女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.1 幸せの終焉

 暗がりにも大分目が慣れていた。

 声は近づくに連れて大きくなっていく。

 聞こえる先は、葛木 星空(くずき かなた)も小さな頃良く遊んでいた砂場から聞こえる。

 

 砂場に蹲っている小さな子供の背中が見えた。

 小さな背中は、十歳にも満たない見た目。

 上からフードを被っている、という部分以外は子供の容姿については解らなかった。

 

 肩で息をしながら小さな子供の背中に話しかける。

 

「だ、大丈夫? 親御さんと離れちゃったのかな?」

 出来るだけ優しく声を掛ける。

 暗がりは苦手だが、それでも子供に不安が伝染しないように必死に笑顔を作る。

 

「うえええええ……」

 カナタの言葉を無視して子供は泣き続ける。

 一瞬、聞こえていないんだろうか? と、考える。

 しゃがみ込んでいる子供の隣に同じように座り込む。

 

「どうしたの? ここは暗いから明るい所に行こう?」

 

 子供の泣き声が、彼女の言葉と共にピタリと止まる。

 徐々に泣き止む。では無く、文字通り止まる。

 再生している音楽を停止させるように突然。

 

 その不可思議な泣き止み方に、カナタの表情が一瞬固まる。

 

 俯いていた子供は。

 ぐりん、と勢い良く彼女に顔を向けた。

 

「っひ!?」

 短い悲鳴が零れる。

 人が行うような行動では無い速さに、カナタは気圧されるようにそのまま尻餅を付いていた。

 手や、スカートに砂が付く事も気にせず、子供を凝視してしまう。

 

 大きな瞳に、子供らしい前髪を揃えた髪型。

 女の子なのか、男の子なのか解り辛い中世的な顔立ち。

 

 それだけならば普通の子供にしか見えない。

 

 しかし。

 

 子供の容姿は少し違った。

 

 髪は薄い紫。

 寧ろピンクに近い紫色の髪。

 そして濃い紫色の瞳。

 

 カナタが普段見る見た目とは異なった色合いに困惑してしまう。

 子供は先程まで泣いていたとは思えない笑顔で顔を覗き込んで来る。

 

「驚いた? 驚いた?」

 そう言いながら紫色の子供は嬉しそうにクスクスと笑う。

 

 その不気味な様子にカナタは我に返る。

 子供の悪戯だと気づく。

 見た目は不思議に見えるも、子供は子供らしくあどけなく笑っていた。

 カナタも合せるように微笑む。

 

「も、もう、そんな事したら駄目だよ?」

 驚いていた事が恥ずかしくて、つい大人ぶった言い方になってしまう。

 砂を払って立ち上がるのを、子供は笑顔で待っている。

 嬉しそうに笑っていた子供はカナタの手を取る。

 そんな子供の可愛らしい仕草に、つい頬が緩んでしまう。

 

 子供は笑う、嬉しそうに笑う。

 無邪気な笑顔は携えながら。

 紫色の瞳から暗い物が見え隠れするのに、カナタは気づかない。

 

「ねえお姉ちゃん! お姉ちゃん!」

 はしゃいでいる子供を見ながらカナタは少し困った顔をしてしまう。

 きっと遊んでいていつの間にか暗くなったのが正解なのだと考える。

 この子を取り合えず家まで送らないと。

 心優しい彼女の考え等知らず、子供は捲くし立てる。

 

「怖かった? 辛かった? 気持ち悪くなった? ねぇねぇ! 」

 その言葉に、カナタは表情を強張らせる。

 子供とは言え、その言い方に少し気分が悪くなってしまう。

 

「そんな事を言っちゃ駄」

 お姉さんらしく叱ろうと、そう思った、

 しかし、その言葉は遮られる。

 子供の言葉は続いていた。

 

 

「死にたくなった?」

 

 

「……え?」

 一瞬子供の言った言葉が理解出来なかった。

 それでも子供は続ける。

 

