【短篇集】明星の虚偽、常闇の真理   作:長閑

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やはり短編なので、ということでこちらに移動させてもらいました。
いろいろと途中で変えて申し訳ないです。

とりあえず注意。


・本編4巻目と5巻目の一ヶ月の間にあった話設定
・無駄に前半が暗い
・無駄にこの話長い
・ウォルターがなんかちょっと怖い




背徳の両手

 あぁ、面倒がやってきた。

 オレはルウの領域から伝わってきた感覚に、ひとり眉をひそめた。

 

 

  たまには、許してくれよ

 

 

 自室で寝そべっていたウォルターは、枕元に置いておいた紙切れを拾いながらルウに声をかけた。

 

―――――ルウ、この反応って……

 

(うん、面倒だよ)

 

 面倒というが、実際は“事”の事をささず、ただの単略称である。

 そしてその単略称が今回指す反応は汚染獣ではなく、人間だ。

 だがその人間は面倒な人間だった。

 ただの旅行者や一旦の停滞者ならまだ良いのだが……

 ひらり、とウォルターは数日前に見つけた1枚の紙切れを見た。

 

―――――……連続殺人犯ねぇ……酔狂なヤツだ

 

(そうだね、ここに強者が2人も居るなんて知らずに)

 

―――――いま、まだツェルニに居るライアも合わせたら、3人かな

 

(ん~、それもそうか)

 

 最近、連続しておかしな事ばかりが起きる為、ルウの領域は常時ツェルニを包むようにして展開されている。

 とは言え、それは察知するのみであり、それを排除するのはウォルターの役目だ。

 ウォルターはそれに小さく溜息をついてルウに話しかけた。

 

―――――面倒だからそいつだけ消してくれたりしねぇ?

 

(しないー。だって格好いいウォルターみたいもん)

 

―――――……いやいや、つったって、殺るだけだぞ?

 

(いいじゃない、昔からやってきたでしょ?)

 

―――――そう言われるとなにも言えないのもなんか悔しい……

 

 ウォルターはもう一度溜息を吐いた、そして紙切れをぐしゃぐしゃに丸めるとゴミ箱に向かって投げる。

 かたん、と音がして、丸められた紙切れはゴミ箱に綺麗に収まった。

 ウォルターは立ち上がってクローゼットを漁った。

 

「…それにしてもどうする? 会長に言うべきか、これは」

 

(大事になりそうだしやめておこうよ。さっさと殺した方が早いよ、絶対)

 

「……それもそうか……」

 

 ウォルターは昔使っていたマント――汚染物質遮断素材の割といいものだ――をクローゼットの奥から引きずり出し、ぱたぱたと埃を払う。

 

「おし、これ使えるな、まだ」

 

(もう使わないの、それ)

 

「まぁ、どうせこれ支給品だったし、捨ててもいいだろ」

 

(そうだけど。破れても無いんでしょ?)

 

「そりゃあな。割と大事に使ってたモンだし……。けど、顔が割れるよりゃマシだ、これ使お」

 

 考えついたら即行動。

 ウォルターはそれを適当なポーチに詰め込んで、窓から飛び出した。

 

 

 

 

 

 ルウが補足してくれているだけあって、殺人犯は早くに見つかった。

 路地裏に逃げ込んだ殺人犯の前に、マントを羽織って降り立つウォルターは、静かに目の前の男を見据えた。

 

「てめぇ……サツか?」

「……………………いいや?」

「…じゃあなんだ? 正義のヒーローツラした、偽善者野郎か」

「……………………」

 

 錬金鋼はまだどちらも復元していない。

 ウォルターは片目だけをフードからのぞかせて、沈黙を宿す瞳を向けた。

 

「……そういうよく分かんねぇ眼が気に入らねぇんだよ、てめぇ!」

「…あまりがなると、あたりに響くぜ、その声」

「……………………オレを殺す気か」

「…生かす価値の無い屑ならな。酔狂な殺し屋だと聞いた」

「そうさ、オレはオレを見下すヤツらが嫌いだ。だから殺す、だから殺した。それじゃあだめか」

「……………………」

「お前がオレを殺せば、お前はオレと同じってことさ」

 

 男の言葉にウォルターは耳を傾けていなかったものの、なにもいわなかった。

 

「理由はどうあれ、世の中殺しってだけで軽蔑される。お前もオレも同じだ。同じ“殺す”って思いをもってるんだからな」

「……………………」

 

