目を覚ますと、そこに天井がある。
働かない頭は無意識にぼうっと考えていた。
「知らない天井だ……」なんて馬鹿な独り言を零してみる。
頭はまだ動かない。呑気な脳裏はいつもの日常を思い浮かべる。
「あ……起きなきゃ、今日……日直じゃなかったっけ……」
寝ぼけながら、ぼんやりと独り言を再び紡ぐ。
のっそりと起き上がると、低血圧の頭が少しづつ動きだした。
「あれ……私いつ寝たんだっけ……宿題やってない気がす…………る!?」
ゆっくりと辺りを見渡していたカナタの頭がようやく回転を始めた。
思い出す。
自分が謎の黒い霧に飲まれた事、カマキリのような化物に襲われた事、ロランが殺された事。
……黒髪の少女が助けてくれた事。
状況を確認しようともう一度辺りを見回す。
10畳半くらいの大きな部屋。
タンスや机に照明、生活感を感じる部屋だ。
見覚えがあるとすればホテルのような印象。印象なだけでホテルにしては質素に感じる。
物が少なく最低限の生活品という具合。
そして自分の隣にはもう一つ白いベッドがあった。
ゆっくりとベッドから出るとふわふわのカーペットに足が触れる。
部屋を見回していると、部屋の隅に何かがいることに気づく。
その何かはブルブルと微振動をしている白い物体。
それが人であることをすぐに理解する。
小さな体を更に縮こませるように蹲っている……子供?
白いシーツのような物を上から被せているだけの物体。
その中で蹲っている茶色い物体。
茶色い物が、カナタの世界にもあった服装だと気づく。
ダッフルコート。そして顔部分をすっぽりと覆っている赤いマフラー。
紺色のスカートで少女だと解った。
冬の女子高生のような服装だ。
フードを顔の半分まですっぽりと被っており、表情はマフラーも相まって見えない。
フードからピンク色の髪が溢れていた。
「寒い……寒い寒い……寒い寒い寒い……」
少女のフードから、小さな可愛らしい声が紡がれていた。
特に寒い部屋に感じないカナタは、少女の様子に首を傾げる。
何にしても部屋の主だと思われる人物が少女だと考え、不安だった胸をなで下ろす。
少女と同じ高さになるようにしゃがみ込む。
勿論警戒させないように少し距離をあけて。
「あ、あの」
「っ!?」
声を掛けた瞬間、震えていた少女は大袈裟に体を揺らした。
「ヒッ! ヒィッ!」
悲鳴を上げ、そのまま、へたり込む少女は必死に距離を空けようと後ずさっていく。
「こ! こ! こ! 来ないで! 来ないで!」
突然の全否定がカナタの心にグサッと刺さる。
しかし、この世界で出会ってきた中では、まだまともそうな少女に必死に食らいつく。
「わ、私は怖い人間じゃないよ? ここが何処なのか教えて欲しいだけだよー?」
「ば、化物! 化物め! 」
二発目である。
心に思いっきりビンタを食らった気分。
「こんな小さな子に初対面で嫌われる私って……」
子供好きのカナタの中では割と大きな事案になっていた。
「ご、ごめんね? いきなり話掛けられたら怖いもんね?」
少女はブルブルと震えながらフードの奥から紫に近いピンク色の瞳をカナタに向けていた。
恐怖に染まった瞳は大きく見開き、唇をガタガタと震わせる。
「嫌! 嫌々嫌! 寒い……寒い……寒い……」
更に縮こまっていく彼女はフードからボロボロと涙が零れていた。
その姿はあまりにも哀れで、カナタの心を強く強く締め付ける。声を掛け様と手を指し伸ばした瞬間。
重たい機械的なドアが横にスライドされた。
開いたドアの先に、黒髪の女性が居た。
「ル、ルーファさん」
意識していなくともカナタの声は震える。
情の無い非道な動きをした彼女は思い出してしまう。
そんなカナタの事など知らず、彼女は無表情なままカナタへと視線を向ける。
「よく眠れましたか?」
「………はい」
「そんなに警戒しなくても何もしません、付いて来て下さい、歩きながらお話など如何でしょう」
機械的な様子でそんな風に誘われてもカナタが「喜んで!」などと言う訳もなく返答に困るように頬を引き攣らせていた。
話を変えるように彼女から視線をフードの少女へと向ける。
「あ、あの子は大丈夫なんですか?」
震える少女は変わらずに隅で縮こまったままだ、彼女の様子が心配なのは変わらない。
「……………ええ、いつもの事ですから」
ルーファもカナタと同じように少女を見る。その時、無機質だった瞳に色が灯る。
少女に向けて、あまりにもの冷たい視線。
それは、躊躇いも無く刀を振ったあの時と似ていた。
「まだそうやって震えているのですね貴女は」
吐き捨てるようなルーファの言葉に怯える少女はただ悲鳴を零すだけ。
座り込む彼女にルーファが近づくと、少女は更に体を縮こませ、これ以上下がる事が出来ないにも関わらず壁に体を寄せる。
「何か言ったらどうです」
「わ、わた、私、は、わた、わた、し……」
ブルブルと震えながら振り絞った声は嗚咽が混じり、言葉にはならない。
「……貴女は、いつまでそうやって……!」
言葉を言い切る瞬間に声色が変わる。
カナタの背筋に走る寒気が、殺気なのだと直ぐに理解する。
カナタは無意識に、間に割って入っていた。
「やめて下さい!! 怯えてるじゃないですか!! 」
冷徹な瞳に対して、カナタも負けじと強く睨み返す。
簡単に命を消し去る彼女の瞳に気圧されるように震える手をギュッと握り締める。バレないように震えている手を後ろに回した。
後ろにいる少女は、怯えながら目の前の小刻みに震える手を思わず見つめる。
自身と同じように震えているのに、立ち向かっている知らない女性を見つめる。
何故そんなことが出来るのか解らずに、涙で濡れた瞳で見つめる。
「……私の用事は貴女を呼ぶ事でしたので 」
「解りました、い、行きましょう」
ルーファはふん、と小さく鼻を鳴らすと、怯える少女に視線を向けること無く背を向けた。
そんなルーファの後を慌てて追う。
部屋を出る、一瞬。
チラリと少女に視線を送る。
フードの奥底からカナタを見つめていた瞳と目が合う。
涙で輝く、紫に近いピンク色の瞳。綺麗な瞳が覗いていた。
小さな口元が声を出さずに動く。
『ごめんなさい』
何に対しての謝罪なのか解らない。
それでもカナタは少女に優しく微笑む。
「大丈夫だよ」
ただ一言、そう言うとカナタは部屋を出る。
一人残された少女は体を縮こませ、三角座りの状態で腕に顔を埋める。
「ご、ご、ごめん、な、さ、さ、……寒い、寒、い……」
辿辿しい言葉が誰もいない部屋に響く。
呻くように、少女は言葉を紡ぎ続けていた。
三人体制でやってます。
小説 ふぁいと犬 ツイッター @adainu1
「間違えて11話を先にあげてしまっていました……大変申し訳ありません……
後書きに関してですが、毎回投稿する前に二人に入れる?って聞いてるので空欄の時は『返事無かったんだろうな……可哀想な奴だ……』ぐらいに思ってくれたらいいので」
http://mypage.syosetu.com/3821/
挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee
曲 黒紫 @kuroyukari0412