女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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Act.45「オッス! オラユカリ! ムラムラすっぞ!」

 悲鳴を上げるカナタを他所に、ユカリは自信に満ち溢れた顔で胸を張るように体を弧へ描いていた。

 いつの間に手にしていたのか頭に付けていた下着と、お揃いの潔白のブラジャー。

 体の形をそのままに丁度ブラを指定通りの使い方でホックを締めるところであった。

 

「完☆全☆装☆備!!!!」

 

「わぁー!ユカリちゃんかぁっこいー!」

 

「返して! 下さい!」

 

 ユカリへと伸ばしたカナタの手はあっさりと躱される。

 ユカリは更に何時の間にか別の色のブラジャーを手に持ち、スナップを効かせるように自らの頭へと巻き付かせていた。

 

「ヘルメットオーケー! 追加装備完了! フル! アーマー!」

 

「どんだけ取ってんですかもおおおおお!!!!」

 

 若干涙目になりながらも同じようにユカリへと振りかぶる手はやはり空を切る。

 

「うま!うま!……効いてる! 味が効いてる!! 白米持ってきて誰か!」

 

「ぎいいいやああああああ!!!!それ以上喋らないでえええええ!!!!もうこの人いやあぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 悲鳴を上げ続けるカナタの様子にサーシャとルーファが何事かと丁度戻っている所だった。

 ルーファの目に映る悲鳴を上げて泣き叫ぶカナタ。目をキラキラとさせて「すごーい!」を繰り返しているアリス。そして頭にパンツを被り、更に胸と頭にブラジャーを付けながら別のパンツを口に咥えている変態が1人。

 

「うわぁ」とルーファが思わず零した声に変態が振り返る。

 

「オッス! オラユカリ! ムラムラすっぞ!」

 

「むらむらー?」

 

「そこはワクワクしときなさいよ、っていうか本当何やってんですかユカリ」

 可愛らしく小首を傾げているサーシャをルーファは「アリスとあっちで待ってなさい」と素早くユカリから離れる様に誘導する。

 ナイスですルーファさん! と心のなかだけで親指を立てて見せる。見えないけれど。

 ユカリという非常に教育に悪い18禁へと、ルーファの呆れた視線は戻る。

 ため息混じりのルーファに何故かユカリはニヤリと笑う。

 

「フフフフフフ!私はお洒落さんだからな!他にも服はあるのだ!」

 

 そう言いながらいつの間にかカナタの手に握られた別の布。可愛らしいピンク色。

 

「あ、あれ? それは私のじゃない……」

 

 ブラジャーとは違った伸縮性を優先したような素材。所謂スポーツブラという物。

 困惑するカナタとは別に、ルーファの目元が引き攣っていた。

 

「な、何で私のまで……」

 

「え゛!あれルーファさんのですか!」

 カナタの頭の中でピンクなのか以外。

 というよく分からない思考が頭の隅で行われていた。

 

「い、いいでしょう別に! 好きなんですよあの色!」

 

 始めて見せた女性らしい仕草にカナタは思わず、この人は本当にルーファさんなのだろうかと目を細めてしまう。

 

「その目くり抜きますよ」

 

「私もピンクは大好きですから! アハハー!」

 

 冷や汗を流しながら慌てて愛想笑いを浮かべているカナタを訝しげに睨んでいたルーファの視線は再びユカリへと戻る。

 ユカリは丁度カナタのブラを上へとずらしている所だった。

 先程のように見せつけるように大きく胸を張っていた。

 そのまま腰を曲げ優雅な曲線を描きながらブラを体へと巻き付ける。

 

「これが伝説のルーファレプ……くっ!……ルーファレプ……」

 

「ちょ! 止めなさい!! 止めなさい馬鹿ユカリ!!」

 

 後ろ手に回すブラの先を必死に引っ張っているが明らかに届いていない。

 そのブラに入り切らないユカリの大きな胸元が苦しげに抑えられていた。

 

「ルー……ファ……レプ……ちっせぇ!!!」

 バチーン!という子気味いい音と共に叩きつけられるのと、ブチりという何かが切れる音は同時だった。

 

