女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.13 ファラン

 ドアの前で一呼吸した後、ぶんぶんと首を振る。 

 

 ルーファの言葉の意味など考えても解るわけない。

 7人? ジョーカー? 知らなくてはいけない事かもしれない。

 でも、今は考えないようにしよう。

 

 気持ちを切り替えよう。

 

 部屋に居るもう一人の少女の事を勿論忘れていない。

 挙動も、あの瞳も。

 

 意を決して見せると一歩、ドアへと近づく。

 どういう原理になっているのかカナタには解らないがなにかの認証をしたであろうピーっと言う音と共にドアが開く。

 暗い部屋の中へと足を踏み入れる。

 部屋の電気は付いていない。これもどういう理屈なのか解らないが、暗い筈の部屋は若干の青い光のようなもので薄く照らされていた。何とか見える程度で暗い事には変わらないけれど。

 部屋を見渡すと、朝と同じ場所に彼女は一切動く様子もなくそこにいた。

 少しでも体を小さくしようと縮こまり、部屋の隅で三角座り。

 帰ってきたカナタに反応を使用する様子もなく―……いや、小刻みに震えている姿は帰っていることに気づいてはいるのだろう。

 

 それは出迎える相手ではなく、単に彼女が恐怖する相手が帰ってきたという受け取り方をしている様子。

 

 彼女の姿は。

 

 カナタには酷く惨めに、残酷なまでに可哀相に見えていた。

 

 脳裏によぎるのは先程のルーファの言葉。

 

 

『甘ちゃんの貴方が、どこまでその性格を続けられるのか、楽しみです。』

 

 

 思い出すその言葉に、首を絞められるような。そんな感覚を覚えた。

 それでもカナタはそれをかき消す様に首を振る。

 突然知らない所に飛ばされて、訳のわからない事だらけで、しかし、場所が変わっても彼女の生き方が変わることはない。

 

 彼女は頑固だ。

 

 だから手を伸ばす。

 

 目の前で震えている少女に手を伸ばす。

 

 カナタは優しく笑いかける。

 幼稚園のボランティアでもやっていた様に、子供をあやす様にゆっくりと話す。

 

「大丈夫、だからね? 私はね、カナタって言うんだ……貴方は?」

 

「……ヒ! ……ヒ!」

 小さな悲鳴を挙げる少女は口をパクパクと動かしている。

 暫く悲鳴を挙げる彼女が落ち着くのを待つ。

 5分、10分、どれぐらいが経っただろうか。

 彼女の怯える様子は変わらないが、覗き込む瞳が、ゆっくりとカナタを数回捉え出す。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

「うん、ゆっくりで良いからね。ゆっくり、ゆっくり……」

 

「……あ、……あ、う……」

 震えている少女とカナタは見つめ合う。

 母性のような優しさの瞳を見せるカナタに対して、少女は化け物を見る様な瞳でカナタを見る度に何度も視線を外す。

 視線を外せば殺されると言うように、しかし視線を合わせれば食われると言うように。

 

 それから更に数分が過ぎる。

 震えていた少女の身体は、徐々に、徐々に震えが収まって行く。

 そっとフードに触れると、少女は顔を露にさせていた。

 目は未だに恐怖で染まっているが、それでも何とかカナタを見つめる。

 白い肌に長いピンク色の髪。

 手入れをしていないのか、髪の先が小さく寝癖のようなカールをしている。

 大きな瞳は涙で輝き、一目で綺麗な、可愛らしい少女だと理解する。

 しかし、それを曇らせる程に眉を寄せ、口をへの字に曲げて瞳を恐怖に染める。

 

 怯える少女はへの字をパクパクと開け閉めを繰り返し、やっとの事で喉から言葉を搾り出す。

 

「ふぁ……ふぁ………」

 

「ん?」

 優しく小首を傾げて促す。

 決して無理矢理させるようにでは無く、威圧しないように笑い掛けながら。

 

「ふぁ、あ、あ、あ、あ」

 少女は突然言葉を止める。

 目を見開き、再び体の振るえが始まっていた。

 

「ああああああああ!!! 寒い!! 寒い!! 寒い!! 怖い怖い怖い怖い怖い!!」

 美しい顔を恐怖で歪め、彼女はあらん限りの言葉で叫び声を挙げていた。

 

「……ッ!? ご、ごめんね! 大丈夫!?」

 思わず謝罪の声が出ていた。

 差し出した手を強く弾かれる。

 

「ああああああ来るな来るな来るな来るな!!! 化け物め!! 化け物めェェェ!!

