紺碧の暖炉   作:ハース/ユウキ

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書きためてた分載せまーす!


2、第71層エリアボス討伐戦

翌朝。アラームを止めて寝癖に水をつけながら手早く身仕度を整える。─といってもウィンドウに表示されている装備フィギュアに相応のアイテムを並べるだけなのだが。

すると瞬時にいつもの漆黒のコートと、同じく漆黒の鞘に入った一振りの片手剣が剣帯ごと俺の背中へ現れた。

 

「今日も頼むぜ、相棒」

 

いつもの重さに安心感を感じつつ愛剣《エリュシデータ》に囁きかけると宿屋の部屋から出て、あくびをしながら階段を降りる。朝食を食べるべく、宿屋の受付兼食堂となっている1階へ向かう。1階へついて店主に注文をしようと息を吸い込んだ直後、後ろから聞きなれた声が俺を呼んだ。

 

「キリトくんおはよう!」

 

振り返るとそこには手を体の前で重ねて両手でバスケットを持ったアスナの姿があった。

 

「おはよう、アスナ」

「あの…キリトくん朝ごはんもう…食べた?」

何故か少しうつ向き加減で質問してくる。

「いや…まだだよ」

「あ、ほんと!?これ、サンドイッチ作ってきたんだけど…一緒に…とか、どうかな…?」

 

これ、というのはアスナが持つバスケットの中身のことだろう。正直に言ってもアスナの作るサンドイッチは絶品だ。料理スキルを完全習得しているだけある。

 

「あ、じゃぁ、お言葉に甘えて…」

 

こうして、俺はアスナと朝食をとることになり、成り行きでその日の午前中に開かれる予定の《第71層エリアボス討伐会議》へも一緒に行くことになった。

 

アスナが副団長をつとめる《血盟騎士団》と名を連ねる二大攻略ギルドの1つ。《聖龍連合》の団長、リンドが司会をつとめ、エリアボス討伐会議が開かれた。偵察隊の情報によると、取り巻きはただの蜂。毒もなく大して厄介ではない。71層のエリアボスの外見は、中身は赤いとうもろこしでHPバーは三段。攻撃は根を5~7本振り回す全体攻撃と体全体を横に2度倒し床を打ち付けるスタンプ攻撃らしい。HPバーが減ってゆくのと比例してとうもろこしの皮が剥けてゆき、2本目のバーが赤くなると、中身をとばして攻撃してくるらしい。中身はとうもろこしというよりスイカのような感じで、当たると状態異常。主に水濡れや、それに伴う転倒があるらしい。

一通りMOBの説明を終えると、リンドに呼ばれて4人のプレイヤーが壇上に呼ばれた。歳は俺とさほど変わらなそうだった。タンクの男と細剣使いの男、盾持ち片手根使いの女と、両手槍使いも女だった。全員ブルーグレーを基調とする装備を着ているが、髪は茶色の短髪、亜麻色のショートカット、橙色のポニーテール、群青色のロングヘアーと様々だった。ポニーテールの女が一歩前へ出て、大きく息を吸い込みながら言った。

 

「皆さんはじめまして!!ギルド《noctual》のリーダー、Linli(リンリ)です!今回のエリアボス討伐での働きによって攻略組への加入が許されるかどうかを決めるということで会議に参加させて頂きました!よろしくお願いします!」

 

勢いよく頭を下げると、隣へ立つタンクの男を視線で促す。

 

「同じく《noctual》のLeo(レオ)です。よろしく。」

「同じくMomo(モモ)です」

 

槍使いが頭を下げる。

 

「最後に、Hearth(ハース)です!皆さまよろしくお願い致します!」

 

細剣使いが爽やかな笑顔を振り撒きながら頭を下げる。アルゴの言うとおり嫌な奴等ではなさそうだ。

再度リンドが前へ出て、ボス戦の具体的な作戦の話がされた。

 

エリアボス本体への攻撃は聖龍連合のメンバーと、一部の血盟騎士団のメンバーのみで構成されたパーティーが請け負い、俺とアスナと《noctual》の4人を含めた6人の《F隊》は取り巻きの蜂をひたすら狩り、余裕があればボス本体への攻撃をするという役割を請け負った。全体の話が終わり、あとはパーティー内で基本的な陣形を決め、一旦解散となった。

 

「それじゃ、午後2時に集合場所で。地味に思えるかもしれないがやはり危険だし大事な役目だ。頑張ろう」

「『はい!!』」

 

