女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

23 / 91
Act.22 カナタの1日②

 午前八時。

 

 カナタは食堂の前に群がるアークス達に四苦八苦と動き回っていた。

 

「いやぁカナタちゃんも、エプロン姿が似合ってきたねェ」

 

「え、えへへ、そうですか?」

 頭に被る巾着を揺らしながらカナタは照れくさそうに笑った。

 カナタの世界でも見かけた事のある割烹着を着込む何処にでもいるような年配の女性。

 最初に会った時から、カナタを気にかけてくれていた。

 その優しさを返すようにカナタも全力で働く。

 

「カナタちゃーん! キャタ丼まだー!?」

 

「はーい! すぐ持っていきますー!」

 

 既に早朝から準備していたストックも切れかかっている。

 

「はい! カツ丼3つですよ!」

 

 ご飯の上に乗せたシャキシャキのキャベツ。

 そして丼から漏れるほどの茶色に揚がった肉、肉、肉。

 特性の甘辛ソースをふんだんに使ったカナタ特性のカツ丼。

 3人の男性アークスはそれを見て目をキラキラと輝かせる。

 

「キタキタキタキタ!こんのくっそ腹に残るような重そうな肉厚!!」

 

「朝っぱらから最高だぜキャタ丼ちゃん!」

 

 いそいそと受け取る3人にカナタは呆れた視線を向ける。

 

「もー何度も言ってるじゃないですか! この料理の名前はキャタ丼じゃなくてカツ丼ですってば!」

 

 3人は顔を見合わせると何が面白いのかニヤニヤと笑っている。

 

「だってなぁ? 名前からしてキャタ丼だよな?」

 

「そー!そー!キャタドンキャタドン!」

 3人は下品な笑い声を上げながらその場を後にする。

 その様子にカナタは思わず首をかしげてしまう。

 この世界についてまだ完全に知り尽くしていない彼女はキャタドランというモンスターがいる事を知らない。

 

「カナタちゃーん!こっちデザートのプリーンーガータ!」

 

「普通にプリンって言ってくださいよ! 解らないですけど絶対無理矢理言ってますよね!?」

 

 個性的なアークス達に今日も翻弄される。

 それから1時間後、アークス達のちょっとした朝の戦争も終わり、カナタはグッタリと椅子に座っていた。

 自分の作る料理を美味しい美味しいと言ってくれる事は嬉しいがあまりにもの量に毎度参ってしまう。

 

「お疲れ様」

 そう言っておばちゃんがカナタの横に缶ジュースをおいてくれる。

 

「ありがとうございます……」

 

 弱々しく返事をすると缶ジュースを受け取る。

 ジュースに描かれているブドウのマーク。カナタの世界でもよく見かけた炭酸ジュース。こんな所にまで足を伸ばしているとは流石は大手企業。なんて馬鹿らしい事を考えた後、口にする。

 口の中で広がる甘みと、パチパチと弾ける感触に疲れが取れるのを感じる。

 

「カナタちゃんのメニューは相変わらず大人気ねぇ?」

 

「ええ、私もビックリです」

 そう言いながら苦笑する。

 同じ物が多く存在する中、料理という概念に関しては勝手が違うようだった。

 似たような食材が多く見受けられる分、料理をするのは簡単だった上に、創作もし易かった。

 強いて言えば、毛が生えていたり、妙な鱗があったりする物などばかりと言う事ぐらいか。

 元の食材は考えないようにしていた。

 

「最初は皆おどおどしてたのにねぇ?」

 おばちゃんの悪戯っぽい言い方に、カナタはまた苦笑いをこぼしてしまう。

 

 ■

 

 ひしめき合っていた食堂は、今はがらんと大きな空間が広がっている。

 既に一緒に働いていた食堂のおばちゃんや従業員も撤収している。

 しかし食堂広間の中央。

 一人の女性と二人の子供が座っていた。

 そんな三人に、大きなおぼんを持ったカナタが近づく。

 両手で持つ腕には別で茶色いバスケットがぶらさげられていた。

「すいませんお待たせしちゃって!」

 

 机の上に4つの料理を並べ、自分の足元の部分へ茶色いバスケットを置いた。

 カナタに優しくリースは微笑む。

 