「……あーそーお? ん? ん? ん? じゃああれ? 入るようにその無駄な脂肪切り落とします? お? それともそのふざけた頭から切り落とします? 少しは血抜いたらその思考マシになりますよね?」

 

 いままでに見た事の無いような顔の血管の浮き具合。カナタはぎょっとしてしまう。

 ルーファの刀が、ゆるやかな放物線を描き、辺りに淡いフォトンの光が舞っていた。アークスをよく分かっていないカナタでも、何かまずいという事は理解出来ていた。

 

「なななな何やってんですか!! さっき自分で船沈めちゃうって言ってたじゃないですか!!」

必死にルーファの腰元にすがり付くもルーファは止まらない。

 

「うるっさいですよDカップボケコラァ!」

 

「でかい声で私のカップ数言うのやめて下さい!!ほら!着痩せ着痩せ!」

 

「貴方は着痩せするでしょうけど私は着痩せすら出来ないんですよンボケェェェェ!!!!」

 

「変わらない大切さ!!変わらない大切さがあるから!!裏表がない素敵な人……いやそういう意味じゃなくて!!」

 

「貴女止めたいのか怒らせたいのかどっちなんですか!?」

 

「いいから落ち着いてくださいAカップさん!!!」

 

「ふざけんな偽善者バカ!! Bはありますから !あるの!絶対あるから!!」

 

「あの変態を斬るのは賛成ですけど船まで沈める気ですか!!」

 

「あいつも殺して皆死ねェェ!!!」

 

「理不尽の権化じゃないですか!! やめて下さいってばぁぁ!!!」

 ぎゃーぎゃーとやり取りをしている2人を見てユカリは「ふぅ」と呆れたようにため息を吐いていた。

 

「ちなみに私はEカップでつ☆」

 テヘッという具合の小さな舌を出しながらのポージングに、ルーファの浮かび上がっていた血管は臨界点を超えた。体にすがりついているカナタを振り回しながら、水平に構えていた刀が思いっきり振り下ろされる。

 

「死ねェェェェェェェェ!!!!」

 

 瞬間的に光り輝くルーファのフォトンが巨大な刀を作り上げる。容赦なくユカリの脳天へと振り下ろされる巨大な刀。

 振り下ろされた刀が、ユカリに触れるか触れないかの刹那。

辺りに響いたのは残酷な潰れるような音。

 では無かった。

 パキン、というガラスが割れるような細やかな音。

 作り上げられた巨大な刀が音を立てて砕けていた。

 砕けたフォトンの欠片はそのまま青い粒子へと姿を変える。

 ルーファの眉が片眉だけ上がる。

 振り下ろしていた刀を瞬時にその場で回転させると、そのまま鞘へと収めていた。

 流れる華麗な動きと元に、ルーファの視線は砕けた先へと向けられる。

 

 そこにサーシャが立っていた。

 

 ユカリの前に立ち、小さな体を力いっぱい広げる少女。

 いつも笑顔の少女は珍しくムスッとした表情を向けていた。

 

「だぁーめー! 喧嘩はー! めぇー!」

 

 確かにフォトンを消し去る能力だと聞いていた。

 しかし、トレーニングの為に作られた筈の丈夫な床に出来た巨大な亀裂をみれば、どれ程異常な威力だったのかは理解出来るだろう。先程の訓練だと言っていたサイズの衝撃波どころでは無い。

 それをこんな少女が消し去る。

 船すらも両断できると言っていたルーファの力をアッサリと消し去っていた。

 

 アークスに対しての切り札。

 ジョーカー専用の部隊。

 

 見た目からは想像も出来ない名だが、その名に恥じぬ能力。

 ようやく、カナタにもその異様性が理解出来ていた。

 

「……まぁ、確かに大人気なかったようです」

 大きく溜息を零すルーファに「全くです……」といつもの余計な一言と共に睨まれるカナタ。

 

「うっんほーーー! んぁー! 怖かった! 怖かったー! ケラケラケラ……ケラ?」

 棒読みの笑い声は途中で止まる。

 がっしりと、後ろからユカリの頭を掴む者が居た。

 ゆっくりと後ろへと振り向く

 

