女子高生と七人のジョーカー   作:ふぁいと犬

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 艦内で響き渡る警報。
 そのサイレンに負けない程の声が飛び交っていた。

「多大な損害!! 船が!! 丸ごと真っ二つに……!」

「遠くから大きな反応が幾つも!! ダーカーの群れです!!」

「バ、バーストバリアーが起動しません!!」

「艦内も混乱しています! まともに出撃出来るアークスがいません!!」

 若干の斜めの傾きに変わった指令室で慌てふためき動き回る者達の中、一人の高い長身の女性だけは腕を組んで立っていた。

 ユラは巨大な砂煙によって完全に見えなくなっている大きなモニターを睨んでいた。
 ルーファとカナタ、そしてラックルの存在も現状では完全に位置が感知出来なくなっている。目視に関しても見ての通り。

「ある程度の衝撃には耐えられる筈なんだがな……真っ二つとは……どこの馬鹿だ? レオンぐらいしかこんな真似出来ない筈だが……」
 必死に電子的な画面を叩く一人が、中央で呑気な事を零すユラに焦りの表情を向けていた。

「ど、どうしましょう! このままでは一方的にこの艦は大量のダーカーに嬲り殺しにされますよ!!」

「……ふん、ホルンやレオン、ルーファがいないこのタイミングで来るか……少し出来過ぎ、か」
 溜息交じりにユラはそう零すと組んでいた腕を崩す。

「私が行こう」

 その一言と共にユラは長い紫色の髪を翻し背を向ける。
 司令官として、艦を収める者として、直々に出向くという行為に一瞬空気が凍る。
 その空気を無視するようにユラは手袋をぎゅっと強く引っ張り脅威が迫る先へと歩を進める。

「私が持ち堪えている間に落ち着いたアークスから出撃を開始させてくれ」

「は、はい……」
 有無を言わせずに話を続けるユラは淡々とした様子で司令室を出て行く。
 落ち着いた様子に何も言えなくなるオペレーター達はユラの背中を見送っていた。

「……あ、あの人って、戦えるのか?」


Act.48 手遅れ(バッドエンド)

 砂煙と共に、降り立つ長身の女性は鋭い視線を向ける。

 1km先程だろうか多量の砂煙が舞い上がっていた。

 それは横一列に未だ膨れる茶色。

 徐々に近づく砂煙こそが、脅威が迫っている事をしらしめていた。

 

 煙から除くのは、紫や黒を主張するおぞましい虫のような姿。

 玩具のようなふざけた姿。

 

 様々な化け物達を見ても、ユラは眉一つ動かす素振りを見せない。

 懐から取り出すキセルを咥える。

 火を付けて、一呼吸。

 空に向けて白い息を吐き出していた。

 

 近づいてくる死よりも、舞い上がる煙をユラは、ぼぅ……と見つめていた。

 

 ゆらゆらと揺れる灰色は空気に消えていく。 

 鼻に付く、煙と、薬のような匂い。

 

 脳裏に浮かぶのは、皆で騒いでいた時間。

 

 フッとユラは目を瞑り小さく笑う。

 

「戦うさ……それが私の存在する意味だ……」

 開いた瞳は鋭い。

 目前をはっきり視野に入れ、キセルを加えたままユラは向かう脅威達に向けて、なぞるように腕を横へ振った。

 

 その瞬間、砂煙が吹き飛ばされる。存在を顕にした蠢く化物達。

 しかし化物達が前に進む様子は見せない。

 まるで上から何かに抑えられているように、動きは歯車のようにぎちぎちとした動きをしていた。

 果てしない横並びが、大量のダーカーが。

 

 動きを止めていた。

 

「10分は保つだろう。どうだ行けそうか?」

 

『は、はい。バリアの復旧はまだ掛かりますが既に幾人かのアークスは戦闘準備に入りはじめています!』

 

「流石だな、クズ集団と言っても戦闘特化の集まりは伊達ではないようだ擬態しているぞ」

 

『……それを言うなら期待です』

 

「………うむ、まぁ、そうとも言うな」

 

 軽口を叩く余裕はあった。

 そんなユラの耳元のインカムから大きなノイズが響いていた。

 思わずユラは耳元を抑える。

 

「っ……!! なんだ?」

 

「なんだ? だって? 相変わらず感知に関しては鈍すぎるな『存在否定(ダウナー)』」

 

 声は後ろから。

 ユラが振り向くのと、周りの砂が巻き上がるのは同時だった。

 生えるように現れた赤黒いそれは円上に広がっていくと、ドーム状にユラともう1人を囲んでいた。

 ユラの表情に驚きの色は無い。

 その現象を知っていた。ダーカー達が起こす囲い。

 囲い込み中から多量のダーカーを生み出す罠。

 自然災害に近い筈の物が、意図的に現れた様に感じた事に対してユラの心に疑問が浮かぶ。

 