 そう言いながら、男は何処か不信感を抱き始めたらしい。

 普通、正義感を持った人間というのは反論する。その筈だ。

 しかし、ウォルターはなにも言わない。

 

―――――オレは、正義じゃないからな

 

「なんだ? それとも、自分が悪だと思ってるのか?」

「……………………いいや……。オレは、正義でも悪でもない。そして、中立ですら無い」

「…………………………………………」

「……お前は一体、何人、どうやって殺してきた?」

 

 ウォルターの突然の問い。

 男は迷ったようだが、やや低い声で呟きはじめた。

 

「一人目はオレの妻だ。いつまでたっても変わらない、見下したあの眼。あれが気に入らなかった。だから殺した。この錬金鋼で真っ二つにして、まだ生きてる上半身の方を八つ裂きにした」

 

 泣き叫ぶ妻。

 その「人を殺す」という事への背徳感と、そしてその背徳感を行き過ぎた快楽。

 殺しへの歓び

 

「二人目も似たような理由さ。近隣に住んでた、オレを蔑んだヤツ。1人殺したんだからもうひとり殺しても変わらない。だから殺した。左顔面に錬金鋼を突き立てて、そのまま捻り切った。痛みに呻くヤツを見ながら、何度も刺した」

 

 男の言葉は続く。

 ウォルターはそれに聞き入る訳でもなく、ただ淡々と聞いていく。

 

「……それですべてだ。…これを聞いてどうしたかったんだ、お前は」

「…………オレが、どれだけ異常なのか知りたかった」

「……………………?」

「…お前に話してもしょうがないだろうが…オレはお前以上に殺してきている。この手は…善悪を捨てて、すべてはただ赤に染まった。善も悪も、すべて赤に塗りつぶされた」

「じゃあ、お前にオレは裁けない」

「そうだ。オレはお前を裁く気なんて無い」

 

 ウォルターが言い切った。

 じゃあ何がしたいのかと、男がウォルターを怪訝な眼で見てきた。

 

「……薬殺、絞殺、斬首、撲殺、圧殺、刺殺…」

「…………………………………………?」

「…窒息、轢殺、焼殺、爆殺……」

「な、なにが言いたい」

 

 ウォルターは小さく呪詛のように呟く。

 男はそれにうろたえ、ウォルターを異常な眼で見た。

 

「……オレは、それ以上の殺し方で人間を殺してきた。すべてを合わせればきっと100はくだらない」

「なら、お前にオレは裁けない!」

「……言った筈だ、オレはお前を裁く気なんて無い、ってな」

 

 そう言ったウォルターが腕輪を弾き、刀を復元させる。

 途端に男の顔に恐怖が走り、男も錬金鋼を構えた。

 

「…やるのか」

「……すでに怖気づいた剣に興味は無い」

「なめるな!!」

 

 男が錬金鋼を振りかぶり、だらりと刀を下げたままのウォルターに向かって一直線に振り下ろした。

 

―――――遅いな

 

 ウォルターは刀を一閃させ、男の首を跳ね飛ばした。

 背後に重い物が落ちる音が響いて、目の前の首のない胴体が地面に赤い液体をまき散らしながら倒れるのを冷めた眼で見つめていた。

 赤が着ていたマントに付着したのを見て、「捨てないとな」と小さく呟いた。

 

 地面に広がる赤が、ウォルターの靴のつま先にあたった。

 ぴちゃん、と小さく音がして、ウォルターはその音を酷く耳障りに思った。

 

―――――……汚い……

 

 ウォルターは一歩下がり、その赤を見た。

 段々と持っていた熱を失いつつある身体。

 薄ぼんやりと剄が見える。

 それでも尚、ウォルターの冷えた視線は変わらなかった。

 

―――――ルウ、消してくれ

 

(いいの?)

 

―――――外に捨てるのも面倒だ

 

(どうせマント捨てに行くくせに)

 

 ルウの呆れた声を聞き流しながら、ウォルターはその場を悠々と通り過ぎる。

 

 背後で、音もなく死体は消えた。

 

 外縁部に到着したウォルターはマントをさっさと外に放った。

 大体のものは外に放れば回収は不可能、証拠としても立証されない。

 マントがはためくのを見ながら、ウォルターは踵を返した。

 

(まだなにか考え事?)

