【短篇集】明星の虚偽、常闇の真理   作:長閑

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 リーリンが来てから三ヶ月の間の話。
 ウォルター+オリキャラメンツ+ハイア。
 愉快にまごまごしてるだけ。


 レイフォンくんと会ったときはTPOをわきまえていたけどどうせバレるから素で言ったほうがいいでしょ、などと供述しており。


なんだかんだ言って楽しんでいるらしい。

 ハイアは困っていた。

 登校初日の昼。机の上にはウォルターが朝にもたせてくれたミュンファ、ウォルターと同じ弁当がある。朝は「ウォルターの弁当二回目さ!」なんて喜んではいたが、いざ授業が始まり昼になる頃には、そんな気分は一切消えていた。

────どうしよう、ミュンファの所行くか…?

 すでに中期を過ぎた学生のクラスでは、それぞれのグループが決まっている。つまり、こんな所で編入してきた新入生など相手にする様なグループは無い。結論、ぼっち飯。

────ウォルター…はいないし…

 ウォルターは武芸科長に呼び出され、カリアンと共に今後の話と書類を提出しに行っている。このクラスに知り合いはいない、筈だ。

 どうしようかと席で弁当袋をいじりながらまごまごしていると、目の前に影がかかった。

「……え」

 山吹色の髪を揺らす、男子生徒だ。髪は少し長く、肩にかかっている。黒縁の少し大きな眼鏡をかけた男子生徒は、無言でハイアの席の前の机をガッツンと勢い良くジョイントしてきた。

「な、なんさ、あんた!? なにしてんのさ!?」

「こんにちは」

「…こ、こんにちは…。…じゃ、なくて!」

「初めまして、ミハイル・ルディアよ。一緒にご飯食べましょ」

「は、あ…?」

 言われている意味が一瞬理解できず、言葉を数度脳内で反復してようやく意味を理解する。

─────唐突になんさ、こいつ…

 

 怪訝な顔でじっとりと目の前の男子生徒……ミハイルを睨む様に見れば、ミハイルはけらけらと笑いながら目の前の席の椅子に腰掛けた。

「あはは、そんなに警戒しないで。アタシ、こう見えてウォルターの、数少ない、友人の一人なんだから!」

 数少ない、とかなり強調して言ったミハイルは、いそいそと弁当箱を取り出しては机に広げていく。ハイアもやや気まずいながら、食べなければ昼休みが終わる、ウォルターの弁当を食べないのは勿体無い…と考えた結果、弁当を広げてとりあえず食べることにした。眼の前に座った男子生徒は未だ解せないが。

「ちょっとしたらダニーも来るわよ。今日までの提出資料出して来るって言ってたから」

 にしても遅いわねぇ、なんて零しつつ弁当のおかずの肉団子を指したピックをつまみ上げるミハイルには視線を向けられず、ハイアは斜めの方向を見ながらひたすら食べることに集中した。

「ウォルターもちょっとしたら来るから大丈夫よ、そんな警戒されたらアタシ寂しい…」

「…急に来られて、警戒しない方が無理さ…」

「そりゃそうね! じゃあもう少しちゃんとした自己紹介が必要かしら?」

 プチトマトを口に放り込みながら、ミハイルは少しばかり首を捻り、それからハイアに向き直った。

「じゃあ、改めて。アタシはミハイル・ルディア。服飾科の三年。バイトはルックンっていう記者の仕事してるわ。最近は手を広げて衣服とかアクセサリーのお店でも働いてる。あ、愛称はミシェルだから、ぜひミシェルって呼んでね」

「…は、はぁ」

「で、あなたは?」

「…ハイア・ライア。武芸科の三年編入、所属は十七小隊さ」

「へぇえ! 武器は何を使うの? ウォルターと一緒?」

「…あの人色々使うから一緒がどれかわかんないけど…刀さ~」

 茶目っ気たっぷりにウインクをしたかと思えばズイと顔を寄せて眼を輝かせ…瞬く間に表情を変えるミハイルに対し、やや身体を引きながらハイアは答える。質疑応答のようでやはり居心地が悪い。

 ガラリと扉が開く音が聞こえ、足音がこちらに近づく。「ん」という聞き覚えのある小さな声が耳を掠め、ハイアは顔を上げた。視線の先に立っていた男子生徒の視線は、ハイアを超えてミハイルの方へ向けられている。

「…なんだ、もう食べてたのか」

「ダニーが遅いのよ。昼休みの時間は限られてるのよ?」

「わかっている。…というか、席くらい準備してくれててもいいだろう…」

「あのねぇ、アタシ警戒されてるのにそんな気まわせると思う? そりゃ、ちょっと前にレイフォンくんに会った時はそれなりに弁えてたけど? 自クラスで同級生に話しかけるならありのままがいいじゃない?」

「お前みたいな個人的ド性癖露出野郎に来られたら誰だって警戒する」

「ちょっとそれどういう意味よ」

 ジトッとやってきた男子生徒と茶化し合いを続けるミハイル。ハイアはダニーと呼ばれた男子生徒をしばし見ては、「あ、」と気づいた。

「ティアリス、さ?」

 以前見た時との服装の違いが大きく、気づくのに時間がかかった。いまは制服姿できっちりと着こなされているが、医療機関の方ではややくたびれ気味の白衣、髪も最低限の気遣い以上のことはされていないかった。雰囲気の違いに、少しばかり戸惑う。