「探したわよユカリィ!」

 

 いつの間にかユカリの後ろへと転移していたリースの青筋が立つ顔に、ユカリの笑顔が思わず引き攣る。

 

「お、おーす、お、おらユカリ」

 

「知ってるわよ!」

 がっしりと頭を掴まれながらガシガシと揺らされるユカリは揺られながらもヘラヘラと笑う。

 

「待ってて! って言ったでしょ! 何で約束破るのよ!」

 

「約束とは破る為にあるのだ……なんつって! なんつってー!」

 

「やっぱこの女1回斬った方がいーんじゃないですかね」

 

「止めなさいルーファ……誰が一番我慢してると思ってるの」

 

 青筋を立てるルーファとリースに挟まれるユカリは今もゲラゲラと笑い声を挙げたまま。

 同じように間に居た筈のサーシャは既にアスの方へとてとてと戻っている。

 

 反省の色を見せないユカリに、カナタの目付きが変わっていた。

 

「およよ? およよ? クズキカーナタ! 怒ってる? なになにその目? お? お?」

 

「……嫌いです」

 

「ふにゃん?」

 

不思議そうに首を傾げるユカリをカナタは思いっきり睨み付けていた。

 

「嫌いです!! 約束を破るなんて! 最低ですよ!」

 

 大声を上げるカナタにリースは目をパチパチと思わず動かす。

 ルーファも珍しい物を見るのようにカナタの方を見つめていた。

 

「き、嫌い?」

 カナタが言った言葉をユカリは思わずという様子に繰り返す。

 

「約束を破るなんて最低ですよ!」

 

「最低……?」

 

「そーです!ダメなんです!」

 先程のテンションは消え去りユカリの顔は一気に曇る。

 リースに捕まりながら顔を項垂れていた。

 

「どーなってんですかコレ。パンツより約束を破った事に怒ってますよ」

 

「ええと……取り敢えず大人しくはなったけれど……」

 

 まるで叱られた犬のように静かになるユカリを、リースは不審そうに顔を覗き込む。

 

「う、ううううーーー………」

 そこに大粒の涙をボロボロと零すユカリの顔。

 

「え、ええー……何なのよこの状況」

 

「私に聞かないで下さいよ」

 

 困惑する2人を他所にユカリの前へとカナタは近づく。

 

「いいですか! 約束を破るという事はその人の信頼を破っちゃう事なんです!」

 

「そぉなの……?」

 

「そぉなんです」

 

「約束破ったら最低? 嫌いになるの?」

 

 一瞬の沈黙の後、カナタの手がゆっくりと上がっていた。

 カナタは尖らせていた瞳を和らげ優しく笑いかける。

 ユカリの頭上に置かれた掌は優しく、髪を撫でるように流れる。

 

「嫌いになりたくないですから……約束破らないって、私との約束ですよ?」

 

顔の穴という穴から液体を流していたユカリの顔が瞬間的に表情を変える。

 子供のような満面の笑みを浮かべながらユカリは思いっきり両手を開いていた。

 

「ひぁぁぁぁぁぁぁん!! クズキカァナター!! しゅきしゅきだいしゅきーー!! 合体合体合体!!!」

 

「ひィィィィィ!?」

 

 突然の雄叫びにカナタがその場で硬直する。

 

「やめなさいっ!」

 慌ててリースが後ろからユカリの首根っこを引っ張っていた。

 伸びる手がカナタに触れるギリギリで止まるも、それでもカナタに近づこうと首が締まるのも忘れてユカリは前に出ようとしていた。

 

「あはは! あはは! 一緒に一緒に一緒に一緒に!!!」

 

「ああもう!」

 呆れた声を上げたリースの周りを青い光が舞う。

 その光は広がるように、同時にユカリを巻き込んでいた。

 

「もう連れていくわよ。アリスやサーシャもこっち!」

リースの言葉に二人の可愛らしい少女はトテトテと走って近づくと、リースのスカートにしがみつく様に手を広げていた。

 

「カナちゃん! ルーちゃん!またね!またね!」

 

