女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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「だー!くっそ!全然みつかんねーじゃねーか!」

広い砂漠の中、苛立ちをぶつけるようにレオンは砂を蹴りあげていた。
砂をまき散らすレオンに対してホルンは呆れ気味なため息をこぼす。

「ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーうるせーよボケ……昨日も見つかってねーんだから今に始まった事じゃねーだろ」

「師匠がそんなんだから見つかんねーんだよ! あー!俺あの壁に負けた見てージャーン! あー!むっかつく! マジで森毎吹っ飛ばしゃ良かったなー!」

恐ろしいことを平気で言うレオンを無視してホルンは一帯の砂漠を見渡す。
そこには何も無い。
当然と言うように森は無い。
当たり前と言うように、ブレインが作った大穴すらも『見当たらない』

場所は間違っていないはずだ。

あれから数日。

森の攻略の為に一度編成された部隊が送られていた。しかし、同じ座標には何もなく、
何かしらの条件があると考え、再び二人で座標に向かうも現れず。

二日連続と何の成果も無く二人は立ち尽くしているだけで終わっていた。

「…………シルカ」
思わず零した名前に自分でハッと我に返る。
ホルンはぶんぶんと首を振る、

「ピーピー言ってないで帰るぞボケ!」

「んだよ師匠!オメーもいらついんてんじゃねーか!」
八つ当たりのように叫ぶホルンにレオンも怒鳴り返す。

「だから背がみじけーんだよ!」

「それは関係ねーだろ!!」

「ああ、気が短いだった」

「どこぞのでけーの見たいなことしてんじゃねーよ!!」






「ファランちゃん! ファランちゃん!」

 気づいたのは目覚めて直ぐ。
 隣で眠る彼女の寝息は酷く荒い物だった。
 触れた額は熱い。
 慌てふためくカナタとは裏腹に、ファランは薄っすらと目を空ける。
 空ろな瞳のまま、少女は震える声を零す。

「手…………冷、たい……」



Act.42 「…………………………………………………」

 

「ファランちゃん! 大丈夫!? どこか痛いとこ無い!? そ、そうだレターさん達に見て貰いに行こうよ! そ、その前に汗拭こうか!? 一回脱ぐ!? あ、甘いものとかどうかなケーキとかアイスとか食べたいもの無い!? それとも服脱ぐ!? 汗拭く!?」

 

「どんだけ脱がしたいのよ!」

 頭を叩かれ体が前のめりに揺れる。

 振り向いた先、呆れた表情のリースがそこに立っていた。

 

「リ、リースさん? 何で?」

 

「食堂のおばちゃんが時間になっても来ないからって言うから見に来たのよ……返事が無いから勝手に入らせてもらったわよ」

 思わずファランとリースを見比べる。

 その不安を浮かべる表情にリースの声色は優しい色へと変わる。

 

「……大丈夫。時々こうやって体調崩しちゃうの。この子の感知能力は無意識に体に流れ込んじゃうからね……誰かの殺気や悪意に充てられただけだろうから、今日はお休みして、安静にしていれば大丈夫だから」

 リースは続けて「この船に居る人は荒い人が多いからね」と、何処か申し訳なさそうに続ける。

 

「だったら私も!!」

 カナタの言葉はそこで止まる。

 ファランの呻き声で言葉を止めていた。

 

「私、大丈夫……です……カナタさんの、邪魔、したく、無い」

 震えながらも、ファランのはっきりとした言葉。

「でも」と言おうとした言葉はリースが肩に手を置く事で止められていた。

 

「甘いのと、優しいのとは……違うわよ」

 鋭いその言葉は、何処かカナタの心に突き刺さる。

 優しいカナタだからこそ、人をほうっておけないカナタだからこそ。

 その言葉に何も返す言葉が見つからない。

 

「……そう、です、ね」

 取りあえずという具合に言った言葉はそれ以上続か無い。

 