「ふむ」と辺りを見渡すユラの視線は再びもう一人に戻る。

 

「お久しぶりだライド」

 ユラがライドと呼んだ先に居たのは巨大な体格をした機械

 高い身長のユラをも超える高身長。

 ごてごてとした身体は鉄で覆われ、足がシンプルに細く上の身体は大きい。妙なバランスの体付きながらも頭から伸びる一角のような角が中心のラインになっているかのように機械の身体はバランスを保たれていた。

 

 白を強調した姿は洗練されたものを感じる。

 

 体の半分が赤黒い触手のような物で覆われていなければ。

 

「……この星に探索に来てから消息が行方不明になった一人だと聞いていたが……『グロリア(栄光)』とまで呼ばれていた貴方が何故そのような姿に……」

 

 ユラのセリフに大してライドは機械らしい音声で笑い声を響かせる。

 

「違うな。これが、この姿こそが私だ。思考回路は酷くスッキリとしているよ。昔はダーカーを殺す事ばかりだった。脳のショートが常に焼かれるような気分だった。だが今はどうだ。ダーカーと同化してから清清しい気分なんだ……見えていない世界が見え始めた様に、視界がいつまでもクリアで、洗練された美しい世界だ」

 

 空ろに空中を見つめるライドに、ユラは煙を吐きながら首を振るう。

 

「……ダーカーに侵食されているのか。侵食をされないからこそのアークスの筈が……一体何が起こっている」

 

「答える必要は無い、必要等皆無だ。不必要だ。理解等必要無い。貴様ら如きが知る等おこがましいと知れ」

 酷く冷たい機械音声。

 ユラの知る彼とは懸け離れた姿。

 

「酷く饒舌になった物だ。貴方は寡黙だった筈だが……誰よりも慕われ、誰よりも功績を残し、六棒均衡に選ばれる可能性まで見出していた……そしてジョーカーに近いとまで言われた実力。貴方程の方が……」

 

「そうそれだ」

 顔の部分が機械的動作でユラへと向けられる。

 

「だから私はここにいる。貴様らと近しい実力を持つからここにいる。『あの人』の為にここにいる。貴様という『化物』を足止めする為にここにいる」

 

「化け物、ねぇ……」

 

「貴様の事だ、ユラ、嫌違うな……『最悪(エンド)』よ、『ラストジョーカー』『クロウ・クラウン』『存在否定』『鮮健の紫』後なんと呼ばれていたか、ゴミの分際で良くもまぁ大それた名前を付けられた物だな。何にしても、ジョーカーを化け物と言って何が悪い?」

 

「悪くは無いさ、ああ、悪くは無い。しかし今の貴方と比べると、どちらが化け物だろうと思ってだね」

 

「御託は良い。ラストジョーカー……時間稼ぎのつもりか? 」

 平静を保っていたユラの持つキセルの煙が、一瞬揺れる。

 

「勘違いするなよ『最後の遺産』。私が乗ってやっているのだ時間稼ぎと言う小さな抵抗に乗ってやっているのだ。」

 ユラの視線はチラリと後ろへと向けられる。

 触手上の赤黒いドームの隙間から、動きを止めていたダーカー達は、徐々にだが、動き始めようとしていた。

 

 -まずいな。

 

 原理は理解していないが、ドームに囲まれた瞬間にユラの力が弱まったのを感じていた。

 直ぐに視線はライドの方へと向けられる。

 

「それはありがたい。ならばもう少し時間稼ぎに付き合ってもらえないか英雄殿?」

 皮肉混じりなユラの言葉にライドは再び機械的な音声を上げる。

 

「いいや駄目だ。ここで終焉だ。貴様等さえ足止めすれば、後は唯の雑魚の集まりだろうが」

 

「貴様等……か」とユラは零す。その一言で理解する。

 他のジョーカーにも敵が迫っている事が、今のこの状況が仕組まれている、という事が。

 考える筈の無いダーカーが策を有している。

 それはダークファルスが影で動いている事を比喩していた。

 

「アークスであった時点でジョーカーに近しいとまで言われていた私だ……最早今の私は貴様らと同等かそれ以上」

 

 ライドの足元がゆっくりと浮き始める。

 周りに赤黒い粒子が纏いだす。

 体の半分に纏い付く触手が不気味な脈動を始める。

 

「遊ぼうじゃないか、ジョーカー」

 

 フン、とユラは鼻を鳴らすと、煙を吐き出した後ユラはその場で右足を上げる。。

 

「どーん」

 妙にコミカルな声を吐きながら。

 体重に従うように。

 小さな砂煙を上げる自然摂理に従い。

 足を下ろした。

 

