フルネームの呼ばれ方に妙なむず痒さを感じる。
「あ、あの、名前を呼ぶのは、どちらかにして欲しいんですけど……」
カナタの言葉に、青年は再び首を傾げる。
「どちらか? 名前が二つあるのか?」
カナタは直ぐに理解する。
この青年と自身の感覚が違う事を。
「しかしアレだな。折角知り合ったんだから俺が名前付けるってのもどーだ?」
何を言い出しているのだろう。
最早感覚が違うとかそういう問題でも無いかもしれない。
「じゃがじゃが……ペンライトとかどうだろう……」
「カナタ! カナタでお願いします!」
手をぶんぶんと振りながら慌てて訳の解らない事を言い出している彼を止める。
友達からも良く下の名前で呼ばれていた。
そちらの方があまり抵抗が無い、というか絶対に彼が言い出した事は嫌だ。
カナタの言葉に青年はすんなりと受け止めてくれる。
「おしカナタ、取り合えず俺達のシップに行こう」
「し、しっぷ?」
やはり何を言っているのか解らない。
世界観の違いを感じる。
それはつまり本当に日本では無いどこかである事を理解してしまう。
話は通じているのだから日本語だと思っていたけれど。
わけの解らない事がまた一つ増える。
それがまた不安を積み重ねる。
押し寄せて行く不安を振り払うようにブンブンと首を振ると、青年へと再び強い視線を向ける。
今は、取り合えずこの青年に付いていくしかない。
「俺はロランだ! 宜しくな!」
力強い言葉と共にロランは笑顔でカナタに手を差し伸べる。
あまり男性に免疫が無いカナタはその笑顔に気圧されるようになりながらも、恐る恐る手を取る。
大きな、男性の力強い掌。
太陽の光が降り注ぐ。
熱い。
背中に滲む汗に気持ち悪い物を感じる。
歩き出してからどれくらい経ったのだろうか。
今が何時で何分なのかすらも解らない。
携帯も時計も普段身に着けている物が全て無くなってしまっているカナタに判断材料は無い。
元気にカナタの数歩先を歩くロランに向けて情けない声を向けてしまう。
「あ、あのぉ……シップというのはどれくらいで着くのでしょーか……」
「シップ? まだ向かわねーよ?」
「……は?」
明るいロランの返しに思わず間抜けな声が出る。
「ど、どういう事ですか?」
そんな説明を受けた覚えも無い。
てっきり、そのシップという人が沢山居る所に連れて行ってくれているのだと。
「シップに帰るには今俺が組んでる女性を見つけないといけねーんだよ」
「女性?」
「おう。俺と彼女で視察に来てたんだがよぉ、はぐれちまってさ」
話が見えない。
カナタは頬を引きつらせる。
まだ出会ってまもない彼に不安しか感じられない。
「まぁそこが可愛いんだけどさー」
何を思い出しているのかロランはニヤニヤと笑みを浮かべながら嬉しそうに勝手に話始めている。
「綺麗な黒髪で、スラっとした体立ちで、笑うと天使みたいでよ?」
勝手に嬉々として語られても何の話をされているのか。
げんなりとした表情になってしまうも慌ててぶんぶんと再び頭を振る。
助けて貰っているのに流石に失礼だと考え直す。
「えっと……つまり、ロランさんは」
「ロランでいーぜ」
素早い返しに一瞬面食らうも直ぐに言い直す。
「ロラン……さん、も……道に迷っているって事ですか?」
躊躇うも性格上つい付けてしまったがそのまま突き進む。
話が戻っただろうか。
正直薄々感づいていたが、そんなわけは無いと考えないようにしていた。
カナタの言葉にロランが振り返りながら素敵な笑顔で親指を立てて見せる。
「そういう事だ!!」
この人大丈夫だろうか。
ロランに向けて目を細めてしまう。
決して失礼な意味合いでそんな視線を送ったわけでは無い。筈。
彼女的には太陽の光が眩しいからそんな目をしてしまったのだと自分自身に言い訳をしておく。
熱い日差しを紛らわすようにロランとの対話を続けていた。
カナタと違い涼しい顔のロランもカナタの質問に対して笑顔で答えてくれる。
彼。と言うより彼以外にも多くの人がそのシップという所に居るらしい。
彼の話方ではアークスという職業? の集まり。
カナタからすれば話の大半が理解し難い物だった。
要約すると惑星を飛び交い、原生生物という惑星に生きる生物の研究、ないし交流を目的にしている。
という事だそうだ。
頭の中で整理してからカナタはやはり首を傾げてしまう。
異文化交流……?
