼錬金鋼を握りしめた。
オレは若干の焦燥感と共に建物へ突入した。端子と端子をつなぐ念威の保護はルウが行っていて、それを行っている代わりにオレに対して領域は展開されていない。
「念威操者、情報は」
(作りは簡単な建物です。突き当りを左手へ。その後は追って通信します)
「了解」
廊下の長さはせいぜい30から35メルトルといった所だろう。旧多目的館とはいえ、やはり広い。
足にちからを込め、内力系活剄で走る。四方八方から炎が押し寄せてくる。それを衝剄で押し返しながら、オレは廊下を突き進む。
突き当りにはすぐについた。そのまま止まらず左手へ曲がり、再び端子へ声をかける。
「おい、次は」
(探査を続けていますが、熱によって感知がしにくい状況です。おそらくこの先の部屋だとは思いますが……詳しいことは)
「ち」
小さく舌打ちをこぼし、オレはルウへ声をかけた。
(ルウ、状況把握は出来るか?)
(念威端子と通信の保護のせいでお手上げ。やっぱり領域の強化をしなくちゃ)
(それは気が向いたらでいいよ。…っとに、役に立たない念威操者だ)
(僕もごめんね、もっと早くに、展開を細かく操作出来るようになっていれば……)
(気にするな、お前のせいじゃない)
ルウの言葉にオレは軽い調子で言葉を返す。そう、ルウのせいじゃない。
役に立たないヤツ揃いの都市にいるのだから、こういう事が起きればこうなるのは目に見えていたことだ。
押し寄せる炎を両手でかき分けながら、オレは走りにくい廊下を走って行く。
ちりちりとスーツの袖が焦げる。繊維の焦げるにおいが鼻をつき、建物の燃えるにおいが鼻の粘膜を焼く。腕で鼻と口を覆いながら、オレは内力系活剄に集中する。
炎が建物を焼く音に混じって、呼吸音が僅かに聞こえる。呼吸音は廊下の更に突き当り。旧多目的館の中央多目的室。そこだ。
衝剄を放ちながら踏み込むと、床がぎしりと軋んだ。脆くなった木材と石材の建築に、オレ程の衝剄密度は耐えられないようだ。
(一気に駆け抜けるべきだな。ルウ、端子保護はもういい。突き抜けるぞ、頼む)
(りょうかーい)
ルウの領域が身体にまとわりつく。衝剄はなしに踏み込み、再び加速する。オレは突き当りの扉を蹴破り中央に倒れているロスを見つけた。
「ロス、無事か?」
炎をかき分けてロスを抱え上げ、オレは呼吸を確認する。
若干弱い呼吸音だが、なんとか大丈夫だ。ルウに指示をしてロスを保護するように頼み、オレは反射的に前方へ跳躍した。
炎が包む床を転がり、スーツを燃やしながらオレは起き上がる。袖が燃えている。それを消す暇はない。引きちぎり、燃え盛る床へ脱ぎ捨てた。
「お前か、犯人は」
気絶したロスを右腕で抱え、オレは錬金鋼を構えた目の前の男を睨みつける。腕輪を復元し、刀を左手で掴む。片手が埋まった状況で、一人分加重されている。動きは通常より鈍い上、右側をすべてカバーしなくてはならない。
―――――なかなかに厳しい状況だ。……だけど
こんな状況でも余裕があるのは、オレが抱えるロスは大丈夫だと確信があるからだろうか。それとも、勝てると自信があるからだろうか。
できれば、あの戦闘狂のようなことからではないことを祈る。自分のことだが。
「っは、」
オレは刀を構えて踏み込む。
3人の誘拐犯がいると言っていた。ならば後2人。どこにいるかは不明だが、なるべく相手の数を減らさなければこの状況下ではいくら力量があるとはいっても不利になるだろう。
外力系衝剄を変化、
強烈な風が吹き荒び、周囲の炎を巻き込みながら男へ襲いかかる。だが、横方向から来た衝剄に阻まれ、男には届かない。
「っち、横か」
外力系衝剄を化錬変化、
刀を床へ向けて、込めた化錬剄を放つ。衝剄は目標物に向かって床を這うように進んでいく。男たちのうめき声が聞こえ、目の前と横に居た男が呻き、身体を傾がせた。
オレはそのまましゃがみこんで、刀を上へ突き出す。
「ちぃ、」
殺意はオレの刀に受け止められ、火花を散らす。その火花は飛び散り、熱気を含む空気に呑まれ更に火の粉を散らしていく。
