女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.25 二人のジョーカー

 ダークラグネの頭上をホルンは軽やかに宙を飛んでいた。

 赤い四つの瞳が頭上のホルンへ向く。

 

 ダークラグネが再び吠える。

 空気に轟く振動に合わせ、辺りに赤い雷鳴が響き渡った。

 赤い落雷をホルンは空中で器用に旋回しながら紙一重でかわしていく。

 ホルンの手元が一瞬の光を灯した。

 青い光が消えると共に、その手に別の武器が握られていた。

 それはホルンの身長を超える青い大剣。

 展開されると共に、重力に従い下へと落ちて行く。

 狙いを定めた様に巨大な剣は、ダークラグネの前足の一つへと突き刺さっていた。

 耳障りな悲鳴が溢れる。

 ダークラグネの口元。長い二つの鋭い爪が、ホルンに向けて横に振るわれる。

 同時にホルンは大剣を離すと、その場で後ろへと弧を描くように飛んだ。

 飛び上がったホルンの下を巨大な爪が掠めていく。

 再びホルンの周りを青い光が舞い、次に手にしていたのは鞘へ収まる刀。

 着地すると共に、空を斬った無防備なその爪へと一閃。

 早すぎる抜刀は、敵が動き出す暇すら与えずに、ごとりと、砂の上に重量感のある爪を切り落とされていた。

 

 再び、耳障りな悲鳴が辺りに響き渡った。

 

 その声を気にする様子も無く、逆の前足へと同じように地面に縫い付ける形で刀を突き刺す。

 先ほどの大剣と違い、突き刺したにも関わらず太い蜘蛛の腕はまだ動きを見せていた。

 

 頭上で砂煙を挙げて暴れているダークラグネを他所に、腕組みをしながらホルンは零す。

 

「流石に下が砂じゃぁ刀じゃ難しいか……」

 

 余裕を見せているホルンの背中に向けて、ダークラグネの口元が向く。

 その背中に向けて、赤い渦巻き状の物体が放たれていた。

 それは最初の赤い雷と同じようにバチバチと音を立て、当たればその姿を消し炭へと変える物。

 

 巨大な渦巻きが当たる瞬間。

 

 ホルンの体がゆるやかに空中へと舞っていた。

 いつの間にか手に持つ二つの剣。

 二つの剣を横に振りながら、遠心力に合わせた素早い回転。

 赤い渦巻きは、二つの剣の回転に巻き込まれ大きな音を立てて消し去られていた。

 

「でかくなっても戦い方が変わねーなら……雑魚と変わんねーよ」

 はき捨てるホルンは手に持つ二つの剣を、刀を突き刺した同じ部分へと突き立てる。

 そこで動き出そうとしていた腕は小刻みな震えを残し、ようやく止まった。

 前足二つが完全に身動きを見失っていた。

 

 瞬間的、たったの数分の出来事。

 

 巨大なダークラグネに対し、小さな身体のホルンはあっさりと身動きを止めて見せていた。 

 

 

 

 悲鳴をあげ続けるダークラグネを遠巻きにレオンが見つめる。

 

 

「おーおー相変わらず便利なこって」

 アークスは、自身に一番合う武器を持ち、フォトンの特性が違う別の武器を持つことはない。

 しかし、ホルンというアークスは唯一全ての武器を使う事が出来る存在。

 研究により現在のアークスも様々な武器の多様が進むようになっていたが、同時に同じ武器を扱えるのはまだホルンだけであった。

 

 ジョーカー。

 

 『最善(ガーデン)が一人』『犠牲義損(ターミガン)』

 

 ホルンが再び腰に手を沿えると、また別の武器が取り出される。

 現れたのは先端に青い突起が付いている二つの球体、その球体の二つは長く硬い鎖で繋げられていた。

 ワイヤードランスと呼ばれるその武器を、ホルンはダークラグネの四本の足の内、後ろの残り二本の片方へ。

 先の重さに合わせ遠心力で強く巻きつけられると、音を立てて突起の部分は足へと深く突き刺さる。

 片手でワイヤードランスの片方を引っ張りながら、もう片方の手は腰へと伸びる。

 取り出され、とたび展開されるは自身の身長を越える巨大な槍。

 槍にもう片方のワイヤードランスを乱暴に巻きつけ、ホルンはそのままダークラグネの下を走る。

 ジャラジャラと音を立てるワイヤーの音等気にせず、飛び上がった小さな身体は、残りの巨大な後ろ足へ、深く深く、地面ごと突き立てていた。

 

