暗い部屋。
照明を付けようともしない部屋の主は壁前に座り、ブツブツと独り言を零していた。
「失礼? しーつーれーいー? 私? 私? 嫌われちゃったかなーやだなーやーだーなぁー……」
赤い髪を揺らしながら何度も何度も壁に頭を小さく打ち付ける。
勢いを込めているわけでも無いが、その動作は側からみれば酷く不気味に見えるだろう。
ユカリの独り言と、コツ、コツ、と頭をぶつける音が部屋へ響く。
暗がりの中に光が射す。
何重にも掛けられたプロテクトは内側から開く事は無い。
そんな分厚いドアが開く。
それは、外から誰かが開けた事を意味していた。
ピクリと動きを止めたユカリは、視線だけぎょろりと開くドアの方を向く。
光の影になるドアを開けた人物。
長い黒髪を靡かせ、赤い目を光らせる。
「……ルーファ」
名前を呼ばれたルーファの表情は変わらない。
先程まで頭を数度とぶつけていた女性とは思えない瞳の色を、ユカリは向けていた。
それは濁った色合いでは無く、酷く澄んだ物だった。
すっと立ち上がると、彼女は真っ直ぐにルーファへと歩を進める。
その動きにブレは無く、普通の人間のように優しく微笑む。
元々、そのきっかいな動きが無ければ綺麗な顔立ちをしていた女性だった。
柔らかい物腰の女性は、先程まで頭をぶつけていた女性とは思えない、凛とした姿。
「久しぶりですね」
無機質な表情ながらも、ルーファの瞳が優しい色合いへと変わる。
整った二人の顔立ちが並ぶその姿は知らない人が見れば綺麗な女性が並んでいるだけにしか見えないだろう。
「……貴方も随分と大きくなっていたのね」
「お蔭様で」とルーファは肩を竦ませる。
「カナタに会ったんですって?」
ルーファの言葉に、ユカリはやんわりとした笑みを浮かべる。
「ええ」
瞳は思い出すように下へと俯く。
「酷く……脆く、そして力強い……何て綺麗な、真っ白な子……。奇跡の産物と言ってもいい程、儚い子……良く崩れずそのままの姿を保っていれる物です」
柔らかい物腰のユカリの言葉にルーファはゆっくりと目を細める
「貴方なら、彼女が何者なのか知っているのでしょう。教えて下さい。彼女は、何者なの」
「彼女は……」
俯いたままだった彼女はゆっくりと唇を開きながら顔を上げた。
「知るかよバァァァーカァ……」
顔を上げたユカリの目は血走り、べろりとだらしなく舌がこぼれていた。
「ヒヒヒ!! ヒヒヒ!! ぐるぐる! ぐるぐるー! 周るよ周るよ! 狂った世界は血と贓物と手足が飛び散る世界の終わりに破滅の事なきを」
大声で訳の解らない事を叫び続けるユカリに、ルーファは視線を落とし首を振る。
「奇跡はね! どこにでも! どこにでも!」
不気味な笑みを浮かべるユカリの笑い声は突然ピタリと止まる。
「あー? あー! ルーファだぁ」
まるで今気づいたかと言うようにユカリはルーファへ指を向けていた。
俯いていたルーファは顔を挙げ、薄く目を細める。
「何しに来たの? 何で来たの? 何のようなのぉ?」
ぐらんぐらんと揺れる頭に合わせる様に、ボサボサの長い髪が揺れる。
ルーファより身長の高い彼女は態々下から覗き込むように腰を曲げる。
ユカリの視線はぎょろりと上を向く。
白目を向きそうな程の角度に、べろりとだらしなく口から舌が零れる。
「……この人殺しィ」
舌を出しながらユカリは堪え切れないと言うように笑い声を上げる。
「ねェねェ首を斬るってどぉんな感じぃ? っぴょーんって飛んじゃう? ぴょーんって! ぴょんぴょーん!」
挑発する言い方に対して、ルーファの表情が変わる事は無い。
眉一つ動かさずにルーファは口を開く。
「貴方にも聞いておきましょう。 カナタに会ったでしょうユカリ」
先程まで表情を崩さなかったルーファの顔は、ユカリに合わせるように頬が割れる。
カナタの名前が出た途端、ユカリは姿勢を戻して嬉しそうにその場で手を叩く。
「うん! ねえ! あの子可愛いのぉ! そんで気持ち悪いい~! ん? あれ? きもかわぁ?」
子供のように手を叩いた後、考え込むように人差し指を顎に当てる仕草をして見せ、首を傾げる。
「随分、気に入っているようですが……まだ『アレ』を傷つけさせるわけには行かないんですよ。こっちも約束があるので」
「『アレ?』 あー!アレアレアレアレ! レア?」
首を左右にブンブンと振るユカリに対し、ルーファはくすくすと笑う。
「貴女、気に入ると壊しますから」
「ヒヒヒヒ!! どうしようかなー? どうしようかなー? ミディアムが好きィ。でもウェルダンはもっと好きぃぃ……真っ黒真っ黒真っ黒真っ黒ォ、ぎとぎとのぐちゃぐちゃにした方がぁ美味しいのォ。だって元は白かったんだよだよォォー?」
「あら? 私はレアでしょうか。黒く染まってない方が美味しいでしょう」
「ヒヒヒヒヒヒヒヒ……」
暗い闇の中、二人の瞳が交差する。
一人の目に色は灯らない。
対するようにもう一人の目は爛々と輝く。
二人の会話等、彼女は知る筈も無い。
彼女はそれを知るわけも無い。
舞う青い粒子の幻想と共に、幻想を抱いて眠る。
彼女はまだ知らない。
自身が来た世界の恐怖を、脅威を、狂騒を、凶報を。
そして饗宴が始まる。
―――
あれから一週間。
シップの生活にカナタも慣れつつあった。
そして、アークス達の任務についても、ようやく理解する。
彼等の本拠地は別にある
ルーサーという強敵を倒した半年後、突如として巨大な惑星が姿を現していた。
その惑星は、一定の距離を開けながらも、アークス達の拠点が動く度に、合わせるかのように不気味に動いていた。
それは重力という概念すらも、他動的なエネルギーも見られない理解を超えた現状。
調査に向かったアークスは誰一人帰ってくる事は無かった。
謎の惑星。
通称、『エニグマ』と呼ばれた惑星。
新たに編成されたのは数人では無く軍隊。
強さのみに特化された人種を問わないアークス達。
人種を問わない。死んでもいい扱いのアークス達。
そして、一人で圧倒的な力を発揮するジョーカーと呼ばれた化物が7名。
惑星に着地してから二ヵ月。
調査が進む様子は見られなかった。
見えるのは惑星の上からは見える筈の無かった無数に広がる砂漠。
ある筈の無い太陽。
そして無数に表れるダーカー。
そんな中、突如現れたのが、女子高生、屑木 星空(クズキ カナタ)だった。
三人体制でやってます。
小説 ふぁいと犬 ツイッター @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/
「しかし更新は夜だった!!」
挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee
曲 黒紫 @kuroyukari0412