女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.41 ブレイン

 二本目に火をつけるブレインに、カナタはポツポツと言葉を続ける。

 

「私は、別の世界の人間、です……徐々に、この世界に慣れている自分に不安を感じて、しまうんです……。私は私であり続けようと思っていました。私は変わっては行けないと思って、元の世界の人達の為にも変わっては行けないと、思って、私で居続けました。でも……」

 

 思わず言葉を区切る。

 俯き、もう一度口を開く。

 

「そんな私の思いとは別に、この世界に居る事が嫌じゃなくなっている私が、居たんです。変、ですよね……元の世界に戻りたい筈なのに、その元の世界が、薄らいでいる私が、居るんです。何て、私は薄情だって……」

 

「酷く、利己的じゃあないかい」

 言葉は途中で差し込まれる。

 

「利己的、ですか?」

 

「元の世界には自分がいなくては生きて行けない人が大勢居たと、その人達を見捨てているようだと、利己的と言わず何と言うのだろうね……ああ、悪く言ってるんじゃ無いんだ。それが強い君の柱になっている物なのだと理解したよ。強い心だ。誰かの為に思える、素敵じゃあ無いか。でも、それは逆に言えば、元の世界の人達を信用していないのと、同じじゃあ、無いかね」

 

「そ、そんな事……は」

 

「言えないと、言えるかい」

 

 口を噤む。

 怒っているわけでは無い。言葉に一切の波も無くブレインは淡々としていた。

 

「お嬢さん。君の世界はどうも私達の世界と大きく違う様だ。誰もが助け合う素敵な世界。良い世界じゃないか、我々の世界とは大違いだ。こちらは自分の事で必死な人間ばかりだと言うのに」

 

「そこまで、は」 

 

「言ってないと、言えるかい」

 先程と同じようなトーンにまた、口を噤んでしまう。

 

「だからこそ、誰かを救う事を指針とする君は、この世界の方が居心地が良いんじゃあ……ないかな」

 

 泣いている人が居れば我慢が出来ない。

 困っている人が居れば手を差し伸べる。

 止まっている人が居れば後ろから押して上げる。

 それが、彼女の生き方だったから。

 

「ファンタジーとは良く言った物だ……お嬢さん、自分が何と呼ばれているか、知っているかい?」

ふるふると首を振る彼女に対してブレインは続ける。

 

「『幻想(ファンタジー)』『幻(ファントム)』……後そうだな、これは私が気に入っているのだが、『嘘(フィクション)』……これは勿論陰口では無い。アークス達には、そう映るのだろうさ、この世界には無い君の世界の平和だからこそ君という存在が出来たのかもしれないね」

 

「……私は、そんなつもりは」

 

「無いと、言えるだろう、無自覚と言うべきか、天然と言うべきか……嫌、違うな、それこそお嬢さん。貴方の根本だ。」

 また言葉を被せられる。

 先読みされる言い方は、一般人であればあまり好い気はしないだろう。

 しかし、カナタは違った。

 一言一言を淡々と饒舌に話す彼の喋り方は、今迄出会ってきたアークス達とは違う。

 

 毛色が違う。そう感じた。

 

「すまない話が逸れたかな。君がここに居ていいか、だったか……これは冒頭なんだ。もう少し、話をしても構わないかな?」

 タバコを加える煙が空に舞う。ゆるやかに流れる煙に視線を奪われながらもカナタは頷く。

 

「人の根本に直線状なのは、我々ジョーカーの特性だ。そういう強い思いのある者しかあの実験からは生き残れない。言うなれば……君はアークスというより、我々ジョーカーに近い」

 

「私が?」

 

「ああ、ジョーカー『ヒーロー(大量虐殺)』の様に夢見がちで、ジョーカー『ウッドペッカー(陥没墜落)』のように利己的で、ジョーカー『マッドマン(快活狂人)』のように明るい」

 

 ブレインの言葉にカナタは思わず首を傾げてしまう。

 それに気づいたブレインはまた直ぐに片手で謝罪をして見せる。

 

「ああ、すまない。別の世界から来たんだったね。ならば君の知っているジョーカー。我々の本拠地にもジョーカーというのは色々なのが居てね。本拠地で無く、ここにいるジョーカーで例えてみせよう」

 

「ううん……ルーファさんみたいなのがまだまだ居るんですか……」

 思い浮かべるだけで思わず身震いしてしまう。

 その本拠地なる所はちゃんと活動出来ているのだろうか。

 

 失礼な事を浮かべながら勝手に不安になっているカナタを他所に、彼も彼らしく勝手に話を進める。

 