「いいのよー? 私達こそ毎回遅くに来ちゃってごめんね?」

 

「いいええ! 私も一緒に食べれる人いて楽しいです!」

 おぼんを机に置くと、カナタも笑顔で言葉を返す。

 他のアークス達とは別の仕事をしているらしいリース達は朝食を遅れてやって来る。

 なので、カナタは少し遅い朝食を彼女達といつも取ることにしていた。

 ちらりとリースの視線がバスケットへ行く。

 

「それはファランの?」

 

「はい! 今日はファランちゃんの好きなチョコパンです!」

 ファランの朝食を含めた昼食を持っていく事も日課だった。

 警戒で食が進まない様子から、残念ながら一緒に食べれたのは最初だけ。

 

「……そっか」

 何処か含んだような複雑な笑み。

 リースのその様子に軽く首を傾げてしまうも、二つの黄色い声に思考はそちら側を向いていた。

 二人の子供は目を爛々と輝かせてカナタの方を凝視する。

 

「カナちゃん! 食べていい!? ねぇ食べていーい!?」

 椅子の上でピョンピョンと跳ねている少女に合わせる様に、澄んだ白髪の髪が動く。

 フワフワと動く大きな束になっているツインテールは危なげに揺れていた。

 

「コーラ! アリスー! お行儀悪いよ!」

 嗜めるリースも気にせずアリスはオムライスとカナタを何度も交互に見ていた。

 子犬のような無邪気な様子にカナタの頬が自然と緩む。

 リースを挟んで逆の方にいる少女も、アスと呼ばれた少女程ではないが体を左右に揺らしながら嬉しさを表していた。

 

 その度にアリスとはまた違った金色の二つ結びが揺れる。

 アスとは違い後ろで長い髪をお下げの様に整え、先ほどの長いツインテールのアリスよりは几帳面な様子が伺えた。

 両頬に手を当て顔を赤らめる少女は鼻歌交じりに口ずさむ。

 

「こんなに美味しそうなのが食べれるサーシャは、とってもとっても幸せだなぁーって思うなぁ~」

 金髪の少女はサーシャ。

 光悦の表情で目の前のカレーを見つめ、可愛らしく足を揺らしていた。

 

「ほら、手を合わせて頂きます言ってからねー?」

二人を嗜めるリースにまるで保母さんだな、と苦笑しながらいそいそと手を合わせている子供二人と同じように手を合わせる。

 

 元気な「いただきます!」の声と共に少女二人は掻き込むようにがっついていた。

 アリスの頬についたソースをナプキンで拭いているリースをいつものように眺めながらカナタも食事を始める。

 

 特殊部隊。

 

『エスパーダ。』

 

 リースが中心になって束ねている部隊だと聞いていた。

 最初はどこの仮面軍団かと思ったが、実際の世界とは異なるこの世界なのだから、偶然でしか無いのだろう。

 仰々しい名前にしては、人数はリースを含めてたったの四人。

 しかも子供二人と大きな子供が一人、そしてそんな三人の面倒を見ているリースの四人。

 どういった部隊なのか等、特に聞いたわけでも無いカナタからすれば、リースが保母さんのように面倒を見ているだけにしか見えないで居た。

 案の定エスパーダの一人であるユカリの姿はそこには無い。

 子供二人に大人な子供もう一人では流石にリースの負担が大きいからなのか、基本ユカリの姿を見る事は無い。

 この1週間でカナタの前には現れているが、あまり良い記憶では無い。

 

 もう一人、良くリースと一緒に居る人物をカナタは知っていた。

 

「リースさん、レオンさんは今日は?」

 

「……別に毎日わたし達は一緒じゃないわよ?」

 カナタの言葉にリースは困ったような苦笑をして見せる。

 その様子に実際毎日一緒にいますよね? と言おうとした言葉を飲み込んだ。

 

「今日は遠くまで行ってるみたい……」

 リースの表情が少し不安そうな顔色へと変わる。

 この星の調査で来たアークス達の話は聞いていた。

 

 突如現れたこの星、『エニグマ』に、送られたアークスの部隊はことごとく行方不明になっていたとのこと。

 

