女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.27 カナタの1日④

 

 割れ落ちた大きな皿の破片を一つ一つチリトリに乗せていく

 

「こういう所は未来的じゃないんですねー」

 

 と、笑うカナタに対して箒で破片を集めるリースも、ニコリと優しく微笑む。

 

「カナタちゃんが居た世界は解らないけれど、綺麗にするのはいつでも人の手でやるべきよ?」

 その様子にサーシャはフォークを口に加えながら首を傾げていた。

 

「てつだうー?」

 ぴょこりと動く可愛らしい狐の用な耳に、カナタの心が強く跳ねる。

 可愛らしい少女の姿に思わず両手を頬に当ててしまう。

 

「サーシャちゃんはいいんだよぉー? 溶けちゃわないうちにケーキ食べちゃおうねー?」

 猫なで声でそう零すカナタに、サーシャは足をパタパタとさせながら頷く。

 

「うんー!」

 

 幸せそうにケーキを口に運び、その度に頭の獣のような耳が可愛らしく揺れている。

 一体どういう原理なのかカナタに理解出来る筈も無いが。

 

「あー! あー! サーシャ! サーシャ! 一口! ひーとーくーちー!」

 

 

 

「やぁー!アリスちゃんもう食べたでしょぉー!」

 

 

 そんな事は関係無く二人の無邪気な様子に、カナタはうっとりと見つめていた。

 

「あぁんもうアークスって変な人ばかりだけど、こんな可愛い子供のアークスは大歓迎♪」

 

 くねくねと不思議な動きをしているカナタに、リースは呆れるように目を細める。

 

「あなたも大概よカナタ……」

 

「そそそそ……そんな事無いじゃないですかー……アハハ」

 

 リースの指摘に思わず乾いた笑みをこぼしてしまう。

 幸せそうにしているサーシャを横目に落ちている皿を拾う。

 

「ファランちゃんもそんな風に笑ってくれたらいいな……」

 ポツリとこぼした声。

 それは、思わず出た言葉。

 まだ2週間。様々なアークス達と打ち解けて行っていた。

 それでも彼女とはまだまともな会話をした覚えはない。同じ部屋で、怯える彼女に、毎日のように手をさし伸ばしていた。

 

 そんなカナタの様子に、リースは困ったような小さな笑みを浮かべる。

 

「……もうここは良いから、あの子にご飯持って行ったあげたら?」

 

「や、だ、大丈夫ですよ!」

 

「良いから、行ってあげて」

 慌てて手をぶんぶんと振るカナタにリースは優しく微笑むと、言葉を続ける。

 

「ファランは……あの子は本当に貴方に救われていると思うの、誰に対しても拒絶を示す彼女が……今一緒の部屋で暮らしてるなんて、私は想像出来ないもの」

 何処か寂しそうな笑み。何かを思い出しているような、そんな印象を受ける表情を見せていた。

 その笑みの裏をカナタが知る事は無い。それは解らない。解らないけれど……。

 リースの言葉が心に響いていた。

 自分の行動を認めてくれる人が居た事に。

 自分の行動が無駄では無かったと言ってくれる人が居た事に。

 ぐっと込み上げる物を堪える。

 

「うん……うん! ありがとうございます!」

 大袈裟にカナタはお辞儀をした後、サーシャに「またね」と優しく笑い掛ける。

 足元のバスケットを手にして走り出す。

 その表情に堪えきれない笑みを作り、急いで彼女の元へと向かう。

 

 ■

 

 思わず早足になる。

 この世界に来て初めて感謝をされた。それが、自身がここにいていいんだよと、言ってくれているようで。とても嬉しくて、嬉しくて。

 また頑張ろうって思えたから。意気揚々と、ファランの待つ自身の部屋へと走る。

 

「ファランちゃーーーん!!! 今日のパンはチョコパンだよーー!!」

 

 元気な掛け声と共にドアを開けた。

 いつもの通り、ベッドの上か部屋の端で震えているファランが居る。

 そう思っていた。

 

 まずに目に映った光景に、カナタは固まった。

 