星を跨いでしまえば異文化過ぎる気もするけれど。
何て不思議に思ってしまう。
ロランが背中に担いでいる巨大な剣を見るに、カナタの知っているような異文化交流よりも物騒な様だ。
聞けば聞く程理解から遠ざかってしまい頭の上のハテナは増えるばかり。
カナタの知っている世界でそんな事がある筈も無く、地球、という星以外に生きている生物が居る等と聞いた事が無い。
しかし笑顔でSF染みた話をするロランは嘘を付くような風には見えない。
少しでも状況を理解しようとしたカナタだったが、余計に混乱するだけに終わってしまう。
わけが解らないの一言に尽きる。
それでも漫画のような別世界に紛れ込んでしまっているのだと薄っすらと理解し始めて居た。
カナタは自分が『殺された』事を覚えている。
だからココが死後の世界なのかもしれない、という考えも頭の端にあった。
太陽の照る世界の筈なのに、背筋がッス、と寒くなるのを感じた。
死んだ、という事を認めようとした自分を否定するように慌ててロランに話掛ける。
「し、しかしその女性、見当たりませんね」
紛らわす様にロランに向けて話題を振る。
その言葉と共にキラキラした瞳でロランが再び振り向いた。
無邪気にその女性の事を話すロランを少しめんどくさいと感じている自分も居るが、そんなロランの様子は少なからず心の不安を紛らわせてくれた。
彼の事を全て知っているわけがない。
それでも、その笑顔を見れば彼が優しい人である事だけは良く解った。
「本当会わねェなー! 早くカナタにも見せてあげたいんだけどな! すっごい綺麗なんだぜ! アイツ!」
そんなロランの様子を微笑ましく笑いながら話を聞く事にした。
照りつける太陽よりも熱くなりそうな惚気。
世界は違えど恋愛という物は何処に行っても変わらない様子。
本当に好きなんだと言う事が伝わる。
話を聞いてみると、可憐な女性の様だ。
こんな大きな砂漠では大変だろうし早く見つけてあげないと、とカナタは一人気合を入れる。
人の事を構っている場合では無い筈のカナタだが、元来カナタのお人好しは昔から変わらない。
突然だった。
惚気話が止まった。
会話が止まった。
止まったと言うより捲くし立てていたロランが言葉を止めた。
同時に進めていた歩も止まる。
あまりにもいきなりでカナタは前を歩いていたロランとぶつかりそうになってしまう。
慌てて止まると、突然寡黙になった背中に疑問符をぶつける。
「ロランさん?」
ロランは答えない。
動きを見せるような事はしない。
背中しか見えていない彼の顔を見る事も出来ず、カナタはその場で立ち尽くすだけになってしまう。
もう一度名前を呼ぼうとした瞬間。
風が吹いた。
太陽の照る熱い中なのに、熱風では無く酷く冷たい風。
その風を、その寒さを。
カナタは最近感じた事がある事を思い出す。
黒い霧に飲み込まれた時の寒さ。
それはカナタに無意識に理解させ一歩、二歩後ろに下がる。
「カナタ、動くな」
そんなカナタの様子を知ってか知らずか、ロランの低い声がカナタに届く。
先程の様なふざけた高い声色では無い。
ロランの手がゆっくりと背中の大剣に伸ばされていた。
再び寒い風が砂を舞わせる。
その冷たい風の正体を知っているのか、喋らないロランの背中から妙な威圧感を感じた。
「来るぞ」
カナタとロランの周りの地面から、黒い霧が漏れる。
見覚えのある黒い霧にカナタの表情は青ざめる。
黒い霧は砂を舞わせながら、少しづつ姿を象り影のような物が表れていく。
地面から、蠢くように黒い何かが這い上がってくる。
「カナタ、俺達の仕事にはもう一つある」
こんな状況だと言うのにロランはカナタに語りかける。
振るえているカナタと違い落ち着いた声色。
そして、瞬間的に彼は吠える。
「ダーカーっつう、バケモンをぶっ殺す仕事だ!!」
三人体制でやってます。
小説 ふぁいと犬 ツイッター @adainu1
「動画やゲーム実況やTRPGや生放送もやってるよ! 下の二人がボケ続けても私だけは真面目にやるよ!」
http://mypage.syosetu.com/3821/
挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee
「次回ロランさんの雄姿に、ご期待下さい」
曲 黒紫 @kuroyukari0412
「僕の家の洗剤はライオンです」
http://www.nicovideo.jp/mylist/35049795