「ほらほら、行くわよカナタ!」

 無理矢理に背中を押されてカナタは部屋の外へと押し出されていく。

 顔を横に向け、二人をファランは横目で見送っていた。

 出て行った後、電子のドアが自動で閉まる。

 そして部屋の電気も自動で消える。

 

 ぎゅっと、目を瞑る。

 

 何かから目を逸らすように。

 

 暗い部屋。

 

 暗い。暗い。

 

 一人。

 

 無音。

 

「…………………………………………………」

 

 

 ……暗い。

 

 寒い。

 

 

 

 それは突然だった。

 瞬間的と言って良いほどに無音だった部屋に乱暴な音が響き渡っていた。

 同時にファランは布団の上で上半身を飛び上がらせていた。

 その音は先ほど閉まった自動ドアから。

 ドアが開く。

 そこに、カナタが立っていた。

 荒い呼吸を繰り返し、先程の音の原因だろうか頭に判り易いタンコブまで出来て。

 何を急いでいたのか、カナタの手にはバスケットが握られていた。

 

「ファ、ファラン、ちゃん……」

 

 荒い呼吸のままふらふらと部屋に入るとファランのベッドへと腰掛ける。

 

「く、果物貰ってきた! これ切るぐらいは良いでしょ!」

 そう良いながら、カナタはファランへと笑いかけていた。

 そんな事の為に、『自分』の為に急いでくれるこの人が。

 ファランは不思議だった。

 思わず見開く瞳はゆっくりと微笑みへと変わっていく。

 

「…………はい」

 何処か少しだけ上ずる声にカナタは気づかない。

 

 

 

 部屋に響くのはシャリシャリとした子気味の良い音。

 

「適当に取ってきちゃったから量結構あるんだァー……嫌いなものとか、ある?」

 

 ファランは無言で首を振る。

 

「そっかそっかー! あーでも斬り過ぎて食べれなかったら駄目かァー……んー……」

 

 考え込みながらも器用に手だけは果物の皮を向く彼女を、ファランは見つめる。

 

「……カナ、タさん」

 

「んー?」

 

 シャリシャリ。

 

「ジョーカー……て、どう、思います、か?」

 

 シャリ……。

 

 音はそこで止まる。

 

 差別の対象。災害。切り札。実験体。負の遺産。欠陥品。

 この世界の人間でない彼女には理解するのは難しい。

 それでも、目の前で見せられた圧倒を前にすれば、その心情も幾らかは動く。

 

「……」

 思わず口を噤む。

 彼らは独特で、変わっていて。

 

「……どちらかと言えば」

 

 そうどちらかと言えば。

 酷く曖昧。

 適当に零した声。

 

「苦手かな」

 そう言ってカナタはファランに笑いかける。

 何処か悪戯っぽくと言うぐらいの茶化した笑み。

 深い意味なんてあるわけが無い。

 やっぱり曖昧で、良く解っていない。

 良く解っていない癖に。

 

 そんな適当な言葉なのに。

 

「……え」

 

 ファランの口から弱い声が漏れていた。

 頬は火照った赤いまま、表情も変わっているわけでは無い。

 だけれど、眼の色が少し違っていた。

 何と言えばいいのだろう。

 驚いている色? 焦っている色? 何だろう。

 力が抜けているような。

 

「どうしたの? ファランちゃん?」

 思わず掛けた声に、ファランは慌てて首を振っていた。

 

「何でも、無いです……」

 

 そこからは、特に会話があるわけでは無かった。

 上半身を起こした状態で彼女は俯いたまま。

 カナタは黙々と果物を剥いていた。

 

 シャリシャリという音だけが響いていた。

 

 

「うん。こんなものでいいかな? じゃあ、また後でね? ファランちゃん」

 

 こくこくと頷くファランを他所にカナタは優しく笑いかけると、部屋を後にした。

 今度は、ファランの瞳がカナタの背中を追う事は無い。

 唯、うつむいたまま、色が消えた瞳を下に向けていた。

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