喉が熱い。火事の熱気で喉がやられつつある。早くしなければ、喉が火事によって充満する超高温の熱気に喉が潰されるだろう。
くそ、と小さく吐き捨てて、なるべく熱気を吸わないように体勢を低くしてオレは上方にいる男の足を払い、刀を手の中で回転させ、柄尻を床に崩れ落ちる男の喉へ下方から斜め上方へ向けて叩き込んだ。
柄尻は男の喉を潰し、頚椎を潰すとそのまま環椎まで突き抜ける。骨の砕ける感触が柄越しに伝わり、柄は喉へ食い込む。
「1人目」
指の間についた血を衝剄でそれを弾き飛ばす。喉から引き抜きながら、オレは右足を軸にしつつ刀を持ち直し、踏み出す。
地面すれすれを走りながら、内力系活剄で周囲の炎を押しのける。ロスはルウの領域が働いているからこそ、絶対の安全が保証されている。ロスを空中に投げ、そのまま左手を少しひねる形で刀の鎬を背に密着させるように構える。刀を肩甲骨で支えながら肩峰の面を相手へ向け、向けられたやや幅広の剣を刀で逸らしながら突っ込む。
踏み込んだ足に重心をおき、体重に重力を加算させて相手の体勢を崩した。オレの現在正面方向から援護に来た相手の握る錬金鋼、打棒のような形だ。それは上方からオレの頭を砕くべく振り下ろされようとしていた。それを身体ごと逸らしてよけながら右手で掴み、捻り上げ、相手の手を離させる。
手が離れたのを確認すると打棒を宙へ放り、刀で押さえていた幅広の剣を弾いて刀を自由にすると、双剣へと変化させる。
外力系衝剄を変化、
双剣を交差させ、刃を内側へ向ける外へ振り切る勢いと共に男の首を跳ね飛ばした。
振るった時に生じた衝撃波が周囲の石材を破砕させ、炎を纏う木材が降ってくる。双剣は刀へ形状を元に戻す。
降ってくる瓦礫はキャッチし復元した打棒と右腕で防ぐが、は、と気付く。ロスにはルウの領域が展開されているとはいえ、下降中に物体的な衝撃を受けてはそれにより身体損傷を受ける場合もある。ルウに負担をかけるわけにもいかない。
オレは打棒に衝剄を込めて放ち、ロスの上へ落ちようとする木材や石材を砕く。
活剄衝剄混合変化、
「せッ」
槍で放つための剄技だ、打棒のための技ではないし鋭さも足りない。舌打ち混じりに爆発ギリギリの剄を込めた打棒はなんとかロスへ落下物が衝突するのを防いだ。
だが、まだだ。後ろの男が剣を両手で握り腕を引くと、突き刺そうと切っ先をウォルターの脊髄部へ向ける。それを屈んで避け、拳で剣を上へ弾く。
しかし、男が練り上げた化錬剄が刀を持っていた左腕にあたり、シャツが燃え、腕へ化錬剄の炎が接触し、皮膚の焦げるにおいがした。刀は離さないまま、右手でシャツとネクタイを引きちぎって男へ投げつける。
男は服ごと再び突きを放った。化錬剄を纏う突きだ。それを後方へ跳躍して燃えるシャツと剣を避けながらギリギリでロスをオレは抱えた。焦げた左腕は熱傷で使い物にならない。酷い火ぶくれが出来て、刀を握るためにちからを込めるたび血が滴る。
だがそんなこと気にしてはいられない。ロスを抱え直し、オレは構える。
男もじりじりと間合いを詰めてくる。間合いの取り合いと斬線のえがき合いを繰り返し、構えを動かしていく。
その時、足元で軋む音と砕ける音がした。それと同時に、右足が床に食い込んだ。
ふくらはぎに木の破片が突き刺さり、縦方向に赤の筋が入る。血が滴り、肉に木の破片が食い込む。老朽化した床は火災で更に脆くなっており、ロスとオレの体重によっていともたやすく突き破れてしまった。
男が剄を含む声で吼えた。足が抜けない。こうしている間にもじりじりと足は炎ともがく動きで食い込んでいく。
(やるしかないか)
(ウォルターっ)
(お前はそのままでいてくれ)
左足に衝剄を込め、自身の足が食い込んだ床を破砕する。押し返された炎は勢いを強めて両足へ吸い付くように戻り、両足を焼く。砕けた床の破片と、元々食い込んでいた破片は更に深く突き刺さるが、構わない。振り下ろされる剣を刀で受け止めて、吼える。
外力系衝剄の変化、砲剄殺。
放たれた分子構造を破壊する衝撃波は男の錬金鋼を砕き、上方から落ちてくる炎と瓦礫を砕く。
男がそれによろめき、動揺した一瞬を突く。
外力系衝剄を化錬変化、