 いつも綺麗に片付けている筈の部屋は、酷く荒れていた。

 鮮やかな証明は倒れ、ファランが使っているベッドは切り裂かれた姿へと変わっていた。

それだけでは無い、部屋中に広がる沢山の切り刻まれたような跡。

一体何があったのか解らず、手に持っていたバスケットから手を離してしまう。

 足元でバスケットが開き中身が地面に投げ出される。

 そんなことを気にする暇など、カナタには無い。

 慌てて顔を左右へと向けた。

 まず最初に気にしたのは、ファランがいない事だった。

 

「ファランちゃん! ファランちゃん!!!」

 大声で彼女の名前を呼ぶ。

 返事は聞こえない。

 変わりに、嗚咽のようなものが聞こえている事に気づく。声は洗面所の方。

 洗面所のドアの先、部屋の隅に、彼女は居た。

 ガタガタと体を揺らし、何度も何度も嗚咽をこぼしていた。

上からシーツを被っている姿は、いつもの姿。

 その姿を確認し、ほっと胸を撫で下ろす。

 

「大丈夫? 何があったの?」

 彼女の顔を除き込み、優しく問い掛ける。

 その時、彼女の頬から血が流れていることに気づいた。

 薄く切ったような痕は、小さな刃物の痕のようにも感じた。

 頬に触れようとした瞬間、ファランの紫色の瞳がカナタを見据える。

 涙を流し、強く見開かれた瞳。恐怖に染まるその瞳には、もうひとつの感情が入り交じっている事に気づく。

 

 強い、怒り。

 

「触るなァァァァァァァァ!!!」

 

 伸ばされたカナタの腕に向けて、ファランは腕を思いっきり横へと振っていた。

 強く弾かれる音と共に、手に痛みが走る。

 

「っ痛(つ)!?」

 ファランの爪が、カナタの手の甲を大きく裂いていた。

 ポタポタと床へ落ちる赤い雫。

 普通ならば軽く切れる程度である筈のそれは、それ程までの拒絶。

 先程まで浮かれていたカナタの表情は暗い暗転へと転がる。

 怯えられる事はあった。それでも。ここまでの拒絶は無かった。

 リースが言うように、少しは力に慣れていると思っていた。

 その行動は、カナタの心を強く抉る。

 

「ファラ……ちゃ……」

 声が震える。ファランの怒りの視線に、眼が泳いでしまう。

 立ち上がり、フードから覗く紫色の瞳はカナタを睨む。

 涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった表情からは、考えられない殺意を込められた瞳。

 

「また!! また裏切る!! わ、私!! を!! 裏切る!! 嫌いだ!! アークスは、嫌いだ!! 私に、近づくな!! 私に、触れるな!!」

 

 捲し立てるファランに、カナタは呆然としたままになってしまう。

 あの怯えていた少女は。今、荒い呼吸と共にその姿を変えていた。

 何をしてしまっただろう。何が、彼女をここまで怒らせているのだろう。

 頭のどこかでぼんやりと考える言葉に、答えが出る様子は無い。

 

「嘘つき!! 嘘つき!! 嘘つき!! みんな嫌いだ!! みんな、嫌いだ!!」

 頭を抱えながらブンブンと頭を振っている姿に、彼女の視線が、自分の後ろを見ている事に気づく。

 カナタでは無く、幻の様な別の何か。

 

 それが一体どんなものなのかは解らない。

 

 ぐっ、と、血が垂れた手を握り締める。

 

 力強く拳を固めた。

 

 

 

 抉られた心を無視するように。

 今カナタ自身がやるべき事は解っていた。

 ショックを受けて固まる事では無い。

 

 目の前の彼女を抱きしめる。

 力強く。

 

「ッ!?」

 

 一瞬、ファランは困惑するように固まる。

 しかし、直ぐに表情はまた怒りの表情へと変わる。

 

「は! 離して! 離して! 化け物め! 化け物め!」

 捕縛されたと考えているのか、ファランはカナタの腕の中で暴れる。

 殴る、蹴る、引っ掻く。

 それでもカナタは離さない。彼女を抱きしめる。

 

