1行40文字で441行。7739文字。
何故だかは解らないが
確かに船舶用のドックは1人用のジャグジーや電気風呂が並んだような構造をしてはいるが、だからといって艦娘用の
とはいえ、うっかり被弾した日には長時間の
掃除を簡単にするため薄緑の大判タイルで貼られた空間の中、湯煙で僅かに霞む視界に、加賀はそんな益体も無い思考を浮かべた。
修理完了まで残りはあと2時間。
赤城が差し入れてくれた緩衝材のプチプチも全て潰し終わってしまったし、さてどうしようかと頭を悩ませる。
戦艦や空母のような長時間の入渠を強いられる艦娘にとって、この時間の潰し方というのは切実な問題だ。
特に、かすり傷よりは大きいものの
「お先に失礼します!」
隣の
先日の出撃からこちら、どうしてか妙に懐いてくる吹雪が頭を下げた。
今まであまり駆逐艦と交流を持つことの無かった加賀は、どう返事をして良いのか解らなかったので、とりあえずひらひらと手を振っておく。
ちょっと失礼だったかとは思ったが、吹雪は嬉しそうな顔をして出て行ったから良しとしよう。
変な娘だ。
「……これで本格的に暇つぶしの手段がなくなってしまいました」
密閉された風呂場に声が跳ね、呟きは意外と大きく響く。
今さっきまで、ぽつりぽつりではあるものの、吹雪という話し相手がいた。
だがもう加賀は広い風呂場に一人ぼっち。
温かいはずなのになんだか寒気がしてくる。
「どれもこれも、あの娘たちのせいね」
本心でそう思っているわけではないが、恨み言の1つくらい言ってもバチは当たらないだろう。
あの娘たち。5航戦に。
○
昨日のことだ。
本土への奇襲爆撃を喰らった日より、1から5までの空母航空戦隊と6以降の基地航空戦隊は、ローテーションを組み出撃を行っていた。
練習航空戦隊までフル動員して、陸攻を含め200の爆撃機と200の戦闘機を叩きつけられる態勢を常に維持する全力出撃である。
それくらい海軍の矜持は傷つけられていた。
編成は1航戦から赤城と加賀に、5航戦から翔鶴と瑞鶴。
トンボ釣りは加賀にとってお馴染みになりつつある11駆逐隊の第2小隊。吹雪と初雪。
安定性改良後の特型は外洋での速力が赤城より若干優速な程度なので、1航戦との相性が良い。
逆に足の速い翔鶴型から見れば物足りないのだが、そもそも彼女たちの護衛やトンボ釣りを満足に務められるのは、速度の面では島風しか存在しない。
外洋で空母より1割ほど速いことが求められるので、陽炎型や夕雲型でもまだ遅い。
「お、戻ってきた戻ってきた」
瑞鶴が手を目庇のように額にあて目を凝らした。
雲量3。
軽度の曇りとされる空に誉エンジンの厚布を破るような音が響く。
偵察に出していた彩雲が帰還したのだ。
この機体のエンジンは2000馬力の中でも小さく排気量が少ないため高圧高ピッチで、まるで悲鳴のように叫びを上げる。
「ううん、まだ獲物が見つかりませんね」
「もう深海の勢力圏まで引っ込んでしまったのかもしれません」
残念そうに呟いた赤城に自論を返した。
そもそもこのとき追っていた敵は、人類側の勢力圏に敷かれた警戒網を潜り抜けてきた奇襲部隊である。
一撃を終えたらすぐに逃げ帰っているはずで、報復など出来る可能性は低かったのだ。
チャンスがあったとすれば、金剛型と蒼龍飛龍で編成された即応部隊の反撃のときだけだったのだが、これは空振りに終わっていた。
「どうしますか? 赤城先輩?」
「全彩雲の帰還を待って、あともう一度だけ偵察を出しましょう」
「それでダメだったら?」
「そのときは、潔く帰投ね」
「了解しました」
4人の空母娘は次々と戻ってくる彩雲を肩の飛行甲板に着艦させ、矢筒から別の彩雲を取り出すと再び空へと解き放つ。