「お姉ちゃん! とぉってもぉ! 幸せそ! 幸せそ! だから! ね! ね! 死にたくなったらきっと楽しい! 楽しいよ! 楽しいよ! 楽しい楽しい!」

 それは、無邪気な笑顔で紡ぐ言葉。

 紫色の瞳は、爛々と暗く光る。

 無邪気な子供を見る目が変わる。

 

 握られていた手に、思わず視線が行く。

 小さな手すらも恐怖の対象へと変わる。

 無意識に握られている手を引いてしまう。

 

「…………!」

 離れない。

 

 その小さな掌からは想像出来ない機械に掴まれているような感覚。

 

「は、離して」

 零れる言葉に子供が耳を傾ける事は無い。

 不気味さは更に増す。

 暗い世界の筈なのに、子供の存在はハッキリと目に映る。

 異常な状態に、カナタは空いている手で引き離そうと手を伸ばす。

 

「汚しちゃおう!」

 空いている手が捕まれる。

 伸ばそうとした手が別の方向から掴まれる。

 

 誰に?

 

 視線が動いた先に、全く同じ姿の子供が手を握っていた。

 頭の理解が追いつかない。

 

 同じ顔が、同じ瞳が、同じ笑顔が、同じ笑い声が、彼女へと向けられる。

 

 二人の不気味な子供の瞳は残酷に爛々と輝く。

 最初に会った子供が喋った後に、その後を追いかけるようにもう一人の子供が言葉を続ける。

 紫色の、四つの瞳が彼女を見つめる。

 人としての光が見えない瞳は、吸い込まれるほどに暗い。

 

 

 

 

 

「一緒に幸せを、汚そうよ?」

 

 

 

 

 

「一緒に幸せを、穢そうよ?」

 

 

 

 

 

 短い悲鳴が暗い公園に響き渡る。。

 足元が、沈んでいた。

 どす黒い霧のような物と共に地面が雨細工のように溶けていく。

 それは現実的に有得る筈が無い異常な光景。

 

 状況を理解できていない彼女に、二つの同じ顔は割けるような笑みを向ける。

 

「離して! 離してよ!!」

 

 状況の理解何て出来るわけがない。

 それでも、この二人に自分の世界が、幸せが潰されようとしていることは理解できていた。

 どれだけあがいても、子供とは思えない力が離す様子は見せない。

 既に足は完全に飲み込まれていた。

 飲まれた足は異常に冷たい。

 氷につけられたような足は、徐々に感覚を失わせていく。

 その状態が、更に恐怖を駆り立てていた。

 唇が震える。有り得ない状況に頭がついてこない。

 悲鳴を、叫び声をあげる。

 暗闇の公園に、声が響き渡る。

 

 同じ顔の子供、その片方が突然笑みを止めていた。

 

「うるさーぃー」

 

 子犬を叱るような言い方。

 その言葉と共に、空いている方の手が彼女の前で振り切られた。

 混乱している彼女は何をされたか等、考える余裕などある筈も無く叫び続ける。

 

 叫び続けていた筈だった。

 

 金切り声を上げていた彼女の声が突然止む。

 変わりに空気を切るようなひゅーひゅーと吹き抜ける音。

 

「っ! っっっ!!」

 必死に声を出そうとするも、何故か声が出ない。

 変わりに口から何かが零れる。

 掌に冷たい感触がポタリと落ちる。

 視線の先に、赤い液体が付いていた。

 液体は立て続けにボタボタと零れ落ち、掌を染める。

 動かない思考は、行動で理解しようと視線が泳ぐ。

 

 手を握っている子供の逆の手。

 子供の手がある筈の場所には、赤い目と、ノコギリのような刃が羅列した黒く大きな顔。

 服の一部にも、手に被せた大きな人形にも見えたが、それが決して無機物では無い事を理解してしまう。

 手に付いている大きな顔は、赤い目を力強く見開き、忙しなく口が上下していた。

 ニチャニチャと何かを噛む租借音と共に、黒い顔の口から赤い液体が同じく零れる。

 

「モグモグー?」

 無邪気な子供の声と共に、黒く大きな顔が向けられる。

 せわしなく動いていた口は止まる。

 見せ付ける様に、大きく開かれていた。

 