俺のまとめに元気よく答えた《noctual》の4人は、早速攻略の準備をしに商店街へ消えていった。

 

「素直な子たちだね、仲良さそうで羨ましいわ!それはそうと、キリトくんも攻略準備しなきゃでしょ?いこう?」

「お、おぅ」

 

俺は─かつて彼らと同じようなプレイヤーたちを見殺しにしてしまった。今度こそそんなことはしない。そんなことを思いながら、前を歩くアスナの後を追った。

 

ゴーンゴーン─…午後二時を知らせる鐘が鳴る。僕は今まで生きた中で一番緊張している。なぜなら、これから本当の自分の命を懸けて《アインクラッド第71層エリアボス討伐》に向かうのだ。今から約二年前、期待に胸を踊らせながら高校の演劇部の仲間たちとこの浮遊城へと身を投じ、ここがデスゲームと化してからも自分たちの命を第一優先にしながら強くなることを目指して皆と歩んで来た。ギルドを作ったときも演劇部の部長、副部長をそのままギルドに移す形でリンリがギルドリーダー、僕がサブリーダーをつとめることになったが、どうも僕にはリンリのような芯の強さというか、太く強いものが無いと自分でも思う。そう、この細剣のように。片手武器の一番の長所は盾を持てることにあるが、僕はそれをしなかった。正確に言うと出来なかったのである。盾はその表面で真正面から相手の攻撃を受け止めるものだ。お恥ずかしいことだが僕はそれが怖くてたまらない。両手武器にしても同じことだ。結局武器で正面から相手の攻撃を迎え撃たねばならないのだから。だから僕は細剣を選んだ。細剣は形的にもソードスキル的にも速さが特徴であるため、盾や両手武器のように敵の攻撃を受け止める必要はなく、ほぼ全て回避して戦うのだ。現実世界でもそうだった。僕には一つ下の妹がいるのだがどちらかというとリンリと同類、芯の強さを持っている人だった。事あるごとに向き合うべく機会はあったのだが、僕はずっとそれから逃げてきた。そのせいか僕に対する家族の態度は冷たいものだった。キャラ名を《Hearth》にしたのは完全に家族への当て付けだ。単語の意味は英語で団らん、家族という意味だ。家族の他には暖炉という意味もある。

 

「おーいハース、大丈夫か?」

 

レオに軽く肩を小突かれハッと我にかえる。モモ、リンリもレオと同じ様に僕を見ている。

 

「あ…あぁごめんみんな、なんてったってあの黒の剣士様と閃光様と同じパーティーで戦う日が来るなんて…しかもボス戦で!」

「閃光様はちょっと…やめて貰えないかなー…?」

 

振り返ると閃光様…いや、アスナさんがこちらへ苦笑いを向けている。

 

「俺もその呼び名はあまり好きじゃないけど…まぁいいじゃないか、呼びやすい方で。それよりみんな最後にもう一度フォーメーションの確認をしよう」

 

黒の…えーと、キリトさんたちと共にボス攻略に向けて最終確認をする。僕らが相手にする蜂には斬、打、突のうち突き攻撃が相性が良いそうなので、前衛をレオとモモ。後衛をキリトさんとリンリ。アスナさんと僕が横から蜂を倒すフォーメーションをとることになった。丁度最後の確認を終えたところでリンドさんが全体へ声をかけ、僕たちを交えた《攻略組》はエリアボスの出るという畑チックなフィールドへと移動した。

 

『シュルルルルルルルル……』

 

蛇のような気味の悪い鳴き声をあげながら71層のエリアボス─通称巨大トウモロコシはリンドさんたちを目掛けて根を振り回す。振り回しが止まった瞬間、ボス討伐に当たる全隊が一斉に色とりどりソードスキルを放つ。するとボスの二本目のHPバーが赤の危険域にまで減る。それを横目で見ながら僕たちは蜂を…丁度9匹目を倒したところだった。一息ついたその瞬間、僕のすぐ左で蜂が沸いた。すぐさま僕は自分の細剣を赤い光で染める。四連撃《カドラプル・ペイン》──

 

「止まれ!ハース!!」

 