時計に例えた方向指示で1人あたりが6時間ずつを担当するように、放射状の索敵だ。
上手く網に掛かってくれれば良いが望みは薄いだろう……。
全ての彩雲を発艦させて、ため息をついたときだ。
「
普段は声を張ることの少ない初雪の大声が、通信機を介して耳を貫いた。
彼女の方を見ると、缶に括りつけた雑具箱から時計を取り出していた。
実際の艦でいうスクリュー音に良く似た艦娘や深海艦の持つ固有の脈を数え、それを音紋と併せて照合することで敵の種類を割り出そうというのだ。
これは全力で動いている場合、戦艦や重巡洋艦なら毎分で150から350ほど、軽巡洋艦や駆逐艦なら400から700ほど刻まれる。
初雪がその脈動を数えている間に、横にいた吹雪がマスト上に備えた
「電探、感なし!」
「潜水艦……!」
「翔鶴ねぇ、落ち着いて。まだ大丈夫なはずだから」
翔鶴がうろたえて足元を気にした。
潜水艦にトラウマの多い艦娘だが、特に翔鶴はことさらその傾向がある。
妹の瑞鶴がそんな彼女を宥めるように近づいて、声を掛けている。
「これだから5航戦は」
そ知らぬ顔をして海面を滑り彼女たちの3時方向へ入る。
赤城だけが気付いて、にやにやと笑った。
「回転数325だから……潜水カ級……。 ッ! 右舷、魚雷推進音です……!」
初雪が警告を飛ばす。
とはいえ居るのが解っていれば、射線数の多くない潜水艦の魚雷などそこまで怖いものではない。
精々が4連装だから、吹雪たち特型の9射線に比べれば半分以下なのだ。
「3方、艦隊最大戦速! 緊急回避!」
27ノットで左に30度回頭する指示を、赤城が飛ばす。
艦隊速度は艦隊の中で最も遅い加賀の船足に合せてあり、その最大戦速と言っても吹雪あたりにとっては第4戦速ほどでしかない。
だがこれを、気が動転していた翔鶴とそれに注意を向けていた瑞鶴が聞き違えてしまった。
2人は
その進路上に27ノットを目指して動いていた赤城を捉えてしまう。
「あ、赤城先輩!?」
「ちょ、どいて、どいてください!」
「これは!? くぅっ!?」
赤城は衝突を避けるべく機関に後進をかけて急減速し、翔鶴は左に瑞鶴は右に、これまた後進を掛けながら大きく舵を切った。
結果としてぶつかることは無かったものの、3人の空母娘は魚雷の射線から逃れ切れずに危険なままでいる。
「やらせません」
加賀の判断は早かった。
空母娘の中で1番魚雷に近い位置にいた上、出足が遅いためにまだそれほど移動もしていなかったのだ。
だから、そのまま盾になることにした。
4人の中で赤城と並んで硬く浮力には最も余裕がある。
元戦艦という強靭な防御の使い道としては、最適だろう。
「加賀さんっ!?」
誰かの叫びが聞こえると同時に水柱が吹き上がって、視界が真っ暗になった。
炸薬が破裂して発生した爆風は、水圧によって反射されて1点に集中する。
水の中での単純な爆発は、実は陸上での成型炸薬に似たバブルジェットという効果を発生させるのだ。
その破壊力は凄まじく、加賀は宙へと放り上げられるような錯覚を覚えた。
……そこから鎮守府までの記憶は、ない。
○
口元まで湯に沈んだ加賀が笑うと、ブクブクと風呂が泡だった。
思い返してみると、我ながら無茶をしたものだ。
当たり所が良かったのか、衝撃の割には奇跡的に軽傷で済んだのは幸いだったといえる。
もっとも、そのおかげでこうして長い
「加賀さーん、まだいらっしゃいますかー?」
声を張り上げながら、再び吹雪がやってきた。
けれど浴場の戸をガラリと開けた姿は着衣のままだ。
そのまま中まで入って来るものだから、白いセーラー服が湯気でしっとりと濡れて薄く透けている。
桜色だ。