 前足の一つは大剣が刺さり、もう一つは刀と二つの剣が縫いとめる。

 後ろ足の一つはワイヤードランスが巻きつけられ、その先は自身のもう一つの足へと続いていた。

 

 知識で動いているわけではないダークラグネは、唯一動くワイヤーが巻きついた足を動かそうとする。

 連動され、槍が刺さる足が引っ張られるままに、砂煙を上げその場で崩れていた。

 何度も同じ動きをしようとするダークラグネはその場で何度でも崩れる。

 

 ダークラグネが完全にその場で動きを止めていた。

 

 足にフォトンの展開された靴を履き、空中から回転しながらホルンはレオンの隣へと戻っていた。

 その両手には、また別の武器が握られる。

 

 先程握っていた二つの剣よりも更に細い剣。

 その二つの剣から青い光を放つ綱の様なものが垂れていた。

 綱の先は今もその場で暴れているダークラグネに向けて続く。

 その場でホルンは回転する。

 武器達に紡がれたフォトンの綱は。

 二つの青い綱が引っ張られるようにピンッと強く張る。

突き刺していた武器達に巻きつけられたフォトンの綱は、引っ張られホルンに向けて宙を舞って戻って行く。まだ崩れたままのダークラグネに気づく様子は無く、崩れた身体の体制をまだ戻そうとしている所。

 

「やれ」

 戻ってくる武器を次々と受け取り収縮すると腰へ戻して行きながら、隣のレオンへと視線を向ける。

 

「言われなくてもやるっつー………の!」

 光はレオンの持つ黒い槍に、同じくおぞましい黒い光が収縮される。

 そのまま思いっきり槍を、上から下へと、ふり抜いた。

 

 砂が舞う。

 

振り抜いた衝撃は、赤黒く巨大な斬激となり砂を撒き散らし走る。

 十数メートル程の巨大な斬激。

 一直線に地面を割りながら飛ぶそれは、空気すらも大きく震撼させていた。

 ダークラグネよりも巨大なその斬撃は、硬い甲冑をものともせずに、綺麗に半分へと分断させていた。

 

「おー! おー! やっぱ動いてねーと綺麗に斬れるなぁ!」

 くるくると器用に煙の上がる槍を回転させながらレオンは肩へと担ぐ。

 ゲラゲラと笑うレオンに対し、ホルンは目を細める。

 ホルンのように器用な戦い方は全てに対して対応することが出来る。

 しかし、レオンにはそういった小細工を必要としない。

 

 それは全てを薙ぎ払うほどの圧倒的な攻撃力。

 

 ホルンには無い絶対攻撃力。

 

 ジョーカー。

 

『最強(スペシャル)が一人』『一人大隊(アルバトロス)』

 

 

 ジョーカーの中でも異例の威力を有する彼は、性格がもし悪い方へ進んでいれば、ダークファルスと並ぶ危険な存在へと成り下がっていただろう。

 見た目とは裏腹に、決して悪いほうへと転がる様子も無く、芯なる強い心を持つ彼は。

 ある種の特異性を示していた。

 

 馬鹿笑いをするレオンに「流石に過剰評価にも程があるか……」と小さく零すと、次は聞こえるように言葉を続ける。

 

「お前がバカで良かったよ」

 

「あ! 誰がバカだテメー! 師匠なんかクソガキじゃねーか!!!」

 

「だから俺はお前より年上だって言ってんだろが殺すぞ!!」

 

 二人の言い合いは直ぐに止まった。

 それは目前で二つになったダークラグネが奇怪な音を挙げだしていたからだ。

粘膜がすり合わされたような気味の悪い音。

その音の招待は、半分に切った部分から聞こえる。

 

「………おい、あれ戻ろうとしてないか」

半分に斬っていた部分から赤い肉のようなものが動き、糸を引いて分断された体を繋ごうと戻っていた。ホルンが突き刺した前足や後ろ足。切り落とした爪までも、元の姿へと戻そうとしていた。

 

「だったら……跡形もなくなるまでぶっ飛ばしてやるよ‼︎」

 レオンの目が暗い色を示しながら座る。

 それは屈辱か、苛立ちか、なんにしても感情的な彼の心を揺らしていた。

 

