女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.38 三人のジョーカー

「さて、では始めようか」

 

 大きな楕円形のテーブル。

 その端に座るのは高い身長に、長い髪を後ろにくくるユラの姿があった。

 楕円形の机の左右に座るのは三人。

 

 

「絶対だぞ!! 勝ったらカナタちゃん達のシャワーの写真撮ってこいよ!!!」

 鼻息が荒いレオンの前に対象的に座っているのは無機質な赤い瞳を向ける黒髪の女性。

 

「ええ良いですよ。 変わりに私が勝ったら約束通りの金を置いて行きなさい」

 

 あれ? これカツアゲじゃね? という言葉がレオン脳裏に過ぎったが、それよりもスケベ魂がそれを掻き消す。

 あまりルーファにマイナスが無い辺りにも本人は気づいていない。

 

 互いの席から腕を差し出す二人は肘を付き手を絡める。

 白い肌に細い華奢に見えるルーファに対して、逞しく太く、褐色的なレオンの腕。

 その対照的な二人に対して、レオン側に座っている白髪の少年が大きな溜息を零していた。

 

「何で俺が……」

 

 腕相撲の形でスタンバイをしている二人の視線がホルンへ向く。

 

「良いからサッサと言えよ師匠ー師匠みたいに短くねーんだよこっちはー、あ、身長じゃなくて気の方ね?」

 

「こっちは金欠なんですよ先生。ちんけな事言ってないで始めて下さい。 ちんけと言うのはて小さいという意味です知ってましたか?」

 

「お前らマジで後で殺すからな!!」

 ドスの利いた声を荒げながら素直に二人の上に白髪の少年は手を置く。

 

「おら……スタートっ」

 適当な言い方にも関わらず鉄で出来ている机が合わせてみしぃっと音を立てる。

 

「おらぁぁ!!」

 エロパワー全快の体毎乗せた勢いを向けるレオンの大人気なさにホルンの表情は引きつる。

 みしみしと子気味の良い音を上げる机に対してルーファの細い腕はびくとも動く気配を見せない。

 馬鹿にするように目の前で欠伸をするルーファに、レオンは腕をプルプルとさせながらぎょっとしていた。

 

「て、ってめぇ……まさかフォトン使ってねぇだろうな……!!」

 

「何の事でしょう? 私はいたいけな女の子です」

 

「……誰の事だよ」

 ボソリと呟くホルンは呆れ気味に椅子に座る。

 そんなホルン等知らずにレオンの目が燃える。

 

「上等だコラァ!! 男の魂見せてやらァ!!」

 良く解らない雄叫びと共にレオンの太い腕に、更なる血管が浮かび上がる。

 徐々に、細いルーファの腕が押され始めていた。

 

「あら、すごいすごい」

 押されているにも関わらずにルーファは余裕そのままの表情。

 

「ったりめぇだボケ!! プルンプルンのナイスバディの為に俺は負けられねーんだよ!! てめーとは違ェんだよ!!!」

 

 子気味の良い木の枝が折れるような音。

 

 音は突発的に部屋に響いていた。

 体を乗せるように腕へ力を入れていたレオンはその音の正体が何なのか解らない。

 っす、と力が抜けるような感覚に視線は腕の方を向く。

 細く白い腕がレオンの太い腕を逆側へと抑えていた。

 鉄の机が、レオンの腕を中心に陥没していた。

 

「レオン、お前曲がっちゃいけねー方に逝ってんぞ……」

 うわぁ……という他人事の様なホルンの言葉とともにようやくレオンの腕に痛みが走り始めていた。

 

「ぎ、ぎゃああああああ!! 俺の腕がああああ!!!」

 

「誰が貧乳? ねぇ? 誰が貧乳?」

 暗い影が落ちている薄い微笑を浮かべる目の前の少女。

 

「そ! そこまで言ってねーだろ!?」

 

