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でちでち言い過ぎな伊58でも大丈夫な方はどうぞ。
タウイタウイの泊地を出て北東へおよそ800km。
通称で東部オリョール海といわれる海域。
この辺りの気温は年間を通して30℃くらいで、文字通りの常夏の島だ。
ただし8月の終わりごろは台風や集中豪雨が頻繁にやってくるため、雨の量はかなりのもの。
東京の2倍から5倍近い。
そんなオリョールの、珍しい晴れ間の下。
急浮上して海面から顔を突き出した
少し遅れて、どことは言わないが巨大なために水中抵抗の大きい伊号潜水艦たちが次々と浮上し、同じように息を吐いた。
水面に頭だけを突き出す6人の潜水艦娘たちは、空から見たらエサを求める池の鯉のように見えるかも知れない。
性能テストも兼ねた哨戒護衛任務へ赴く途上である。
まだ基地航空隊の哨戒圏内だから、それほど危険は無い。
潜水艦隊で速度を計りあったり急速潜航の試験をしたりしながら、ゆったりと航行をしている。
「さすがに
赤いポニーテールを半分以上も海に浸しながら、
艦娘は基本的に史実の艦船性能を受け継ぐ傾向があるから、伊号潜水艦の潜航は遅い。
なにしろ艦船だったときの巡潜は巨大で、
そのせいで舵が効き始めるのが遅いし、バラストだって容量がすごいから注排水も大変なのだ。
ただ、
「いろいろ凄いんです。いろいろ」
褒められた
複殻式で張り出しが無いため水中速度の速い船体とか、潜望鏡深度でもディーゼル機関を全開にできるシュノーケルとか、減速ギアを噛ませているのにも関らずとても静かな足回りとか、とにかくいろいろとすごいのだ。
けれど解ってくれるのはドイツへの興味が深々でUボートのこともある程度解る
しかも彼女にしたって、具体的にどう凄いのかまでは知らないのだ。
こういうとき、
ビスマルク姉さんやオイゲンさん、それにマックスやレーベは、もうとっくに日本に馴染んでいるというのに……。
「ふふん。性能はすごくても、日本語はまだまだでちね。努力が必要でち」
「教えて……でっち」
「でっちじゃないでち! ……仕方が無いから、教えてやるでち」
今だって、ぶつくさと文句を言いながらも日本語を教えてくれると約束してくれた。
「
「なんだかんだ言いながら、いつも一緒にいるしねー」
「そこ! うるさいでちっ!」
言われてみれば
面倒見が良いからと、すこし頼りすぎたかもしれない。
「
「おや? これは
「いやぁ、あやしいですなぁ。お二人さん!」
騒がしくしたせいか
「もしかして両想いだったり?」
「聞いてみるのが早いと思います。
「も!? もってなんでち!?」
……うん。好きだと思う。
「
「でちっ!?」
たしか、日本語で「好き」はMagの意味だ。英語で言うならLike。
だから使い方は間違っていないはずだと、そう思うのだけれど……。
「わぉ! 告白!?」
「きたきたきたー!」
「クールに見えてやるのね!」
「ドイツ艦娘は情熱的。はち、覚えました」
それにしては伊号の皆が騒がしい。
隣では、何故か顔を真っ赤にした
これも日本の文化か儀式なのだろうかと、
「恥ずかしさのあまり、
「今ごろ魚雷をうずうずさせてるの」
「
「ところで
「うん? 何よ?」
「
「あ~、たしかにそんな感じはするのね」
「うそ!? それじゃあ
「死んでないでち!!」
まぎらわしいことするなでち!!
