女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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 ぐったりとしているカナタの肩を一人の女性が叩いた。


 振り向いた先に、中年の、三角巾の女性。
 豪快に笑うその人はカナタの肩を再度叩く。

「いやぁアンタやるじゃないか! あんな料理見たことなかったよ!」

「そ、それは、ありがとうございます」
 思いの外に力強いそれにカナタは頬を引き攣らせる。
 そんなカナタに対して、おばちゃんは優しい笑顔を浮かべる。

「大変だったねぇ……」
 その言葉は、色々なものが込められていた。
 カナタが別の世界から来たということ、ダーカーかもしれないと言われていること。他にも、含められたであろう意味合いに、カナタはコクりと頷く。


「はい……」

 暖かい気持ちが広がる。
 少しだけ、母親を思い出し目頭が熱くなる。
 母は豪快な人では無かったけれど、同じような優しい瞳をしていた事を思い出す。

「ほら、今は同じ部屋なんだろう?これ持って行っておやり」
 そう言って手渡されたのは茶色いバスケット。
 中を覗いてみると、鮮やかな種類が並ぶパンと、飲み物が入っていた。

「これって……」

「ファランの朝飯兼昼飯だよ」

「当たり前さ、あんたは知らないだろうけど、あの子もそれなりに有名なんだよ?」
 そう言っておばちゃんはまた笑う。
 今度の笑顔は、何処か寂しそうに。

「深夜に調理場を散らかす常習犯だったんだけどね……今はアタシがこうしてご飯を部屋に持って行っているのさ」

 たった一人で部屋から出る様子を見せない少女を思い出し、容易に想像出来てしまう。
 夜中に抜け出してまで人と関わるのを逃げる少女。
 少しだけ、自身の世界に居そうな優しいおばちゃんに、あの少女のことを気にかけてくれている人がいる事に、嬉しく感じてしまう。

「折角相部屋になったんなら仲良くしてやっておくれよ 」

「………はい!」
 その言葉に、カナタの心に暖かいものが広がる。
 ここに来て、ファランを気遣ってくれる人がいる事に、凄く、嬉しく感じていた。
 受け取ったバスケットをギュッと抱きしめる。

「………アークスじゃないアンタならあの子と仲良く出来ると思うんだ」

「それって?」

「ああ、いや、良いんだあの子と仲良くさえしてくれれば」
 その言葉の意味は解らなかったけれど、暖かい瞳を向けるこの人が、いい人だという事だけは理解った。


Act.15 少しづつ

「ファーラーンーちゃん!」

 自分の部屋に入るなり大きな声で彼女の名前を呼ぶ。

 案の定部屋の隅で思いっきり飛び上がっていた。

 

「…………!!!!」

 フードから覗く涙で輝く瞳は、抗議の目をカナタに向けていた。

 その視線は直ぐにカナタの手に持つバスケットに映り、見事にギョッとしていた。

 

「そ、れ」

 

「うん! おばちゃんから貰ってきた! 一緒に食べよ?」

 

 明らかに動揺しているファランは被っているフードを更に深くまで被る。

 

「い、い、い、いらない!!」

 珍しく上がる大きな声。

 それと合わせるようにファランの腹部から呻き声のような物が聞こえた。

 

「ッ!?」

 

 その場でファランは顔を真っ赤にしながらブンブンと手を振る。

 

 

「こ、こ、これ、違う、から! これ! あの!」       

 

 

 ファランの抗議も虚しく立て続けにファランの腹が鳴る。

 

「ーーーーーッッ!!」

 声にならない声を上げ、ファランはぎゅっとフードを握り締め、顔が見えないように深く深く被る。

 

「何この可愛い生物……」

 ファランを抱き締めたくなる衝動を必死に押さえ込んでいた。

 フード越しにもブルブルと振るえてるのが解る。

 そんな彼女を怖がらせないように、優しくカナタは声を掛ける。

 

「食べよっか?」

 

 数秒の沈黙のあと、ファランの頭がこくりと動いた。

 バスケットに入っていたパンは子供が好きそうな菓子パンが多く入っていた。

 それはカナタの世界で言う所のドーナッツや、パイのような物。

 パンという概念はこの世界に存在しているようだ。

 

 バスケットの端に2本のビン。

 ビンを取り出し、バスケットをファランの前に置く。

 バスケットを挟むようにファランとカナタは相対していた。

 恐る恐る、カナタとバスケットを交互に見ながら四つん這いでバスケットをずりずりと自身に近づけていた。

 バスケットが開いた瞬間に、ファランの警戒していた表情は柔らかくなっていた。

 いそいそと中からパンを一つ取り出す。

 思い出したかのように警戒の視線がカナタの方を向く。

 自身に惹きつけていたバスケットを、再び元の位置へと押し返していた。

 

 小動物のように怯えながらも、カナタの取れる位置に戻している所を見て、カナタの頬がにやける。

 

 やっぱりこの子は、いい子だ。

 

 両手でドーナッツを掴みリスのように小さく齧るファランは、食べている時でも小さく縮こまったままだ。

 

「な、な、に?」

 見すぎていたのか震える視線がカナタに向けられる。

 その視線に対し、カナタはニッコリと正面から笑いかけていた。

 

「ファランちゃんって、パンが好きなの?」

 

 カナタの回答に対して、ファランは迷うように目が泳ぐ。

 そして、小さくこくりと頷いた。

 

