紺碧の暖炉   作:ハース/ユウキ

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眠いのに眠れなくて書き始めたら1話分書けちゃった…w


11、リンダース

「…言うもんか!加工した店もやり方も必要な物も!何もかもお前らなんかに言うもんか!」

 

僕は勇気を奮い立たせ大声で叫んだ。するとヘッドと呼ばれた男の口元が不適に歪んだ。

 

「お前に拒否権は無い。あるのは選択肢だけだ。その鍛冶屋を大人しく吐くか、ここで跡形も無く消え去るか。それだけだ」

 

跡形も無く消え去る…僕の脳裏に体をポリゴン片に変えていった仲間の姿がフラッシュバックする。鼓動が早くなってゆく。この世界では汗はかかないはずなのに体中から冷や汗が吹き出ている感じがする。息が苦しい。

 

「ま、コイツの言う通り目星はついているからその鍛冶屋が襲われるのは時間の問題だろうがな」

 

僕はどうしたら良い、僕に今出来ることは?そんな思考を遮られるほどに自分の心音が大きく速くなり、息もほとんど吸えなくなってくる──…そこで僕の記憶は途切れた。

 

 

目を覚ますとそこにはきれいな星空が広がっていた。

(ここは…?僕は…死んだのか…?)

ぼんやり辺りを見回すと、少し離れたところで焚き火をしているルクスさんと目が合った。

 

「やっと起きたか」

 

……。どうやらここは天国では無いらしい。

 

「えと…僕は…」

「お前はダンジョンで気を失ったらしくここまで運ばれてきたぞ。ザザさんと一緒にお前を連れて行ったしたっぱ共に引き摺られてな」

「…そうですか」

 

そもそもナーヴギアを被ってこの世界に来ているのに、その中で気を失うとはどういう事なのだろうと疑問に思うが、僕の知識だと推測すら出来なさそうなので考えるのをやめる。

 

「そうだ。今夜の食料と消耗品の買い出し当番は私とお前だそうだ。10分後に出発する。支度をしておけよ」

「あ…分かりました」

 

僕達ビーグルの主な仕事はカーソルがオレンジになって街へ入れないプレイヤーのために代わりに街へ入り、武器のメンテや買い出しを行うことなのだ。しかし、一人や二人で大人数分のアイテムを買い込むため他のプレイヤーに見られると怪しまれる可能性がある。そのため大方のプレイヤーが寝静まった夜中に街へ入るのだ。

 

「支度、出来ました。今夜はどこの街です?」

 

念には念を入れ、ザザさん達が駐留している層とは違う層で買い出しを行うのがセオリーになっている。

 

「48層。リンダースだそうだ」

 

─っ!!リンダース…だって…?先程の地下ダンジョンでの会話が思いおこされる。今夜なら危機が迫っていることをリズさんに知らせることが出来るのではないか?いや、でも…あいつらは鍛冶屋の目星がついていると言っていた。ならばわざ僕をリズさんの店に立ち寄ろうとさせているのではないか…?

 

「ちなみに、買い出しだけですか?装備のメンテは?」

「無いよ。ザザさんは紅茶が好きなようでな、わざわざ茶葉を買う店まで指定してある。その茶葉を多く持ち帰るために装備のメンテをなくしてバックの容量を開けようということらしい」

 

あの人が…紅茶…。似合わない。…い、いやいや今考えるべきはそこではない。装備のメンテが無いとすると、知らないフリをしてリズさんのところを訪ねるのは無理だということになる。

 

「行くぞ」

 

まだ考えがまとまらないうちにルクスさんに声をかけられ、少々驚きながら後に続く。

 

 

───48層 リンダース 転移門広場

 

見慣れた石段が視界に広がる。以前は嬉しさと少しの緊張を胸にこの石段を下り、見慣れた露店のワゴンやショーウィンドウを横目に“リズベット武具店”へと続く道を進んでいたのだが、今は違う。素早く任務を遂行させるべく淡々と歩き、人目を避ける妙な緊張感が心を覆い尽くす。

 

「ここだ」

 

ルクスさんが一軒のカフェの前で立ち止まる。どうやらここが例の茶葉を売っている店らしい。ルクスさんが店内へ入る。僕も後に続こうと店の扉を押さえた瞬間、視界の端にピンクの点が見え、思わず立ち止まって視線をそちらに向ける─ここから50m程離れた石造りの橋の上を歩いているのは…紛れもない、リズさんだ。

 

「おい。どうした」

 

ルクスさんの言葉にハッと我にかえる。

 

「何でもありません。後をつけられてるような気がして、でも気のせいだと思います」

 

上手く誤魔化せただろうか。深く追求されなかったので良しとしよう。ルクスさんが頼まれた量の茶葉を注文すると暫くして大量の紙袋が運ばれてきたので、それを二人で等分してバックに格納する。

 

「ありがとうございましたー!」

 

昼も夜も関係ないのであろうテンションのNPCの挨拶を背中で受け店を後にする。一応橋の方を確認してみるがもうそこにはリズさんの姿は無かった。

 

「そんなに気になるなら一度向こうを確認してみるか?」

「えっ」

 