 それを知ってか知らずか、ダニー……ティアリスは、「あぁ」と声をこぼした。

「そういえばちゃんと自己紹介をしたことがなかったな」

 近場の机と椅子を移動させ、やはりガッツンと勢いよくジョイントする。ティアリスは弁当を机に置いて椅子に腰掛ける。その隣でぶーぶーと文句を言うミハイルを無視しつつ、ティアリスはハイアに視線を向けた。

「ダノウィート・ティアリス。…ウォルターがファミリーネームでしか呼ばないから、知らんのも当然だな。こういうヤツにはダニーと呼ばれることもある。好きに呼べ」

「も~~~そっけなくない!? アタシこれでも一人で頑張ってたのに」

「お前もそういう事あるんだな」

「当たり前じゃない! アタシだって初めての人とコミュニケーションとるのは苦労するわよ! ウォルターは『警戒心の強い犬と同義くらいで扱ってやれ』とか言ってたけどさ~???」

「……ウォルターそんな事言ってたのさ……」

 から笑いを零しながら弁当に手を付ける。さすがのハイアもミハイルとの距離はやや測り難く気も張っていたが、知り合いのティアリスが来たことで少しばかり気が緩んだ。

 再びガラリとクラスの扉が開き、「あ」と聞き馴染みのある声が聞こえた。

「ンだ、全員もう揃ってンのか」

「そりゃそーよ。ウォルターがビリ」

「お前用事何もなかっただろうが」

「アタシはちゃんとあったわよ。ハイアちゃんに話しかけるっていう、重要なミッションが…ね!」

「腹立つ…」

「ウォルターのそういうしみじみとした言い方心に刺さるわぁ…」

「てかなンだ、お前のそのこいつの呼び方…。…こいつの幼馴染も同じ呼び方してた気がするが」

「かわいいでしょ。ちゃんと自己紹介したけど、あれこれリサーチ済みよ。オホホ、このミハイル・ルディア様の情報網にひれ伏しなさい!」

「あ~すごいすごい」

「ダニーの興味の無さがすごい!! も~~ムカつく~~~!」

「…とりあえずウォルター座ったらどうさ~…?」

「ん? あぁ、そうだな」

 ティアリスとは逆の机と椅子を動かし、勢いよくジョイントする。ガッツンとぶつけられたせいでやっぱり机が揺れる。ハイアの弁当がずれて落ちかけて、慌てて箱を掴んだ。

「ちょっ! あんたらなんでそんな勢いよくぶつけて来んのさ!? 机くっつけるくらいもっとおとなしくやってほしいさ!」

「は? …あぁ、いやこれ競り合ってンだよ」

「せ、競り合い? …なんのさ…」

「ふふふ…ついに聞いてしまったわね。簡単よ。勢いよく机をぶつけられて弁当を落としたヤツは大マヌケ野郎なのよ」

「……それなんの脈絡があってやるのさ……」

「…ま、つまるところただの暇つぶしだ」

「暇つぶしでやってたンだが、まぁ毎度恒例行事になっただけだ」

「あんたら以外にくっだらないことやってんさね!?」

「くだらないことにこそ全力をかけるのが青春ってもんよ」

「おれっちの知ってる青春と違う!!」

 ウォルターは至って気に留めた様子もなく普通に弁当を開いては箸をつける。弁当を食べきったミハイルは片付けを進めながら、まぁ、と手を叩いた。

「このグループに来た限り…あなたも逃れられない運命にあるのよ。このくだらない青春から」

「自分でくだらないって言うようなことに他人巻き込むんじゃねぇさ~!」

「いいのよ。この元武芸者と現武芸者頭カチカチで戦闘馬鹿なんだから、ちゃんと学生してる時くらいは、くだらないことするくらいで」

「だからって巻き添えは嫌なンだけど…」

「ホホホ残念ね。アタシが行動起こしたらもれなく巻き込まれるのよ」

「行動じゃなくて問題の間違いだろうが阿呆」

 ぎゃいぎゃいと言い合いが続いているが、いつものことの様で周囲の生徒に特にざわめきは見られない。

 ハイアはふと、先程まであった浮いた様な感覚がなくなっていることに気づき、それから三人に視線を向けた。

「頼むから怪我する事態だけは避けろよ、めんどくさいから…」

「心配してくれてるの? うれし~~~!」

「おれは常々頭の心配してるけどな。ハハハ」

「あ~~~冷めた笑い~~~!!」

 何気ないことだろうし、くだらないことばかりしている。ウォルターもこのことを聞いたらきっと同じことを言うだろうとハイアも思う。

─────学生してる時はくだらないことするくらいで…

 ハイア自身、ずっと傭兵団という環境で育ってきたからか、こういう環境には慣れない。ある意味で警戒を持ってしまって、近寄りがたく思っていたが、ウォルターは初めのうちどうだったのだろうかと少し気になった。

 けれど、“ただの”彼らと同じ様に笑うくらいには、馴染んでいるのだろう。

 彼と同じ環境に身を置く。戦う。学ぶ。関わる。そう考えたら、いろいろと試せることもできることもあるのではないかと思った。それを少し楽しみに思いながら、ハイアは弁当を片付け始めた。

「ちょっと!! 話は終わってないわよ!!」

「終わった終わった」

「終わり終わり」

「終わってる終わってる」

「言うようになったじゃない!!」


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