振るった刀から放出された剄が炎を押しのけ周囲の熱気を巻き込む、そして火花を散らすと、一気に放出された剄に火が付く。
オレはロスを右腕で抱え込み、爆炎に耐えるべく構える。
三階建ての建物の屋根を吹き飛ばすほどの爆発が起きた。
「な、なんだ?!」
「ニーナ、下がれ!」
シャーニッドに引っ張られ、わたしは後退する。
目の前の炎を空へ立ち上らせていた建物が一瞬その炎の勢いを弱めたかと思うと、一気に内包した熱気と爆炎をまき散らした。
破砕した壁や床が飛び散り、辺りへ飛び散る。
爆炎は上空へ巻き上がり空を赤く染めあげ、焦げくさいにおいを辺りへ撒き散らす。わたしはそれに顔をしかめ、中にいる2人の生存を危惧した。
「シャーニッド、他のヤツらを集めろ! すぐに……、」
わたしが声を張ったと同時だった。
シャーニッドの眼が一点を見つめて動かなくなる。驚愕で見開かれた視線の先を、わたしはなぞるように見た。
背後を赤く染め、四肢を赤く染めながら、フェリを抱えたウォルターがいた。
「……ウォルター?」
「あ? おら、ご要望のロスですよっと。エリプトン……先輩、…頼…み、ます」
ウォルターはやはり敬語にあまり慣れていないようで、若干の間をはさみながら、それでも敬語でシャーニッドにフェリを渡した。フェリは幸いほんの少しのやけどをしただけのようで、現在は気絶しているだけのようだ。フェリにわたしはほっと胸をなでおろし、大怪我を負っているウォルターに向き直った。
「ウォルター、すぐに簡易医療施設の方へ…」
「いい、面倒だ」
血の滴る四肢をぶら下げながら、ウォルターはしらっとした顔でわたしを見る。
特に気にしていない……というより、どうでもいいというような顔だ。
たった1人で燃え盛る建物に飛び込み、誘拐犯達を圧倒し、フェリを守った。フェリのことを、こんな大けがを負ってまで身を挺して守ったのだ。わたしが言わなければ、きっと彼はこんな怪我はしなかっただろうし、わたしにもっとちからがあれば、彼はここまでの怪我をしなかっただろう。
それが、悔しい。自分のちからが足らないことが、それがなによりも悔しいのだ。
わたしの表情に気づいたのか、ウォルターが右手でわたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
右の上腕から血が滴っている。それが一瞬傷んだらしく、ウォルターが若干眉根を寄せる。
それでも彼は“いつもの様に”笑みを浮かべており、わたしに言う。
「オレは大丈夫だよ。さっさとロスのところに行ってやれ」
「…………ありがとう。フェリを助けてくれて…満身創痍でも、帰ってきてくれて、嬉しい」
「……へぇへぇ。どういたしまして」
ウォルターは再びわたしの頭をぐしゃぐしゃと撫でてから帰ろうと踵を返そうとした。だが、簡易医療施設にいた彼の友人でもある医師に捕まり、苦笑を浮かべながらその医師に引きずられるように医療施設の方へ引っ張られていった。確かティアリスといったか。
ティアリスの近くには若干狼狽する山吹色の髪の男子生徒がいる。彼も、確かウォルターの友人のはずだ。あの3人は、クラスで比較的よく一緒に居る。名前は、ミハイルだったはずだ。
ティアリスの表情が怒っているのは、随分と遠く離れたわたしからでも見える。ミハイルの表情もやや怒って見える。無茶をしたと叱られているのだろうか。それをウォルターが苦笑で返すところを見ると、やはり友人なのだろうとわたしは思う。
―――――だがしかし、悔しいな
何も出来ないというのは。
学園都市に来て、少しは変わったと思っていたのに。だがわたしは、まだまだ足りないようだ。
やるしかない。そう思った。
「ツェルニ……お前を守るためにも、わたしはもっと強くなる」
そう、胸の前で拳を握りしめた。
隊長はどこか苦々しい顔で僕を見ている。
それでも、隊長の言葉は力強く、はっきりと意志が見て取れるものだった。
「わたしはあの事で自分の非力さを思い知った。そして、レイフォン。お前の事でもまたそうだった」
「……………………すみません」