しまった。思わずジロジロ見すぎたか。するとスタスタとルクスさんは橋に向かって歩き出した。ここで不自然に引き止める訳にもいかず、周囲を確認するフリをしながら僕も歩く。すると…橋を渡ってすぐ、少し開けた空間に出た。その端には質素な木製の扉がついている建物が建っている。

 

「っ…!」

 

慌てて口を押さえる。ルクスさんには気付かれていないようだ。驚くのも無理はない。僕はこの建物が何かを知っている。ここはリズさんの店の裏口だ。何度か裏口から出入りさせて貰ったことはあったが、ほとんど街の大通りを通って正面の入り口から入店していたのであんなところにカフェがあるなんて知らなかった。

 

「誰もいないな。残りのアイテムもさっさと買って帰ろう」

「そうですね。やはり気のせいでした、すみません」

 

このあと近くの道具屋で回復ポーション類を買い込み、無事に僕達の買い出しは終わった。本部に戻るとルクスさんは僕のバックの中身を全て台車に乗せ、ザザさんへ報告に行ってくると言い残し岩場の奥の方へと消えていった。

 

 

まさか。まさかとは思っていたが本当に反応があったとは。私は先程ハースとリンダースの街へ買い出しに行っていた訳だが、それは表向きの目的で本当の目的は別にあるのだ。買い出しに向かう30分程前、私はザザさん達に呼ばれた。

 

「お前に任せようと思うのだが」

「用件は何ですか?」

「新入りのビーグル。ハースとか言ったか?あいつの件だ」

「…というと?」

「今夜の買い出しはお前とそのハースで行け。その間お前はハースを観察しろ」

 

ザザが言うにはハースは捕らえられた時、個人専用のユニーク武器を持っていたらしい。そしてそれは、どうも彼らがホームにしていた52層の鍛冶屋か48層の鍛冶屋が加工したのだろうということだった。私がザザさんの指示で50~65層の転移門広場の掲示板に偽のクエスト情報の張り紙をしてから各層の転移門広場にビーグルを配置して交代で見張りをさせ、そのクエストに挑んで来そうなプレイヤーの行動をチェックしていたらしい。

 

「それで48層の街へ連れて行って何を観察すれば良いんです?」

「48層の鍛冶屋はこの件以外の理由でもマークされてるんだ。もしもハースがそこの店主と面識があれば良い糸口になるかもしれない。だからハースの様子、全てを観察し報告しろ」

 

なるほど…噂には聞いたことがある。攻略組はもちろん、高レベル帯のプレイヤーがこぞって己の装備の手入れや新調をしに行く鍛冶屋。そこが次のターゲットという訳か…。しかし一つだけ気になることがある。

 

「大筋承知しました。是非やらせてもらいます。けれど一つ質問しても良いでしょうか」

「なんだ?」

「各所にビーグルを置いて張らせていたとしても、どうして鍛冶屋で武器がユニーク化されたと断言出来るのです?」

 

もっともな疑問ではないだろうか?この浮遊城では建物の中の様子を伺うには聞き耳スキルを使い話を聞く以外に方法はない。それが鍛冶屋となれば鉄を打つ音やその他機材の音のせいでいくら聞き耳スキルが高くても不可能に近い。

 

「ハース本人の口から聞いたのさ」

 

なんだ、そういうことか。ギルド加入早々に脱出しようとしたのを止めた私の行動をあの一言で理解した奴なので少し期待をしていたのだが、殺すと脅されればばポロッと吐いてしまう、その程度の奴だったのか。

 

「鍛冶屋で加工したというのは完全にこちらの憶測だった。根拠も何も無かった。だがな、あいつは『加工した店もやり方も必要な物も言うもんか!』と言ったんだ。」

 

…なんだ。一応屈した訳ではなかったのか。しかし…あいつは少々鈍いようだな。

 

「なるほどそれは…」

 

こんなこともあり、私は48層に買い出しに行くとハースに伝えた直後から観察をしていた。やはりどこか落ち着きの無い様子ではあり、ユニーク化の加工はともかくこいつにとって48層は思い出深い場所なのだろうということは伺い知れた。それだけでも十分だったのだが。カフェを出て攻略組御用達の鍛冶屋の裏にさしかかった時だった。ハースと建物の間が約5m程になると、本人も気づいていないようだったが微かに鍛冶屋の裏口の扉がぼんやり光り、ハースの足元にも同じ光が出ていたのだ。あれは鍵の自動認証機能のエフェクト…要するに、ハースにとっては鍛冶屋の裏口の鍵は無いも同然なのだ。これに気付いてしまった私はこの話をザザさんに言わざるおえない。しかしそれを話せばあの鍛冶屋を襲う時にハースが使われるのは目に見えている。まさかここまで決定的な情報を掴むとは思っていなかったためこれを報告すべきか悩んでしまう。間接的とはいえこれだけ殺人の手助けをしているのにも関わらず、私の中にはまだ良心というものが残っていたようだ。

 

「許せ、ハース…」

 

つい先程までハースのバックに格納されていた紅茶の茶葉を見詰めながら呟いた。




今度こそきっと次は遅くなる…はずw
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