 暗い筈の公園なのに、口の中はハッキリと目に映る。

 赤い肉片が口の中に転がっていた。

 その中には白く砕けた固体も。

 

 普段見る筈が無いが、存在を知っている物を見てしまう。

 

 震える手で喉を触る。

 

 しかし喉は触れない、更に手が奥に進んだ。

 水で薄めた油のような液体が手に触れる。

 触れた手は、赤い糸を引いてカナタの視線の先へと戻る。

 

 黒い顔の口は、勢い良く音を立てて閉じられる。

 

 同時に丸い喉仏が噛み潰される音が響いていた。

 

 喉が無い。

 

 カナタの顎より下の部分、喉が食いちぎられていた。

 

 痛みは感じない。 

 ボタボタと零れる血は止まらない。

 膨大な量の血は、専門的な知識が無い彼女でも助からない量だという事は解る。

 

 何で、何で、何で。

 

 悲鳴はただ口を開けるだけの動作でしか無くなる。

 叫べない言葉は心の中で紡がれる。

 垂れ流れる血を流しながら必死に暴れる。

 

 何故私がこんな目に。

 

 子供の泣き声が聞こえたから。

 そんな単純な、優しい理由。

 それだけで、世界が変わった。

 

 幸せだった。

 家族とも仲が良くて。学校に行けば友達も沢山居た。

 学業も運動もそつ無くこなして。

 誰にでも好かれていた。

 

 全てが上手くいっていて、きっと幸せな人生がずっと、ずっと続くと、思っていた。

 

 私が、何をしたと言うの。

 

 止まらない血と共に涙がボロボロと零れる。

 あまりにもの理不尽で。人生を突然奪われて。

 

 齢17の彼女は叫ぶ。

 声も出ずとも口を大きく開く。

 

 嫌だと叫ぶ、生きたいと叫ぶ、死にたくないと叫ぶ。

 

「あー! あー! つまみ食い! ズルイズルイズルイ!」

 

 もう片方の、子供の声と共にカナタの体の前で先程と同じ様に、大きく黒い顔が振り切られる。

 バクン、という音と共にカナタの胴体が食い千切られていた。

 

 噴出す血と共にカナタの瞳から光が消える。

 暴れていた体は一度二度、痙攣すると動く事を止めた。

 両手を握られたままの彼女は、人形のようにガクンっと、そのまま膝から黒い霧の中へと崩れ落ちていた。

 

 

「あれ? あれ?」

 

 

「あれれ? あれれ?」

 

 

 二人の子供は同時に右に首を傾げる。

 

 

「動かなくなっちゃった?」

 

 

「動けなくなっちゃった?」

 

 

 再び同じように左に首を傾げる。

 

 

「大丈夫かな?」

 

 

「大丈夫だよ?」

 

 

 動かなくなったカナタの体を、黒い霧は飲み込んで行く。

 それを見て二人は笑う。

 

 

「これから一緒に遊ぼうね?」

 

 

「これから一緒に壊そうね?」

 

 

 カナタの手を離すと、二人の子供は後ろに下がる。

 同時に二人の周りにも黒い霧のような物が現れていた。

 黒い霧が二人を瞬時に飲みこんで行く。

 

 二人の視線は消える間際でも飲み込まれていくカナタから離れない。

 輝く二人の瞳は、楽しい玩具を見つけた子供の目。

 

 

「「楽しい楽しい玩具箱で、遊ぼう遊ぼう!!」」

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 重なる声と共に、二人と、一つの死体が公園から消え去る。

 

 その後に残る公園には。

 

 暴れた後も、大量の血も何も無い。

 まるで何も無かったように夜の公園には冷たい風が吹く。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1

「三つ作品を毎日更新(希望)(予定)してるよ!短い文章だから良かったらどうぞ!」
http://mypage.syosetu.com/3821/


挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 

「双子ちゃんは私が育てた」


曲  黒紫            @kuroyukari0412

「甘味ある」

http://www.nicovideo.jp/mylist/35049795
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