「謝るな。いまは、少しずつだが強くなってきている。ウォルターも、打ち解けてきてくれている。少しずつでも進んでいる。……大丈夫だ。わたしは、自分の非力さに打ちのめされてなどいないさ」
笑みを浮かべた隊長に、僕は圧倒された。
その意志の強さが、とても眩しかったからだ。きっと彼も気づいている。隊長の意志に、輝かしいものがあるということに。
僕はウォルターに対して、確執を抱いていた。
彼は変わっていない。
僕が見ていたのは、人を酷薄に突き放せる程の冷たさだけだった。
だけど彼は、誰かの為に命を懸けてくれる強さと優しさも持っていた。
僕が知らない時から。いいや、気づいていなかっただけだろう。
隊長は笑みを浮かべている。
「お前もわたしも、そして……ウォルターも。皆不器用だ。お前の話を聞いていても思ったが、ウォルターはきっと、そういう事を素直になんて言えばいいのかわからないんだろうな」
「……ふふ。そう、ですね」
僕が笑みを返すと、リーリンが遅いと厨房から怒鳴ってきた。僕がそれに苦笑交じりで声を返し、慌ててパタパタと厨房へ向かう。隊長がポケットに持っていたフェリの端子に話しかけ、ウォルターを連れてくるよう指示した。
これを見たら、彼はどんな顔をするだろう。
ほんの少しの楽しみな気持ちと、彼に素直に言わなくてはという気持ちで胸を圧迫されながら、僕は厨房へ足を踏み入れた。
「そんな話だったんですか」
「まぁ、オレは気にしてないけどね。完治もしたし」
オレとロスは2人で商店街を歩いていた。
どういう理由か、今日は訓練がなくなったらしい。ロスが買い物に付き合ってくれというので付き合ったわけだが、特に買うものはないという。
どう考えても不自然だ。
(なーンかたくまれてる気が。ルウ、アントーク達どこ?)
(うん、女子寮。みんなで)
(女子寮? ロスのことといい、オレに対して何かしようっていうのか…)
(あー…うん、そうかもね。まぁ、気にしなくてもいいと思うよ…今回のことは)
ルウの言葉にオレは怪訝ながら頷き、わかったと返した。
他から見ればぼぅっとしていたオレの腰を叩き、ロスがオレを呼んだ。
「イオ先輩、ティアリス医師には何か釘を刺されたんですか?」
「……あぁ、怪我したからか?」
「はい。そうです」
「なんていうか…まぁ、そうだな。
『大怪我をしたならうだうだ言ってないでとっとと来い! 完全に炭化させて燃料にするぞ!』
……って怒られた。医者としてあるまじき暴言だよな」
「自業自得です。…助けられたわたしが言えたことではありませんが」
オレは肩を竦め、ロスの言葉に苦笑する。
ティアリスの言葉…いや、言いたいこととかロスの言葉はごもっともだと思うが、グレンダンの医療技術だったら半日で治るものも、ここツェルニではそうもいかない。正直なことを言うと、面倒くさかったのだ。
未だ傷痕の残る両腕、両足。熱傷の痕は消えつつあるが、まだ残っている。それを、どこか遠い目で見つめた。まぁどちらにせよ、入院は酷く退屈で、面倒だ。
そんなオレの表情を見据えたのか、ロスが流麗な顔をしかめる。
「なんですか、その顔。絶対に面倒くさいって思っているでしょう」
「……はは」
「空笑いでばればれです」
「気にするな」
オレが適当に言い返す。ロスはやはり不満そうではあったがとりあえずという顔で口を噤んだ。
ふと、ロスは念威端子を取り出し、何かを話すとオレに向き直る。
「なンだ?」
「行きましょう」
「どこへ」
「行けばわかります」
ロスに急かされ、オレはロスの後について歩く。
知った道を歩いて行く。この道は女子寮へ向かう道だ。ルウの言っていた通り、女子寮で何かをしているのだろう。
マーフェスやアルセイフの誕生日会は終了したし、もう何もイベントはないはずなのだが。
そう思いながら怪訝な顔でオレはロスの後について行く。
程なくして女子寮へついた。ロスはオレに扉を開けるように言う。何をたくまれているのか教えられていない身としては正直開けたくないのだが。
(……ブラックボックスってか)
(開けなくてもわかると思うけどね)
(そりゃ、ルウは領域展開してるからわかってるだろうけど……)
