紺碧の暖炉   作:ハース/ユウキ

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まだありましたw


4、決意の蒼い炎

「みんな!…ただいま!!」

 

僕は息を切らしながらギルドホームの扉を開けて叫んだ。ギルドホームといっても52層の主街区のはずれにいくつか連立している二階建てのログハウスのうちの一つを買い、ギルドメンバー4人で共同生活を送っているだけなのだが。

 

「おかえりー!」

「おかえり、ハース」

「おかえり!そんなに急いでどうしたんだ?」

 

共有スペースとなっているリビングから皆の声が聞こえる。

 

「見てよこれ!」

 

僕は錆が跡形もなく消え、代わりに輝きを増した愛剣《フレイムディタミネーション》を皆の中央に位置するテーブルの上に置くと

キリトさんが錆取り用のアイテムをくれたこととそのアイテムの効果を、僕が工房でキリトさんから聞いたように皆にも話して聞かせた。

 

「へぇー!すごいね!じゃぁ、ハースすっごい強くなっちゃったんだ!?」

 

とリンリがテーブルに手をつき身を乗り出しながら言った。

 

「必死にトウモロコシから逃げ回った甲斐があったなハース!」

 

とガハハと笑いながら言うレオ。

 

「よかったわね!それで、その鍛冶屋さんはどんな感じの人だったの?私もそろそろアーマーのメンテをしたいと思ってたところなんだけど」

 

とモモが質問を重ねてくる。

 

「えーっとね…ピンク色の髪の女の子で歳は多分僕らとさほど変わらなさそう。ウエイトレスみたいな服で…」

 

店の奥の工房から出てきたリズベットさんを脳内で再生させる。フリルのついたエプロンにフワッとしたスカートから伸びるほっそりした足、人懐こい笑顔─…ん?…そこまで思い浮かべると体に違和感を覚えた。何故か僕の首から上が暑い。僕を見るみんなも何故かニヤニヤ笑っている。みんなの視線をあびて余計に体温が上がる。

 

「え、な、なんだよ…?」

 

思わずタジタジと後ずさる。

 

「なんでもないわよ、でもアーマーのメンテはいつも頼んでる人のところでよさそうね」

 

そう言うとモモは僕から自分のメニュー画面へと視線を移した。なんだか腑に落ちないがこの機に話を変えた方が良さそうだ。

 

「もう一つみんなに良い知らせがあるんだよ!」

「もう一つ…?」

 

レオが興味津々で僕を見つめる。

 

「うん。さっき52層の転移門前の掲示板で読んだんだけど─…」

 

僕が見た記事の内容はこうだ。

《発見!夢の秘宝》66層最北端にある《冥暗の洞窟》の最深部にいるNPCから受注出来るクエストをクリアすると、パーティー全員に報酬として装飾品アイテムが手に入る。というものだった。その装飾品アイテムの性能がとてつもないもので、僕たちのLvだと全ステータスををLv5~7底上げ出来るものだった。

 

「え!?そんなに!?なにそれすっご!?」

 

リンリが大袈裟に驚きながら言った。他のみんなも目を輝かせながら話に聞き入っている。

 

「そうなんだよ。けどいくつか注意事項があって、その洞窟内はどこもクリスタル無効化エリアだし途中からクエストの進行がインスタンスマップになって、クエスト完了まではそのマップから出られない。フレンド間メールも含め、同パーティー外の人との通信も一切できなくなるみたいなんだ。その上、そのクエストを全部クリアするまでには人によるけど平均3~5日かかるらしいんだ」

 

皆は黙って僕の話を聞いていたがさっきまでの皆の目の輝きは消えていた。今の注意事項から考えると、最長5日も装備のメンテやアイテムの補充もできずにフィールドで戦い続け、転移結晶での緊急脱出も出来ないということなのだ。危険な上にそのインスタンスマップ外にいるプレイヤーに助けを求めることもできない。

 

「それ…行くのか?」

 

レオが沈黙を破る。モモは一人で何かを考えるようにうつ向いたまま動かない。僕も何も言えないままでいると─

 

「…行こう。」

 

リンリが短く、しかし力強く答えた。

 