何がとは言わないが。
「よかった、まだ居た。あの、加賀さん」
「何かしら」
手持ち無沙汰なので、頭に載せていたタオルを使いウサギを作りながら返事を返す。
わざわざ着替えた後に戻ってきて、一体何の用なのだろう。
緊急であれば館内放送が使われるだろうから、そういう類のものでないことだけは確かなのだけれど。
「瑞鶴さんから伝言です」
「5航戦から?」
「はい。お風呂から上がったら、食堂に来て欲しいそうです」
「……食堂に」
ということは何か。食べ物でご機嫌を取ろうということなのだろうか。
衝突やその未遂は戦闘中では意外によくあることなので、気にはしていないのだが。
まぁそれでも、くれるというならもらっておこうではないか。
目が覚めると同時に風呂へ叩き込まれてしまったので、今の加賀は飢えた狼より飢えているのだ。
飢えた1航戦ほど恐ろしいものは無いのである。例えそれが片割れだけでも。
「わかりました。後で窺うと伝えておいてくれますか」
「はい。それじゃあ後1時間くらいですけど、頑張ってください!」
「お風呂に入るのに頑張るも何も無いと思うのだけれど」
「あ、それもそうでした! ……それでは、失礼します!」
吹雪が勢い良く頭を下げてから去っていった。
なんとも騒がしい娘だと、加賀はそう思った。
○
食堂にはいつもの白いテーブルクロスにいつものグラスが置かれ、いつもの暖色灯がそれを照らしている。
そんないつもの中で違うことが一つ。
テーブルを囲むのが付き合いの長い2航戦でなく5航戦であるということ。
最近なにかと理由をつけては引っ張り込んでいる、11駆2小隊の2人もおまけだ。
加賀を呼びつけた張本人たる瑞鶴は、人を招待しておいて仏頂面。
他の艦娘といるときはそうでもないが、加賀と話すときはいつもこう。
笑顔が足りない。
「きてやりました」
棒読みの平坦口調でそう告げる。
加賀としてはフレンドリーに冗談交じりで挨拶してみたつもりだが、笑ったのは赤城だけ。初雪は反応が無く、吹雪と翔鶴が困ったように笑い、瑞鶴は唇を尖がらせる。
「お待ちしていましたよ、加賀さん。さぁ座って、座って。5航戦のお2人が、お話があるんですって」
赤城に促されるままに横の席に着く。
位置取りとしては、対面に5航戦でお誕生席に2小隊だ。
「加賀先輩。このたびはご迷惑をお掛けして、申し訳ありませんでした」
頭を下げてきたのは、姉のほう。翔鶴。
眉尻を下げた顔は自責の念に駆られているのか精気が薄い。
「気にしなくていいけれど。艦娘にトラウマは付き物ですから」
赤城と加賀だって、無いわけではないのだ。
固執するか怯えるかなどの違いはあるけれど、何かにこだわってしまうことなど艦娘なら誰にでもあるのだった。
「それでも、責任は私にありますから」
「そう。それなら謝罪は受け取っておきます」
「ふん、偉そうに……あんなの庇ってもらわなくても避けられたんだから」
翔鶴と対照的に、妹の瑞鶴は膨れ面である。
私、怒っています。
表情だけでそれがハッキリと解るのだから、凄いものだ。
「ダメよ瑞鶴。そうじゃないでしょう?」
「ぐ、翔鶴ねぇ」
けれど、それも姉にお小言をもらうまでのこと。
叱られた犬ならぬ叱られた鶴は、しゅんとしてしまう。心なしかツインテールにも元気が無くなって萎れてしまったように感じる。
「ほら、しっかり」
「うぅ……ええと、その。かばってもらって、ありがとう……迷惑をかけたわね。お礼を用意してるから、食べてよね」
つっかえつっかえ何とか礼と謝罪を終えた瑞鶴は、これで荷が下りたとばかりに大きくため息をついて厨房の方へ行ってしまった。
なんだか慌しくて、加賀は何が何やらである。