「そぉ? つまりそういう事? そういう事?」

 

 笑顔のまま。ガンガンガンガン!! と何度も掴まれたままの腕が机の上で跳ねる。

 

「アダダダダダダダ!!! 止めろぺったんこ!! あ! 嘘嘘嘘嘘!! スピード上げないで腕取れる取れるからぁぁぁぁぁ!!」

 

「取れた方がいいんじゃ無い? 世の女の子の為に、も……!?」

 言いきる前にルーファは反射的に手を離していた。

 突然机から飛び退いたルーファの行動が解っていないレオンの体が軽く震える。

 微振動をしているのは、自分だけでなく手を付いている机も震えている事に気づいた。

 

「げっはぁ!?」

 

 突然レオンと鉄の机が地面にへばり付くように崩れた。

 鉄の机はひしゃげその上にレオンが思いっきり突っ込む形になっていた。

 

 ひゅぅ、と軽く口笛を吹くルーファの視線は、腕組みをしているユラに向けられていた。

 怒りで空気が揺らぐ。

 二つの鋭い視線が地面に崩れたままのレオンと、ルーファに向けられていた。

 

「もう遊びは良いか?」

 

 低い声に従うようにルーファは残った椅子に座る。

 レオンもホルンに助けられながら椅子に座りなおしていた。

 

「おーイッテェ……俺じゃなきゃ死んでんぞ」

 ぶつぶつと零しながら頭を摩るレオンを無視してユラは続ける。

 

「レオンの復活に時間が掛かってしまったが、あの時の状況の説明を」

 視線を向けられたホルンが先に口を開く。

 

「前に報告した通りだ。こっから五キロ先に通常より二倍以上のダークラグネを確認した、そいつを倒した後に砂漠の上にでっけぇ森が出てきやがった」

 

「ふむ……報告書にある通りだな、妙な電波障害からか、こちらからは見えていなかったようだが」

 

「霧が晴れるように現われていた。それも倒した瞬間にだ。守っていたようにも感じるがな……探索しようにも、見えない壁で入れなかった、レオンの攻撃力でも壊せなかった壁だ。物理的に開けるのは不可能だろう」

 

「ふむ」とユラは声を漏らす。

 ダークラグネという引き金からの、守る様な壁。

 業とらしいぐらいに何かを隠しているように感じる。

 

「……森の中は視野で確認出来る感じは、惑星ナベリウスで見た事がある植物だな」

 惑星ナベリウス。

 木々や植物が生い茂る星。

 野性味の溢れる星だった場所。

 今ではダークファルスエルダーによって極寒の地に変わってしまった星。

 

「他には」

 

「原生生物らしい物は見えなかったな、代わりにウジャウジャと気持ち悪ぃダーカー共が見え隠れしてやがった。後……そうだな」

 

 一度視線が落ちる。

 

 それに合わせ、ホルンが顔を上げるより先にレオンが口を開く。

 

「行方不明になっていた三人の内一人を見つけた」

 

 ユラの鋭い瞳が一瞬煌く。

 優しさの篭る綺麗な淡い紫の輝き。

 輝きは直ぐに消えた。

 催促する瞳に対してレオンは続ける。

 

「顔が半分無いのに立ってやがった、垂れる血は乾いていたな……死んで結構経ってるだろうよ」

 

 ユラも合わせるように視線を落とす。

 次にホルンの方へと目が向けられた。

 まだ顔を挙げないホルンの様子と、行方不明の三人を重ねる。

 そのうちの一人はホルンと縁の深い物だと言う事をユラは知っていた。

 名前を出さないレオンの配慮に乗るように「そうか」とだけ一言呟く。

 

「それで? その後の大量のダーカーの行進ですか? まるで見られたくない物を見られたみたいな対応ですね」

 背もたれにふんぞり帰るようもたれているルーファの言葉が部屋に響く。

 ルーファの言葉の意図を、そこに居る三人は解っていた。

 