 

―――――ん~…まぁ、な

 

(あまり考え過ぎないようにね)

 

―――――そりゃあ。だって疲れるし

 

 ウォルターは店が立ち並ぶ商店街あたりにやってきていた。

 あたりは活気に満ちていて、何処か浮き足立っている。

 そんなところを脇目もふらずに歩いて行くウォルターは、自らが異質な感触を覚えていた。

 異質な、ではない。異質なのだ。

 

―――――そう、ここに居ること自体が、異質

 

 どうしてここにいるのか。

 それはわかりきっている。いまも昔も変わっていない。

 ここにいる人間とは、一緒に居ると言いながら居ないのだ。

 関わっていると言いながら関わってないのだ。

 よく分からない感覚……それを何かと感じ取れては居ないが、その感覚が胸を圧迫する。

 

「……………………はぁ」

 

 ウォルターは大きな溜息をついて、特にはっきりとしない感覚に眉を寄せた。

 すると、後ろからやや自分より低いであろう身長の人物に頭を叩かれた。

 

「…いて」

「なに周りの人ににらみきかせてるんですか」

「………アルセイフ………?」

「…なんです? ……というか、あなたが後ろ取られるなんて珍しいですね」

「あー……いや、まぁ。考え事してて」

 

 うしろから現れた人物、レイフォンの顔を見てウォルターがきょとんとした表情を返した。

 ウォルターの言葉にレイフォンがふぅん、と空返事を返して、ウォルターを見た。

 視線を向けられたウォルターは、どうするべきか図りそこねて、とりあえずレイフォンが抱えていた買い物袋をウォルターが持った。

 

「……なんです」

「え? あ、いや…なんか持っておくべきかと」

「……………………」

 

 ウォルターが何処か遠い目をしていることにレイフォンが気付いたのか、特になにも言わなくなった。

 静かに何処に歩いて行くという事も特に分からず、レイフォンについていくだけのウォルターは、ただ思考に耽った。

 ウォルターは、純粋な武芸者では無い。

 だからこそ、いざという反射神経は元々ウォルターが持っている身体能力と、異界法則によって強化された部分のみとなる。

 つまり、一瞬の隙をつかれた場合ウォルターは無防備そのものということだ。

 

―――――オレもまだまだだな

 

 真正面からの戦闘では負ける事は無いのだが、と思いながら左手に持ったレイフォンの荷物の重みが先程まで持っていた刀の重みに似て、ウォルターの胸の圧迫を増長させた。

 

「…ウォルター、いつまで黙ってるんです?」

「え? あ」

 

 すでについた場所はレイフォンが住んでいるアパートの扉の前。

 レイフォンが訝しげな顔をしてウォルターの顔を見た。

 問いを投げられているにも関わらず、ウォルターはやはり遠い眼をしてレイフォンの言葉には答えない。

 

「……………………」

 

 レイフォンが眉を寄せ、ウォルターの上着の服を掴んでそのまま部屋に引きずり込んだ。

 

「ぅわっ」

「もう、いつまでぼうっとしてるんですか。そこに立ったままでいられると、いろいろと僕が変なふうに見られるでしょう」

「……………………悪い」

 

 レイフォンはさっさと突っ立ったままのウォルターの手から買い物袋を奪い取ると、ウォルターを乱暴に椅子に座らせた。

 

「……………………」

 

 なにをされても沈黙をしたままのウォルターに、レイフォンは再び後ろから攻撃を仕掛けた。

 

「……………………」

「……なんですか、本当にしょげてますね」

「…………………………………………」

「…どうぞ」

「あ? ……あぁ、悪い」

 

 レイフォンが手に持っていたコップを受け取り、ウォルターはコップの中のコーヒーを見つめた。

 

「……………………」

「……本当に今日はどうしたんですか、ウォルターらしくないですね」

「……………………たまにはナイーブなンだよ」

「分かりました、分かりましたからその低い声やめてください、耳に響きます」

 

 レイフォンが眉を寄せて言うと、ウォルターは肩を竦めてレイフォンに苦笑した。

 

 

 

 レイフォンはどうするべきかと悩んでいた。

 あのウォルターが珍しくおとなしい…と言うか、なにを言われてもほぼ無反応。

 基本的にはなにかを言えば軽くふざけたような態度で言葉が帰ってくるのに、今日はなにがいけないのかそうはならない。

 常にローテンションのまま、低い声で言われるので逆にこちらが慌てる。

 向こうはそういう気は無いのだろうけれど。

 

―――――なにかあったんだろうな…やっぱ

 

 なにがあったのかは分からないが、レイフォンはとにかく心配と焦りとで困っていた。

 はぁ、と軽くため息をついて、テーブルにコーヒーカップをおいて沈黙するウォルターに歩み寄った。

 

 

 

