どれほど戦っていたのか、もう何体ダーカーを倒したかも解らない。
白髪の少女は荒い呼吸を繰り返しながら大きなハサミを砂へと突き刺す。
大きく息を吸い、そして吐き出す。
吹き出す汗を拭う腕すらもべちゃりと汗が逆に額に付くだけ。
辺りには、アリスと同じく戦うアークス達の喧騒が響いている。
その中で、アリスの直ぐ近くで悲鳴が聞こえた。
そして続けざまの何かが突き刺さる音。
慌てて振り返るアリスの視線の中で、ダーカーの鋭い足が胸へ貫かれている処であった。
「……ッ!!」
ハサミを引き抜き瞬時に飛び出す。
同時に、大きく横へと振り切った。
巨大な風斬り音と共に、ダーカーの胴を真っ二つへと切り離す。
黒い霧へと姿を変えていくダーカーになど目も繰れず、慌てて向けた視線の先。
砂漠に伏せたアークスの目から色は既に消えていた。
ぐっと目を顰めるアリスは、すぐに走り出す。
次の悲鳴に向かって走る。
聞こえる度にアリスは走った。
その数はもう覚えていない。
強いて言うなれば、化物じみた少女の体力を削る程。
徐々に悲鳴の数に追いつけなくなっていた。
もう何人倒されているのか。
砂煙で状況等判るわけも無く、闇雲に走る。
アリスは。
大切なあの人が言っていた言葉を一心に守ろうとしていた。
荒い呼吸のままアリスは自身の数倍を更に構え直し走る。
その小さな体には似付かわしくない鋭い瞳を、喧騒の中ぎらぎらと光らせる。
戦う。
大切な友達の為に。
大切なあの人が、代わりに『守って』と言ったこの場所を人達を。
彼女の居場所を守る為に。
歴戦のアークス達。
場所を追われた戦いにのみ場を許された捨てられた者達。
そんな彼らが、押されていた。
ジョーカー程で無くとも、アリス程で無くとも、名の知れた者達。
その筈。
決して弱いわけがない。弱い筈が無い。
反復のように倒し続けていたダーカー達、今戦っているダーカー達は何かが違う。
そして、小さな違和感とは違う、もう一つの大きな違和感。
それをアリスも戦いながら薄々感じていた。
多量に舞う砂の中に、不気味な異物の感覚を、アリスは肌に感じていた。
感知を全てサーシャに託す程に鈍いアリスですら感じる感覚。
この戦争の中に、アークスとも、ダーカーとも似付かわしくない何かが居る。
砂煙の中、駆け回るアリスの足が急ブレーキと共に止まる。
肌に感じていた不快感が、がより一層に濃くなったのを感じた。
ダーカーとアークスが犇めき合う戦争の中、それははっきりとその存在感を醸し出していた。
目の前。
アリスの数メートル先だろうか。
『それ』は、捲り上がる砂煙毎、巨大な大剣を横へ振るった。
風を斬る、というよりも団扇を振るったような風の音と共にアリスの目の前でアークスが、ダーカーが、まとめて綺麗に真っ二つへと斬り落とされていた。
一瞬で血の海に変わった目の前の現状に、アリスの理解が追いつくよりも先に、目の前の『それ』は消えた砂煙と共に姿を現す。
「いやー参った参った。まぁーた殺しちゃったよ! 難しいなおい! もう退けよぉ~俺が攻撃する時にタイミング見計らって場所開けてくれよー! まぁた怒られちまう! ん? 怒られ? 誰にだ?」
目の前で首を傾げている巨大な男。
ツンツンの頭は適当に伸ばしたような様子が伺えるだろう。
あまり頼りにしていなさそうな軽装の鎧。
酷く淀んだ黒と紫の淵で彩られた不気味な大剣。
そして、『それ』は仮面を被っていた。
何故か仮面としての概要の意味をしていない半分だけの仮面。
残りの露わになっている男は「まーいっか! しゃーねぇしゃーねぇ!」と、ケラケラと笑っていた。
その男性を、アリスは良く知っていた。
「ろ、ろらん……」
アリスの言葉に仮面の男が反応する。
「お? 何だ? お前俺の事知ってんの? んん? いや待て何かテメー知ってる気がすんなー……んん? まぁ良いや死んだら解んだろ」
首を傾げなら独り言を続けたかと思うと、躊躇い無く大剣が縦へ振り被られていた。
それに合わせるように、大剣の周りを黒い粒子が纏わり付く。
粒子は大剣に合わせて形を変え、その姿を膨れ上がらせる。
その距離を無視する程の巨大な剣が、彼女へと迫る。
慌てて横へと飛んだ彼女のすぐ横を脅威が過ぎ去る。
砂が捲り上がる。
直線状に巨大な亀裂を作るそれは、アリス程の小さな体であれば一瞬で消し飛んでいた事が冥利に理解させる。
少女の瞳が、ロランを睨む。
共に戦った事がある彼を睨む。
今、アリスを攻撃した彼を睨む。
「お前なんかいなくなってせーせーしてたのに、何で生きてるのォ……」
コイツがあの人に近づくのが気に入らなかった。
コイツがあの人と話すのが気に入らなかった。
あの人も、コイツとは楽しそうに話していたのがまた、癪に障った。
「何だお前ちっせぇなオイ、ここはガキが来る所じゃねーだろ」