「うふふ。瑞鶴ちゃんたらね、加賀さんのこと凄く心配していたのよ。どうしようどうしようって落ち着きが無かったんだから」
「そう。でもあの娘、料理なんて出来たのかしら」
「実は、あまり……」
加賀の指摘に翔鶴が苦い顔をする。
どうやらその表情から察するに、それほど瑞鶴の腕には期待できなさそうだ。
不味かったら怒ろう。
加賀は腹がすいているのだ。そのくらいの権利はあるはず。
「あ、でもでも! 大丈夫ですよ! だって今日作るのは……」
「あら、ストップですよ吹雪さん。お楽しみですからね」
うっかり今日のメニューを口滑らせそうになった吹雪を、赤城がやんわりと嗜めた。
そうか秘密か。まぁそれも一興。
腕に覚えの無い瑞鶴がどのような料理を出してくるのか……。
「待たせたわね」
10分も待たないうちに、
出てきたのは、ラーメンである。それも、どうやらインスタントの。
「あたまにきました」
加賀は怒り心頭である。
ドタマにきました。怒りレベルとしてはそのくらい。
料理に自信が無いとは言え、まさかインスタントラーメンとは舐められたものだ。
「ちょ、話を、話を聞いてよ!」
「いいでしょう。それを辞世の句にしてあげます」
「殺る気満々じゃない! いい? これはインスタントラーメンだけどインスタントラーメンじゃないの!」
ふむふむなるほど。さっぱりわからん。
「言いたいことはそれだけですか。では介錯してあげますから、そこになおるように」
「だーかーらー……これを乗せんのよ!」
「むぐっ!?」
口に何かが突っ込まれる。肉だ。醤油系の味付けがされた、肉だ。うまい。
咀嚼して、飲み込む。
「今のは?」
「ジャーン! 瑞鶴特製、手作りチャーシュー! どう? おいしかったでしょ?」
瑞鶴は分厚く切り分けられたチャーシューの並ぶ皿を勝ち誇るように掲げている。
表面は醤油がしっかりと染みて黒っぽく、断面はほんのりとピンクがかっていて、低温でじっくりと火を通したのが解る。
というか、これって。
「ジップロックで調理した鶏ハムにそっくりなのだけれど」
「ギクッ」
指摘してやると、瑞鶴は冷や汗をダラダラと流した。
横に視線を流してやれば、加賀のジップロック弟子たる吹雪がそっぽを向いて口笛だ。吹くのに失敗して空気がしゅうしゅうと漏れているだけだが。
「吹雪さん?」
「ず、瑞鶴さんに、簡単に作れて美味しい料理は無いかって聞かれまして! でも私が知っている簡単な料理は、加賀さんに教わったコールドチキンしかなかったんです!」
「あ、吹雪!? うらぎりもの!」
「裏切ってないですよ!?」
弟子と孫弟子が揉めている。
秘密にしていたわけではないし、そもそも艦娘に教え始めたのは鳳翔が最初なのだから、特に問題があるわけでは無いのだが。
それに、そんなことより。
「ラーメンは、早く食べないと伸びてしまうのだけれど」
言って、丼を瑞鶴に突き出した。
さぁチャーシューを乗せろ。そしてラーメンをチャーシューメンに進化させるのだ。
瞳にその思いを込める。
「そ、そんなに睨まなくても、たっぷり乗せてあげるわよ……」
残念なことに思いは通じなかったようだが、しかし山盛りにされた厚切りチャーシューの前ではどうでもいいことだ。
麺など僅かも見えないくらいに敷き詰められたチャーシューが、漬けダレに含まれていたのだろうショウガの香りが、加賀の胃袋を刺激して止むことがない。
横では同じように山盛りチャーシューにしてもらった赤城が、今か今かとそのときを待ちわびている。
「それじゃあ赤城先輩、お願いします」
「私ですか? ……それでは加賀さんの完治を祝って、頂きます!」
「「「頂きます!」」」
まずはチャーシューだ。