 ウォルターは俯いたまま考え事に耽っていた。

 いや、考えと言っても耽るようなことでも無く、耽ってもどうしようも無いことなのだが、それでも考えてしまうのだ。

 あの男に対して、謝礼の言葉などというものは無い。

 すでにあの男はウォルターに対して一歩引いた体勢をとっていた。

 命のやりとりをするという場で、あの程度のヤツならば殺されても当然だ、そう思うのがウォルターである。

 

―――――……………………今更、殺したことに対してなにか抱くことなんて無い

 

 それならば今までの行為は何だったのかという事になる。

 いままでさんざん同じような事はしてきた、これ以上に非道な殺し方も。

 それでありながら、今更こうも考えに耽る理由は……

 そう考えていると、いつの間にやら隣に座っていたらしいレイフォンにぐいっと引っ張られ、膝枕状態に持っていかれる。

 

「………………………………………………………………え…………と………?」

「……いいから黙って寝てください」

「……それはいいが……高さが…あと固い」

「うるさいですっ、僕だって男なんですから仕方ないでしょう」

「……………………それもそうだな」

「納得されるとそれはそれで腹がたちます」

 

 レイフォンが眉を潜めた。

 そんなレイフォンに苦笑を返しながら、ウォルターがほんの少しだけ微笑む。

 

「……さんきゅな。すぐ元気になれるわ、これなら」

「……………………それなら……よかったです」

「……おう」

 

 

 小さく返事を返し、ウォルターが静かに眼を閉じた。

 レイフォンはようやく落ちつけたか、と溜息を吐いた。

 

―――――いつも、疲れているから…たまには、ね

 

 本人には決して言ってやらない。

 そう決めているから言わないけれど、ウォルターの事を尊敬しているレイフォンとしてはウォルターが悩んでいる時に支えになりたい。

 ウォルターが辛い時は助けてあげたい。

 そう思っているのだ。

 

―――――絶対に言ってやらないけど

 

 言うのは気恥ずかしいし、と少し頬を掻きながら思う。

 ふと膝枕をしているウォルターを見ると、すや、と寝息を立てて眠っていた。

 

―――――珍しいな

 

 そう思うと同時、それだけ疲れていたのか、とウォルターの顔にかかっていた髪をさらりとすくい、流した。

 少し体勢を動かしたウォルターだったが、落ち着いたのか小さく寝言を言って丸まった。

 

―――――……大変だ、またとても大変な事を思った

 

 レイフォンは、おぅ…、と小さく自己嫌悪にかられて顔を押さえた。

 だが……、とちらりと視線をウォルターに向けた。

 ウォルターは少しむずかしい顔をしながら何やらむにゃむにゃと言っている。

 

―――――……でも……、まぁ…いいか、今日くらいは

 

「ウォルター…、たまには僕を頼ってくれていいんですよ。いつだって、支えたいんです」

 

 ウォルターがこうやって休む事も、レイフォンが似合わない事を思うのも。

 すべて無かったことになる。

 自分も休もう、そう思ってレイフォンは静かに眼を閉じた。

 

 

 

―――――……こいつ……

 

 ウォルターは触られた為に起きたのだが、レイフォンの呟きにやや動揺を隠せなかった。

 いつもあぁも生意気に態度を取られていた為、内心でレイフォンがどう思っているかを把握しきれていなかったという事だろうか。

 それとも、ウォルターは表の表情しか見て居なかったということだろうか。

 答えを出すには些か疲れすぎていたウォルターは、しかしそのまま瞼を閉じ、眠りに落ちる。

 

 

 

 

 

 たまには、許してくれよ

(辛いことは多くあるけれど、それでも人の優しさに触れるたび信じようと思うんだ)

(辛いことがあるなら、支えてあげたいと思うよ。素直になんて、いつもなれないけれど)

 

 

 




 なんか、色々すみませんでした……!!(土下座)

 いろんなやりたいことをかいたら大変なことになりました。
 この話は、ウォルターが“現在”は置いてきてしまっていた“過去”と、かつての自分を現在の平和という場にいる自分が考える、ということを考えさせたりちょっとさせたかったわけです……
 それでかいたらとんでもなくナイーブな子になって収拾がつかなくなったので、レイフォンに何とかしてもらおうと思ったらこうなりました…
 いえ、そろそろ若干でもウォルターにレイフォンについて理解してもらおうとか思ったり思ってなかったりしたわけでして…(どっちだ)

 とはいえ、ありがとうございました。
 最後まで読んでいただきありがとうございました
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