女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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 深い森の中。
 生茂る木々。
 二つの影が対峙していた。

 片方は二メートル強の大男。 
 巨大な体は、黒と紫で彩られた鎧のような物を身につけていた。
 その体程の巨大な歪曲された大剣を携えた化け物は、豪快に笑っていた。
 笑い声だけでその場の空気が震撼する。

 禍王ファルス・ヒューナル。

 ダークファルスと対峙するもう一人の影。

 ファルス・ヒューナルより小さな体。
 笑い声の振動により揺れる長い髪。
 動じる様子も無く少女は手に持つ刀を空へと放り投げていた。
 多量の刃こぼれを起こし、既に刀としての機能を失った鉄クズは数度の回転と共に少女の後ろの地面へと突き刺さる。

 20本目。

 後ろに連なるのは様々な刀だった物。
 並ぶ刀の墓場。振り返る事もせずに少女、ルーファは溜息混じりの言葉を零す。

「……何食ったらそんな硬くなるわけ?」

 ルーファの言葉にファルス・ヒューナルはまた孟だけしく笑う。

「ガッハッハッハ!! 軽く遊びに来たつもりだったが良い掘り出し物では無いか! アークス無勢にもここまで出来る物が居たか!! 滾る! 滾るぞアークス!!」

「こっちは試し斬りで来ただけ何ですけどねー」

「だがどれ程実力があろうが!! その程度の獲物ではこの我には傷一つ付けられんぞ!! さぁ、どうするアークス!! 我をもっと楽しませろ!!」

 ピクリとルーファの眉が動く。

「……はぁー?」
 ゆらりと顔を横に向けるルーファの手元が輝いていた。
 青い転送の粒子の後に、手に握られていたのは、少し長さのある刀。
 黒い刀。
 黒い鞘から抜かれた刀の刀身すら黒い。

 純白ならぬ純黒。

 真っ白と言う程の真っ黒。

 白妙なまでに漆黒。

 ひゅん、と空を斬る音と共に、ずしんと重い物が落ちる音が響いていた。 
 豪快に笑っていたファルス・ヒューナルの笑い声が止まる。
 落ちた自身の巨大な腕に、視線は思わず動く。

「やっぱりこれじゃないと……綺麗に斬れないですねェ」

 黒い刀身の切っ先が、ファルス・ヒューナルに向けられていた。

「楽しませるのは、貴方でしょう? 玩具は貴方。遊ぶのは私」

 ルーファはにっこりと笑う。
 屈託なく、年相応に可愛らしく。


「ダークファルス無勢が」



Act.47 ルーファVS仮面β ①

 幾年程か前の話。

 

 

 数時間の決闘の最中。

「呼ばれた」、と一言残し、本当に残念そうにファルス・ヒューナルは消え去り決着が着く事は無かった。

 

 

 その化け物が持っていた武器。

 

 

「またお目にかかれるとは思いませんでしたが……何故」

 

カナタと同じ顔で、ゆっくりと顔を傾ける。

 表情は、無感情なまま変わらない。

 

「……? 頭の中は空っぽですか? それともお話は嫌い?」

皮肉のように自身の頭を軽く指で突くような素振りを見せるカナタに対して、仮面βは巨大な捻じ曲がった剣を軽々と振るう。

 合わせる様に先程よりはまだ小さいが、それでも巨大な紫色の斬撃が砂をまいながらルーファへと走る。

 

「あら、お怒りですか?」

 近づく斬撃に対し、ルーファの表情が変わる事は無い。

 ルーファの姿勢は低く低く下がる。

 斬撃がルーファへと確実に伸びる最中、ルーファの手が黒い柄へと伸びていた。

 刀の柄に触れたのは一瞬、刀身を見せない瞬速が、空を切る音だけを残し紫色の斬撃へと放たれる。

 

 縦に走る紫色の斬撃に対し、横に切り裂いた斬撃は一瞬だけ十の形を見せた。

 その十は僅かな時間均衡させる。

 しかし、紫色の斬撃は多少の威力を衰えさせたものの止まらない。

 

 最早目と鼻の先。

 

 それでもルーファの表情は変わらない。少しだけ、方眉だけを上げて見せる。

 

 先程よりも早い居合。

 音すらも置き去りにする早さは、ほぼ同時とも言える斬撃と共に縦に一度。左右斜めに二度。

 仮面の斬激に上から乗せられた威力。

 僅かなズレと共に三度ほどの置いていかれた空を切る音が響きわたる。

 紫色の斬撃は、跡形もなく消え去っていた。

 

「力馬鹿はレオンだけで間に合ってますよぉ」

 ルーファに対して、仮面βはゆらりと、別の動きを見せていた。

 仮面の足元の砂煙が舞う。

 ルーファの視線が最後に捉えたのは仮面が地面を蹴った瞬間。

 僅か数メートルの距離、刹那の早さで距離を潰されていた。

 巨大な歪曲した大剣は、ルーファの頭蓋に向けて振り下ろされる。

 

 立ち込めるのは金属がぶつかり合う音。

 大剣と鍔迫り合いをする形で、黒い刀は抜かれていた。

 

 空気が揺れる。

 

 二つの巨大な力は、互いが譲る事も無く力の行き場を失った二つの力は空気へと伝わり、その場で小さな衝撃波を、二人の足元に大きな窪みを作っていた。

 

 未だ表情を変えない仮面に対し、ルーファの無機質だった表情は変わり始めていた。

 目が爛々と輝く。

 

