女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.29 カナタの1日⑥

 カナタは強く目を瞑る。

 自分が何の為に来たのかを再確認するためだ。

 ゆっくりと目を見開き、目の前の女の子を見据えた。

 

「ユラさんがファランちゃんに酷い事をしたと言うのは本当なの」

 

 強い視線を向けるカナタに幼女の表情は変わる事無く続けられる。

 

「……彼女がこのシップに乗っている以上、彼女にも役割がある。その役割を担わなかったから脅したまでだ」

 

 役割。

 

彼女が最初に言っていた言葉、この船に乗る以上は仕事をしてもらわないと困ると言っていた。

 確かにファランが何かをしているのは見た事が無い。

 

「彼女の探知能力は異常でね、数キロ先だろうと機械に感知出来ないものまで察知する事が出来る、その分、ファランが望まなくとも情報は逐一彼女に雪崩れ込むようだがね」

彼女の臆病である性質。その異常な感知能力は彼女の望まないものすらも肌で感じてしまう。だからこそ彼女は怯えていた。見えない敵に、そこら中に蔓延るダーカーに。

 何故彼女があれ程臆病なのか、何となく解ってしまい、カナタの心が強く締め付けられる。

 

「だからこそ力を使いたがらない、無理矢理使わせるわけだが、とたび彼女が抵抗する、というわけだ」

 ユラ自身の事情は解った。だけれど、だからと言って。

 

「そんな! 嫌がっているのを無理矢理にだなんて!」

 

「我々はお遊びでここに居るわけでは無い、カナタ」

 

 その小さな体からは想像の出来無い力強い視線にカナタは一瞬気圧される。

 小さな幼女の視線は一度下に向く。

 

「……良いか、ジョーカーという異例を含めて、このシップに居るもの達は欠陥品の集まりだ。この星に送られてきたのも、圧倒的攻撃力の制圧か、共倒れが本来のアークスシップでの目的だ」

 

 その言葉に、カナタは思わず目を見開く。

出会って来たアークスの人達は色々な人が居た。

 良い人もいれば悪い人も。それはカナタの世界でも同じだ。

 そんな様々が、揃って消えても良いだなんて、そんな事があっていいわけが無い。

 

「そんなの! 人は欠陥がある者でしょう!!」

 思わず声を上げてしまうカナタの言葉に、今度は幼女は目を丸くする。

 その後、直ぐに馬鹿にしたような笑い声を上げていた。

 子供らしからぬ大仰な笑いに、無意識にカナタは後ずさる。

 

「な、何がおかしいの……」

 

「く、フフフ、これが笑わぜずにいられるか? 全く、欠陥を肯定する等、何処まで甘い世界に居た? それとも欠陥を勘違いしているか? 欠陥とは我々アークスとして害を成す意味合いだ」

 

 害。

 簡単にそう言ってしまう。

 その小さな体はピタリと笑うのを止めた。

 再び気圧されるようなオーラを纏い幼女は口を開く。

 

「だから我々は失敗を許されない……ふざけた我侭で能力を使わない欠陥品等、ゴミでしか無い」

 

 幼女の言葉に、カナタの瞳の色合いが変わる。

 

「ゴミ? ファランちゃんを!! ゴミだって言うの!?」

 

「言った筈だ。誰しもに役目がある。その役目を行えないのであればゴミでしか無い。ゴミで無くさせる為に無理にでも能力を使わせるしか無いのだ」

 幼女はうつむく。

 何かから、目を逸らす様に。

 

「我々はゴミでは無い。ゴミなんかである筈が無いのだ。絶対に欠陥品等では終わらない……終わらせる物か……それが私の使命だ。このシップの者達を任せられた私の役目だ。その為ならば、多少の強引等しった事では無い」

 体に不釣合いな、鋭い瞳がカナタを見上げる。

 真っ直ぐな瞳は、カナタを見据える。

 嘘偽りの無い澄んだ瞳。強い信念を感じた。彼女が彼女で足らしめる役割。

 決して、間違っていない。上に立つ人間だから。多くのアークス達の命を背負う物だから。

 

 それは、カナタが好きな強い正義にも見える信念に感じた。

 

 彼女の信じる意思に対し、カナタ自身も視線を背ける事をしない。

 

「それでも、それでも私は」

 

 彼女が強い信念を持っている事は良く解った。

 「それでも」と続けるカナタにも信念がある。

 世界が変わっても、彼女の頑固さが変わる事は無い。

 それは信念と言うより、最早呪いに近い程の物。

 

 とても怖い世界に居ても、戦う力が無くとも、それが今、この世界で無駄な感情なのだとしても。

 

「あの子を助けたい」

 

 彼女は、何処までも愚直で、『やさしい』呪縛を進む者だった。

 

「……フフ」

 先程とは違う、呆れたような笑み。

 

