廊下を早足で歩く。
思わず歩幅が大きくなっていた。
手の甲に巻かれた包帯の痛みを僅かに感じるも、彼女からすればそちらに意識が向く事は無かった。
それは焦りなのか、何処か怒りが込められているのか、正直自身でも解っていない。
向かっているのはユラの部屋
脳裏には、手の甲に包帯を巻きながら話してくれたリースの言葉が繰り返されていた。
『……その部屋を荒らしたのはファラン自身よ。いえ……抵抗した、と言った方が正しいのかな、言える事は一つだけ……ファランをその状態にしているのは……』
ユラの部屋の前に来ると、強い視線をドアへと向ける。
その視線は、ドアの奥に居るであろう女性へ向けられる。
「ユラさん!! 話があります!! ユラさん!!」
原始的にドアを何度も強く叩く。
丈夫な硬い扉で手が赤くなる。それすらも気にせずに叩き続けていると、何度目かと同時に突然ドアは横へとスライドされていた。
ふりかぶった腕は空を切ると勢いに任せて部屋へと流れ込んでいた。
派手に顔を地面へとぶつける。
少し涙目になりながらも、キッ! と力強く顔を挙げる。
顔を挙げた先、あまり大きいわけでは無い部屋は、両端に大きな本棚。
壁際の正面奥に茶色い椅子と一人用のフカフカのベッド。
何処か、テレビで見た事のあるような社長室を連想させてしまう。
机の上に並ぶ大量の資料。
しかし、彼女の姿は見えないでいた。
あまり広くないその部屋は無理に探す必要も無く、隠れるような所も見当たら無い。
ここまで小さくては自室は別にあるのだろうと思い、カナタは机や椅子に背を向けた。
失礼だと理解していても、今すぐにでも話がしたかった。
足早にドアへと向かう。
「へっぷし」
可愛らしいくしゃみが聞こえた。
思わず足を止め、声の先である後ろを振り返る。
そこにはやはり誰も居ない。
カナタはその場で首を傾げてしまう。
声は確かに聞こえていた。
しかも非常に可愛らしい声は可愛いもの好きのカナタが聞き逃すわけも無く。
ドアでは無く、声が聞こえた机と椅子の方へと向かう。
特に何となしに机の下を覗き込む。
そこに小さな少女が居た。
「……やぁカナタ」
引きつった笑みを見せる小さな少女は、三角座りで隠れる様に座っていた。紫色の髪を後ろに束ねた少女は、少し上に向いた釣り眼をカナタに向ける。
困ったような笑みには、何処か見覚えがあった。
その目の下の泣きぼくろにも見覚えがある。
もぞもぞと机の下から少女は出て来ると、カナタと相対する。
サーシャやアリスよりも低い身長は少女と言うより、幼女の範疇に近い。
上着だけのスーツは肩に掛け、身体に合わない大きなシャツは袖から手が出ていない。
下は脱げてしまっているのか、シャツがスカートのようになっている。
それがくしゃみの原因かもしれない。
口に加えた細長く白いタバコのような物を器用に袖で掴むと、幼女はカナタへと笑いかけていた。
「やれやれ見つかってしまったか、この姿はダザイオサム……じゃなかった、他言無用で頼むよカナタ」
プルプルと震える指先を思わず少女に向けてしまう。
「あ、貴方……」
驚いている姿に、幼女は満足そうに笑う。
「如何にも、私がユ」
「子供がタバコなんて吸ったらダメでしょーー!!」
幼女が零そうとした言葉はカナタの甲高い声にかき消される。それと同時に幼女の手からタバコがひったくられていた。
「……は?」
自信で広がっていた笑みは、困惑な表情で再び引きつっていた。
「もぉーダメだよ? ここはユラさんの仕事場なんだから! かくれんぼは他所でやりなさい!」
「いやいや、待て待て、私だぞ、本当に解らないのか?」
カナタは視線を合わせるようにしゃがみ込む。
マジマジと幼女の顔を見つめ、ニッコリと優しく笑いかける。
「こんなに可愛い女の子会ったら忘れないよ私は? 私の名前は知っているみたいだけど……? でもまだこんな可愛い子供が居た何て……抱っこしてもいい?」
「待て、待て待て! 止めないか! 私のインゲンに関わる!!」
「豆さんは関係無いと思うよ? 威厳って言いたかったのかなー? 難しい言葉はまだちょっと解らないねー?」
カナタの表情が無意識にニヤけていた。
光悦とした表情で幼女の頭を撫でる。
「……カナタ、何か用事で来たのでは無かったのか?」
うんざりとした表情で、撫でられたままになっている幼女の言葉にカナタはハッとする。
「そ、そうだ、こんな事してる場合じゃない! あのね、この部屋で、大きなお姉さん見なかった?」
幼女は少し考える素振りを見せると、ニヤリと妙な笑みを向ける。
「私はユラと縁の近い物だ、私が案件を聞こう」
「え、でも」
「それが私の仕事だ、答えられるべき物は全て答えよう、安心して話してくれたまえ、そして離してくれたまえ」
反射的に抱き寄せようと身体を掴んでいた手をカナタは慌てて離す。
少女は器用に机の上に飛び乗ると、机の上に行儀悪く足を組んで座る。
その姿に妙な威圧感をカナタは感じた。
視点が近づいたからなのか、少女の雰囲気が妙に重苦しいものへと変わったからなのか、何故かは解らない。
しかし押しつぶされるような重力を感じるプレッシャーは、何処かで感じた事があるもの。
「では、話を聞こう」
三人体制でやってます。
小説 ふぁいと犬 ツイッター @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/
挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee
曲 黒紫 @kuroyukari0412