 惑星に来てからの不可思議な事件。

 それはアークスとしての常識すら覆す世界。

 

 不確定能力のダーカー。

 アークスの侵食。

 別の惑星に近い砂漠の世界に、はたまた別の世界の惑星の森。

 規格外のダーカー。

 そして死んだ人間。。

 

 様々な情報が生まれていた。

 しかし全体の重要性はそこでは無い。

 意思の無い筈のダーカー。ここまでの意識的な何かが関わっているのなら。

 

 ダークファルス。

 

 過去に何度もアークスを絶望へと追いやった闇。

 ダーカーのボス級。

 

 

 ユラは大きく溜息を零す。

 

「情報は本部へ送信する……しかし我々は元々捨て駒だ仲間の増援は期待できまい」

 ジョーカーという規格外を持ってしても、ダークファルスという化け物は強大だった。

 

 過去に行われた二回のダークファルス戦

 

 圧倒的な存在感に、アークス達が取った戦法は、数に物を言わせた物量戦。

 それも多大な被害を出しながらの、寸での勝利だ。

 

 今いる戦力では、厳しい。

 

「ふふ」

 無言の中で、不気味な笑い声が響いていた。

 笑い声の先に、視線を上げる。

 思わず、といった具合に、ルーファの口から声が漏れていた。

 

「……ダークファルスぐらい手応え無いと楽しく無いですからね」

 

 思わず呆れた瞳を向けてしまう。

 ルーファという人間はどこまでも変わらない。

 彼女に『勝てない』等と言う選択肢は無い。

 

「あ? 何言ってんだテメー! 出てきやがったら俺のだかンな!!」

 逆側の方からレオンが噛み付くように荒げた声を向けていた。

 

「貴方じゃ無理でしょう。 以前のダークファルス戦で力使いすぎてぶっ倒れたの忘れました?」

 

「いやいや! あれ本気じゃねーから!! 10%ぐれェしか出してねェから!! お前だってエルダーに一人で突っ込んで血だらけだったじゃねーか!!」

 

「あら。そのぶん腕は全部ぶった切りましたが。それにあの時は風邪引いてましたから、5%ぐらいしか力出してないから」

 

「あーそういえばアレだわ、俺あん時心臓病に掛かってたから3%ぐらいしか出せてねーや」

 

「あ、私あのとき両手足折れてました3%ぐらいしか出せてないから」

 

「両手足折れてたの!? ぴょんぴょん飛び回ってたじゃねーか嘘付くんじゃネーよ!!」

 

「いい加減にしろ脳筋バカに戦闘バカ!! ちなみに俺はあの時1%しか出してねーからな!!」

 

「テメーまで張り合ってんじゃねーチビ!! 能力使い過ぎてゲロ吐いてたじゃねーか!! この豆!!」

 

「ルーサー戦でも他の人庇って死に掛けたじゃないですかミジンコせんせ……間違えたゾウリムシ先生」

 

「どこも訂正出来てねーじゃねーか!! こんのクソ野郎共がァ!! 表出ろ教育し直してやらァ!!」

 

「上等だァ!! 表なんて言わずにココでケリ付けてやらァ!!」

 

「いい加減誰が一番強いか決めましょう。次から私の横歩く時は視線落として歩いて下さいね?」

 

 ギャーギャーと言い合っている目の前のジョーカー三人に、ユラは大きく溜息を零す。

 それでも、目の前の三人の姿は酷く頼もしい物だった。

 呆れながらも笑ってしまう。

 災害とまで言われるジョーカー。

 ダークファルスが脅威的であり、凶悪的なのは変わらない。

 それでも、彼等の頼もしい姿を見ていれば戦える気がしていた。

 

 心の不安を取り除く程の、明るい力を感じていた。

 

 それはまた別として。

 

「ここで暴れるなバカ共!! 場を若がえろ!!」

 ユラの大きな声に一瞬、シン……と場が静まり返る。

 三人のジョーカーの視線はユラへと集まる。

 