「先程も言ったがファランは感知能力に長けた者だ。カナタ、君がダーカーだと解れば、臆病者のファランは仮にも戦う力を有するアークスだ。一瞬で君を殺す事など造作は無い、と踏んでいた。それを聞いても、助けたいと思うか?」

 

 その言葉に、リースが慌てふためき良く無事だった、と言っていた言葉を思い出す。

 1週間も経っているにも関わらず、まだ疑われている。

 ズシリとカナタの心に重みが乗る。

 衝撃の言葉に、数秒沈黙を続けた彼女はゆっくりと口を開く。

 

「思うよ……あの子は、助けを求めているもの」

 

「……本当にお優しい事だ」

 無機質に返す瞳は馬鹿にする様子などは見せない。

 唯ひたすらカナタを見つめる。

 

「それで、彼女を助けてどうする。欠陥品共の一人を助け、自己満足に浸るか? それとも、お優しいカナタは……全てを助けるか?」

 欠陥品だと言った。沢山の欠陥品。それは、言葉通り、救われていない者達。 

 

「……私は、手を差し伸べる人が居るなら、手を取ります」

 その言葉に、大きな瞳に色が付く。

 得体の知れない存在だった。まだ彼女という存在を警戒していた。

 カナタの言葉が、心に強く響いていた。

 始めて、ユラの中でカナタという存在の理解が進んだ。

 

「あぁ、欠陥品共には……最高の言葉だろう」

 ポツリと零す小さな声はカナタには聞きとれない。

 

 少女は机から飛び降りる。

 カナタに近づきながら、何も言わない彼女へ上目遣いの視線を向ける。

 

「……ファランは守ろうとした者達に裏切られ、『人を信じられなくなった』欠陥品だ。レオンは『人殺し』と言われた欠陥品だ。リースには『過去の記憶が無い』、ルーファは『深い闇』に飲まれ、ユカリは『心が壊れている』ホルンは永遠に『成長しない子供』のまま。アスやサーシャはあの年で欠陥品として『捨てられる』筈だった。君が出会って来た者達はまだまだ居るだろう、全て、全てを助ける気か? それが、現実的に可能だと、思うか?」

 ゆっくりとした言葉を紡ぐ。その言葉は攻めているわけでは無い。

 ふっと一度目を閉じると、少女はまたゆっくりと目を見開く。

 何処か、複雑な色を見せる淡い紫色の瞳は、カナタを見つめる。

 

 大してカナタは手を胸に当て、俯いていた視線を上げた。

 汚れを知らない彼女だからこそ。少女の目を真っ直ぐ見据える。

 

「私は……貴方達アークスとは違う。でも、人なんだよ! 人間なんだよ! だから困ってる人を助けなくちゃ行けない!」

 

「戦えない君が、何を助ける」

 

 ぴしゃりと即答される一言が、ずしりとカナタの心に沈む。

 幻想を求めるカナタに対し、現実を向けるユラ。

 その現実を、カナタは真っ直ぐと見ながら、ぎゅっと胸に当てていた手を握り締める。

 

「心を……信じて寄り添えば、必ず……!!」

 

 ユラは視線を落とす。

 

 ああ、なんて、甘い。

 まるでテレビに出てくるような幻想を求めるフィクションのような存在。

 それが、彼女なのだろう。傷だらけの欠陥品達が寄り添いたくなる理想像なのだろう。

 

 項垂れるユラの耳元で、突然、声が漏れていた。

 電子的な表示が空間に現れるそれは、何かの連絡のようなもの。

 それと同時、突然のアラート音が響いていた。

 耳をつんざく音に慌ててカナタは耳を塞ぐ。

 明りは赤い光へと変わり辺りを照らす。

 

「な、何!?」

 

『緊急事態発生、緊急時代発生』

 

 響く機会音声に少女は眉一つ動かさずカナタへと背を向けた。

 

「……失礼」

 耳に手を当てると何かをぼそぼそと言葉を綴る。

 

「……後処理が……だがな」

 ぽつぽつと聞こえる声から、何か通話をしているようなそんな印象を受けてしまう。

 

「……丁度良い、さ」

 最後に聞こえた言葉。

 その言葉の意味は解らないが、少女はクルリと体を回転させ、紫色の瞳を再びカナタへと向ける。

 

「さて、カナタ、君の言い分は良く解った。この姿を見ても、君の心がぶれないかを期待しよう」

 響くアラート音など気にせずに少女は空中に手を翳す。

 電子的な光と共に現れたのは砂漠が舞う外の画面。

 その画面に映るのは、良く知っている青年の姿。

 首筋に、注射針を刺すレオンの姿が映っていた。

 

「君の助けたい者達が、如何に化け物なのか、お見せしよう」

 




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/

「前回のAct27の挿絵を追加しています。」


【挿絵表示】


挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 


曲  黒紫            @kuroyukari0412
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