○
日本語の好きって、難しい。
伊号の皆から説明を受けて
好きという短い言葉にはいろいろな意味が詰まっているのだ。
その中には愛の意味もあって、知らなかったとはいえ、皆の目の前で随分と大胆なことを言ったと恥ずかしくなってしまう。
「なんだか疲れたでち……」
「あれだけ怒ったり驚いたりしてればねぇ」
「ごめんね、でっち」
「でっちじゃないでち」
がっくりと肩を落とす
何か彼女を元気付けられるようなことは無いだろうか。
「ねぇでっち、どうしたら元気になる?」
「でっちじゃないでち……甘いものを要求するでち」
「うわぁ、無理を言うなぁ」
潜水艦娘は主な活動範囲が水中であるために、水上艦の艦娘ほど荷物に余裕や自由が無いからである。
例えば飯盒なんかは深く潜るとベコベコにへこんで使い物にならなくなってしまうし、水筒は圧力の差で爆発する可能性すらあった。
だがいつだって、例外や抜け道というのはどこかにはあるものだ。
「ふふーん、
そう。
潜水艦の魚雷発射管や格納筒の中は潜航しても水圧の影響を受けることが無いから、アメやキャラメルのような小さいおやつを入れておくのに最適なのだ。
特に
発射管の場合は戦闘海域に着くまでには食べ切り装填し直さないといけないけれど、格納筒ならその必要も無い。
「それは聞き捨てならないのね!」
「
他の伊号も
別段、あげるのはかまわない。
けれどちょっとした心配もある。
「わかった。でもこれ、手作りだから不安……ちゃんと出来てるかな」
腰の辺りから伸びる艦尾型の艤装。
そこに括り付けられた船外魚雷格納筒を外して、皆の手の上で振る。
コロコロと転がり出てきたのは、四角くカットされた茶色いキャラメルだ。
砂糖を水で溶かし火にかけてカラメルを作り、そこへバターと生クリームを混ぜ入れて飴になる直前まで煮詰めたもの。
「コーヒー飴みたいな色だね」
「それだけじっくり煮詰めてあるってことじゃない?」
「あまり持ってると、溶けちゃうよ」
「それはイカンでち! あむっ!」
気に入ってもらえれば良いけれど。
何しろこのキャラメルは……。
「ねぇ、何だかしょっぱくない?」
「塩と砂糖を間違えてるのね!?」
「でもしっかり甘い気もします」
塩キャラメルなのである。
伊号潜水艦たちの中でちょっとした混乱が発生した。
口当たりはしょっぱいのに、ミルククリームの濃厚な甘さも同時に感じられて、とても不思議な味がするキャラメルなのだ。
「まだ潜水艦そのものだったころの
フランスのブルターニュ地方は、2次大戦の頃、ドイツの重要な軍港がいくつもあった。
特に有名なのはブレスト港やロリアン港で、そこから出撃したUボートたちは、大西洋へ出て通商破壊作戦に従事したのである。
そしてこのブルターニュ地方、実はとあることで有名だ。
それは塩バターである。
どんな作り方をしても少しは塩味の付くバターだが、ブルターニュのバターは中世の昔から多めの海塩を加えて作られていた。
それが伝統となり現代でも有塩バターをたっぷり使ってお菓子を作るために、ちょっとしょっぱく仕上がるのがブルターニュ風。
このキャラメルも例外ではなく、有塩バターを使い仕上げに極僅かの塩を振ってある。
「でも、慣れると意外に美味しいでち」
「塩のおかげで甘さが引き立つわね」
口に入れるとまず反応の早い塩が溶け出すために口当たりはしょっぱく、そこから徐々に乳脂肪分が溶け出してきて甘みが濃くなっていく。
かと思えば仕上げに振った粗塩の粒が残っていて、ときどき口の中に塩気を振りまいていくのだ。
「ねぇでっち、甘いもの食べたよ。元気になった?」
「甘いけどしょっぱいから……半分くらい元気になったでち」
首をかしげる
なんだかいじわるだ。
「1個で半分ってことは、もう1個食べれば完全に元気になるのね」
「それなら、もう1個食べたら5割り増し?」
「ほんとう!? でっち、どんどん食べて!」
強引に手をとって、キャラメルをバラバラと振り落とす。
「ちょ、こんなに食べられないでち!」
「食べて!」
「無理でちー!」
東部オリョール海に、