ふとエントランスを訪れると、いかにも「私、不機嫌です」とドス黒いオーラを纏ったジャンヌ・オルタが携帯端末を片手に佇んでいた。こう言っては何だが、何やらブツブツと独り言を言いながら携帯端末へ指を這わせる彼女は鬼気迫るモノがある。つい後ずさり、声を掛けるのを躊躇ってしまう程度には。
──見えてる地雷を踏むことはない、か
そう結論付けると、踵を返そうとした瞬間──
──がしっ、と、誰に肩を掴まれた
「…………何でよ?」
──まるで地獄の底から響くような、怨嗟に染まった声音
──振り向くな、逃げろ、と本能が訴えてくる
──だが肩を掴む誰かの指が食い込んできて、払うこともできない
おおよそ誰が肩を掴んでいるのか、は声で察している。
おそるおそる、首だけを曲げてみる。すると顔を俯かせていたジャンヌ・オルタが頭を上げた、前髪の隙間から覗く瞳を爛々と光らせ、目端に少し涙の玉を浮かばせる彼女の表情は──すごく、ホラーです。
「なんで夏イベント、私の出番ないわけえぇッ!!」
◆ ◆ ◆
「マルタ姉さんとか王サマとか王女サマなら分からないでもないわよ、だって可愛いもの。ただ、なぁんで年増狐や凹凸海賊、果てはオレっ娘まで出てんのよ。あいつ等が出れて私が水着ないとか、ホント意味わかんない──あ"あ"ぁ"ぁ"、運営しごとしろぉぉッ!!」
ベッドの上で「うごご…」と頭を抱え、のたうち回るジャンヌ・オルタを尻目に溜め息を吐き出す。お前、消されるぞ、とは言えるはずもなく──と、その時。ベッドで悶えていた彼女が、いつの間にか動きを止めて、じーっ、と、こちらを見上げていることに気付く。
かと思えば、いきなり頬を紅潮させ、ぷいっ、と視線を逸らしてみたり、枕で視線を遮ってみたりと挙動不審。何がしたいのか分からない、とはいえ今の彼女は爆発物のようなもの、下手すれば甚大な被害を被ってしまうだろう。さて、どうしたものか、と思案を巡らせようとした、その時──
いきなりジャンヌ・オルタがベッド上へ座ると、着ている衣服に手を掛けていった。重々しい手甲やらだけではない、体に纏う黒衣を、バッサバッサと脱ぎ捨てていくではないか──あまりにも突然のことに、思考が追い付いていかない。
「…………っ…………」
重々しい黒衣を脱ぎ去ったジャンヌ・オルタは、どこか気恥ずかしそうに視線を逸らす。陶器のような肢体を隠しているのは、わずかな面積しかない黒の薄布。下着にも見える彼女の格好は俗に──水着、という。
黒のビキニに包まれたジャンヌ・オルタの肢体、胸元で自己主張する豊満な乳房に見惚れていると彼女は小さく「まじまじ見過ぎでしょ、このスケベ」と呟き自分の身を掻き抱くようにベッド上で身を捻る。どことなく頬を紅潮させ、むすっ、と不満顔で。
──もしかして、わざとやっているのか?
そう思えるほどにベッド上で水着を着たジャンヌ・オルタの言動は"あざとい"、触り甲斐のありそうな乳房もさることながら、スラッ、と伸びた脚を曲げ折り畳むように曲げられていて──もはや、目に毒としか言い様がない。
「──ちょっと、なに目逸らしてんのよ?」
ついつい視線を逸らすと、今度は怒られた。
どうしろと言うんだ?
「……ッ……さ、察しなさいよ……っ……この馬鹿……」
と、そこで気付いた。
つまるところ、彼女は待っているのだ。エントランスで不満そうだったのも、部屋へ連れて来られるのも、もしかしたら彼女の計画だったのかもしれない。そう思い至ると、無意識に口元が弧を描いてしまう。彼女が求めているのは、きっと──
[その水着、似合ってるよ……]
[……とっても、綺麗だ]
「…………ッ……、…………ッ!!」
途端、ジャンヌ・オルタは顔どころか耳まで真っ赤にして傍らへ転がっていた枕を抱き抱えてしまう。ぎゅっ、と力を込めているせいで形が歪んだ枕を抱き抱え、ソレに顔を埋める姿は何とも可愛らしい──「う"ぅ"ぅ"」なんて小さく唸っているけど、ちっとも怖くない。
むしろ、その可愛らしい仕草に悪戯心が沸き上がってくる。ギシッ、と故意に大きくベッドを軋ませながら彼女へ身を寄せると剥き出しになっていた肩へ掌を重ねる──その感覚に、枕を抱き顔を埋めていたジャンヌ・オルタは、びくっ、と体を跳ねさせた。
──もしかして、最初から見せるつもりだったのか?
──もしかして、怒ってたのも、わざとなのか?
──もしかして、"期待"していたのか?
ジャンヌ・オルタの耳元で囁いてやるも、しばらくは反応がなかった。しかし、ふと彼女は顔を枕から上げ、顔だけをこちらへ向けてくる──非難するような、それでいて覇気のない恨めしそうな瞳を。
そして、そのまま枕を腕から滑り落としたジャンヌ・オルタは身を寄せてくる。女性的な甘い香りが鼻孔をくすぐり、暖かく柔らかい彼女の肩口が胸元を叩いてきた──少し顔を寄せればキスが出来るほどの距離に薄白い陶器のような頬を紅潮させた、見慣れた彼女の顔がある。
「……ばぁか……ッ……わかってる、くせに……」
ふっ、とジャンヌ・オルタが微笑んだ、瞬間──
さらに体を密着させ、唇を重ねてきた。
「……ほんと、いじわるな
おい運営、ジャンヌ・オルタの水着あくしろよ(威圧)