私は台車ごとザザさんへ買ってきたアイテムを全て渡し、ハースの様子を事細かに報告した。無論、鍛冶屋の裏口の鍵の自動認証機能に関してもだ。
「ふぅ…」
星の光を受けながら他のビーグルの奴らがたむろしている岩場まで戻る。私がこうして殺人の手助けをしてる間にもこの星空の上ではこの浮遊城からプレイヤー全員を解放するために剣を握っている人達がいる…そう思うと名前のつけられない感情が心を掻き乱す。その途中で寝袋にくるまったハースの横を通った。
「お前はここで、今も彼らと同じように戦っているつもりなのだろう?ならもう少し言葉の裏を読むべきだ…」
思わずそう呟いてしまい、何故か少し恥ずかしくなったので足早にその場を離れる。
それから3日程たった頃だった。僕たちザザさんをリーダーとする一行はビーグルを含め全員集められ、一人の男の話を聞いていた。
「これからお前らザザ班はある鍛冶屋を殺す。その算段をこれから説明する。尚これは命令だ。従わない者は即座に殺す」
僕は話が頭に入らなかった。何故ならその殺す鍛冶屋というのがリズさんのことだったからだ。後にルクスさんに買いつまんで説明をしてもらったのだが、その男の話によるとまず街に入る人が4人。そしてそのまま48層のリズベット武具店へ向かい、1人は建物の外で見張り、後の3人で裏口から建物内へ入る。そしてそのままリズさんに麻痺毒にかけ、抱えてしまうとハラスメントコードが作動してしまうため布と竹で作った担架に乗せて圏外まで運ぶ。そこに待ち構えてるラフィンコフィンのメンバーで一斉にリズさんを攻撃し殺すとのことだった。
そして、僕は最初にリズさんの店へ入る役割を与えられていた。裏口の鍵の自動認証機能に僕が登録されているからだった。
「うそ…だろ……?」
ルクスさんの説明を聞いた後でも、僕の頭は機能していない気がする。現実を脳が拒んでいるように感じる。
無情にもその時が来てしまった。深夜2時。深緑色のフーデットケープを被り、僕は久々に自分の愛剣《フレイムディタミネーション》を腰に下げる。僕の他には同じケープを被った男が3人いる。短剣二刀装備の男、盾持ち片手斧装備の男、盾持ち片手槍装備の男だ。最後の槍使いが建物の見張り役らしい。
「いくぞ」
短剣二刀の男が鋭く出発の合図をする。もう何も考えたくなかった。頭は止まっていた。耳も聞こえていなかった。ただ足が動き、音のない視界風の映像が流れるだけ。いつの間にか既に僕達はリズベット武具店の裏口にいた。
「行け」
半ば無理矢理僕は斧使いに裏口の扉の前まで移動させられる。僕は無造作に扉に左手をかけると静かに押し開ける。
『ギィ…』
蝶番が音を発する。その音だけは僕の耳に届いた。すると後ろから中へ押し込まれ思わず転びそうになるが扉に寄り掛かるようにしてなんとか持ちこたえる。すると短剣使いの男が毒刃をリズさんに突き刺し麻痺にかけた。
『ドクン…』
鼓動が一つ大きく聞こえた。僕はそこに立ち尽くすことしか出来なかった。今止めなければリズさんが殺されてしまう。頭のどこかでは分かっている。やめてくれ、嫌だ。僕はそう思っている気がした。しかし体も思考もピクリとも動かない。短剣使いがリズさんの肩を、斧使いが脚の方を持ち上げ、担架に乗せた。その時だった。
「うわぁぁぁぁぁっ───!?」
『ズガァァァァン──────!!』
ソードスキルの赤い閃光とジェットエンジンのような爆音と共に見張り役の男が裏口の扉ごと吹き飛ばされて室内に転がり小さく唸る。
「ぐっ…」
「な、なんだ!?」