「私と早さで殺り合うつもり?  負けたら首貰っちゃいますよ?」

 歌うように言葉を紡ぐルーファは、突き放すように相手を押し返す。

 互いが一瞬腕を上げる形になると、互いが同時に動く。

 回転しながら二発目の攻撃を向けるのは同じタイミング。

 二度目の衝撃波がその場を襲う。

 しかし、二度目の鍔迫り合いが起こることは無い。

 刀身を仕舞う事も忘れ、ルーファがその場で地面を蹴った。体ごと、力任せに横へ振るう斬撃に、仮面βが辛うじてそれを受けると二歩三歩と後ろによろける。

 

 それに対しルーファは距離を詰め刀を振るう。

 

 二度、三度、四度。

 

 続く連激を、その巨大な剣で器用に受け止めていく仮面β、しかし、衝撃は受け止められず確実に数歩後ろへと下がらせる。

 

 ルーファの連激速度は上がっていく。

 

 僅かながらに。

 少しづつ。

 圧倒的に。

 

 スピードの差が出始める。

 エンジンがかかり始めたルーファの連激は、仮面が受ける暇もなく服を掠めるように捉え始めていた。

 状況が不利と感じたのか、仮面は大きく数メートル後ろへと飛ぶ。

 スピードに物を言わせた弾道のようにルーファはそれを一直線に追う。

 突き刺すように、刀の先端を仮面の首筋へと向ける。

 カナタと同じ顔に、躊躇なく走った。

 

 空中に飛び上がっている状態のルーファは確信する。

 後ろに飛んだ仮面βは、僅かながらに大剣のせいか姿勢が傾いている。

 バランスが取れていない状態の仮面に受け止める事も、避ける余地も無い。

 

「首もらい」

 あっさりとした言葉とは裏腹に、残酷な一突きは、最短距離を走る。

 残り数センチ。

 勝ちを確信する中、背筋に走る瞬間的な寒気。

 気づいたのは、目の端に偶然捉えた今、瞬間だった。

 

 ルーファには、今の状況が、スローモーションのように感じられていた。

 

仮面βが大剣を握っていない逆の手を、体制を崩しながら、掌を見せる様に向けていた。

 

 空中に滞空するルーファは、その掌から赤黒い光の収縮を確認する。

 何処かで見覚えのある光の収縮。

 もしそれがそうなのであれば、今空中に居る自身こそが。

 

 避けられない事を悟る。

 

 背中に走る寒気が。

 ルーファの野生的本能が。

 次の行動を無意識に起こさせる。

 両手で握っていた刀。

 突きに全身全霊を掲げた勢いをそのままに片手を離す。

 固定を失った刀はガクリと重力に従い地面へと向きを変える。

 それに引っ張られる形で体制が傾くルーファの頬を、赤黒い閃光が掠ませて行く。

 

 仮面の掌から放たれた閃光は首を狙うルーファと同じように、先程まで頭があった場所を光が走る。

 そのままルーファの体を砂漠の中へ叩きつけていた。

 

 その場で大きな砂煙が舞う。

 僅かコンマ数秒の出来事。

 

 ごろごろと転がるルーファは瞬時に回転と共に立ち上がる。

 頬から鮮血を垂れ流しながらも、その瞳に輝く爛々とした赤い瞳は変わらない。

 

 外れた光線は、地面に当たり音を立ててその場の砂を凍らせていた。

 暑い砂漠の中、冷たい冷気が白い煙を上げる。

 視線の端にその現状を捉える。

 放たれた光線がルーファの知る技だと確信していた。

 

 興味というより、単純な疑問がルーファの中で拡がる。

 

 見覚えのある技。

 別のダーカーがその技を使うことを知っていた。

 

 

 ダークファルスエルダー。

 

 

 数年前、アークスを震撼させたダーカーの親玉が1人。

 ダークファルスの剣に技。

 無論、ダーカーの頂点に立つ存在と同じ技が使える別のダーカーなど、ルーファは知らない。

 

 答える様子もなく、表情を変えない仮面は、かくん、と首を傾げる。

 その不気味な姿にルーファは瞬時に身構えていた。

 

 次の攻撃が来る前にこちらから飛び込む。

 受身になる事を考えない彼女は彼女らしく地面を蹴るため、足に力を溜める。

 そのまま、勢い良く飛び出す。

 

 思っていた。

 

「…………?」

 

 足が動かない。

 それが腕も、胴も、首を動かす事すらも出来ないでいた。

 驚愕よりも、再び疑問が先に浮かぶ。

 

 それも、知っていた。

 

 その技を行う唯一の敵も、知っていた。

 

 背中に冷たい汗が流れる。

 唯一動く視線は仮面へと向ける。

 仮面の背にうっすらと見える等身大程の時計。

 

 半年前の敵。

 

 ジョーカーという存在を作り出した張本人。

 

 ダークファルスルーサー[敗者]

 

 同じくダーカーの頂点。

 そのダーカーの特徴的とも言える時を止める大技。

 相手の時間すらも、その場の世界を変える大規模な必殺。

 

 何とか動こうと力を振り絞るも、体は数ミリの動きを見せるだけで完全に動く様子を見せない。

 そんはルーファを嘲笑うかのように、仮面は再びルーファに片手をかざしていた。

 先程よりも時間を掛けた数秒。その数秒で、等身大以上の黒い収縮が仮面のかざす掌の前で起こっていた。

 

 先程の小さな光線ではない。ダークファルスエルダーの放っていた本物の巨大な光線。

 過去の強者。アークス達を苦しめた、二つの強力な技が、動けないルーファに向けて躊躇いなく。

 

放たれた。

 

 迫り来る光線を前に、僅かにルーファの口元が動く。

 

「素晴……らしい……!!!」

 

 絶望ではなく、薄っすらと微笑む笑み。

 まるで何年も出会う事が出来なかった恋人に出会えたかのような、美しい笑顔。

 ルーファの体は、自身の体の数倍以上の光線に飲み込まれていった。




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/

挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 

曲  黒紫            @kuroyukari0412
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