「お姉様ー!また遊んでね!カナちゃんも!カナちゃんも!」

 

エスパーダの面々を包む淡い光にカナタは見覚えがあった。

 彼女の、リースの力だ。

 

「迷惑かけたわね二人共、ああ下着は洗って戻しておくから」

 

「そーしてください、全く下着まで持ち出したの初めて見ましたっての」

 

 苦笑しながらもリースは「教育しとくわよ」と笑う。

 

「お姉さま!! 今度は私にも修行付けてねーえ!」

 キャッキャしているアリスにルーファはしゃがみ込み視線をあわせる。

 優しい瞳で見つめるその姿はいつもの鋭い様子とは違う。

 

「ええ……私がいない時に、皆を守るのは貴方の役目よ? 頑張りなさい」

 その言葉にアリスの顔は満面の笑顔に変わる。

 

「うん! うん!」

 本当に、楽しそうに、嬉しそうに。

 思わずそれを見ているカナタも頬が緩む程に。

 

 転移で徐々に消える体に、ユカリも諦めたのかもう抵抗を見せていない。

 

「ねーえー……」

 

 ユカリの高い声に思わずカナタはびくりと身構え視線をユカリへと戻す。

 

「な、なんですか」

 

 子供のような無邪気な笑顔を浮かべながら、撫でられた頭の名残を楽しんでいるように彼女は自身の手を頭に載せていた。

 その姿は、本当に子供のように、純粋な瞳をこちらに向けていた。

 

「また、撫でてねェ……」

 目から小さな雫をこぼしながら、その優しい笑顔と共にユカリは姿を消していた。

 

「……うん」

 もう誰もいないその場所に、聞こえない返事を返す。

 始めて、ユカリという女性の心が見えたような。そんな気がした。

 

「…………そっか、撫でるの好きでしたもんね」

 後ろから零したルーファの声に思わずカナタは苦笑してしまう。

 

「べ、別に私はそういうわけじゃ」

 

「貴方の話じゃないですよバーカ」

 素っ気無い態度のルーファにカナタはムッとしてしまう。

 

「そんな言い方ないじゃないですか!」

 

「そんな言い方される言葉吐きやがったの誰でしたかねー誰がAカップ? 誰がAカップ?」

 

「あ、私もうそろそろファランちゃんの所戻らないといけ無いですから」

 

「逃がしませんよバカナタ!!」

 

 

 

 ■

 

 

 

 暗い部屋。

 

「ふにゃふにゃふにゃぁぁ! 頭撫でられたよー頭撫でられたよー!」

 頭の上に自分の手を置きながら何度も同じ言葉を繰り返すユカリにリースは今日何度目から解らない溜息を零す。

 

「もう約束破らないでよユカリ……」

 

「破ったら嫌われちゃうからね!! 約束は、守る為にあるんだよ!? ゲラゲラ!!」

 

「言ってる事変わってるし……」

 

「はァー……ふふふーん……撫で撫で良いなァー……あの手良いなァーあの手欲しいなァー千切っちゃおうかなァーそしたらいつでも撫で撫で出来ちゃうもんなァー……あー良いかも良いかも……ゲラゲラ」

 

 既にリースの話は聞いていない。

 自分の世界に入っているユカリはグシャグシャと何度も何度も頭を掻き毟る。

 撫でているつもりなのか、綺麗な髪はただただ、乱雑になるだけ。

 

「ユカリ……私達の役目は忘れないでね……」

 視線を落とすリースの言葉にユカリの視線はギョロリと動く。

 

「役目? 役目? ああ、うんうん! それそれ! 美味しいよねー! おっかしいよねー!」

 

 意思疎通も出来ない彼女にリースは目を伏せると、ユカリに背を向ける。

 

「ええ……私達の存在理由は……残酷で、曖昧で、馬鹿馬鹿しい……」

 

 リースが暗がりの部屋から外へ出る瞬間に、ユカリの口からポツリと声色の違う声が零れていた。

 機械的な分厚いドアは、ユカリの声をリースへと届ける事は無かった。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/

挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 

曲  黒紫            @kuroyukari0412
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