 今居るこの大きな宇宙船は、謎の惑星攻略の為だけに厳選された特別な大隊らしい。

 その割に子供や女性が普通に居るのは見た目では実力は測れないという事なのかな、とカナタは簡単に考えていた。

 何より聞いている限りは危険な任務、という風に聞こえていたのだが、その割にアークス達は楽観的な人が多く、不安そうな表情を見せるのはリースぐらいしか見ていなかった。

 

カナタの疑問に、「それほどジョーカーという存在が大きいの」と、リースはどこか複雑な表情で答えてくれる。

 それ程頼りにされた巨大な力を持ったジョーカーと言われたアークス。

 

「私はルーファさんしか知らないですけど、後6人いるんですよね?」

 台詞を言った後、「あ」と続けて小さく「しまった」と思わずカナタは声を上げる。

 その言葉にリースも頬を引きつらせた。

 

「お姉様!?」

 突然アリスが勢い良く机を叩いていた。

 その衝撃に机の皿が揺れる。

 サーシャが可愛らしく驚いた声を上げていた。

 

「お姉様はね!! お姉様はね!! とってもカッコ良くてとっても綺麗でとっても可愛くてェェ!!!…クフフフ……」

 不気味な笑みをこぼしながら興奮したように捲くし立てるアスに、カナタも頬を引き攣らせる。

 

 目の前で笑っているリースの笑顔が怖い……。

 

 アリスという少女はルーファを異常なまでに溺愛していた。

 普通にしていれば無邪気な子供である筈の少女のそれは、愛というより崇拝に近い。

 子供がする筈の無い不気味な笑みと、濁った瞳。

 語りだす彼女を上の空で見つめながら始めて出会った事を思いだす。

 

 廊下で血だらけの男を引きずるアリス、というインパクト抜群の遭遇をしていた。

 目が合ってしまい、返り血で汚れた笑顔を向けられ、取り合えず引きつった笑みを返す。

「な、何をしてるのかな?」と言うカナタに対し「お姉様の悪口言ってたのー」と無邪気に返すアリスに意識が飛びそうな気分になる自分を必死に堪える。

 

「カナちゃんはお姉様の事どう思うー?」

 というニコやかな言葉に血を吐きそうになる気分で言葉が詰まってしまう。

 出会った事の無い少女に、既に愛称で呼ばれている時点で十分に末恐ろしいのだが、カナタからすれば言える言葉は一つしか無いわけで。

 

「と、とっても、ステキ、だと思うよ?」

 

 それから数時間のお姉様トークに付き合わされたのは苦い、嫌良い思い出である。

 まさかそのお姉様なる人物がルーファの事だと露知らず、ロランと言い滅茶苦茶な人間に好かれるのは類友と言う奴なのだろうか。

 と考えたが、口が裂けても彼女達の前では言わないと心の中で誓う。

 後に彼女の前でルーファの話しは良い方でも悪いほうでもタブーだとリースに知らされる。

 普通にしていれば可愛らしい少女のなのだが、変な所がある所は、やはりアークスらしい

 

 淀んだ瞳で空を見上げ、祈るように手を組むアリスの口ずさむ言葉は止まらない。

 頭を抱えるリースとカナタを他所に「アリちゃんは本当に好きなんだね~?」とほっこりしているサーシャは可愛らしくぱちぱちと手を叩いている。

 

 静かな広い空間、アリスの独り言が響く中。

 

 突然、サーシャが出入り口の大きな両扉に視線を向けていた。

 それに気づくと、もう一つ別の音にカナタも気づく。

 乱暴な足音。

 大きな両扉が力強く開かれた。

 

 その音にリースとアリスも扉の方へ視線を向ける。

 扉の先に居る人物達を見つめ、リースは少し目を細める。

 二人の見るからに柄の悪い男は乱暴な足音をそのままにカナタ達に近づいてくる。

 一人は身長の低い小太りの男、腰に据える細く長い刀はアークスである事を示していた。

 その男の後ろを歩く痩せ細った男。

 

 二人の男を、カナタは知っていた。 




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/



挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 


曲  黒紫            @kuroyukari0412
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。