「怖くないよ……大丈夫……」

 

 優しく囁くように言葉を続ける。

 その言葉は確かに彼女の耳に届くも、それは更にファランを逆上させる。

 

「何も!! 知らないくせに!! 何も知らないくせに!! 知った風な、口を!! 離して!! 離せェ!!」

 

 その言葉は、再びカナタの心を強く揺らす。

 カナタの後ろに居る見えない誰かでは無く、カナタに向けられた言葉。

 それでも手を離さない。

 何度も「離せ!」とファランは言葉を繰り返す。

 

 どれだけ手で押しても、どれだけ引っかいても、どれだけ殴っても、カナタの手はファランから離れない。

 暴れていたファランの動きは、徐々に動きを止めていっていた。

 そのまま、ファランに体を預けるように胸に縋り付く。

 嗚咽をこぼしながら、彼女はポロポロと涙を零していた。

 

「もう……嫌ァァ……寒い……寒い……痛いの嫌ァ……怖いのも……嫌ァ……」

 

 

「うん、うん、そうだね……」

 彼女の言葉に優しく同意しながら、胸の中で泣く彼女の背中を撫でる。

 どれぐらいが、経っただろう。

 腕の中で泣いていた少女からは、今は小さな寝息が聞こえていた。

 安心したのかな。と、考えながら涙で濡れたファランの頬を拭う。

 すぅすぅと可愛らしく声を上げる彼女に苦笑する。

 そのまま軽い彼女の体を持ち上げて、まだ無事である自分のベッドへと寝かせた。

 カナタの服を痛いほどに掴んでいた彼女の手を離すのに少しだけ苦戦する。

 臆病な彼女の、縋るような手を、起こさないようにゆっくりと解いていく。

 

 ……小さな手だ。

 

 カナタの世界ならば、こんな不安定内な子であれば、保護されるだろう。

 誰かが助けの手を差し出すだろう。

 

 この世界では……違う。

 

 自身の居た世界とはあまりにも違うこの世界に、唇を結ぶ。

 優しく、桃色の髪をゆっくりと撫でる。

 

「大丈夫だからね……」

 根拠なんて無い。それでも、少しでもこの子の心の圧迫を取り外したくてそう零す。

 自分が出来る事があるのなら全てを使ってでも、救ってあげたいと考えるのは傲慢だろうか。

 小さく苦笑する。

 優しく彼女を撫でていると、ドアの先から原始的なノックが聞こえた。

 

「カナタ? 大丈夫? 凄い声が聞こえたけど」

 後に続く声には聞き覚えがある。 ドアに近づくと自動で音を立てて開かれた。

 その先に、髪を下ろしたリースが居る。心配そうにカナタを見つめていた。

 

「ああ、リースさん、丁度良かったです」

 そう言ってカナタは小さく笑う。

 そんなカナタの様子に、リースは首を傾げた。

 

「部屋が荒らされてて……ファランちゃん怯えちゃったみたいで……」

 カナタの言葉にリースの表情が険しくなる。

 

「荒らされて!?」

 

「あ、いや、盗まれているとか、ファランちゃんが怪我をしている様子とかは無いんですけど」 

 突然のリースの変わりように思わず言い訳のような物を口ずさむ。

 しかし、その言葉はリースの耳に届いていない。

 

「貴方こそ怪我は無かったの!? 良く生きて……!!」

そこまで言った後、リースは慌てて口を閉じる。

 

「……生きてって、どういう事ですか」 

 カナタの言葉に、リースは視線を逸らす。

 その言い方は、まるで何が起こったのか知っているかのような言い方。

 その言葉をカナタは逃さない。

 リースは何も言わない。

 泳ぐリースの視線をカナタは追いかける。

 

「教えて下さい!! それって、ファランちゃんに関係しているんですか!?」

 

 リースは肩を竦める。

 諦めたような、そんな様子。

 

「……自分の命の事じゃ無くて、ファランの事を気にするのね」 

 

 リースがカナタに視線を向ける。

 瞳には申し訳なさそうな淡い色が輝いていた。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/



挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 


曲  黒紫            @kuroyukari0412
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