!?─キリトさんが僕に叫ぶ。しかし僕の体はシステムアシストに従って蜂に向かって剣を突き刺していた。よく見るとその蜂は今までの黄色と黒の縞模様の蜂よりも一回り大きく、鮮やかなオレンジ色をしていた。─!?それだけではない、僕は目を疑った。僕のソードスキルが蜂に与えたダメージはたったの1。にも関わらず蜂はHPゲージを全損させて体を光のポリゴン片へと姿を替え、飛散した─その瞬間。

 

『キシャァァァァァァ……!!!!』

 

巨大トウモロコシが今日一番の奇声をあげた。その声に呼応するように、新たな普通の蜂が二匹沸いた。巨大トウモロコシがまっすぐ僕の方へ近付いてくる。そして、まだ丸々一本HPバーが残っているのに皮を全て下まで剥がすと、中身の赤い球体をボクに向かっていくつも飛ばしてくる。何故だ─!?どうして僕がボスにタゲられてるんだ!全力で後ろへとんで球体を避ける。キリトさんが攻略組全員に聞こえるような音量で叫んだ。

 

「今ハースが倒した大きめの蜂はトラップのスイッチだったみたいだ!この様子だと今後現れる全てのモンスターがハースをタゲる!よってハース!お前は全力で避けることに専念してくれ!みんなはハースが死ぬ前になんとしてもMOB…特にトウモロコシのHPを削り切れ!!」

 

なんだって!?だからキリトさんはボクがあの蜂を攻撃するのを止めたのか。そこまで考えるとトウモロコシがまた僕を目掛けて球体をとばす。懸命に走りながらそれを避ける。それを繰り返し、なんとか最後のHPバーを黄色い注意域まで削ることが出来た。その時、球体の二倍はあろうかというスピードでこちらへとんでくる黒く細いものが僕の腿をかすめ、雑草をむしりながら地面に突き刺さる。見るとそれはトウモロコシの根だった。トウモロコシは根の先端を切り離し、投げ槍のようにして僕を狙いはじめた。時折球体も混ざっていて避けるのが辛くなってくる。槍を避けながら走っていると球体が破裂したところに出来る水溜まりで足を滑らせ体勢を崩してしまう。そこへ追い討ちをかけるように球体が僕の足元へ命中する。僕は転倒してしまった。この浮游城での転倒は立派な状態異常ですぐには起き上がれない。そこへまた一本、根の槍がとんでくる。目の端でそれを見ながら避けられまいと僕は諦めた。そのときだった。黄緑色の閃光がとんできた槍を弾き返した。アスナさんが放った単発技《リニアー》だった。それがパリィの役割を果たしたようでトウモロコシは動きを止める。僕以外の全員が一斉に、各々の最大威力のソードスキルをトウモロコシへ叩き込む──するとトウモロコシは静かに爆散し、ポリゴン片となった。大袈裟なファンファーレが鳴り《Congratulations!》の文字が攻略組の頭上へ表示される。エリアボスの討伐に成功したのだ。皆が口々に喜びの声をあげる中、僕は一人動けずにいた。最後に僕を庇い、ボス討伐への絶対的チャンスを作ったアスナさんは、僕と同じ細剣使いだ。しかもリニアーは単純な突き技。それであの槍を綺麗に180゜弾き返すということは、寸分の狂いもなくアスナさんの剣と槍が向かい合っていたことになる。僕は逃げるために細剣を選んだ。しかしアスナさんは確実に真正面からぶつかっているのだ。

 

「ハース!!生きてる!?」

 

リンリが僕の元へ駆け寄ってくる。

 

「ありがとうリンリ、みんな!ボスにかっ…たよ…?」

 

みんなの視線が僕の腰辺りに注がれているのに気付き僕もそこを見る。そこには

 

「なんだこりゃぁぁぁぁっっ!!」

 

僕の細剣は、まるで焦げたように錆びだらけになっていたのだった。トウモロコシがとばした球体を受けてずぶ濡れにはなっていたが、それにしてもサビるのが早過ぎる。

 

それを見たアスナさんが僕に言った

 

「あちゃー…これは流石にマスターメイサーじゃないとどうにも出来なさそうだねぇ…私の友達に腕利きの鍛冶屋がいるんだけど、紹介してあげようか…?」

 

普段武器のメンテを頼みに行く鍛冶屋がいるにはいたが、特にお得意様という訳でもなかったし、そもそもあの人はマスターメイサーにまではなってなかったと思うので僕はアスナさんの申し出を受けることにした。

 

「お言葉に…甘えて…」




多分、寝てる時にスイカとトウモロコシが食べたかったんだと思います!夏だしw
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