 カエルが潰されるような音が響く。

 

 その足が地面に触れるのと同時に、ぐしゃりと言う音が響き渡っていた。

 ユラの冷たい視線の先に、血溜まりが広がっていた。

 陥没したようにその場だけ大きく砂が弾け、その真上、ドーム状の天井には大きな穴が空けられていた。

 ダーカーの罠は、その穴からゆっくりと広がり赤い粒子となりドームが消えていく。

 そんな事も気にせずにユラは白い煙を吐き出す。

 

「確かに、貴方は我々ジョーカーに近い実力を持っていたアークスだ。本当に見事だ。」

 飛び散った鉄クズに向けられている言葉は何も答えない。

 

「しかし、何だ……失礼だが1が2になったぐらいで、それが3になった程度で……我々100に近づいていようが、敵うと考えているなら……哀れだよ、グロリア(栄光)」

 

 一度ユラは伸びをすると、くるりと鉄クズに背を向ける。

 

「ふん、我々を分けるのならば狙いは部隊の全滅か? 何にしても……あのダーカー達は私が相手をした方がよさそうだな」

 

 そう独り言を零すユラが一歩前に出る。

 それが合図だったかのように、再び地面から赤黒い触手が伸び始めていた。

 触手は素早い動きで再びドームを形成し始める。

 

「……どうあっても私を足止めしたいようだな」

 

 苛立ったような独り言を零すユラは、再び右足を上げようと体重を左に掛ける。

 

「そういうこった」

 

 唯の独り言に、返事が返ってきていた。

 思わずユラは上げていた足を下ろす。 その声に聞き覚えがあった。

 声は、目の前から。

 

 目の前の。2メートル程の広がる闇から。

 穴にも見えるそこには、確かに人の形が見えていた。

 しかし、その姿はユラの視線では確認が出来ない。

 

 それでも、その声だけでユラには存在が理解されていた。

 

 

「よぉ『化物』」

 闇が答える。

 

「やぁ『災害』」

 ユラも答える。 

 

「久しぶりだな『害悪』」

 

「貴様を7人のうちに入れた覚えは無いのだがな『切り札』」

 

 ユラの落ち着いた声は、それでも先程よりも強い敵意が向けられていた。

 敵意を向けられた闇は、げらげらと下品な笑い声を響かせる。

 

「ああ、入れられた覚えは無ェーよ。俺ってばカジノしてた筈なのにいつのまにかココに居るわけ、しかも聞いてくれよ『不良品』俺はおめぇを足止めしなきゃいけねーの。おめぇの能力苦手なんだよ。ああメンドクセェ全く手遅れだぜ」

 陽気な話し方をする闇に、ユラの敵意は変わらない。

 

「……貴様が敵ならば確かに、足止めとしては打ってつけだろう『ジョーカー』」

 

「全くだ、ああ手遅れだ、『ジョーカー』」

 

 互いが互いを理解していた。

 

 強すぎる災害が。

 一級の害悪が。

 最悪の化物が。

 不良ない欠陥品が。

 

 最強の切り札が。

 

 唯一戦えるのは、エスパーダと呼ばれた特異種のみ。

 それはアークスが戦えば一瞬で消され、ジョーカー同士で戦えば周りの被害が甚大で無いからだ。

 

 ユラは咥えていたキセルを一呼吸吸うと、口で咥え手で持つ事を止める。

 余裕を見せる相手では無くなった。

 げらげらとまた闇は笑い声を上げる。

 

「通らせて貰うぞ」

 

「おいおい、いつも見てェーに言い間違えないのか? 今はシリアスな気分かよ? 残念だがもう遅え、全然おっせぇぜ『存在否定(ダウナー)』もう手遅れだ、みぃーんなここでおっ死ぬって寸法よ、ああ手遅れだぜ」

 

「……ジョーカーのよしみだとか、同じエンドのグループの縁だとか、全て今の私の気持ちには霞む。私はアイツ等のトップだ。私がアイツ等の存在を、認めてやらねば誰が認める。だから手遅れになどさせん。『バッドエンド』……貴様の存在を否定してやろう」

 

「ぎゃっはっはっは!! ああ最高だ! 最高に最悪で最低で最強だ! だけど残念、俺を相手にする時点で」

 そこで闇の影が薄れる。

 

 ゆっくりと、その姿を露にし出していた。

 

「『手遅れ』だ」

 

 

 ルーファ、ユラに並ぶ、最悪(エンド)のジョーカーが一人。      

 

 

 『手遅れ(バッドエンド)』  




三人体制でやってます。

小説 ふぁいと犬 ツイッター   @adainu1
http://mypage.syosetu.com/3821/

挿絵担当 ルースン@もみあげ姫  @momiagehimee 

曲  黒紫            @kuroyukari0412
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