「それを言うなら『弁えろ』だろーがボケ!! 何だよ若がえろって!! 過去か!? 過去に戻る感じか!?」

 ホルンの怒りの声は今度はユラへと向く。

 

「む、そ、そうだったか?」

 たじろぐユラにジョーカー達が容赦する様子は無い。

 

「俺でも解るわ! ノッポ!! このデカ女!!」

 

「相変わらずボキャブラリーが貧相ですねこの褐色ゴリラは。あら? 前が見えませんねー。こんな所に壁なんてあったでしょうか?」

 

 ビキリとユラの頭に青筋が浮かぶ。

 

「壁は貴様だろーが!!」

 

「え? それどういう事です? え? 死にます? 死にます?」

 

 

 

 10分後。

 

 

 

 ボロボロになった4人は同じ椅子に座っていた。

 部屋のそこら中の壁はボコボコに凹み、ひしゃげていた机も既に形すら残っていない。

 

「…………ンで残りのジョーカーって誰なんだよ」

 顔を腫らせたレオンの言葉に、スーツの裾等が破れているユラが応える。

 

「ブレインだと言っただろう」

 

「いやチゲーよあの糞ボケと、誰なんだよ。しかもブレイン見当たンねーし」

 

「やっぱりあの人いないですよね」

 んー、と考える素振りをするルーファは脳裏を過ぎらせる。

 隠れる所など無い筈であるシップ内で結局彼を見る事は無かった。

 

「ま、何れ会えるだろ。それよりどのジョーカーか解らなきゃこの先の戦闘で困るだろ」

 ホルンの言葉に、ユラはいつもの口癖である「ふむ」という言葉と癖である動作をする。

 

「ジョーカーとは元々、一体で一隊だ。チームワークなど不可能な奴ばかりだろう」

 

「それとこれとは別です……隠す意図が解らないんですよ」

 ルーファの鋭い言葉に、ユラの目の色も変わる。

 鋭いその瞳は言葉を発さずに向けられるだけ。

 何かを『察しろ』と、言うような。

 

「……ま、言えない理由があるなら良いですけど」

 器用に椅子にもたれ、後ろの二本の足でバランスを保っているルーファの、ぶっきらぼうな台詞にユラは申し訳なさそうな笑みを向ける。

 

「何れ出会えるだろう。では、話はここまでだ。近いうちに森へのメンバーを編成する。解散だ」

 

 無言で3人は立ち上がる。

 互いに一瞬視線を交わし、そのまま部屋から出て行く。

 

 3人の後姿が消えるのを確認した後、ユラは「ふぅ」と小さく息を吐く。

 

「お疲れ気味だな」

 座っているユラの後ろに、何時の間にか一人の男が立っていた。

 ユラ程の身長では無いが、長身の男性。壁際の陰に居る男性の見た目はうっすらと見える黒い服装。

 同じく黒いふちの広い帽子を深く被っていた。

 顔は見えないが、口元に加えられたタバコの煙が天井へと伸びる。

 

「当たり前だ、ジョーカー等もともと馴れ合える物では無いだろう」

 

 男は口から煙を大きく吐くと、「ククク」と楽しそうに笑う。

 

「どうだかな、ジョーカー何て、あいつ等は考えていないさ」

 帽子から、片目だけ除く。

 ルビーのような輝く色合い。楽しそうに、瞳は輝いていた。

 思い出すような、優しい瞳。

 

「そうだな……」

 ユラも優しく声を漏らす。

 彼女自身も、彼等が嫌いなわけでは無い。

 それでも、上に立つ人間として全てを見据えなければならない。

 

 だからこそ、決断をしなければならない。

 

 信じているからこそ、何も言えない。

 

 裏切り者が居る可能性が在る等と。

 言えない。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/



挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 


曲  黒紫          
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