ロランの言葉にアリスはぐっと言葉を詰まらせるように唇を噛む。
コイツとはいつも喧嘩していた。
いつもあの人を取り合っていた。
殴って、蹴って、コイツも容赦が無くて。
対等に取り合っていた。
感情の昂ぶりは、止まらない。
「……何で、忘れちゃってるんだ!! 何でそんな剣持ってるんだ!!」
叫び、指さすのは禍々しいダーカー粒子を帯びた大剣。
「あ? これか? 気づいたら持ってたんだよ。何だお前逃げねーなら殺すぞ? ん? 殺していいのか? あ? ああ殺して持って帰る? うんそうそう怒られちまう。誰に? まあいいや。」
喋る旅に右往左往と動く片方だけの眼球は、ギョロギョロと不気味に動く。
その不気味さに負けず、アリスの赤い瞳は真っすぐロランを睨む。
……死んだと聞いて、手を叩いて喜んでやった。
これで独り占め出来ると笑ってやった。
喧嘩をする時間を、あの人とくっついていれると考えていた。
空いた時間が出来ただけだった。
少女は巨大なハサミを構え直す。
その剣を向けるという意味。
「なんでそんな事!! するの!! お姉さまに剣を向けてるのと一緒なんだよ!!」
「あ? おねえさま? 何言ってんだ」
その言葉がスイッチになる。
赤い瞳を全力で開き全力で地面を蹴った。
振り切る剛力をロランの禍々しい剣が簡単に受け止める。
「わお、お前すっげえ! ちょーつええ!」
軽く唇を吹くロランの言葉など既にアリスには届いていない。
連続でハサミが振られる。
「お前! お前ェ!!! 何で! 何で! あの人を忘れて!! あんなにあの人の事考えてて!! だから嫌いだった!! あの人がお前に向ける目も!!」
その場で回転する。
遠心力を乗せたハサミは開くと共にアリスの懇親がロランへと放たれる。
「大嫌いだった!!!」
強烈な金属音が響く。
大剣で堪えていたロランは溜らず数度後ろへとたたらを踏む。
「なぁーに怒ってんだよおい、笑えよ女の子は笑ってる時が一番なんだぜー?」
そう言いながら業とらしく頬を上げる素振りを見せるその姿は、アリスには不気味に映る。
「……私が、私がもっかい殺してやる。お姉さまが悲しむから!! 今のお前なんか会わせるものか!!」
「まぁ良いじゃねーか落ち着いて死ねよ」
たたらを踏んだ分離れた距離から振るわれる大剣。
届く筈が無い距離は、再び現れる黒い粒子でその距離が殺される。
慌てて横払いに合わせるようにアリスはハサミを立てる。
そして。
金属音がしない。
感知が弱くとも、反射で生きるアリスが気づくのは早かった。
構えたハサミは、既に半分を超えて『斬り込まれていた』。
瞬間的に後ろへとアリスは飛んでいた。
無理矢理な体制からのデタラメな足の力による、コンマの世界。
目の前を、黒い粒子で出来た剣が通過していく。
「んぉ? まぁーじぃ? どんな反射神経してんだテメー普通気づかねーって」
着地したアリスの手に握られていたハサミは、音を立てて半分が地面へと落ちる。
そこにあるのは片方になってしまった元ハサミ。
その見た目は、持ち手に大きな穴が開いている変わった大きな剣にしか受け取れないだろう。
巨大なハサミの頑丈さは誰よりも知っていた。
アリスの剛腕に耐えられる最大級の硬度。
それを、まるで豆腐に刃先を通しただけのように、受けているアリスにすら衝撃を感じなかった。
衝撃すら与えずに切れ目が入っていた。
「いやーすげーの。もうめっちゃ簡単に斬れてこれ超楽だわぁ」
ケラケラと笑っているロランにその恐ろしさは理解できているとは思えない。
それは、防げない恐怖。
頬に汗が伝う。
それでもアリスは残ったハサミの片方を両手で持ち直す。
この男を、あの人に会わせるわけに行かない。
ここで、彼を、ロランを。
同じ好きな人を思い続けた自分が。
殺す。
三人体制でやってます。
小説 ふぁいと犬 ツイッター @adainu1
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「まずは更新頻度が極めて遅くなってしまった事のお詫びをさせて頂きます申し訳ありません……パソコンの故障や現実での忙しさが相まってしまいこのような事になってしまいました……しかし!! それもようやく落ち着いてきたので!! パソコンも新品になったので!! また更新を開始したいと思っています! またこれからも何卒お願いします!」
挿絵担当 ルースン@もみあげ姫 @momiagehimee
曲 黒紫 @kuroyukari0412
黒紫さんが現在CoCのリプレイ動画を作ってくれています!
第一話出してくれています!!!
顎クイシーンを何回も見ちゃう……
http://www.nicovideo.jp/watch/sm29987843