オレはそう息を吐きながら内心でルウに言う。
まぁ、ルウはオレに危険が及ぶようなことならば必ず言ってくれるし、危険なことは待っていないのだろう。ルウのことは信頼している。
扉に手をかけ、息を吸い込んで、再び吐き、開いた。
扉を開けた途端、破裂音が響き、目の前をカラフルな紙吹雪や紙テープが散っていく。突然のことに眼を丸くしていると、後ろからもパンと音がして紙吹雪と紙テープが散る。
「……ロ、ロス……」
「遅れました」
「お前ね、」
「ウォルター」
アルセイフがオレを呼んだ。
そちらへ眼を向けると、ぱっと開かれたリビングには、豪勢な料理が並んでいる。
どういうことかときょとんとした顔で見ていると、一斉に全員が口を開いた。
『ハッピー・バースデイ!』
その言葉に、一瞬思考が真っ白になる。オレは、慌ててルウに声をかけた。
(……た……、誕生日……だっけ……)
(…まぁ、書類上は…。僕ら、はっきりしたのないし、グレンダンで使ってたの書いたでしょ? それがバレたみたい)
(へ、へぇ……それで…訓練をなしにしてまでこンなことに? ……なンで)
オレが狼狽しながら問うと、ルウは面白くないと言いたげ唇を尖らせる。
(まぁ、ウォルターって“頼れる兄貴”とか“いつもお世話になってます”みたいなのがあるからじゃない? ちなみに、情報源はミハイル・ルディアみたいだよ)
(あの野郎……。どうしてオレの周りには余計なことを余計なヤツに言うヤツらばっかりなンだ?)
(そりゃあー…類は友を呼ぶっていうでしょ?)
(……友…………友……………………?)
(そこ悩んじゃうの)
くす、とルウが笑った。僕は気づかないでくれたほうが嬉しいよ、とルウに言われ、オレは余計によくわからなくなる。ただ、目の前で行われている事柄についてはわかった。
“オレの為に”開かれたのだ、と。
アルセイフが若干不安そうな目つきでオレの様子を伺う。
「あの、どうかしました? ……いやでしたか?」
「え? ……あー…えと。ただ、ちょっと…………びっくりしただけだ」
オレが困った顔で襟髪を触りながら言うと、アルセイフ達の後ろに控えていたロッテンがぴょんと手を叩きながらはねた。
「それなら良かったですよ! こっちもびっくりしちゃいましたよ、先輩、硬直しちゃうんですもん」
「あ、あぁ…悪いな…。こういうことは、慣れてなくて」
「イオ先輩は本当に唐突なことに弱いですね。主に自分関係」
「悪かったな」
「こらこら。フェリを睨むな。わたし達で準備したんだ。ほら、メインはお前。こっち来い」
アントークがそういって笑みを浮かべ、オレを見る。
ちょいちょいとオレを呼ぶ。テーブルの中央には簡単だが中央に大きなチョコレートのプレートがあるケーキが置かれていて、チョコのプレートには大きく誕生日おめでとうと書かれていた。
「あれは、トリンデンが?」
そう聞こうとして、とめた。プレートの下には小さく、それでいてみっちり書かれた文章があったからだ。
「……ルディアか……あれは」
呆れた顔でケーキのプレートを睨みつけるオレに、エリプトンがけらけらと笑いながら言う。
「よくわかったな、正解だ」
「そンな端に悪意を見せるプレートを作るのはあいつ位だろ、エリプトン…先輩」
「とにかく、突っ立っていたら折角の料理が冷めます。さっさと進んでください」
「酷いなぁ」
ふくらはぎをロスに蹴られ、オレは苦笑する。
しょうがないなぁとばかりに肩を竦め、リビングの中央へ歩き出す。
笑顔。その表情達がどことなく、胸のあたりをあたたかかくしてくれた。
妙な感覚に襲われながら、オレは“笑み”を浮かべた。
前置きがものすごく長めでした、すみません。
この話ではウォルターのひねくれがなおり、ちょっと周りを見始めていますので、全体的に十七小隊へのあたりは若干優しくなった……かと……思いますが……
今回登場したウォルターのクラスメイトも、本当はもう一つ前に話があって、その時に初登場だったんですが…計画性のなさが露骨ににじみ出ている(白目)
……あ…なんか名前は出ても喋ってない人いっぱいいた……