ラーメンのスープで温められ透き通った油を浮かべている、バラ肉のチャーシューだ。
箸で摘み上げると、白っぽい脂肪とピンクがかった赤味肉とがまるで地層のように交互に積み重なっているのがわかる。
「肉の芸術ですね」
口に含むと、豚バラ肉の甘さがいっぱいに溶け出した。
豚の油というのは、何故こんなにも甘いのだろう。
「それはね、加賀さん。グルコースなのよ」
考えでも読まれたのか、赤城がそういった。
グルコースとは、つまりブドウ糖である。
豚肉の、特に脂肪の部分にはグルコースがたくさん含まれていて、それが豚バラ肉を食べたときに感じる特有の甘さの正体なのだ。
だがこのグルコース、水に溶けやすい。
そのため普通に茹でたり焼いたりするとどんどん外へ流れていってしまうのだ。
しかしタンパク質変成を起こさない低温で火を通すため水分が流れ出ず、しかも直接は水に触れないジップロック調理法ならば、それが無い。
「これが本当の……豚肉の甘さ……!」
「そうみたいね。自分で作って自分でビックリしちゃうわ」
全員が全員とも、チャーシューを貪り食っている。
麺はむしろ付け合せとか箸休めのような存在だ。
チャーシューを食って、舌や口の中が油こくなったら麺を啜る。
主客転倒ともいうべき現象ではあるが、しかしこれがどうして良い塩梅だ。
瑞鶴は気づいていないが、適当に選んだインスタントラーメンが比較的に薄味のものだったため、バランスが取れていたのである。
このあたり幸運艦の面目躍如であった。
「ご馳走様でした! おいしかったですよ。瑞鶴さん」
「本当に。瑞鶴の手料理がきちんと美味しいなんて、なんだか感激でした」
「翔鶴ねぇ? 多分それ褒めてないよね?」
最初に食べ終わったのは赤城で、続いて意外に大喰らいな翔鶴型姉妹だ。
駆逐艦の2人は山盛りにされすぎたのか、最後の方は失速した。
それでも、うまいうまいと食べ続けるのだから、相当に気に入ったのだろう。
そして加賀は。
「ご馳走様でした」
豚の油が溶け出したスープを、ゆっくりと飲み干した。
インスタントのくせにやたらと旨味が深まっていた。
「……お粗末さま。それで、どうだった?」
「美味しかったと思います」
「でしょ!? さっすが私、瑞鶴様ね!」
正直に感想を述べると、瑞鶴は鼻高々だ。
嬉しそうに笑うとツインテールがピョンピョン跳ねる。
「これは免許皆伝の試験をしてあげなくてはいけませんね」
「ん? 皆伝の……試験?」
瑞鶴がきょとんとした顔で加賀を見ている。
何を言っているのか解らない。そう表情が物語っていた。
「はい。あなたは吹雪さんの弟子。そして吹雪さんは私の弟子。つまり、あなたは私の孫弟子ですから」
「ちょっと待ってよ! それなら吹雪ちゃんにしてもらうわよ!」
「え!? できませんよぅ! 加賀さんからまだ皆伝もらってないですし! というか私、そんなのあるのはじめて知りましたし!」
瑞鶴の無茶振りは、吹雪によって拒否される。
当然だ。そもそも彼女にその資格はないのだ。
だが、加賀にはある。何しろ味見をした鳳翔が、これなら免許皆伝ですね、と褒めてくれたのだ。
後になって気付いたが、あれが皆伝の試験だったに違いないのだ。
「いやいやいや! それってお世辞というか普通の会話でしょ!?」
「そんなことないのだけれど」
「話が通じない!?」
「あらあら。仲が良くて羨ましいですね」
「頑張って、瑞鶴」
「翔鶴ねぇ、赤城さん、助けてよぉ!!」
助けを求める瑞鶴の声が、空しく木霊する。
彼女は後日、再びチャーシューを作らされることになった。
その席には先に皆伝を受けた吹雪。師の師たる加賀。そして何故か、さらにその師である鳳翔までもが同席していたという……。