 彼女はしりもちをついたまま必死にカナタから離れようと後ずさる。

 

「ご、ごめんね! 本当にごめんね! こ、怖いなら近づかないからね!? ほら、私外で寝るから!!」

 

 謝罪の言葉を向けながら慌てて彼女から離れる。

 悲鳴を挙げ続ける彼女に何度も言葉を向けるも反応が返ってくる事は無く、嗚咽交じりに彼女は咽び泣く。

 

「あああああああ……寒い……寒い……寒い……寒い……」

 落ち着く様子を見せずに、彼女は壁際から離れようとせずに、何度も何度も消え入りそうな言葉が吐き出される。

 

「…………ごめんね」

 何度も謝罪の言葉を零すカナタの顔も、泣きそうに歪む。

 こんな小さな子を怖がらせてしまった事にずしりと心が重くなる。

 

「あ、あの、シーツだけ持って行く……ね? 流石に、寒いかもだから……」

 ぶつぶつと壁に「寒い」と言葉を続ける彼女にそれだけ言う。

 二つベッドの一つのシーツを手にすると、部屋を後にした。

 大きく、大きくため息を零すと、ドアに相対する様に目の前の壁に背中を預け、その場に座り込む。

 廊下は、冷たく、硬い。

 それでも上からシーツを被り三角座りのまま、腕に顔を埋める。

 目に溜まる涙を必死に堪え、目を瞑る。

 この世界でやっていけるのだろうか。こんな世界で、自分は生きていけるのだろうか。

 募り続けた不安は、暗い廊下のせいで更に膨れ上がっていた。

 小さくすんすんと鼻を鳴らす音だけが暗い廊下に響く。

 彼女は無理矢理に眠る。

 このわけの解らない世界から逃避するように。

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「わ、わ、わ、わ、わた、し、私の、なま、え」

 

 心地の良い高い声。たどたどしい声色に、薄く目が開く。

 

 硬い廊下で長時間座ったままだからなのか、体の節々が痛い。

 いつのまに眠っていたのかと、ぼんやりとしながら顔を挙げる。

 

 そこに、ピンク色の髪の少女が居た。

 

 俯いたまま、彼女は何度も何度も同じ言葉を続けていた。

 

「私の、なまえ、なま、え、なまえ! なまえ! は!」

 ふわふわとしている意識のまま彼女を見つめていると、彼女と目が合う。

 カナタと目が合うと突然硬直し、不安と恐怖が入り混じった表情へと変わる。

 昨日のままの姿だが、瞳に何処か申し訳なさそうな色が浮かべられていた。

 そこで自身が掛かっているシーツが増えている事に気づく。

 彼女は、いつからここに居たのか。

 何故、彼女が目の前にいるのか、寝惚けて回転の遅い頭は働かずにぐるぐると回る。

 右往左往と忙しく視線を動かす彼女をカナタは見つめる。

 彼女は意を決したようにカナタを見る、そして直ぐに俯く。

 俯いたまま、少女はパクパクと口を開け閉めを繰り返す。

 

「ごめ、ちが、あの、ありが、じゃ、なく、て、あの、あの、あの、」

 徐々に、繰り返す開閉に合わせて、彼女の口から言葉が零れる。

 ずっと起きていたからなのか、泣き続けたせいなのか、真っ赤に染まる瞳がカナタを見据える。

 

 怯える紫色の瞳と、震える唇を必死に動かし彼女は声を振り絞る。

 

「わ、私、ふぁ、ファラ……ン……わた、し、ファ、ラン……」

 

 言い切った後、彼女はきゅっと唇を締める。

 動かなかった頭が動き出す。

 止まりかけていた心が動き出す。

 

「……うん、うん!」

 カナタの表情が明るく輝き出していた。

 

「そう、なんだ! ファランちゃんって言うんだ!」

 視線を外しながらファランはコクリと頷く。

 心に暖かい物が広がる。

 一歩進んだ。

 ファランの警戒している様子は変わらない。

 それでも、それでも今の彼女の行動がうれしくて。

 自分の行動に一つ、正解を見つけられたような気がして。

 思わず起き上がると彼女に手をさし伸ばした。

 

 ファランはまだ小さく震えながらも、手とカナタを何度も交互に見る。

 まるで信じられない物を見るように。

 この子が何故そんな風になっているかカナタは知る筈も無い。

 ここが何処なのかも、まだ解らない事はいっぱいあるけれど、この子の味方で居たいと思えていた。

 

 いつまでも取らない手をこちから力強く握った。

 小さな悲鳴を挙げる彼女に、カナタは笑いかける。

 

「宜しくね!ファランちゃん!」

 

 大丈夫。私は私でいれる。

 

 彼女は心の中で意を決する。

 やるしかないのだ。

 

 この世界で、生きていくしかないのだ。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/

「ロラン&ルーファのシーンを挿絵担当の方が書いてくれました! 」


【挿絵表示】




挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 

曲  黒紫            @kuroyukari0412

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