短剣使いがうろたえ叫ぶ。僕はあの技をしっている。あれは─
「ヴォーパルストライクの射程を甘く見て貰っちゃぁ困るなぁ。ま、困ったのは俺じゃなくお前らだろうけど」
そこには漆黒のロングコートに同色の髪とズボン、それと同じく黒い片手直剣を携えた剣士が一人立っていた。
「えっ…キリ…っっ!?う…」
「リズ、麻痺が切れるまで辛抱してくれな」
先程の爆音でリズさんが目を覚ましたが、麻痺のせいで上手く話せないようだ。
「き…キリトさっ」
思わず口走ってしまう。その声に反応しキリトさんがチラリとこちらを見る。
「っらぁ!!」
それを見て先程吹っ飛ばされた槍使いがキリトさん目掛けて得物の槍を突き出し突進する。
『キィン!!』
キリトさんが右手の剣で槍を跳ね上げる。僕は…その場から動けずにいた。また逃げるのか、考えることを放棄するのか…?いや、ダメだ。戦え。抗え。自分の正義のため、守りたい人を守るために─!!すると僕の細剣の刀身から青白い炎のような光が噴出し出した。それに構わず僕は素早く細剣を抜くと一気に中段で腕を引き絞る。
「うぅおぉわぁぁぁぁぁぁぁーっ!!!」
細剣スキル単発突き《リニアー》だ。そして左半身を目一杯後ろから右に傾け、左手でリズさんの右手を掴む。システムアシストに従って僕の体は一直線にキリトさん…ではなくその奥の工房と店先を繋ぐ扉の定を貫いた。
「…っ!!」
僕の太刀筋を自分を中心にと勘違いしたキリトさんが振り抜いた剣が僕のフーデットケープを切り裂く。僕自身のスピードも重なりケープの耐久値が切れて控えめに爆散する。
「おい!お前!」
僕の背中にキリトさんが声をかけるが振り返っている暇はない。僕は店の正面の鍵を開けると一気に開け放ちリズさんの手を握ったまま転移門広場に向けて街道を走る。─!?
「いたぞ!やっぱりあいつ裏切りやがった!圏外じゃなく広場の方向へ走ってた!」
なっ…!?僕達の行く手から深緑色のフーデットケープを被ったラフィンコフィンのメンバーが10人程走ってくる。
「ハー…ス…?」
いつの間にか麻痺から回復していたリズさんが走りながら僕に声をかける。
「ごめんなさい。今更僕に弁解出来ることは何もありません。でも今は助けさせてください。あなたを守らせてください。もう誰も死なせたくないんです!」
すると僕達から数m離れたところに白い服を着た女剣士が現れた。
「止まりなさい!今すぐにリズを離し…て…なんで…あなたが…?」
アスナさんだった。僕を見て相当驚いている。無理もない。
「すみません、お話したいことはたくさんあるのですが、今はとりあえずお二人で逃げてください!狙いはリズさんです。それと圏外には絶対に出ないで!大勢が待ち構えていて殺されます!」
「逃げるだって?どこへだ?」
しまった。僕達は囲まれてしまった。
「コリドー、オープン」
回廊結晶だ…僕達の背後に展開されたようだ。じわりじわりとラフィンコフィンのメンバーが距離を詰めてくる。
「おらぁっっ!」
両手斧使いの斧が横凪ぎに僕達を襲う。僕は咄嗟に剣を左下から右上へ振り抜きながら女の子二人の前へ出る。しかし、威力に負け細剣を離してしまった上に体にモロに攻撃を食らい吹っ飛ばされてしまう。その先にアスナさんとリズさんがいた。
「わっ!」
「きゃっ!?」
僕を受けとめようとしてくれた二人が支えきれずに後ろの回廊結晶で開いたワープ門に触れてしまう。
「なっ…!?」
おまけに僕の細剣も一緒に。
すると無情にも二人と一本を引き込めば仕事は終わり─というように回廊結晶の効果が切れ、ワープ門は閉じてしまった。
ふぅ~