「まず説明から始めた方が良いだろう。ジョーカーという存在が異端であり異常であり異例であり異様である事、差別の対象、災害、化物、その辺りの事は聞いているだろう、もう少し深みに入ってみようじゃないか」

 

暗闇の中、照らすのは赤い月。

居るのは2人だけ。

頷く少女に、赤髪の男は小さな微笑みを向ける。

 

「ジョーカーという害悪は四つの分類に分けられている。

【最強】【最悪】【最善】【最害】彼らの分類の仕方は名前の通りだと考えてくれて良いさ」

 

「絶対的な力を有する超攻撃特化型であり文字通り戦闘のスペシャリスト。【最強(スペシャル)】

アークスに牙を向いたことがある。もしくは向く可能性が高いと視野される【最悪(エンド)】

アークスへ敵意を向ける可能性が低い、もしくはアークス内でも研究や環境を大きく、向上、飛躍させる等重要な位置にも扱われる。【最善(ガーデン)】」

 

そこでブレインは言葉を区切ると、「まぁ最善(ガーデン)だろうとジョーカーには変わらない、マシ、という程度で嫌われ者には違いないがね」と含み笑いと共に続ける。

 

「ルーファさんが言ってたエンドって……そう言う事だったんですか……」

 

「何だ聞いていたのか、しかしまだ四つ目が残っている、話をさせてくれるかな」

 

元来がお喋りなのか頷くカナタにブレインは嬉しそうに微笑む。

 

「そして、手の付け様が無い処分を前提にされている【最害(サーカス)】さて、お次はこのシップにいるジョーカーの説明と行こうじゃないか」

 

「そんな事話してもいいのですか?」

 聞き入っていたカナタは思わず前に一歩出ながら再び話だそうとするブレインに言葉を割り込ませる。

 

「ああ、この距離で充分。しっかりと声は聞こえるし聞かせている。気持ちだけ頂いておこう。美しいお嬢様と並んでしまっては照れてしまうからね」

 

「は、はぐらかさないでください」

 

「ああすまない、赤いくなった顔もまた素敵だ。全く視線も向けられぬ程にね」

 そう言いながらブレインは体毎視線を外へ向ける。

 カナタから見れば横を向かれてしまう。

 

 思う。良くそんな恥ずかしい言葉が簡単に出てくるものだ。

 調子のいい人。

 

「おっと質問だったね。答えはイエスだ。君は知るべきだ。ここで過ごしてきた君はそろそろ知っていい。それにこんなに話をさせてくれているのに君の利益にならない事が少ないようでは勿体ない。もしこれが文脈であれば一人が喋り続ける拙い駄作でしか無いだろう。だから有益を与えるべきだ」

 

 まるでカナタが聞き出そうとしているかのような言い方にカナタは慌てて「そんな事は」と割って入ろうとするもブレインは直ぐにまた淡々と話し出す。

 流石のカナタでもそろそろムッとしてしまう。

 けれど、話は聞かなければ。

 

「例えばホルン……【最善(ガーデン)】の一人。周りからは『ターミガン(犠牲義損)』、『便利屋』、『染色白紙(パステル)』……何て呼ばれているな。ハハ、彼もまた沢山のあだ名を付けらているだろう? まだまだあるが今回の紹介は少しだけにしておこうか。アークスというのはどうも名前を付けるのが好きなようでね……彼は『未来』に固執している。誰かが前に進む事を羨望している。だからこそ足踏みをする人間を嫌う。嫌う癖にお節介を焼く。お嬢さんと、似ている所があると思わないかい」

 脳裏に浮かぶのは白髪の少年。

 自分と似ているだなんて思った事が無い口の悪い少年。

 自分とは正反対の武器を持ち、戦いを教える少年。

 

「例えばレオン……【最強(スペシャル)】の一人。『アルバトロス(一人大隊)』『壊し屋』『鋼刃(グロリア)』『絶対攻撃力』……くくく、アレは面白いよ。性格では無い。無様だからでは無い。滑稽だからでは無い。生き様だ。彼はホルンとは違う。『過去』を執拗としている。拭い切れない過去の贖罪をいつまでもその身に宿し、解り易い痕まで顔に遺し、何かを忘れないと言っているようじゃないか……昼行灯という言葉が良く似合う男さ、過去を思い浮かべている今の君と似ていると思わないかい」

 

 脳裏に浮かぶのは褐色の男性。明るく、ジョーカーだと言うのに誰にでも好かれ、いつも笑っている彼。

 その明るい姿はムードメーカー。逆に言えば、彼の暗い部分を見たのは、あの涙だけだった。

 