「待て!!」

 前に出ようとするレオンの背中にホルンの声が掛かる。

 振り向くレオンに対し、呼び止めたホルン自身は下を向いていた。

 その視線に合わせてレオンも下を向く。

 ホルンの視線が、とうにダークラグネも、レオンも見ていない意味に気づく。

 

 巨大なダークラグネを、近くにいるレオンとホルンも合わせて。

 

 囲むような、巨大な青い円が広がっていた。

 

その青い円の意味を、レオンとホルンは知っていた。

 

 知っているからこそ、顔が青ざめる。

 円の青い光は徐々に点滅を始める。なにかのカウントダウンを示すように。

 

「ば! バカかぁぁぁ!? 俺ら毎やる気かあのバカ!!!」

 

「叫んでる暇ねーぞ! 走れ!」

 巨大なダークラグネを覆う程の円は、その広さから走る二人から見ても円の外は遠い。

 とたび早くなる青い点滅にレオンが泣きそうな声を上げていた。

 

「し、師匠俺ァもうダメだァ! さっき力使った後だからさァ! 足に力がさぁ!」

 

「うるせぇ! 死ぬ気で走れタコ!! マジで死にたくねーならな!!」

 

 点滅は二人を急かすように早くなる。

 必死の形相で走る二人は、その点滅が自身等の命へと関わる事を知っている。

 

 全てを消しさる威力である事を知っている。

 

 点滅は最高潮の早さへと変わると。

 

 濃い青い色へと変色した。

 

 

 それと二人が青い円の外に足を踏み出したのは同時。

 

 

 少しでも離れようと飛び上がる二人と呼応するように、青い閃光が走った。

 先程までなぞっていた青い円を中心に超高圧的なフォトンの粒子が降り注ぐ。

 尻餅をついたままの二人は、その巨大な粒子を呆然と見つめていた。

 その巨大なダークラグネを覆い隠す程の巨大なビームは数秒続く。

 光の線を僅かに残しながらフォトンの塊は消え去って行った。

 光が消えた先に、あれほどの存在感を表していたダークラグネの姿は無い。

 代わりに残ったのは、黒く焼け焦げた巨大な空洞。

 その穴にサラサラと落ちる砂は音を立てることもなくどこまでも落ち続けていた。

 ポカンと口を開いたままになっているレオンの口がゆっくりと動く。

 

「ブレインの……サテライトカノン……」

 

「ブレイン何ざシップで一度も見てねーぞ……何であんなヤバイのまで来てんだよ!!」

 レオンより先に立ち上がり怒りの声を挙げるホルンのインカムから声がする。

 

『助っ人をよこすと、言っただろう?』

 

「馬鹿野郎あんなの居るなら先に言え!!」

 

 ホルンの怒声に怯む様子も無くインカムからユラの笑い声が聞こえる

 

『なに……彼も特別なのだ、居る事はダザイオサムで頼む』

 

「誰だよ。他言無用だろ」

 

『む、そうだったか』

ユラの言葉にホルンはそれ以上何も言わない。

 彼女にも、なにか考えがあるのは解っている。

 それでも、ユラの考えは全く読めないでいた。

 

「ブーレーイーン!!! テメェェェ!! 危うくダーカーと一緒におっ死ぬ所だったろうが!!! 何?小さすぎて見えなかった? そりゃあのちびっ子だけだろうが!!! 俺だったら普通に殺して良いみたいに言ってんじゃネェよ!!」

 

後ろでレオンは自身のインカムに怒鳴り散らしていた。

 どうやらブレインが単独で繋げたのだろう。ホルンにはその声は聞こえていない。

 苛立つレオンをからかうためだけに繋げた様子を見ると、ブレインという男も相変わらずらしくホルンは頭を抱える。

 

「……おい、あいつら喧嘩するほど仲違いしてんぞ」

 

『何を言っている。喧嘩するほど仲がいい、が正しいのだぞ。 教官である以上ある程度の教養をつけた方がいいのではないかホルン』

 憐れむような声が残るのと、ホルンがインカムを握り潰すのは同時であった。

 苛立ちが最高潮へと募るホルンを他所に、炎天下の中、レオンはまだブレインと言い合いをしていた。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/



挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 


曲  黒紫            @kuroyukari0412
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