「みんなも分かったと思うけど、このクエストは危険だよ。けど、攻略組に入るってことは常に危険と隣り合わせになるってことだと思うんだ。だったら、今ここで逃げたら逃げ癖がついてしまうとも思うし、現実的に考えてもボス攻略に挑むには私たちは最低ラインにいる。みんなでお互いを守り合うためにもこの装飾品は必要だと思う」

 

─僕は、皆に話を持ってきたにも関わらず既に逃げていた。攻略組に加わろうと思ったのもみんなが、強いて言えばリンリの決断に従ったのだ。そして今も、みんなにクエストの話をしながらも《話し合い》という名目で、危険を犯す責任を他人に─リンリに擦り付けようとしたのだ。それでも僕は何も言えなかった。

 

翌日から、僕たちはその洞窟に行く準備を始めた。二日に一回武器のメンテをしなければならないほど狩りをし、コルを貯め、全員のアイテムストレージがいっぱいになる程回復アイテムを買い込んだ。ちなみに《ユニーク武器は優先度が高いのでマスターメイサーじゃないと扱えない》とかで、仕方なく僕だけリズさんのところへ武器のメンテに通うことになっていたのも今となっては懐かしい。そして、翌日いよいよ洞窟へ出発するという日の夕方。僕はいつも通り狩りからの帰りに転移門前で皆と別れようとするとガシッと後ろからレオに肩を組まれた。

 

「おいハース、数日間店にも行けないしメッセも届かないことリズさんにちゃんと話してこいよ、イ ッ シ ョ ニ ユ ウ シ ョ ク デ モ タ ベ ナ ガ ラ、な!」

「…ぬぁっ!?!?な、なななんで、えっ?」

「頻繁にメンテに来てた客がパッタリ来なくなったらいくらマスターメイサーさんでも不安になるだろー?」

 

そ、それはそうかもしれない。そうかもしれないが僕が本当に聞きたかったのはそこじゃなく─

 

「ま、これもアイテム買った後余ったしな!」

そういうとレオは僕の手に麻袋を落としこんで僕を転移門へ押し出した。

「うわぁっ!?」

 

よろけながら転移門の石段を登る。慌てて振り返るともう三人は豆粒程の大きさにしか見えない位置まで離れていた。…早い。

 

「夕飯食べて帰ってくるんだよー!食べないで帰ってきても今日はあんたの分無いからねー!」

 

リンリが叫びながら手を大きく振っている。あぁ…なんだか恥ずかしい。夕飯のことはとりあえず置いておいて、武器のメンテをするために僕はリズベット武具店へ向かうことにした。

 

「転移、リンダース」

 

青白い光が僕の全身を包み込んだ。

 

「こんばんはー」

 

僕は扉を押し開けながら店の中へ入った。

 

「こんばんは!リズベット武具店へようこそ!」

 

いつものNPCの店員の挨拶が聞こえ─…え?声の主は店員ではなく、リズさん本人だった。

 

「えっ?あれ?店先にリズさんがいる…」

 

僕の他に客の姿はなく、他の人の接客中という訳でもなさそうだ。

 

「人を引きこもりみたいに言わないでくれる?そりゃ一日おきに同じ時間にメンテに来てくれれば覚えちゃうわよ!」

 

この状況でこんなことを思うのは少し不躾かもしれないが、ムスっとした態度がまた可愛らしい。ふとレオとリンリの言葉が脳裏に甦る。勇気を振り絞るようにぐっと愛剣の柄を握ると、自分でも気持ち悪いと思う程ぎこちない文句が口から出た。

 

「それなんですが…明日から当分お店に伺えそうにないんです、そのことも、お話したいと思うので、その、今夜、仕事が終わったら僕と、夕食を…」

 

恥ずかし過ぎてリズさんの顔を見られない。だが、雰囲気と足音でリズさんがくるりと180゜体の向きを変えたことが分かった。─あぁ…ムリかな。そう思ったとき聞き取れるギリギリの音量で返事が返ってきた。

 

「今日は7時に店を閉める予定だから…そのあと…なら」

 

─え。えぇ?すぐには言葉がでなかった。




いやー、夏ですねーw
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