「例えばルーファ……【最悪(エンド)】の一人。『最速無敗』『殺し屋』『人間失格(ピリオド)』『狩人(イェーガー)』ジョーカーという例外の中でも更に例外の彼女は『戦い』に関して異様だ。異常と言っても過言では無い。彼女は戻れない。実力がそうさせる。強すぎる力が何処までも進み続ける。誰よりも血を流し、誰よりも深い戦闘へと身を寄せる彼女の心を削るには、十分だっただろう。実に、実に哀れな子だよ、本当はずっと優しい子な筈なんだがね」

 

 タバコを指先で空へと弾くように飛ばす。

 砂漠の先へと小さな光が遠のいていく。

 遠めにそれを見るカナタは思わず声を漏らす。

 

「哀れ……ですか」

 脳裏に浮かぶのは、目の前で簡単に仲間の首を斬った彼女の姿。

 哀れと言ったその言葉が、まるで自分にも向けられているようで。

 ……似ていると言うのであれば、そこなのかもしれない。

 

「例えば……ああ、『ハミングバード』や『クラウンクロウ』等々は、まだ知らないのかな」

 ブレインは、カナタの方にニヤリと笑って見せる。

 

「これからのお楽しみだ」

 

「うーん、お楽しみにしたく無いです」

 個性豊かなジョーカーを思い出し苦笑してしまう。

 そんなカナタに対してブレインも楽しそうに笑い声を上げる。

 

「ハッハッハ! さて……少し喋り過ぎたかな。寒い風は体には障るかもしれない、この辺りにしておこうか」

 そう言うとブレインはくるりと背を向けた。

 カナタは突然のその行動に思わず目を丸くしてしまう。

 

「あ、あの、私の相談……は?」

 散々喋り倒して、結果答えがあると思っていた上でその発言には面食らってしまう。

 帽子を抑えながらブレインは顔だけ振り返る。

 

「ん? ああ、そうだった。素敵に言うのであれば答えは君の中に、という所か。まあ実質もっと簡単な事だとは思うがね」

 

 彼は煙草を取り出すと、また鉄を鳴らす音と共に火をつける。

 言葉の意図が取れないカナタに、ブレインは、すぅっと煙草を吸い込み煙を吐くと「ああ、そう言えば」と言葉を続ける。

 

 片手で自身の胸に触れる仕草と共に、タバコを加える口元がにやりと笑う。

 

「例えばブレイン……【最強(スペシャル)】が一人。『レッドイーグル(見敵必殺)』『ノイズ』『バーディー』辺りの呼び名は気に入っている。……もっと可愛く『カナリア』だとか呼んで欲しい物さ、おっと『カナリア(饒舌多弁)』は既に居たか。失礼失礼」

 

 まだ何も言っていないのに勝手に理解している自身をブレインと呼んだ男は、直ぐに言葉を続ける。

 

「ああ、私はお喋りでね、酷く回りくどい人間だ。簡単な事までも深く考えてしまう。単調な彼らジョーカーの中では、ある種異質な一人でもあるのだろうね、勿論、君と私も似ている」

 

 どこだろう。

 出会ったばかりの彼の事をカナタは解らない。

饒舌だと言う事しか解らない。

 少し考える素振りを見せた後、自身なさげにカナタは答える。

 

「お喋りな、所、ですか?」

 

 ブレインは「くくく」と笑う。

 カナタに背中を向けながら、煙を空へ舞わせる。

 低い声色の筈なのに、声は澄んだ響き方をしていた。

 

「惜しいね、簡単な事までも深く考えてしまう所さ」

 

 小さな灯火を光らせながらブレインはまた笑う。

 何がそんなに面白いのか、楽しそうに笑う。

 

「楽しい暇つぶしだったよ、フィクション」

 

 カナタを『嘘』と呼ぶブレインは、再び背を向ける。

 今度は歩を進めていた。

 

「『ホームシック』にしては、壮大な話になってしまったがね」

 

「……は?」

 カナタは固まる。

 ホームシック。

 あそこまで大袈裟に話して、大仰に広げて、人の名前まで出して、散々喋って。

 

 最後に向けられたあまりにも短絡的な発言。

 

 簡単な事まで深く考えてしまう所。

 

 そこでやっと解る。

 からかわれているのだと、やっと気づいた。

 顔が赤くなる、思わず真剣に話しを聞いていた自分が恥ずかしくなる。

 簡単な事だと、ホームシックだと片付けられてしまえば、もう何も言えない。

 離れていく小さな灯火を見つめながら悩んでいた自分が馬鹿馬鹿しいと思えて来てしまう。

 

 残ったのは鼻を燻る煙草の臭いと、肌寒い風。

 

 カナタは溜息という白い煙を吐く。

 

 

「やっぱりジョーカーって性格悪い……」

 

 




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/


挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 


曲  黒紫            @kuroyukari0412
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