アルゴが帰ってからも、俺はさっき聞いたクエストのことがひっかかってしまい眠れずにいた。わざわざ偽名を使うということは何らかの意図があり…最前線の手前の層のみに掲示を貼り出すという点から見ると狙いは中層プレイヤー…クリアしたプレイヤーは誰も見つからないない…
─ヒピッ。
フレンドメールの受信音で目を覚ます。考え事をしていたはずなのだがいつのまにか眠ってしまっていたらしい。メールはアスナからだった。
『キリトくんおはよう!昨日はエリアボス攻略お疲れ様!君のことだから今日は迷宮区でレベリングするんでしょ?私も一緒に行っていいかな?』
ボリボリと頭を掻きながら了承の旨を伝える返信をし、手早く装備を整えて待ち合わせ場所の迷宮区入り口へ向かう。そうだ、昨日のアルゴの話だとアスナとも同じ話をしているはずなので彼女にもこのクエストについて聞いてみよう。
──71層 迷宮区
「───っ!!」
無音の気合いと共に薄青色のライトエフェクトに包まれた愛剣が本日何匹めか分からないが蛾を模したモンスターを両断したところだった。
「お疲れ様!そろそろ12時になるし、すぐそこが安全地帯に設定されてるみたいだからそこでお昼にしよう?キリトくん」
「あ、うん」
二日連続でアスナの手料理が食べられるとは幸運だ。
「そうだ、アスナ」
「ん?なに?キリトくん」
「昨日アルゴから装飾品クエストの話聞いたか?」
やはりアルゴは俺のところへ来た後にアスナのところへ行き、同じ話をしていたらしい。
「それで…アスナはどう思う?」
「どう思う…って言われても…うーん、考えすぎかもしれないけど少し気になることが…」
「気になること?」
「うん。掲示板の情報提供元の名前のビーグルってあれ、もしかしたら猟犬のことなんじゃないかなって」
猟犬とは猟をするときに人間の補助をする犬のことで、主な仕事は人間が撃った獲物を拾ってきたり、人間が待ち伏せる場所まで獲物を追い込んだりすることだ。いくつか猟犬に適した犬種はあるのだが、ビーグルはその中でも有名処だ。
「つまり…何かを主のところへ誘き寄せるためのもの…と?」
こう口に出した瞬間、俺の脳裏に最悪のシナリオが展開された。
「ぁ……、まさか…!?」
「え?き、キリトくん…?」
急いでフレンドリストを確認する。すると…ハース、レオ、リンリ、モモの四人がメッセージを送れなくなっていた。くそっ!!内心で毒づきながら手早くウィンドウを閉じ立ち上がる。
「アスナ、緊急事態だ。今日の攻略はここまでにして頼みたいことがある。今すぐリズに会って、あのクエストの洞窟に行くって言っていたプレイヤーがいたか聞いてきてくれ」
「え、え?わかった。き、キリトくんは…」
「俺は他にやることがある!あとは走りながら話そう…!」
そう言い放つと全力で主街区に向かって走る。頼む。間に合ってくれ─!!
─リズベット武具店 工房
「リズー!おはよー!」
「んわっ!?」
ハンマーを降り下ろそうとしていたであろうリズにジトッとした視線を向けられる。
「…おはよう、あんた毎度わざとやってるんじゃないでしょうね」
「ごめんごめん、気を付けます」
照れ笑いで誤魔化しながら工房に入る。
「今日はどうしたの?剣も防具もこの前ピカピカにしたばっかじゃない」
「今日はメンテじゃないんだ、キリトくんからの伝言でちょっとリズに聞きたいことがあって」
「聞きたいこと…?」
「うん。緊急な用なんだけど、最近66層の洞窟に行くって言ってた人いない?」
リズの顔色が少し悪くなったように思う。
「いたわよ。ハースが言ってた。ギルドのみんなとその洞窟にクエストを受けに行くって…。でも緊急な用って…?」
「詳しくは私も分からないの、ごめんねリズ。でも、キリトくんがそれを聞いてくれって」
そう言うとキリト宛のメッセージを作成し、送信する。するとすぐにキリトからの返信が来た。そこにはこう書いてあった。
『了解、ありがとう。すぐにその洞窟へ向かってくれ。俺もすぐ向かう。急いでくれ』
…ごめん、リズ。詳しいことが分かったらまた連絡するね、とりあえずありがとう!またね!
背中からリズのどやす声が聞こえた気がするが構わず走り続ける。
───第一層 剣士の碑前
アスナからのメールを読んで凍りつく。なりやまない心臓を抑えながら食い入るように碑に刻まれた名前を確認する。
Health…Linli…Leo…Momo…全ての名前に横線は刻まれていなかった。ひとまず胸を撫で下ろすが、俺の推測が合っていれば立ち止まってはいられない。アスナに66層の洞窟へ向かう指示をだし、自分も急いで向かう。
書いてて楽しくなってきたー(早く結末書きたいw)