「そっかそっかー! 私も好きなんだよねー! そうだ今度作ったげよっか! ファランちゃんが好きなの作るよ?」

 元気良く話しかけるも、ファランの警戒する視線は変わらず、数秒の沈黙が続く。

 

「ア、アハハ……そういうのは好きじゃなかったかな!」

 沈黙に耐えられず、思わず乾いた笑みを零してしまう。

 

「ほ、他に好きな物とかは無いのかな? 女の子だったら花とかが好きだったりするかなー」

 

「………」

 何とか話しかけた言葉に対し、ファランは答える事も無く睨むようにカナタの方に視線を向けるだけ。

 名前を聞けたとき、一歩進んだと感じていた。

 けれど、今の様子に進んだような感じは見えない。

 仲良くなりたいと思う反面、どうしていいか解らない自分もいた。

 

 しかし、意外にも次に沈黙を破ったのはファランの方だった。

 

「あな、た……は」

 

「え!? 何何!?」

 

 思わず大袈裟に食いつくカナタにファランは小さく悲鳴を上げてしまう。

 

「あ、ごめんね? うん、私が、どうしたのかな?」

 自分を抑え、優しく言い直す。

 涙目で怯えている彼女は震えながらも、ゆっくりと言葉を続ける。

 

「あ、なた、は………な、な、何で……私なんかと、話そうと、す、するの?」

 本当に、それが疑問だと言うように、理解できないと言うような言い方。

 その言い方こそが、カナタは理解が出来ない。

 世界が違うければ大きなズレもあるだろう。

 カナタは、そのズレに自分を合わせるような事はしない。頑固な彼女は、そのズレのままでいることを望む。

 何も言わない彼女に対し、ファランは言葉を続ける。

 今度は、瞳に小さな怒りを宿しながら。

 

「わ、わ、私が、哀れに、惨め、に、見える、から? そんなの、は……い、いらない……」

 それだけ言うと、ファランは再び視線を落とす。

 

 拒絶する。

 

 これでまた一人になれる。澱んだ偽善など、必要が無いと、感じるから。

 彼女は。何処迄も人が嫌いだった。

 

「ファランちゃん」

 名前を呼ばれ、思わず顔を上げる。

 上げた先に、カナタの顔が、すぐ目の前にあった。

 

「っあ、え……?」

 自体が飲み込めずに固まっているファランに、カナタはニッコリと笑いかける。

 

「ファランちゃんと喋りたいからってのじゃ、理由にならない?」

 逃げるように後ずさろうとするも、既に背中は壁につけたままで、ファランはその場で少し動いただけで終わる。

 

「理由が欲しいんならねー……可愛い子とお喋りがしたい! それじゃダメ?」

 

「……は? かわ、いい?」

 フードの奥底で、彼女の顔が瞬時に赤くなる。

 

「そう! 私可愛い子大好き! ね、だから、理由なんて、そんなものなんだよ。直ぐに信用してくれなくていい、少しづつ、私と友達になってくれないかな、ファランちゃん」

 紫色の瞳は、驚きの色を浮かべたまま、彼女を見つめる。

 その程度で、そんな理由で、こんな話すのもままならない面倒くさい人間と仲良くなりたいと思うのだろうか。

 

 単純明快で、まっすぐな彼女の瞳が眩しい。

 

「す、す、すこ、し、づつ?」

 

「うん……それでいいんだよ、急がなくて良いから」

 

 惚けていた瞳を慌てて彼女から外す。小さく高鳴る胸の鼓動を、ファランは両手でぎゅっ、と抑える。

 物理的に抑えられるわけもない鼓動に、彼女は思わず眼を瞑った。

 

 彼女がアークスではないから?

 可愛いと言ってくれたから?

 

 何よりもこんな自分に、こんな人間に、真っ直ぐに言葉を向けられたから。

 その強い想いをファランは感じ取ってしまう。

 

『嘘ではない心からの気持ち』が解ってしまう。

 

 目に涙を溜め、真っ赤な顔をフードで必死に隠す。

 

「だからね、いっぱい知りたいな。ファランちゃんの事! 勿論私の事も知って欲しい!」

 

 

「……ヤ、ヤダ」

 上ずった声でそう答える。

 

「アッハハー! だよねー!」

 笑って見せる。

 彼女が警戒と解くまで、笑ってくれるまで、カナタは諦めない。

 頑固な彼女はお人良し。

 

 

「ねえファランちゃんって誕生日いつかな?」

 

「……」

 

「私はねぇー来月だったんだー。あれこの世界の日付ってどうなってんだろう?」

 

「……」

 

「ファランちゃんはどういったパンが好きなの? 私は惣菜パンとかも好きだけどやっぱりチョコパンには叶わないよねー? あんっまいの!」

 

「……わた、しも」

 

「え?」

 

「チョ……チョコ……す、す、す、好き、だ、よ……」

 

「……うん、うんっ!」

 

 少しづつ。

 一歩づつ。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/
「下の二人が後書きのコメントを後悔してない様子が割と辛い。フード取りファランちゃんを挿絵担当さんが書いてくれましたー!」

【挿絵表示】


挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 
「芳醇っていう食パン。割とマジで芳醇だった。要潤では無いよ^^^^^^^」


曲  黒紫            @kuroyukari0412

「パンはパンでも食べれないパンは? フライパーン^p^」
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